東方お仕事記   作:TomomonD

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特別異変 歴史に記されることの無かった大異変
特別異変一話 流れを作る異変


幻想郷に少し退屈な時間が戻ってきた。

六十年に一度の、少し賑やかな無事に異変は終わった。

それ以来、異変は起こってはいない。

実に数か月、幻想郷は平和な日々を送っていた。

確かに、大掛かりな異変が起きないのはいいことなのだが……。

それで満足できるほど、幻想郷住民は普通ではなかった。

 

 

「……退屈ねぇ~」

神社の石畳を竹箒で掃きながら博麗霊夢が一言ため息交じりにこぼす。

暇すぎて、本来一十百がやってくれるはずの神社の掃き掃除を代わってしまったほどだ。

シャッシャッという音が静かに響く。

もう夏だというのに、新しい異変の片鱗も見えない。

 

「そりゃ、今までも半年に一回くらいの割合でしか異変って起きてなかったけど、それにしても平和すぎるわよ」

妖怪退治を生業とする巫女としては、仕事が来ないのも困る。

それ以上に、弾幕勝負の感覚が鈍りそうなのも心配だ。

たまに魔理沙や、なぜか挑んでくるチルノ相手に弾幕勝負はするものの、明らかに弾幕勝負の頻度も落ちてきている。

 

「この頃、魔理沙もあんまり来ないし、やることがなくて困るわ。いっそのこと、魔理沙みたいに紅魔館に突撃してやろうかしら」

何やら物騒なことを言っているが、それくらい本当に退屈なのだ。

「あ~もう! だれか、それなりの規模の異変でも起こさないかしら」

 

 

同じころ、霧雨魔理沙の家では……。

「こうも暇だと、魔法の実験も捗らないぜ」

何か煮立った液体や色とりどりのキノコがそのまま放置されている。

魔法の実験の途中のようだが、飽きてしまったようだ。

「いつもなら、気分転換に弾幕勝負……ってところだけど、こう、他の奴らに覇気がないんだよなぁ」

 

昨日は霊夢と一戦弾幕勝負をしたものの、どうも盛り上がりに欠けた。

結果は負けた、でもちょっと納得がいかない負け方だ。

スペルカードだって、二枚くらいしか使っていない。

 

一昨日は紅魔館に突撃してみた。

門番が暇そうなのはいつもだけど、咲夜や、あのユメって妖精まで暇そうだった。

まあ、弾幕勝負にならず、なぜかお茶会になった……。

お茶菓子が美味しかったから、そこは満足だ。

 

一昨々日は……、チルノとかと勝負したっけ。

この時期のチルノは、まあ、冬ほど元気がない。

てか、溶けてた。

それでも、弾幕勝負に付き合ってくれたのは、素直にうれしかったな、うん。

 

「……弾幕勝負はしてるけど、どうも、ピリピリしないんだよな」

椅子に腰かけ、両手を頭の後ろに置く。

「また誰かが騒ぎを起こしてくれないかな」

 

 

この暇な状況は、紅魔館でも変わらなかった。

「咲夜。何か目新しい出来事はあった?」

「いえ、今日も昨日と変わらず、平和そのものです」

「そう……」

大きな椅子に腰かけ、レミリアは退屈そうにあくびを一つ。

 

異変もないため、毎日同じような繰り返し。

そろそろ本当に飽きてきたわ。

この頃、フランも随分おとなしくなってきた……、というよりも新しい趣味を見つけたみたいで、あまり騒ぎを起こさなくなったみたいだし。

パチェはいつもと変わらず図書館。

門番……美鈴も変わらず、門を護ってるわね、昼寝をしながら。

咲夜は、今日も着々と仕事をこなす……。

 

「あ~、ほんとに何もない。そろそろ何か起こってもいいのに」

レミリア・スカーレットの能力で、異変のそろそろ起こる運命にしてもいいのだが、それでは意味がない。

誰がその異変を起こしたのか、何のために起こしたのか、そんなことを考えながら高みの見物、もしくは介入するのが面白いのだ。

暇とはいえ、犯人の分かりきっている推理小説を読む気にはなれない。

 

