東方お仕事記   作:TomomonD

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八十八仕事目 三途の川までの直行便

「六十年に一度起こる異変?」

「そう。この時期になると外の世界で死者が増えたみたいで、その影響かこっちに幽霊が多量に流れ込んできてるのよ。それで、その幽霊が花に憑りつくと……」

「花が咲く、というわけですか」

 

どうやら、今回の異変は周期的に起こるような物で、誰か元凶がいるわけではないようだ。

しかしそうなると……。

「異変を解決するのが仕事である、博麗の巫女はどうしたらいいのでしょうか……」

軽く腕を組んで一十百は悩む。

 

異変の元凶を止めれば異変は止まる。

今までの異変はこの方式でどうにかなってきたが、元凶のいない今回の異変ではこの方式は通用しない。

それでも、異変を止めるのが博麗の巫女だ。

見習い(仮)とはいえ、一十百も博麗の巫女。

元凶がいないくらいで止まるわけにはいかない。

 

「幽香さん。何か、その、この異変を早く終わらす方法ってありませんか?」

「そうね……。死神をこき使えば少しは早く終わるかもしれないわよ」

「えっ……、死神?」

「そう、死神。三途の川とかに行けば、いると思うけど」

随分、あっさりとすごい名前の地名が出てきましたね……。

三途の川と言えば、死者が渡る川の事ですよね。

渡し賃、六文銭……っていう、あの三途の川ですよね。

 

「えと、つまり異変を早く終えるためには、一度死なないといけないのでしょうか……」

深刻そうな表情で一十百が尋ねる。

命がけで異変を解決してきたこともある。

けれど、異変解決の為に命を捨てるのは初めてだ。

いくら常識はずれの一十百でも、そう簡単に死んで生き返ることは出来ないのだろう。

そんな深刻そうな表情をした一十百を見て、風見幽香が呆れたように話しかける。

 

「それでもいいけど……。歩いていけるわよ、三途の川」

「ええっ、歩いていけるんですか!?」

「……あなた、一応見習いとはいえ博麗の巫女なのに、随分と幻想郷の地理に疎いのね」

「まあ、十百さんは外来人ですし……。十百さん、三途の川は私たち天狗が住んでいる妖怪の山の裏手にあるんですよ」

射命丸文が地図を広げる。

 

「ここが妖怪の山、そしてその裏手のここが三途の川です」

「本当に三途の川がある……。さすが幻想郷です」

「しかし、まさか三途の川へ行くことになるとは思ってもいませんでした。今私たちは、場所的に真逆の位置にいますからね」

文がそう言って地図を指差す。

妖怪の山と太陽の畑は地図の端から端。

地図を指差しながら、文は心の中でグッとガッツポーズをする。

 

色々寄り道を考え、断念し、このまま異変解決かと思いましたが……。

まだまだチャンスがあるじゃないですか。

私の幸運も捨てたものではありませんね。

これだけの距離があれば、何か行動を起こす時間も十分にあります。

 

 

「よし! それじゃ、三途の川まで行きましょう。思ったより時間もかかってしまいましたし、少し急ぎましょう文さん」

「えっ、いや、その、ほら、疲れてませんか? たまにはゆっくり……」

「もしかして、文さん疲れちゃいました?」

「そ、そうですね~。少し休憩が欲しいかなぁ、と思っていたところです」

 

いくら距離があるとはいえ、着実に目的地までは近づいてしまう。

せめて、何か作戦を思いつくまで、留まりたいところです。

危険な場所ですが、何とか時間を稼がないと。

 

そんなことを考えていると、急にふわりと身体が軽くなる。

何事かと足元を見てみると足が宙に浮いている。

身体も横になっているような、そんな感じだ。

それに何かに、抱え上げられているような感覚もする。

そのまま視線を上に向けると、一十百の顔が見えた。

つまりこれは……。

 

「それじゃ、行きましょうか! 文さんは、このまま僕が運びます」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと、待ってください。なんで、私をかかえているんですか!?」

「疲れている文さんを歩かせたり、飛ばせたりするわけにはいきませんから。でもこれなら、問題はありませんよね?」

「ありますよ! いろいろありすぎますよ!」

かあぁ、と顔が赤くなるのが自分でも分かる。

何とか降りようとするが、上手く身体が動かない。

緊張のせいか、身体が強張ってしまったようだ。

 

 

