東方お仕事記   作:TomomonD

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九十仕事目 いつも通りが一番いい

幻想郷に夜が訪れる。

異変解決後の夜と言えば……。

 

「さあ宴会だ! 今夜は楽しく騒ごう!」

高らかに伊吹萃香が瓢箪を片手に声を上げる。

それを合図にするように、博麗神社が賑やかになる。

 

今回の宴会は、なかなか人数が多い。

それだけ、今までに関わった異変の数が多くなってきたのだろう。

異変が起きれば、解決しなければならないのが博麗の巫女としての務め。

その異変の中で色々な人と出会うのは、まあ当たり前と言えば当たり前だ。

色々な人を退治、もしくは撃退するのは博麗霊夢の日常だ。

その退治されてしまった色々な人を宴会来るように誘っていくのは一十百の仕事のようなものだ。

一十百の仕事が上手くいくと……、今回の宴会のようになる。

 

「博麗神社の敷地を、そろそろ広げる必要が出てきそうだぜ。ほぼ宴会の為に……」

「そんなに広くしてどうするのよ! 準備する方の身になってよ!」

「いや、準備って……、今回、霊夢は顔を赤くして寝てただけじゃないか? 風邪か、珍しいな」

「……うっさい」

 

何があったのか、まったく知らされていない魔理沙。

自分の横でちびちびとお酒を飲む霊夢を横目で見る。

何だか、頬が赤い。

酔っている感じはしないから、やっぱり風邪か?

でも、体調が悪そうではないんだよな……。

何だかよく分からないぜ。

軽く首を捻りながら、魔理沙もクイッと手元の酒を飲むのだった。

 

 

ちょうどそのころ、一十百は宴会料理や酒瓶を運んでいた。

人数が人数なので、料理や酒の減りが速い。

そのため、次々と料理を作っては運ぶような状態となっている。

 

「冬の間に色々蓄えておいて正解でした。これだけたくさんの料理を作ることになるなんて……」

両手に料理を持って、宴会場となった博麗神社を歩き回る。

そんな中、今回の異変で招待した一人と出会う。

 

「メディスン、来てくれたんだね」

「あっ! 十百」

メディスン・メランコリーも一十百の声に気が付いたのか、軽く手を振る。

「あら、十百君の知り合いの子だったの?」

「あれっ? アリスさん、どうしてメディスンと一緒に?」

「自立思考型人形……。このメディスン・メランコリーは、ある意味で私の最終目標みたいなものだからね」

人形に自分の意志を持たせようと四苦八苦しているアリスにとって、メディスン・メランコリーは、本人の言ったように最終目標なのだろう。

 

「十百……。このアリスってお姉さん、悪い人じゃないのは分かるんだけど……」

「どうかしたの?」

「……一緒にいると、疲れる」

メディスンがはぁ~、とため息を吐く。

 

いつもはクールな女性のアリスだが、自分に興味のあることになると、かなり熱のある女性に変わる。

ましてや、今回は、自分の最終目標が目の前にいるのだ。

かなり熱が入るのは当たり前と言えば当たり前だ。

見ていないのでわからないのだが、大方、質問攻めにあったのだろう。

 

「ま、まあ、でもこれで、色々な人がいるってことは分かったでしょ? アリスさんは人形を大切にする人だし」

「それは……うん。私が見てきた世界が小さいものだったって、ここに来て分かった気がする」

心なしか、メディスンの表情が柔らかいものになっている。

人間に対する考えが少しばかり変わりつつあるのだろう。

まあ……アリス・マーガトロイドは、正確には人間ではないのだが、せっかくなのでそこは秘密にしておくようだ。

 

「それじゃ、僕は追加の料理を配りに行きます。メディスンも、しっかりと宴会を楽しんでね」

一十百は軽く手を振ると、次の料理を配るため他の人たちの所へと向かっていった。

 

「……あのスペルカードの事は黙っておいた方がいいわね、うん」

「どうしたの?」

「なんでもないわよ」

 

 

一十百が両手に料理を持ちつつ、博麗神社を歩き回る。

そこで意外な人が一緒にいるのが眼に入った。

ひとつ前の異変を解決するために手伝ってもらった魅魔と、今回の異変で出会った風見幽香が何かを話しながらお酒を飲んでいる。

少し意外な感じはしたものの、声をかけることにした一十百。

 

「こんばんは。魅魔さん、幽香さん」

「おや、十百か。今回も異変解決、お疲れ様」

「はい。えと……、魅魔さんって、幽香さんと知り合いだったんですか?」

「うん? まあ、ね。ちょっとした、古い馴染みさ」

「古い馴染み……ですか」

どうやら、かなり昔からの知り合いのようだ。

魅魔さんは色々なところに行った事がありそうなので、そのときに知り合ったのでしょうか?

