色々な拙さと酷さを含んでいますが、作者が深海よりも深い悲しみと失意の中で筆を走らせた作品ですので、どうかご理解頂きたく思います。
なのです。
自らが手で撃沈させた敵にまで慰安の思いを馳せる、悪く言えば自己矛盾を孕んでいる、とも言える考えを語ってきた娘の口癖だ。
心根が真に優しい娘。彼女を皆、口を揃えてそう称える。
しかしその誰も、彼女の意見を是非とはしなかった。むしろ、否定する者までが現れる始末。僕自身、その一人だった。
危うい、とそう思ったんだ。
無作為の優しさも、無差別な情けも、排して然るべきモノではない。叶うことであるのなら、僕だって争わずに済む結末を望む一人だ。
だが、現実にはあり得ない。与太話と、一笑に伏せられてしまうのが堰の山。
もう、何もかもが遅過ぎる話なんだ。こちらも相手も失ってきたモノ、失ってきた想いが積み重なり過ぎてしまったのだ。
今更これまでのことをこの海原に沈め、手と手を取り合って仲良くしましょう、なんて出来はしない。
仮初めでもなんでも、和平を得る為には戦い、相手のその全てを奪い尽くさなければならい。命も尊厳も、培ってきたモノ全て。奪わなければならない。
僕たちが続けてきた行いとはつまり、そういうことなのである。
彼女はふと、どこか今ではない時間を生きる瞬間がある。
僕から命令を聞いている時。待機している最中。いつも唐突に、あの娘は現在から過去へと遡ってしまう。
直接に問い質したことはないが、周囲の娘たちに訊いたことはある。
過去の作戦行動中のことについて考えているらしい。
それが返ってきた答え。驚きはしなかったが、胸中は酷い動揺をみせた。やっぱりか、と。
自身が行ってきたことの、その全てを罪として抱え込んでいるのだ。あの小さな体に、それこそ収まり切らない程に。
同型の姉妹艦に比べると、あの娘は群を抜いて元気がない。もうひとり口数の少ない娘もいるのだが、それとはまた別で、心を無くしたような覇気のなさなのだ。
内気でおとなしい性格なのか、と初めの頃は思ったのだが、彼女のことを知れば知る程にそれが違うのだと気付かされる。
今では実直で一生懸命に見える姿さえ、背負い込んだ過去を振り返らないようにしている術のように思えてしまう。
折に見せる、陽だまりのような笑顔も痛々しくて仕方がなく、僕はいつの間にか、無意識にあの娘を見ないようになっていた。
それは、自らの手に負えない問題からの逃避に違いない。この分なら幾分か未だ、自己矛盾を吐き出している彼女の方が正しいのだろうな。
今日もまた、彼女を含めた隊が水平線の彼方へと消えて行くのを見送る。
間際に告げてきた「いってくるのです」、と珍しく元気の良かった一言が、岩礁に打ち付ける波音を押し退け、耳で反響し続ける。
願わくば、幾多の新しい罪を抱え込んだとしても無事にここへ戻ってきて欲しい、と思うばかりである。
僕の弱さと彼女の抱える危うさとが、真の強さに変わるその日までは。
電ちゃん、今までありがとう。