「それでは幽香さん、いろいろとありがとうございました。この異変が終わったら、宴会が開かれると思うので、ぜひ博麗神社にいらして下さい」

「宴会……。そうね、久しぶりに足を運ばせてもらおうかしら」

にっこりと風見幽香が笑顔で答える。

 

「では、文さん。しっかりつかまっていてくださいね。三途の川まで一気に駆け抜けますよ」

「ほ、本当にこのまま行くつもりですか? ほら、ここから三途の川までってことは、幻想郷そのものを横断するってことですよ」

「そうですけど……。あ、僕なら大丈夫ですよ。文さんは軽いですし、体力も十分に持ちます」

「いえ、そのことでは……。た、他人の視線とか、そういうのは気にならないんですか?」

「えっ? う~ん、特には」

何でそんなことを聞くんですか、と言わんばかりの表情で一十百が答える。

どう見ても、まったく気にしてませんね、これは。

霊夢さんの苦労が、本当によく分かります。

嬉しいような、悲しいような、悔しいような……はぁ。

 

「それじゃ、行きますよっ!」

グッと一十百が地面を踏み込む。

次の瞬間、文の目に見えるすべての景色が後ろ向きに流れていった。

 

一十百の走る速度と、射命丸文の飛ぶ速度、単純な速さなら文の方が速い。

しかし、初速から最大加速までが一瞬であり、空とは違い木や岩など障害物がある分、体感的に一十百のほうが速く感じる。

味わったことの無い速さに驚く文。

速さに耐性がある文だが、自分で飛ぶのと運ばれるのでは、まったく違う。

そのため、ついギュッと一十百につかまってしまう。

一十百は文が落ちそうなのかと勘違いをし、しっかりとその身体を抱き寄せた。

 

山岳地帯を駆け抜け、草原を横断し、河原を跳びこし、一十百は三途の川に向かっていく。

まあ、幻想郷を横断している間、文の顔から湯気が出続けていたのは言うまでもない。

 

 

「ここが三途の川ですか……」

辺りには彼岸花が咲き、うっすらと白い靄が川を隠している。

川の向こう側は遠く、見ることができない。

三途の川とはいえ、見た目はただの川。

辺りにはいくつも河原で見かけるような石が転がっている。

 

「う~ん、誰もいませんね。渡し守さんがいるかと思っていのですけれど……」

「やっと来たわね。待ちくたびれたわ、本当に」

聞きなじんだ声に一十百は振り返る。

そこには、紅白の巫女、博麗霊夢が腰に手を当ててこちらを見ていた。

 

「えっ、霊夢さん! どうしてここに?」

「こんなにわかりやすい異変、放っておいたら私がサボってると思われるじゃない。だから、すぐに異変解決に乗り出したってわけ。あとはいつもみたいに勘で、ここ、に……」

霊夢の目線が一十百の胸のあたりまで下がる。

そこにはしっかりと抱きかかえられている射命丸文の姿があった。

 

「……一十百。それは、何?」

青筋を浮かべながら、震える指先で一十百の抱えている文を指差す。

「それ? あっ……」

「あのぅ、十百さん……。その、そろそろ、降ろしていただけると……」

「すみません。忘れていました。はいどうぞ」

ゆっくりと一十百が抱えていた文を降ろす。

降ろされた文は、顔を真っ赤にして俯いている状態だ。

 

そんな文を見て、霊夢はにっこりと微笑んだ。

ただし、その微笑は決してやさしいものではない。

明らかに黒い霊力が霊夢の後背にゆらめきつつ立ちのぼっている。

いつもの射命丸文なら腰を抜かしているところだが、まったく気が付いていないようだ。

というよりも、そんな事にまで気が回らないような状態だ。

これは、問い詰めても真面に答えられない可能性のが高いわね……。

まあ、一応聞いてみますか。

 

「文、少しいい?」

「な、なんでしょうか……」

「何があってこうなったの?」

「……詳しく聞かないでください、お願いします」

両手で顔を隠して、さらに俯いてしまった。

ぷしゅ~と湯気のようなものが出ている。

 

……これ以上追及するのは流石に気が引けるわね。

本当だったら夢想封印の一発でも叩きつける予定だったけど、私が手を下すまでもないようだし、放っておきますか。

 

「まあ、文がこんな感じだから、一十百、説明を頼むわ」

「はい!」

 

 

