東方お仕事記   作:TomomonD

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八十五仕事目 どちらも人という事には変わりない

一十百と射命丸文は紅魔館を後にする。

寄り道という寄り道はしていないのだが、射命丸文は作戦を変更し目的地に直行することを決意した。

 

寄り道をすればするほど、十百さんと話せる機会が減ってしまっているような気がしてなりません。

それどころか、下手をすると寄り道をした場所で、あっさりと十百さんの横を奪われる可能性もあります。

くっ、私の作戦が次々と崩壊していくのが分かります。

流石、十百さん、と言ったところですね。

 

「十百さん。次の異変の首謀者のいる場所ですが……、心してください」

「もしかして、神社で言っていた、危険な場所ですか?」

「はい。もう少し後回しにしようかと思いましたが、これ以上後に回すと厄介なことになりそうなので、心を決めて向かうことにしましょう」

「わ、分かりました」

グッと一十百が拳を握る。

 

 

なるべく近道をしていくために、脇道に入りつつ二人は進んでいく。

「ここを抜ければ小さな丘があります。その先が目的地です」

そう言って、射命丸文が先導する。

しかし、ピタリと一十百の歩みが止まった。

 

「どうかしましたか?」

「……いえ。何というか、こっちの方、音が少ないような」

「音……ですか?」

一十百が珍しくしんみりとした表情で一度頷く。

「その、何というか、妖怪のざわめきや、人の往来がなくなって、しんと静まり返っている感じです。そのせいなのか、何だか人が近づいちゃいけないような、そんな様な雰囲気がします」

「そんな事はないと思いますが……、少し待っててください」

射命丸文は懐から一枚の紙を出す。

大きな山や湖の絵が描かれているところを見ると、幻想郷の地図のようだ。

 

「確か、今私たちはこの辺りですから……、このまま進むと……」

スッと指で地図のなぞっていく。

思ったよりも幻想郷の端の方へ向かっているようで、文の指も地図の端へと向かっていく。

すると、とある場所で射命丸文の指が止まった。

「ああ。そう言えば、ここを通ることになるんでしたね」

地図を畳み、懐に戻す。

 

「十百さん。あの小さな山が見えますか?」

射命丸文は正面にある、山を指差す。

それほど高くもなく、徒歩で昇れる程度の小山だ。

「はい。あの山に何かあるんですか?」

「ここから見て、山の向こう側……、その中腹に小高い丘があります。もしかすると、その場所のせいかもしれません」

「………」

「向かってみますか?」

一十百が静かにうなずく。

「分かりました。まあ、そこを通るのが一番近道なので、通らなくてはいけないんですけどね」

 

にっこり微笑んで、射命丸文は一十百の手を引く。

「さあ、のんびりしていると日が暮れちゃいますから。行きましょう!」

「……はい!」

 

 

小高い山を越え、ゆっくりと山を下りていく。

一十百がそこで見たものは、白い小さな花をつけた植物が一面に咲いている小さな丘だった。

 

「ここは……」

「ここは通称『無名の丘』です。昔、ここは名もない赤子を捨てるような場所だったのです。間引き……という習慣があった頃の話です」

「その子たちは、やっぱり……」

「ええ、十百さんのお察しの通りです。ほとんどは妖怪の餌となりました。希に妖怪がその赤子を拾って帰り、育てるということもあったそうです」

 

涼しい風がその丘に咲いている白い花々を揺らしていく。

どこか揺れている白い花が寂しげに見える。

「今となっては間引きの習慣はなくなり、人間は滅多に訪れなくなりました。同時に、それを目当てにしていた妖怪も訪れなくなり、いつしか誰も訪れない場所になったのです」

「……そんな場所だったんですね」

そっと一十百は手を合わせた。

 

一十百は咲いている小さな白い花に近づく。

花を落とさないように、そっと手に乗せる。

「この花は鈴蘭ですね。毒性のある花ですけど、そこまで危険ではないので進みましょう」

「コンパロ~」

「ふえっ? えと、文さん、今何か言いました?」

「いえ、私は何も」

射命丸文が首を横に振る。

今確かに、変わった単語を楽しそうに言う声が聞こえたんですけど……。

一十百が辺りを見回す。

 

