東方お仕事記   作:TomomonD

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特別異変二話 変色異変

幻想郷に日が昇る。

その光に当てられて、博麗霊夢はゆっくり布団から起き上がった。

いつもならば、一十百が起こしに来ないと起きない霊夢だが、寝ぼけ眼をこすりゆっくりと立ち上がる。

 

「……何かしら、巫女の勘がざわざわするわね」

異変のような予感がするわ。

一十百が起こしに来ない時って、異変の時が多いし、私の勘も異変だって告げてる気がする。

久々の異変に、心が躍る博麗霊夢。

 

「さて……、どんな異変かしら」

期待を込めて、寝室の障子を開ける。

すると……。

「……なにこれ?」

 

まず霊夢の目に飛び込んできたのは、桃色の空だった。

明け方近く、空が桃色っぽく見えることがあるが、それとは明らかに違う。

他には、神社の近くに生えている草木の色がおかしい。

まだ夏だと言うのに、葉が黄色くなっている。

確かに、それだけなら何ともないのだが、木の幹の色がクリーム色になっているのはおかしい。

 

「何この変な異変は……って、ええっ!」

おかしいのは景色だけではなかった。

自分の用意していた巫女服の色が完全におかしくなっているのだ。

白と赤主体の巫女服だったのに、黒と青主体の巫女服に変わっている。

 

「な、なによこれ! 私の巫女服どうしてくれんのよ、まったく!」

異変のせいで染められたのか、まるで元からその色だったように変化してしまっていた。

そのとき、霊夢なかを嫌な予感が走り抜けた。

もし、この異変が、服や、神社や、空や、草木にまで及んだとすれば……。

人間にも、影響が出ていると考えるのは当たり前だ。

つまり……。

 

「か、鏡……」

霊夢は洗面所に駆け込む。

そして、意を決して鏡を覗き込んだ。

そこに映ったのは、鮮やかな銀髪をなびかせた自分の姿だった。

「う、嘘でしょ――――!!!」

 

 

何とか落ち着くため、霊夢はお茶を入れる。

蜂蜜のような色のお茶になってしまっているが、味は緑茶だ。

これで味まで変わってしまっていたら、泣き崩れてしまっていたかもしれない。

 

「よし、落ち着くのよ私。まず、この異変について、よ~く考えるの」

熱いお茶を飲み、一息つく。

寝間着姿ではどうにも締まらないので、黒と青の巫女服を着ている。

鏡を見て自分の髪の色には確かに驚いた。

けれど、他は大した変化がなかったのが幸いだ。

目の色が反転してしまっているとか、肌の色が青くなっているとか、そういう絶望的な状況にはなっていなかったようだ。

 

「つまり、これは色がおかしくなる異変ね。パッと見て、白と黒、赤と青、緑と黄が反転してるわね」

霊夢が自分の髪や、巫女服を身ながら納得する。

艶やかな黒い髪だったため、反転して白っぽくなってしまったのだろう。

まあ、漆黒ってほど黒くなかったため、真っ白ではなく銀髪のようになった、と考える。

「不完全な異変なのか分からないけど、変わってない場所もある。目とか、歯とか、分かりやすい場所は変わってないのよね」

白目と黒目が逆になったり、口の中が真っ黒になったりする事はなさそうなので、そこは一安心だ。

 

 

ゆっくりと異変の事を考えようとした時、どこからか叫び声に似た呼び声が聞こえてきた。

「……れーいーむー!!」

ダーンと神社の石畳に何かが着地した音がする。

かなりの速度で飛んできたのか、その着地音もなかなか派手だ。

声からして、霧雨魔理沙だろう。

 

「何よ、こっちは今回の異変の事で、いそが……」

霊夢の言葉がとまる。

少し舞いあがった砂煙の中にいたのは、真っ白の魔女服に身を包んだ、透き通る緑色の髪をした少女だった。

 