ちょっと、意外な感じがしますけど……。

 

「私からすれば、貴方と魅魔が知り合いだったことに驚きだわ。ひねくれもののコイツとは、そりが合わないと思っていたのに」

「そんな事はありませんよ。一緒に異変解決にもいきましたし」

「いや……、ひねくれものってところは否定しないのかい? まあ、私の性分だから、仕方ないと言えばそうだけどさ」

魅魔の一言を聞いて、一十百は少し悩んだような仕草をする。

「えっ? えと、そっちの方が魅魔さんらしい気がしたので」

「う~ん、なんだか納得いかないけど、まあ仕方ないか」

軽く肩をすくませ、魅魔は手元の酒を飲む。

 

「……一つ、いいかしら十百」

風見幽香の目がどこか真剣だ。

けれど、敵意や殺気を感じるわけではない。

真剣な目つきなのだが、どことなく優しさを感じるような気がする。

 

「貴方はこれからも異変を解決しに行くと思うから……、一つ頼まれてくれないかしら?」

「何でしょうか?」

「もしもどこかで、三柱(みはしら)って言う女性に会ったら、私の所まで連れてきて。力ずくでもいいから」

「三柱さん……ですか? 分かりました。もしもこの先の異変で出会ったら、必ず幽香さんの所に行くように説得してみます」

「頼んだわ」

軽く風見幽香が頭を下げる。

 

多分、その三柱って人が幽香さんの大切な友人なんですね……。

なんとしてでも会わせてあげたいなぁ。

そっと一十百は心の中で拳を握る。

たとえ、力ずくになっても、必ず幽香さんの前に連れて行って見せますね。

そんなことを考えながら、一十百は他の場所に料理を配っていくのだった。

 

 

「あっ、小町さんに映姫さん。こんばんは」

数時間前に会ったばかりなのだが、宴会の席で会うとどこか違って見える。

小野塚小町の雰囲気はあまり変わっていないが、四季映姫の雰囲気はどこか鋭さが和らいでいる感じがする。

 

「おや、配膳係……いや、料理係をやってるのかい? 異変解決にこの宴会の準備、大変そうじゃないか」

「いえいえ。皆さんがこんな風に楽しんでくれることを考えれば、それほど苦だとは思いませんよ」

「仕事熱心だねぇ。まあ、おかげで楽しく宴会ができてるから、感謝してるよ」

ニコニコ笑顔で小町は酒を飲む。

本当に宴会を楽しんでいる様で、料理やお酒がかなりいいペースで減っていく。

対称的に、その隣にいる四季映姫は軽く目を伏せ、少しずつ酒を飲む。

騒がしく楽しむというよりは、静かに楽しむと言った感じだ。

一つ小さなため息と共に、四季映姫は一十百の方を見る。

 

「貴方は……今の生き方を変えるつもりは無いですか?」

「生き方ですか? う~ん、よく分かりませんが……、たぶんそれほど変えるつもりは無いと思います」

「私が貴方に下すであろう判決は、一時の感情や情けで覆せるようなものではない。どれほど貴方に恩義があろうとも、公平で絶対的な判決を下すしかないのです」

手に持っていた升に入っていた酒を一気に飲み干す。

 

公平な判決を下す存在と言えども、心がないわけではない。

やはりどこか、一十百に下されるべき判決に納得できないのだろう。

たとえ、その判決を下すのが自分自身であっても……。

 

だからこそ、ここで道を変えてほしかったのですが……、どうやら無理のようですね。

まあ、彼がそこまで分かりやすい存在でないのは、私がよく知っていますし。

私の一言で生き方を変えるような、そんな存在ではないですからね。

 

