東方お仕事記   作:TomomonD

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九仕事目 赤い館の緑の門番

赤い霧のなかに佇む、紅い館。

一十百たちはその門の前までたどり着いていた。

「ありがと~」

「いえいえ」

「そろそろもどるのか~」

「じゃあね!」

ルーミア、大妖精、チルノは自分たちの寝床に戻っていったようだ。

 

「ここが入り口ですよね。紅魔館っていうみたいです」

門の横の表札を見て一十百がそう言う。

「門番みたいのもいるから、そうなんじゃない」

「でも……寝てませんか?」

一十百が緑色の服の門番の前に立つ。

門番と思われる緑色の服の女性は目を閉じまったく微動だにしなかった。

確かにこれなら集中していて、誰が来ても通すわけがないような門番のようにも見える。

しかし、決定的にこの門番が眠っていることを示すものがあった。

それは……。

「すー、すー……」

きっちりと寝息を立てているところだ。

「どうしましょう、霊夢さん」

「チャンスだぜ。そっと入れば気が付かなさそうだぜ」

「でも、それだと門番さんが後で怒られちゃいそうで……」

「これからこの館に入って異変を解決しようとしているのに……。まったくお人よしね」

 

「う~ん、よし!」

何か思いついたのか、一十百がポケットの中に手を入れた。

取り出したのは銀色の網がかかった鉄の棒のようなもの。

「それ何?」

「はい、拡声器……えと、マイクです!」

どうやらマイクというものは幻想郷に広まっていないようだ。

そもそも電気を使うことの少ない幻想郷ではこういうものは広まらないのだろう。

「拡声器ってことは大きな声を出すものなのか?」

「はい! 眠ってしまった人を起こすにはこういうのが一番いいと聞いたことがあります」

パチンとマイクのスイッチを入れる。

すぅ、と一十百が息を吸い込んだ。

「大声を出すつもりかしら?」

「それなら耳元で叫べばいいと思うぜ」

「いえいえ、コホン……」

いつの間にか一十百の頭の上には見たことのない帽子が乗っかっていた。

 

「“え~、次は終点、紅魔館前~。終点、紅魔館前~。お降りのお客様は足元に注意してお降りください”」

 

マイクを通した声でそう告げた。

けれど、門番は起きる気配がない。

「ダメじゃない」

「ここからが本番ですよ」

そういって門番の斜め前に立ち一言。

「お客さん、終点ですよ!」

「ハッ!! 寝過ごした!!」

がばっと門番が顔を上げた。

「「起きたぁ!?」」

別にこんなことする必要もないのだが、一十百なりの考えがあったようだ。

「こっちのほうが面白そうでしたから」

「まあ、その、うん……」

「外の世界の常識は難しいんだぜ……」

「って、私、乗り物に乗ってませんでした……。はっ、侵入者!! いつの間に!!」

 

門番が驚きながら構えを取る。

武道の心得のある独特の構えだ。

「こんばんは」

「あ、はい。こんばんは」

一十百が深々とお辞儀をしたため、門番のほうもつられてお辞儀をした。

せっかく構えていたのだが無意味になってしまったようだ。

「ここを通らせてほしいんですけど……」

「さすがにそういうわけにはいきません。誰も通すなといわれているので」

「困りました……、どうしましょう霊夢さん?」

「いや、そこは力ずくで押し通るしかないんじゃないの?」

「だ、そうです……」

「いや、聞こえてますよ?」

「一十のペースにはまると大変だぜ」

 

「門番のお姉さんが寝ていて上手くできなかったので、少し前からやり直しましょう!」

「「「なぜに!!」」」

 

 

その後、一十百の説得により到着の少し前からやり直すことになった。

そして、紅魔館正門前……。

「っ、何者!」

「今回の異変、赤い霧の発生点がここでした! 力ずくでも通らせてもらいます!」

「紅魔館門番、紅美鈴、行きます!!」

一十百と門番、紅美鈴少し距離をとって構える。

紅美鈴は先ほどと同じ拳法家独特の構え。

対する一十百は、ゆらりと片手を挙げ、その手にスペルカードを持つというもの。

この場の空気が、死闘を始めるまで間もないということがわかる。

「「どうでした?」」

「「その一言で台無しよ・だぜ」」

一十百と美鈴が同時に霊夢と魔理沙のほうを向く。

ため息交じりで二人がそれに反応するという感じだ。

 