「だ、誰?」

「いや、私だ、霧雨魔理沙だぜ……って、霊夢か!? なんかこう、竹林の不死人みたいな髪になってるぞ」

「……ああ、そう言うこと。異変の影響が出てるのって、ここだけじゃないわよね、そりゃ」

一瞬は驚いたものの、博麗霊夢は先ほどの落ち着きを取り戻す。

「なんでそんなのんびりできるんだよ。こんな状態になってるのに」

「まずは落ち着きなさい魔理沙。自分が異変に巻き込まれたからって、慌てたら深みにはまるだけよ」

そう言いつつ、二杯目の緑茶を入れる。

 

「それに、白魔理沙ってのも、なかなか新鮮でいいわね」

「なっ、いや、その、これは……」

いつもと違う自分に違和感があるのか、それとも単純に恥ずかしいのか、魔理沙は少し深めに帽子をかぶりなおす。

「と、とにかく、こんなはた迷惑な異変を起こす奴を、さっさと退治しに行こうぜ!」

「まあ、もうちょっと待ってなさい。あと数人はここに来るはずだから」

 

 

霊夢の言った通り、魔理沙が来た数分後、シュタンという音と共に誰かが博麗神社に降り立った。

神秘的な一対の白い翼が目を引く、銀髪の少女がこちらを見ていた。

対称的な黒い服が、いっそう背中の翼を際立たせている。

 

「え……だれ?」

「それは、こちらのセリフですよ!」

白い翼の少女の声で、初めて降り立った少女が誰なのかはっきりした。

そう、鴉天狗の射命丸文だ。

 

「ああ、文ね。誰だかわからなかったわよ」

「霊夢さん……ですよね。その黒い巫女服のせいか、少し暗黒面に落ちた巫女っぽく見えますよ」

「それはお互い様よ。アンタも随分とまあ、派手というか神秘的になったわね」

お互いが誰だかわかって、まず一安心と言ったところだ。

話し声が聞こえてきたので誰がが来たことに気が付いたのか、霧雨魔理沙も部屋の中から出てくる。

 

「霊夢、誰がきた……えっ? 天使の一種か!?」

「いえ、射命丸文です。魔理沙さんは……ほう。これは記念に一枚」

「わ、わ、撮るなぁ!」

カメラを構えた射命丸文から逃げるように、霧雨魔理沙は居間の方に逃げ込む。

それを追いかけるように、射命丸文が神社に上がる。

霊夢はため息交じりに二人に声をかける。

 

「全く、二人とも少し落ち着きなさいよ……」

「あら、ここはここでいろいろ忙しそうね」

呆れたような声が後ろから響く。

霊夢が振り返ると、そこには赤と黒のメイド服に身を包んだ黒髪の女性が立っていた。

霊夢も、そろそろこの異変に慣れてきたようで、なんとなく誰だかわかるようになってきた。

 

「咲夜よね。なんか、より一層吸血鬼のメイドっぽくなってるわね」

「色合いがそれっぽいのかしら。それよりもこの異変、さっさと解決してほしいのだけど」

「黒髪が嫌なのかしら? 意外と似合ってるわよ」

「私は髪の色とか服の色とかはどうでもいいのだけれど……。この異変の影響で、お嬢様が倒れられたのよ」

「レミリアが? どうかしたの」

とうとう異変で大きな影響が出たのかと、真剣な表情になる霊夢。

しかし、従者である咲夜はそれほど心配そうな表情はしていない。

主が倒れたのだから、それなりに心配してもよさそうなものなのだが……。

 

「“私の紅魔館が、あ、青く……ガクッ”と言って倒れられたのよ」

「……アホくさ」

心配した数秒前の私を小突いてやりたいわ。

流石に咲夜も苦笑いを浮かべている。

「まあ、紅魔館がいまや蒼魔館になっているから……。お嬢様が倒れられるのも仕方のないことだと思うわ」

「そんな事で倒れられてもね……って、看病しなくていいの?」

「妹様が、私に任せて、と仰られたのでお任せしてきたのよ。その間に私がこの異変をどうにか出来ればと思ってね」

「ふ~ん、あのフランがねぇ……。異変解決にはもう少ししたら行くつもりよ」

そう言って霊夢は少し遠い空を見る。

 

「誰か待っているのかしら?」

「自称半人前の庭師待ち、ってところ」

「彼女、ここに向かっているの?」

「たぶん、来るわ。なんとなく、今回の異変は騒がしくなりそうな気がするもの」

 

