太陽の畑に閃光が走る。
その閃光をかわし、一十百が風見幽香に向けて一気に近づく。
強力な一撃には隙ができるもの、その合間を縫って一撃入れる。
その考えのもと距離を詰めたのだが、あっさり上手くはいかないようだ。
風見幽香は砲撃のような閃光を放ち終えると同時に、その日傘を振りぬく。
先ほどまでとは違い、今回は日傘の分リーチが長い。
たったそれだけの事なのだが、一十百からすれば恐ろしいほど重要な事だった。
何せ、一十百の小柄な体では、どう頑張ってもそのリーチを克服できないのだ。
今までは素手対素手、この状態でも一十百の方がリーチという点で劣っていた。
全体的な速さの差でそのリーチ差を誤魔化していたが、さらにリーチが伸びたとなると話は別だ。
咄嗟にバックステップで振り抜かれた日傘をかわす一十百。
目の前で、風に舞った葉が真っ二つに切り裂かれていく。
「うわぁ! 危なかったぁ」
もしも当たっていたらと思うと、さすがに背筋が凍える。
そんな一十百とは対照的に、風見幽香は優々と日傘を構えなおした。
「あなたの接近戦に対するセンス……、確かに優秀だわ。でも、身体がそれについてきてないわよ。主に、成長的な話で」
「それを言わないでください! 背が低いとか、手が短いとか、全体的に小柄だとか……。スラリと背が高く、スタイル良い幽香さんには分からない悩みなんですよ」
「……十百さ~ん。貶されたことに腹を立ててるのか、相手をほめるのか、どちらかにしましょう。ほら、幽香さんが微妙な表情になってしまっているじゃないですか~」
後ろの木の陰から、射命丸文がジト目で一十百に話しかける。
「えっ? ほめる? 褒めたつもりは無いんですけど……。僕は事実を言ったまでですよ?」
「はぁ~……。まあ、十百さんらしいと言えば、らしいのですが……」
やれやれといったように、射命丸文はそのまま木の陰に座り込んだ。
そして、その場で草を、ちぎっては投げ、ちぎって投げを繰り返している。
ふん、どうせ私はスラリと背が高いわけでも、スタイルがいいわけでも……、と何やら小さな声で呟いている。
残念ながら、その声は一十百には届いていないようだ。
「でも、困りました。あの日傘のせいで、幽香さんに近づけません」
何とかしてあの日傘を掻い潜って懐に入らないことにはどうしようもありませんね。
……こうなっては仕方がないです。
多少危険ですが、スペルカードで隙を作るしかないですね。
一十百がポケットの中に入っているスペルカードを一枚取り出す。
「投槍『埋められ続ける空欄』」
スペルカードが輝き、一十百の左手に不思議な弾幕を形成していく。
長さ一メートル半、太さは二十五センチほどの赤茶色の六角柱が、一十百の掲げた左手の上に現れた。
ただの六角柱というわけではなく、先の方に行くと鋭く尖っており、その先の部分だけが黒く染まっている。
つまり、その弾幕の形は……。
「巨大な鉛筆!?」
木の陰から見ていた射命丸文が驚きの声を上げた。
高々と鉛筆状の弾幕を一十百が構えたのだ。
一十百は、そのままそれを思いっきり風見幽香へと投擲した。
「そんなもので、私を貫けると思っているの?」
風見幽香が構えた日傘から光が放たれる。
その一撃はあっさりと一十百の弾幕を貫いた。
しかし、貫かれた瞬間、鉛筆弾幕は赤い円状の弾幕に変わる。
「くっ……、二段式の弾幕」
日傘から強力な弾幕を放った反動で風見幽香の初動が遅れる。
円状の弾幕は、容赦なく幽香に降り注ぐ……事はなかった。
降り注ぐ形が円だったため、その中心は安置となってしまう。
動けなかったことが幸いし、風見幽香が被弾することはなかった。
「あら、動くと当たるなんて、随分捻くれた弾幕ね」
「え、えと、二投目っ!」
風見幽香の言葉に戸惑いながらも、二本目の鉛筆弾幕を投げる。
先ほどとほとんど変わらない速度、ほとんど変わらない弾幕。
それがそのまま風見幽香に向かって飛んで行った。
「私に二度も同じ弾幕が通用すると思っているの?」
ゆっくりと回すように日傘を構える。
すると、風見幽香の姿がぼやけ、次の瞬間、二人の風見幽香がそこに存在していた。