一十百から今回の異変の内容を聞いた博麗霊夢。

ついでに、一十百と射命丸文の行動の事もしっかりと聞いておく。

「ふ~ん、あの幽香の所に行ってきたのね。無事でよかったじゃない」

「あ、やっぱり幽香さんって、勝負好きの方でしたか」

「勝負好き……ってよりも弱い物とかを踏みにじるような感じだと思うわ」

 

それにしても、あの太陽の畑からここまで文を抱えて走ってきたのよね。

ほぼ幻想郷を横断……。

その間ずっと一十百に抱えられてたんだから、まあ、ああなるのも仕方ないわね。

チラリと横目で文の様子を見る。

いまだに顔を赤くしたまま、両手で頬をおさえている。

あれじゃ当分は元に戻りそうにないわね。

 

「さてと、それで今回の異変だけど、放っておいても元に戻るのよね」

「はい。外の世界から溢れた幽霊が無事彼岸に送られれば、この異変は収まるらしいです」

「なるほどね。それじゃ、さっき叩き起こした死神に運ばせましょ」

そう言って、霊夢は河原の方に歩いていく。

一十百もその後をついていく。

 

 

霊夢の後をついていくと、木でできた桟橋のようなものがポツンと川に突き出しているのが見えてきた。

横に同じように木でできている小舟が停まっている。

その小舟から赤い髪がちらちらと見える。

博麗霊夢はその赤い髪の人物を覗き込むように話しかける。

 

「また寝てる。さっき起こしたばかりなのに」

「いや、起きてるよ。あたいだってそんなに昼寝ばかりはしないさ」

「そう、だったら……」

霊夢の周りに御札が展開される。

バチバチと御札に纏っている霊力が弾ける。

「真面目にこの幽霊どもを運びなさいよ!」

「運ぶ、運ぶから、その御札を……って、おや? いつの間にか一人増えてる」

 

小舟に乗った人物が慌てて起き上がる。

赤い髪を二つに結び、青色と白色の和服を着た女性だ。

死神の象徴なのか、片手には先の少し曲がった鎌を持っている。

その鎌を見て一十百は感嘆の声を上げた。

 

「おお~、本物だ~。死神って本当にいるんですね」

「そりゃいるさ。いなかったら、人魂が路頭に迷っちまうだろう?」

「確かに、そうですね……。あ、僕は一十百です。こんにちは」

「あたいは小野塚小町。三途の川の渡し守をしている、しがない死神さ」

手に持っていた鎌を担ぎ直して、小野塚小町はにっこり微笑む。

随分とさばさばした性格のようだ。

何となく、もっとこう暗いようなイメージがあったんですけれど……。

やっぱり噂と実際に会うのとは違いますね。

そんな視線に気が付いたのか、小野塚小町が一十百に話しかける。

 

「あたいの顔に何かついているかい?」

「あ、いえ、何だか僕の予想していた死神とはちょっと違うなぁと思いまして」

「どんなのを想像していたんだい?」

「“イノチヲササゲロォ……”とか“クビヲヨコセェ~”とか“キシャキシャキシャァ”とか、そういう感じかと……ってあれ?」

何故か、霊夢と小町が大きく距離を取っている。

二人とも引きつったような表情をしている。

 

「お二人とも、どうかしましたか?」

「い、いや、その……」

「え、演技派だねぇ……。ちょっと背筋が寒くなっちゃったじゃないか」

「そうですか? えへへ……。本物の死神を怖がらせることができるなんて、なんとなく誇れるような気がします」

エッヘンと両手を腰にして一十百が胸を張った。

 

 

「それで、この異変をさっさと終わらせてほしいんだけど」

「ちょっと待ってておくれよ。そんなにすぐには終わらないからさ」

「だから急げって言ってるでしょ!」

「急ごうにも、あたいの船はこれだからさ。まあ、何十回も往復すれば、たぶん終わるから」

これは時間がかかりそうだわ……。

全く面倒な異変ね、本当に。

また目の前の死神がサボらないように、ゆっくりと霊夢は腰を下ろすのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

小野塚小町:赤い髪を二つに結んだ死神さんです。三途の川の渡し守をやっているらしいです。さばさばとした性格で、周りにいる人たちに明るく話しかけてくれたりします。幽霊を船に乗せて運ぶのがお仕事らしいのですけれど、その前にちょっとお喋りをしたりして時間が経ってしまうことが多々あるそうです。僕の考えていた死神とはちょっと違う感じで驚きました。by一十百  いや~、たまには休んでも罰は当たらないと思うんだよ。by小町  私が付いたときから休みっぱなしじゃないのよ!by霊夢
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