すると、少し先に金色の髪が揺れているのが見えた。

鈴蘭の花畑の中に座っているようで、あまりよく見えない。

さっきの話からするとほとんど人は訪れないはずですけど……。

そんなことを考えながら、一十百は近づく。

 

「今年のスーさんは咲き乱れてる。それにちょっと気が早いような……」

「あの、ちょっといい?」

「なに?」

一十百の声に、金色の髪の姿が振り返る。

服装は黒色の洋服に、赤色のロングスカート。

少し長めの赤いリボンが、金色の髪によく似合っている。

背丈は、かなり低い。

 

「こんなところに一人でいると危ないよ?」

「それは私のセリフ。人間がこんなところに来るなんて、命知らずだね」

「へっ? ……君は、人間じゃないの?」

「私は人間じゃないわ! 私はメディスン・メランコリー。不遇な人形たちの地位を上げるために立ち上がった、妖怪よ!」

腰に手を当てて、どうだ、というように軽く上半身を反らせる。

 

 

「へ~、変わったことをしている妖怪ですね。けれど、人形の地位を人間より高く上げるのは不可能だと思いますよ」

追いついてきた射命丸文も話に加わる。

「なっ、やってもみないで不可能なんて分かるわけ……」

「いや、分かりますよ。そもそも、人間が人形を作るんですから。その時点ですでに人間より地位が低いんですよ」

「うっ……、そ、それは……」

上手く反論できないのが悔しいのか、メディスンは視線をずらし、スカートをグッと握る。何か言いたいようなのだが、上手くいえず、若干涙目になりつつある。

それを見て一十百は片膝をつく。

するとちょうど、メディスンの目線くらいになるのだ。

 

「えと、メディスン、だっけ。人間より人形の方が優れている点って、たくさんあるものだよ」

「えっ……」

じっと、一十百はメディスンを見ながら話す。

 

「父と母がどんなにあやしても泣きやまなかった子どもが、人形一つで泣き止んだ。素敵な服を作ったけど、自分では着れないから、人形に着せて宣伝する。自分の未来や、子どもの健康を祈って、人形を飾る……。どれもこれも、人が成し得なかったことを、人形が成し得ているんだよ」

「でも、それは、人間の手の上で踊ってるのと同じだよ。だから私は、人形たちが一人でも生きられるように……」

「……人間と人形に地位の差なんてないよ。両方とも“人”である事には変わりないんだから」

「っ!! そ、それじゃ、なんで、人間は人形を操ったり、自分の思うままに動かしたりできるの? 人形に、それはできないでしょ!」

 

メディスンは一十百にグッと近づき、一十百の肩を揺する。

一十百は軽く首を横に振る。

「いや、出来るよ」

「嘘っ! それなら、人形に操られた人間をここに持ってきてよ!」

その言葉を聞いて、一十百が静かに答える。

 

「僕が、そうだよ」

「えっ……」

メディスン・メランコリーが一歩退く。

 

「僕は一十百。そして、僕の主は立派な人形だよ」

「そんなの、信じられるわけ……」

「いえ、それは本当の事ですよ」

横で話を聞いていた射命丸文が手帳を広げる。

 

「十百さんの主は人形……、まあ殺人人形ということになっていますけれど、とにかく人形には変わりありません。そして、その主は自立思考の人形らしく、従者である十百さんにある程度の命令は出していたはずです」

「外の世界では、とある道具を使うことで、僕自身が自在関節傀儡人形になっていました。それを僕の主が操ったりすることもありましたよ」

懐かしそうに、一十百が話す。

 

一十百の人形の方の主は、自立思考はできるが、自立行動はできない。

魔力の濃度が高ければ一人でも動けるようなのだが、外の世界ではそうもいかない。

それ故に、一十百は必ずと言っていいほど、その主と一緒に行動をしていた。

一十百の頭の上、必ずそこに彼の主が乗っていた。

そこから少し辛口な言葉と共に、次の行先を伝えていたものだ。

そんなことを思いだし、一十百は楽しそうに微笑む。

 