 

霊夢の言うとおり、少しすると、白玉楼の庭師、魂魄妖夢が博麗神社を訪ねてきた。

魂魄妖夢この異変の影響を受けており、黒髪になっていた。

緑色の洋服も、鮮やかな黄色に変わっており、なかなか派手さがある容姿だ。

急いできたためか少し服も乱れており、どこか疲れた表情の魂魄妖夢。

けれど、来る途中で弾幕勝負をしたとか、そういう感じではない。

大方、主である西行寺幽々子の好奇心で、着せ替え人形にでもされていたのだろう。

 

「まあ、深くは聞かないけど、いろいろあったみたいね」

「幽々子様も幽々子様ですよ。黒い髪の妖夢は珍しいからって、面白がって色々な服を引っ張り出しすぎなんですよ」

「あ、やっぱり。そんなことだと思ってたわ」

やれやれと、霊夢は首を振る。

「わかっているなら止めに来て下さいよ」

「遠いから無理よ。自分の主のことぐらい何とかしなさい」

 

 

しかしこれで、霊夢の予想していたメンツはほとんど集まった。

しいて言えば、一十百がここに加わる予定だったが、既に博麗神社付近にはいなかった。

この異変を察知して、暗いうちから出発したのだろう。

 

「さてと、そろそろ異変解決に向けて動き出すわ」

「おっ、やっとか。これで、白い私ともお別れだな」

「そう言えば、十百さんがいませんね。先に出発したのでしょうか?」

射命丸文が辺りを見回す。

「朝からいなかったから、もう出発したんだと思うわ」

「それは残念です。十百さんも霊夢さんと同じような黒髪なので、銀髪の十百さんが見られるかと期待したのですが……」

「まあ、上手くすれば異変解決前に会えるわよ」

 

霊夢が地面を蹴り出発しようとする。

その時、霊夢の目の前の空間が裂ける。

これは紫のスキマね……。

一体何の用かしら?

無視して出発してもいいのだが、後々面倒になりそうなので出てくるのを待つことにする。

 

ゆっくりと八雲紫がスキマから顔を出した。

やはり異変の影響を受けているのか、髪が透き通るようなライムグリーンになっている。

しかし、服の色はそれほど変わっていない。

どうやら赤と青の中間にある紫色だったために、大した影響を受けなかったようだ。

 

「あら、もうすぐ出発みたいね。ちょうど良かったわ」

「この異変、早く解決しないといけないからね」

「銀髪の霊夢もなかなかいいのに~」

「……何の用よ?」

ジト目で霊夢が睨む。

「一十百君から、手紙を預かってるわ」

「一十百から?」

スッと、八雲紫は懐から黒い封筒を取り出す。

元は白い封筒だったのだろうが、異変の影響を受けているようだ。

 

「中身は?」

「読んでないわ。一十百君が言うには、たぶん霊夢さんの所に人が集まると思うので、その時になったら開けてください、だそうよ」

「ふ~ん、なら今開けても問題なさそうね」

霊夢は封筒の口を切る。

中には黒い手紙が折りたたまれて一枚入っているだけのようだ。

 

「珍しいですね。十百さんなら手紙ではなく書置きをしていくはずなのに」

「そうね。でも、こんな風に手紙を残したってことは、何か大切なことを伝えたかったんじゃないの?」

文と咲夜も興味津々だ。

「で、霊夢。なんて書かれてるんだ?」

「ちょっと待ちなさい。今から読み上げるから」

魔理沙に急かされつつ、折りたたまれた手紙を開く。

そこには、黒い紙面に銀色に輝く文字で、たった一文こう書かれていた。

 

『異変、起こしちゃいました。頑張って止めに来てくださいね』




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

変色異変:色が入れ替わるような異変ね。まだよく分からないけど、白と黒、赤と青、黄と緑が入れ替わっているわ。不完全な異変なのか、すべての色が入れ替わっているわけでもないみたい。ある意味、それのおかげで悲惨なことにはなってないけど……。by霊夢  元の色が濃ければ濃いほど、入れ替わった色は濃くなるわ。by紫  私の髪の色が真っ白ではなく、どちらかというと銀に近いのもそのためです。by文
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