「こういう時、一十百なら、私の運命を掻い潜って面白い事を起こしそうなんだけど……、それもない」

背もたれに身を預けるように、レミリアは力を抜く。

「命知らずの誰かが異変を起こさないかしらねぇ……」

 

 

他にも白行楼、永遠亭、妖怪の山、幻想郷の力のある者たちは暇を持て余していた。

そんな中、待望の異変の火種がとある場所でくすぶり始めた。

 

異世界の交差点……。

幻想郷にある大結界そのものの中に作られた虚数次元空間に点在する、駅であり無人の都市である。

その都市のなかに白い大理石で作られたオシャレな無人の喫茶店がある。

 

今そこに、二人分の影がある。

一人は、この都市を建設した一十百。

もう一人は、幻想郷を作り上げた八雲紫。

一十百がここにいることは珍しくない、しかし八雲紫がここに来ることは珍しい。

 

「今日はどうしたんですか? ここに来るなんて……」

「一十百君。あなたは今の幻想郷をみてどう思うかしら?」

「今のですか? 平和でいいんですけど……」

「けど?」

「皆さんが暇そうで……。何かしてあげたいですね」

そう言いながら、一十百はコーヒーを入れる。

幻想郷では珍しい飲み物だが、外の世界を知る紫にしてみれば、なんてことはない飲み物でもある。

「あ、お砂糖は?」

「二つで」

角砂糖がコーヒーにそっと溶けていく。

ふわりと香ばしい香りが、静かな喫茶店に漂う。

 

「さてと、一十百君。あなたの言うとおり、今の幻想郷は平和だけど、暇なの。元々、幻想郷は閉じられた世界。放っておけば、流れは消え留まり淀んでしまう。たまに異変が起きるからこそ今の幻想郷があると言ったところかしら」

「つまり、異変を起こさないと、幻想郷自体が危険になる……」

「まあ、そんなところね」

八雲紫はコーヒーを口に運ぶ。

 

「でも、そこまで深刻な状態ではないわ。そのうち暇を持て余した誰かが異変を起こす。大体それで幻想郷は今まで保たれてきたもの」

「それなら、なんでここへ?」

一十百も同じようにコーヒーを口に運ぶ。

ただし、八雲紫のと違い、かなり甘めに作られている。

砂糖たっぷり、ミルクたっぷり。

それでも苦かったようで、少し顔をしかめた。

 

「簡単な話よ。一十百君、この機会に何か異変を起こしてみないかしら?」

「えっ!? 僕が、ですか?」

「そうよ」

八雲紫は軽く頷く。

 

「もちろん、明らかに危険そうだったりするものなら私が止めるけど、一十百君ならそれほど事はやらなそうだし」

「まあ、それはそうですけど……」

「そんなに難しく考えなくていいわ。ある程度の条件を守ってくれれば、何をやってもいいわよ」

「ある程度の条件?」

ピンと、八雲紫が人差し指を立てる。

 

「まず一つ目。さっきも言ったけど、あまりにも危険な異変ではダメよ。首謀者であるあなたを倒さないと幻想郷が木端微塵とか、一時間ごとに太陽系の惑星が降ってくるとか、幻想郷が虚数次元空間を永遠に漂うとか……」

「……紫さん。僕をなんだと思ってるんですか?」

「いえ、まあ念のためよ。やらないと思うし、できないと思うけどね」

そう言ってゆっくりとコーヒーを飲む。

「いくら僕でも、最後の以外はできませんよ」

「ブフッ! ゲホッ……ゴホッ……」

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫よ。うん、一応、大丈夫ということにしておいて……」

口元をハンカチで拭きながら、八雲紫はこの話を振る相手を間違えたことに気が付く。

 

目の前にいる少年は、ただの少年ではないのだ。

異変解決ができるとか、弾幕勝負が桁違いに強いとかそういうレベルではないのだ。

異世界の事を理解し、今いる虚数次元空間に、その特異点となるべき拠点を作り上げた存在なのだ。

しっかり話しておかないと、それこそ桁違いの異変が起きてしまいかねない。

 