一人は一十百の弾幕に向けて、もう一人は一十百本人に向けて日傘を構える。
「ふ、増えたっ!?」
「「覚悟はいい?」」
直後、二人の風見幽香からマスタースパークのような弾幕が同時に放たれる。
その一撃は、狙い違わず一十百の弾幕と一十百に直撃するはずだったのだが……。
「くっ……外した」
一十百本人を狙って放たれた一撃。
その砲撃をくぐるように、地面すれすれを一十百は駆け抜けてきていた。
不覚にも一十百を狙ったの砲撃は外した、しかし弾幕を狙った砲撃はしっかりと弾幕を貫いていた。
しかし、そこで風見幽香に大きな誤算が生まれる。
先ほどと違い、貫かれた弾幕は赤い大きな十字の形で降り注いできたのだ。
動かなければ被弾しないという風見幽香の考えを大きく裏切る形の弾幕だ。
「なっ……」
反動で動けない風見幽香は急いで日傘を広げる。
降り注ぐ弾幕は、次々と日傘に当たり消えていく。
日傘を開いた方の風見幽香は、何とか弾幕の雨をやり過ごす。
しかし、一十百本人を狙っていた方の風見幽香はそうもいかなかった。
弾幕の雨に打たれ、片方の風見幽香が消える。
「まあ、何とか軽減でき……」
「そこですっ!」
青い閃光が風見幽香の右手をかすめるように空に向かって放たれた。
風見幽香の持っていた日傘が空中に投げ出される。
い、一体何が……。
幽香の視界の端に左腕を振り上げた一十百が映る。
……ああ、そう言えば、さっきの一撃、外したんだったわね。
弾幕ばかりに気を取られていたわ。
でも、日傘を弾いたくらいじゃ、私との差は埋まらないわ!
空になった右手を握り、一十百へ振り下ろす。
直撃すれば怪我では済まない。
その一撃を身体もろとも回転させた右手で振り払う一十百。
バァンと何かが破裂したのかと思える音が響き渡る。
「あうっ……」
「このっ!」
風見幽香は即座に左手で一十百を狙う。
同じように一十百は左手を振り払いその一撃を反らす。
遠心力で威力をごまかした一撃目と違い、今回は一十百の利き手、左手の一撃だ。
先ほどとは違い、大きく風見幽香の一撃が振り払われる。
その隙を一十百は見逃さない。
左手を振り払った勢いのまま、一十百は右足で風見幽香を蹴り抜く。
普通の妖怪程度なら……、まあ普通の妖怪が一十百の拳打を二撃も受けきることは出来ないのだが、とにかく普通の妖怪ならこの蹴りには反応できなかっただろう。
それほど速く、鋭い脚撃だ。
けれど、今相手にしているのは大妖怪の風見幽香。
風を切るような一十百の脚撃をなんとか右足で受け止める。
その瞬間、一十百の身体ふわりと浮く。
撃ち合った右足を支点にするように、わずかな空間で回転し、左足で風見幽香を右側から薙ぎ払った。
右手の撃ち合いから始まり、左手、右足、そして左足と、一息の間に放たれた四連撃。
三撃目までは捌いたのだが、最後の一撃を受け、風見幽香は大きく撥ね飛ばされた。
「これで、どうです」
今までとは違い、確かな手ごたえ……いや、足ごたえがあった。
少なからず痛手にはなったはずだ。
一十百がゆっくりと着地し、風見幽香の方を見る。
「……あれ?」
一十百の視線の先には、先ほどとなんら変わらぬ風見幽香が立っていた。
何事もなかったかのように、服に着いた土埃を落とす。
「まさか、今ので決まった、なんて思ってないわよね?」
「あうっ……、そ、それは……、その……」
せめて片膝くらいついてくれると思ったのに……。
さ、さすがは大妖怪の幽香さん。
並大抵の実力者を遥かに超えています。
……どうしよう。
今の一撃、スペルカードを一枚使い、さらに怒涛の四連撃で、何とか入ったようなものだ。
同じことをもう一度やれと言われても、そう上手くいくはずもない。
日傘を弾いたものの、未だ手詰まりの状況には変わりないようだ。
そんな苦悩の表情を見て、クスリと風見幽香が微笑む。
「それにしても、今の連撃……、なかなかよかったわ。前に一度、似たような連撃を受けてなかったら、それなりに致命的な一撃になってたかも知れないわよ」
「似たような連撃?」
「……『夢想封印 連』だったわね、たしか」
夢想封印……って、まさか霊夢さん?