「あなたは、それでよかったの? 自分の意志とは別に動かされて、自由に動けなくて、それでもあなたはその主がいてよかったと思うの?」

「うん。主がいたからこそ、今の僕があるからね。だから、これだけは絶対に変わらない気持ちかな。『主がいてよかった』って」

一十百が立ち上がりつつ、左手を自分の胸の上に置く。

軽く目を閉じて、そっとそう言った。

 

「……あなたみたいに、いい主に恵まれる人ばかりじゃない。考えもなく、捨てられることだってある。その捨てられた存在が、どれほど苦痛に思っていたか……」

「そこで、捨てた主を恨んではいけないよ」

「どうしてっ!」

メディスン・メランコリーが両手をグッと握って、地面を強く踏む。

今の話の流れとその仕草で、少なくとも彼女は捨てられた存在というものに近い境遇のようだと一十百は理解する。

それでも、一十百は静かに話を続ける。

 

「“捨てられた”だからだよ。それはもう過去の出来事。過去は、思い出や糧にするものであって、引き摺られるものじゃない。未来を、前を見ないと進めないし、迷っちゃうからね」

「……普通、そこまで物分かりが良い奴なんて、そうそういないわ」

メディスンはクルリと後ろ向きになり、俯きながらぽつりとそう言った。

 

 

「メディスン。僕は異変解決のために、出発しないと」

「そう……。まあ、人間……、人と話せて少しは楽しかったよ」

「だったら、この異変が終わったら博麗神社においでよ」

「えっ?」

驚いたように、メディスンが振り返る。

 

「異変解決の後は、必ず宴会をする。たくさん人が集まるし、もしかしたら、メディスンの疑問に答えてくれる人がいるかもしれないよ」

「……あなたも、十百も参加するの?」

「もちろん。料理係みたいなものだからね」

「気が向いたら、行く……ことにする」

「うん。それじゃ、待ってるね」

 

 

一十百は横にいる射命丸文の方を向く。

何だか、つまらなそうな表情をしている。

「文さん? どうかしましたか?」

「いえ。寄り道をしてもしなくても、こうなるんだなぁ、と思いまして」

射命丸文が何を気にしているのか、さっぱりわからない一十百。

けれど、一十百はそっと射命丸文の手を取る。

いきなり手を握られたので、驚き、頬が赤く染まる。

 

「えっ!?」

「さっきは、文さんが僕を引っ張っていってくれました。だから、今度は僕が先導します。さっきの地図で、だいたいどの辺りか分かりましたし」

「いや、それは……、その……」

「それに“女性をエスコートするのは男性の役目であり義務だっ!”って、クロラージュさんから聞いたことがあります」

そう言って、軽く手を引く。

それにつられて射命丸文も歩き出す。

 

「まったく、十百さんは……」

「何でしょうか?」

「いえ、こちらの話ですよ」

何だかよく分からないのだが、一十百はそのまま手を引いて進んでいった。

 

 

二人が去った後の鈴蘭の草原で、メディスン・メランコリーは一人遠くの空を見ていた。

「ここから、外に行くのも久しぶりかな……」

そんな独り言をつぶやきながら、そっと一十百と射命丸文が向かっていった方向に手を振るのだった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

無名の丘:かつて、名も付けられてないほどの幼子が捨てられていた場所です。今は鈴蘭の咲き乱れる静かな場所です。賑やかな幻想郷で、ここだけはとても静かで、少しだけ寂しく思えます。その代り、ここへ春の夜に来ると、とても幻想的な風景が見られること間違いなしです!by一十百  スーさんが咲き乱れて、綺麗なんだよ。byメディスン

メディスン・メランコリー:金色の髪を赤いリボンで結び、黒の洋服と赤のスカートを着た女の子です。人形の地位を上げるため頑張っているようでした。どうやら、本人も人形に関係する妖怪のようです。昔、この辺りで捨てられてしまった人形に意志が宿ったのでは、と考えています。他の人と話す機会があれば、少しは考え方が変わってくれるかなぁ。by一十百  本当なら、スーさんの毒でやっつけるつもりだったけど……、ちょっとだけ事情が変わったの。byメディスン
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