「では、覚悟してください!」

先に動いたのは一十百のほうだ。

今までどちらかと言うと受け手だった一十百が先手を打つというのも珍しい。

「新スペルの力ためさせてもらいます! 土天『曇天色の大地』」

一十百がスペルカードを高く放り投げる。

スペルカードが輝き一十百の周りに灰色の弾幕が集まりだす。

「なんだかパッとしない色の弾幕ね」

「曇天色っていうんだから、あのくらいの色じゃないか?」

一十百の周りに弾幕が集まりきると、一つ一つの弾幕の形が変わる。

次々と灰色の丸から鼠の形に変わっていく。

まるで鼠妖怪が群れているような異様な弾幕だ。

「……うわ、不気味」

「霊夢さん、ひどいです……ううぅ。行けっ!」

博麗霊夢の酷評を受け少し落ち込んだが、気を取り直してバッと手を前に向けた。

すると、鼠の群れの弾幕が次々と紅美鈴に向けて走り出した。

「なるほど、だから“曇天色の大地”か。一十にしてはまともなスペルだな」

弾幕の量はそれほど多くはないが、一つ一つの弾幕の大きさが大きめであり地面を走る速度も速いほうだ。

「くっ、来るなら来い!!」

グッ、と紅美鈴が力を込める。

 

しかし、一十百の放った鼠弾幕は、紅美鈴の少し前で次々と……転んでいった。

「えっ?」

「こけた」

「こけたんだぜ」

「え? えっ?」

四人とも相手に届かない弾幕に唖然。

けれど、次の瞬間それは驚愕に変わる。

転んだ鼠の弾幕が破裂し、赤や青の弾幕をばら撒いた。

「なっ!!」

完全に油断した紅美鈴は慌てて回避する。

次々と鼠弾幕は破裂し、赤と青の弾幕が飛び交う。

「くっ、このっ」

しかし、さすが紅魔館の門番を名乗るだけの事はある。

避けるだけではなく、蹴りや拳打を使い向かい来る弾幕を弾いていく。

 

「魔理沙、つまらないことに気が付いたんだけど……いい?」

「なんだぜ」

「あの一十百のスペル、土天『曇天色の大地』って言うじゃない」

「そうだな」

「土天って、どてん……転ぶ音じゃないの?」

「………」

「………」

「………」

「えと、なぜか冷たい視線を三方向から感じます……」

 

 

一十百の一枚目スペルカードが終わり飛んでいた弾幕が消えていく。

「反撃させてもらいます!」

タンと地面を蹴り一足で距離をとる。

「虹符『彩虹の風鈴』」

スペルカードが輝き、紅美鈴を中心にから虹色の弾幕が回転しながら放たれる。

「おぉ~、綺麗ですね」

その虹色の弾幕を見て一十百の足が止まる。

「一十百! 何してるの、避けて!!」

「えっ」

一十百が我に返ったときには虹色の弾幕はもう目の前まで来ていた。

「もらった!」

「一十!」

虹色の弾幕に包まれるとおもわれた次の瞬間、一十百の姿が消えた。

「えっ?」

「消えた?」

「そんなっ」

「こっちです!」

一十百は元いた場所からかなり踏み込んで、さらに真横まで移動していたようだ。

「い、いつの間に!」

紅美鈴の目にも映らなかった一十百の速度。

まさに速度のみで裏の世界を生きてきた一十百の最強の武器である。

当たると思っていた弾幕が当たらず……、紅美鈴が我に返ったときには全ての弾幕をかわされてしまっていた。

スペルカードが光を失った……。

 