「今の話は、少し酔っていた私の戯言です。聞き流してくれて結構ですよ」

ふっと軽く笑って、四季映姫は目を閉じた。

「映姫さんって、本当は結構優しいんですね」

「……そういうわけではありませんよ」

「聞き流すにはちょっとだけもったいないので、しっかり心にとどめておきます」

ぺこりと一十百は四季映姫に頭を下げ、次の料理を配るために別の場所に向かっていった。

 

 

一方そのころ、霊夢は一人酒を楽しんでいた。

今回の異変は、別の意味でかなり疲れたのだ。

縁側に腰掛け、静かに酒を嗜む。

 

今はこれが一番ね……。

ふぅ、と無意識に小さなため息を吐く。

「まったく、私らしくないわね。いつもなら、はいはい、ってすぐに立ち直れるのに。今回は随分と引きずってる……」

そりゃ、異性に抱きかかえられて運ばれれば、顔だって赤くなるわよ。

でも、今回はそれだけじゃないのよね……。

 

「……本当に、いつから一十百を振り向かせようと本気になってたんだっけ」

博麗霊夢は、鳥居の方を眺める。

宴会の喧騒にまぎれることなく、静かに佇む博麗神社の鳥居。

 

あの鳥居をくぐって、一十百は来たんだったわ。

始めの頃は、便利な手伝いが手に入って、それを取られたくないからって躍起になってただけ。

そのうちに、まったく興味を示さない一十百を見返してやろうとして……。

「こうなっちゃったのよね……」

自分が情けなく思えるわよ、本当に。

 

改めて考えると、一十百のどこがいいのかしら……。

見た目……は、ないわね、うん。

どう見ても女の子だし。

性格は、そうね、優しいし、いろいろ気遣ってくれるし、悪くないわ。

でも、それだけで、ここまで本気になるとは思えない。

あとは……えっと……。

 

「あれ? 本当になんで、一十百の事が……」

「呼びました?」

「ひぅっ!?」

ひょっこり一十百が横から顔を出す。

まさか、こんな近くにいるとは思っていなかった霊夢は、かなり焦る。

どこまで声に出していたか分からない……と言うか、どこを聞かれてても恥ずかしい状態には変わらないわ……。

 

「い、いつからそこにいたの?」

「えと、今呼ばれた気がして、来たばかりですけど……」

「そ、そう。ならいいわ」

どうやら、博麗霊夢の思っていた最悪の事態は脱したようだ。

ホッと一息ついて、一十百の方を見る。

 

「てっきり、お酒の肴が無くなったから呼んだのかと思ったんですけど、違うみたいですね」

一十百の手にはお皿に乗せた簡単なつまみのような料理が持たれている。

「まあ、違うけど、せっかくだから貰っておくわ。それと……」

「それと?」

「ちょっと、そこに座ってて。一人酒も飽きてきたし、それに、なんとなく一十百がいると落ち着くのよ」

ポンポンと自分の座っている場所の隣を軽くたたく。

一十百はそこにゆっくり腰かけた。

 

なんてことはない、いつもの光景だ。

けれど、霊夢はそこでふと納得してしまった。

そう、いつもの光景なのだ。

一十百がいることが、既に当たり前になっている。

どこがいいとか、どこが好きではなく、そこにいる、ということが重要なのだ。

こんな風に、いろいろ考えさせられるのも、別に今日が初めてってわけじゃない。

変に考え込むから、立ち直るのが遅くなるのよ。

いいじゃない、今のままでも。

 

「ふふっ」

「どうかしましたか、霊夢さん」

「何でもないわ」

 

まあ、それでも……。

いつかは、必ず振り向かせてやるわよ。

このままじゃ、悔しいからね。

霊夢はくいっと、手元にあった酒を飲み干すのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

今回の異変の概要:四季折々の花が咲き乱れる異変ではなく、六十年に一度の周期で外の世界の幽霊の増加が原因となる自然的な異変でした。その幽霊たちが花に憑りつくことで花が咲くみたいでした。誰かが起こした異変じゃなくて、自然的な異変もあるものなんですね。後で映姫さんに聞いてみたところ、六十年というのは自然のすべてを言い表す数字らしいです。日、月、星の三精、春、夏、秋、冬の四季、木、水、火、土、金の五行。この三つを掛け合わせて六十年だそうです。by一十百  六十年もすれば忘れられてしまいますが……、貴方ならもしかしたら覚えていそうですね。by映姫
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