先にこの話をしておいて正解だったわ。

一十百君の事だから、虚数次元空間に飛ばしても戻ってこれますから大丈夫です、とか言い出しそうだったし……。

 

「え、えっと、それじゃ二つ目。必ずその異変を解決されるってこと。なるべく幻想郷で名を馳せた人の手によってね。一番いいのは、博麗の巫女。つまり霊夢の事ね」

「まあ、霊夢さんなら異変が起きれば、いつもの勘でまっすぐ向かってきてくれそうですし……」

「そうね。それと、別に一回で負けなくてもいいのよ。解決側が異変の首謀者に負けても異変は終わらないから」

八雲紫は二本目の指を立てる。

 

「あとは……そうね、大体は弾幕勝負で決着をつけてくれればいいわ」

「意外と条件が緩いんですね」

「まあそうね。力のない妖怪でも気軽に異変を起こせるようにしたのが、このスペルカードルールだから」

一十百は、残ったコーヒーを飲み、少し考える。

確かに異変を起こすことだけなら簡単そうだ。

でも、異変解決者が一斉に弾幕勝負を仕掛けてきたら、いくらなんでも……。

 

「あ、そうそう。異変を起こすつもりなら、誰かに協力を仰ぐといいわ。一人じゃ、さすがに厳しいものね」

「協力……ですか」

手伝ってくれそうな人は……いますね。

えと、二人……、後はあの人と、あと……う~ん、全員で五人くらいは協力してもらえるかな。

 

 

「それで、一十百君。やってみる気はない?」

「……紫さん。異変を起こすのは、問題ありません。ただし一つだけ紫さんにお願いがあるんです」

「あら? 異変を起こしてくれるなら、多少の事なら聞くわよ」

一十百は一度深呼吸をしてじっと八雲紫の目を見て話す。

 

「それじゃ……、今回僕の起こす異変、紫さんも解決側に回ってくれませんか?」

「解決側ねぇ。つまり、あなたの起こす異変を止めて見せろって言う挑戦状かしら?」

「えへへ……。紫さんとも弾幕勝負をしてみたいですし、それに……」

「それに?」

「異変の首謀者として、少し隠れつつ事を起こします。だから、探索する人は多い方がいいと思って」

「……わかったわ。一十百君がそこまで言うなら、しっかりと解決側に回らせてもらうことにするわ」

八雲紫はそういうと、残ったコーヒーを飲み干し立ち上がる。

 

「異変の内容は聞かないわ。可能なら、明日から始めてもらえるかしら?」

「分かりました。僕はこれから協力してくれる人を探しに行きます」

「心当たりは……ありそうね」

「はい。たぶん協力してくれるはずです」

一十百もカップを片付け、腰を上げる。

 

異変解決者ではなく、異変の首謀者として気合を入れないといけない。

ここで陳腐な異変など起こそうものなら、異変を解決する立場の博麗霊夢だけでなく、今まで異変を起こして来た方々に泥を塗ってしまいかねない。

大掛かりで、それでいて危険度は少ない……、そんな異変を起こさないと。

 

「それでは、紫さん。明日を楽しみにしていてください」

「ええ。楽しみにさせてもらうわね」

そう言って二人は、ゆっくりと無人の喫茶店を後にした。

 

 

一十百は日が沈む前に、協力してくれるであろう人たちを探す。

とある人には交換条件で協力を願う。

とある人には築き上げた信頼関係で協力を願う。

 

そして日も落ち、夜のとばりが訪れた頃……。

 

「準備は整いました。霊夢さん、異変解決者の皆さん……。待ちに待った異変です。全力を持って、挑んできてください!」

 

幻想郷全体をを包むように、青い光が駆け抜けていった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

異変の首謀者:今まで異変を起こして来た方々に恥じぬ大きな異変を起こして見せます。霊夢さんや、魔理沙さんとも、こんな風に弾幕勝負をすることはなかったので、少し緊張します。by一十百  一十百君の起こす異変には、興味があるわ。by紫

五人の協力者:お願いして、今回の異変に協力してもらいました。きっと、力になってくれるはずです。by一十百
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