「反撃の反撃です!」

一十百が紅魔館の外壁を蹴り、反動で高々と飛び上がる。

「飛んだっ!?」

「跳んだわね」

「跳ぶ必要あったのか?」

「なんとなくカッコいい! いきますっ!!」

跳んだ反動で空中で後ろ向きに半回転、そして両手を広げる。

丁度、空中で逆十字を作り上げたような形だ。

「箒星『シューティング・ブルーム』!!」

「なにあのポーズ」

「ルーミアの影響か?」

「何か、避けられない気がする……」

「「え゛……」」

なぜか紅美鈴があきらめかけている。

「いけぇっ!!」

一十百の周りから次々と流星が放たれる。

その流星は上空の星空と一体になり、一種の幻想的な空間を生み出していた。

「綺麗ね」

「バックが星空だと本物の箒星に見えるぜ」

「……はっ!」

一瞬、紅美鈴の意識がそれていたようだ。

一十百が虹色の弾幕に見とれていたように、紅美鈴も夜空と一体化した弾幕に見とれてしまったらしい。

「しまった!!」

次々と降り注ぐ流星をかわしていったのだが、さすがに初動が遅れたために数発当たってしまう。

「くっ……」

「ほ~、アレって当たっても平気なのか?」

「普通なら平気じゃないわよ。大方、あの門番、身体を固くすることが出来るんじゃない?」

「私は気を使う程度の能力があります。今のは硬気孔と呼ばれるものを使って防がせていただきました」

 

一十百がスタンと着地する。

空中でさかさまになっていたのに、しっかりと足から着地できるのはなかなかの運動神経だろう。

「気を遣う程度の能力ですか……。門番よりもメイドとか、主に近い職業のほうが……」

「一十百、その気を遣うじゃないわ」

「ふぇっ? えと、じゃあ木を使うってことは、今の枝とか幹とかを盾にして…」

「その木じゃないぜ……」

「ほえぇっ? えと、黄を使うですよね……。虹色だからもっと色があると……」

「どうしてそうなるんですか!!」

「ええと、その、あの……」

「「「もうだめだ、この子」」」

「三人で言わないでください、ぐすん」

一十百は気というものを理解できないようだ。

外の世界で魔力と気に関わってはいたのだが、自分にその才能がないため、気を使うというのがわからなかったようだ。

 

 

「え~と、そろそろ決着をつけますか」

ふっ、と息を吐きキリリとした表情に戻った紅美鈴。

「むぅ、ならこっちもいきますよ!」

一十百も次のスペカでとどめにするつもりのようだ。

一陣の風が吹き抜ける……。

「彩符『極彩颱風』」

「崩落『多重決壊』」

二人のスペルカードが輝く。

紅美鈴の方は、虹色の弾幕が雨のように降り注ぎ、風が凪いだように右へ左へとゆれる。

一十百の弾幕は紅美鈴を包むように展開される。

「綺麗な弾幕ですけど、もう見とれて当たそうにはなりませんよ!」

「あなたの弾幕は動かなければ、どうと言う事は……」

紅美鈴が話している最中にカシャンと何かが割れる音が響き渡る。

次の瞬間、囲っているだけだった弾幕の結界が崩れてきた。

「いけないっ!」

紅美鈴は避けられないと思い一瞬で硬気孔を使い、ギリギリまで衝撃を和らげる。

しかし、この弾幕は三重に展開されている。

いくら硬気孔を使い耐えたとしても、二重目、三重目の弾幕まで耐えられるわけではない。

 

結果……。

「うっ……」

弾幕の雨に打たれて紅美鈴は気を失った。

あれだけの直撃を受けて、気を失うだけですんだのは妖怪としての身体の丈夫さと、日頃から鍛えていたものと、気を使う程度の能力が重なり合った賜物だ。

「つ、つかれました~」

「お疲れだぜ!」

「なんだ、ちゃんと勝てるじゃない。さすが一十百といったところかしら」

 

 

紅美鈴は一十百が簡単に手当てをして門の端に寄りかかるようにして眠らせておくこととなった。

「さあ、これからが本番よ。準備はいい、一十百?」

「はい!」

「何か面白いものが見つかるといいぜ!」

三人は紅く佇む館の中に足を踏み入れていった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

紅美鈴:紅魔館の門番をやっている中華風の女の人です。虹色の弾幕や華麗な体術を使うカッコいい門番さんです!by一十百  敵なのに手当てをしていただき、ありがとうございました。by美鈴

土天『曇天色の大地』:僕の周りに次々と灰色の弾幕が集まり、鼠の姿に変わって相手に向かっていきます。その後、転んでしまうんですけど、そのときに弾幕を撒いていきます。by一十百  ネーミングセンスがね……。by霊夢
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