霊夢さんって、接近戦得意だったんだ……、知らなかった。
それも、幽香さん相手に接近戦なんて……。
「言っておくけど、今の博麗の巫女ことじゃないわよ」
「え……、ということは、先代の巫女さんですか?」
「………」
何故かそこで風見幽香が黙ってしまった。
何か言いたくない事でもあるのだろうか。
「彼女は……いえ、何でもないわ」
「えっ、でも……」
一十百が何かを言おうとするが、先ほどより鋭い目つきでそれを風見幽香が制止させた。
明らかに、今までとは違う雰囲気を纏っている。
「もしも、これ以上彼女の詮索をするなら……」
一十百が息を飲む。
これ程鋭い気配を纏って話されたのなら、これ以上詮索するつもりは無い。
風見幽香にとって大切な友人なのだろう。
どんな事情があろうが、友人は大切な存在だ。
一十百はそれを理解している。
だからこそ、ここは黙って風見幽香の対応を待つしかない。
知らなかったとはいえ、話を振ってしまったのは自分なのだから、ただ待つことにする。
そして、ゆっくりと風見幽香が一言。
「異変の元凶の場所を伝えて、力ずくで帰ってもらうわよ」
「………へっ?」
力ずくで帰ってもらうという点は理解できるが……。
異変の元凶の場所を伝える必要はあるのだろうか。
そもそも……。
「えと、異変の元凶って……。幽香さんがこの異変の首謀者じゃ……」
「仮に私が首謀者だったら、って初めに言ったじゃない」
「……あ」
そういえば、確かにそんなこと……。
「え、で、でも、それならなんで僕と勝負を?」
「実力で止めさせるなんて言うから、つい地べたを這いつくばらせたくなっただけよ」
「あぅぅ……。それはちょっと……」
微笑を浮かべながらあっさりとそう言ってのけた風見幽香を見て、一十百は一歩退く。
この戦闘狂思想、誰かを思い出します。
う~ん、こういう方って、不思議と笑顔が似合うんですよね。
黒い笑みじゃなければいいんですけど……。
「本当はまだ続けてもよかったんだけど、それはまたの機会に取っておくことにするわ。何だか懐かしい気持ちになれたし」
「……大切な友人なんですね」
「まあ、ね」
風見幽香はゆっくりと落ちていた日傘を拾う。
「さてと、それで異変の事だけど……。今回の異変、四季の花が咲く以外に気が付いたことはない?」
「えっ? これと言って特には……」
無事二人の弾幕勝負も終わったのを見て、射命丸文も木の陰から出て話に加わる。
風見幽香に言われて一十百も辺りを見回す。
「そう言えば、今日は何だか人魂みたいのが多いような……」
「確かに、言われてみれば、確かに多いですね。花ばかりに気を取られて気が付きませんでした」
霧の湖、紅魔館、無名の丘、そして太陽の畑。
ここに来るまで色々な場所を通ってきたが、そのいたる場所で人魂を見てきている。
たまにはそう言うこともあるのかと、あまり気にしてはいなかったのだが、どうやら今回の異変に関係があるらしい。
「今回の異変。誰かが起こした、ってわけじゃないわ。六十年に一度起こる定期的な異変なのよ」
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
投槍『埋められ続ける空欄』:レミリアさんからもらったスペルカードの素で作られたスペルカードです。鉛筆上の弾幕を僕が投擲します。それが地面や弾幕に当たると、赤い円か赤い十字の弾幕に切り替わります。どっちになるかは僕にもわからないんですよ。by一十百 これが変化すると、神葬『ラグスニール』になるようね。byレミリア たとえ分からなくても、とにかく埋めるんだ。選択問題なら尚更だ!by TomomonD いや、何の話をしているのよ……。by霊夢
風見幽香の友人:どうやら博麗神社の巫女……に大きくかかわってる方みたいです。ただしそれ以上の詮索はするなって、幽香さんが言っていました。何か深い事情があるのかもしれません。by一十百 本人が戻ってくれば、話しやすいのだけど……。by幽香