東方お仕事記   作:TomomonD

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特別異変三話 揺るがす空、繋がる異世界

『異変、起こしちゃいました。頑張って止めに来てくださいね』

 

黒い手紙に書かれた、銀色の一文。

たったそれだけで、八雲紫を除いた博麗神社にいる全員の言葉が消えた。

ひゅぅと乾いた風が流れる。

 

「え、えっと……」

この場の変な緊張感に耐えられなくなった魔理沙が口を開く。

「……れ、霊夢。ど、どうやら私は、まだ寝ぼけてるみたいだ。こんな異変だし、朝食もまだだったし」

「そ、そうですね。私もこの異変で急いでここに来てしまいましたから。身体がまだ起きていないんですよね」

射命丸文も、乾いた笑みを浮かべる。

「……仕方ないわね。朝食にしましょう。私も不思議と変な文字が見えてしまっているみたい」

「あ、私も手伝います。その、同じように変な文字が見えましたし」

咲夜と妖夢も顔を見合わせて、頷いた。

「そ、それじゃ、朝食をとって、しっかり目を覚ましてから、もう一度確認しましょう」

封筒に手紙を戻しつつ、霊夢がそう言った。

皆その提案に納得したようで頷く。

 

「え、いや、その、霊夢?」

唯一、八雲紫だけが話についていけなくなっている。

「紫、あんたも食べていきなさい。どうせまだなんでしょ」

「それはそうだけど……。霊夢、あのね……」

「遠慮しなくていいわ。異変解決前の英気を養わないとね」

そう言って、ほぼ引きずられるように八雲紫も朝食に参加することとなった。

 

 

咲夜と妖夢の作った朝食は、さすがと思える出来栄えだった。

二人とも主のいる身ゆえ、家事全般はこなせるのだ。

ただ、問題は今回の異変故、色が……。

 

「……ねえ、この大根の漬物、黒いんだけど」

「これは黒米ですか? うわっ、卵も緑色で、大変なことになってるんですけど!?」

「お味噌汁は、うん。まあ、これなら……」

「このトマト、まだ熟してない……と言うか青い。それよりも、醤油が白いのが何とも言えないんだけど……」

「なんだか、全体的に毒々しい朝食だな。まあ、味が変わってないのが唯一の救いだな」

「ねえ、言いたくないんだけど……、先に異変を解決するべきだったと思うわ」

 

 

無事に、とはいえないが、一波乱あった朝食も済み、六人が机を囲む。

「それじゃ、一十百からの手紙を開けるわよ」

ゴクッと息を飲む。

ゆっくりと、折りたたまれた黒い手紙が開かれる。

中には、先ほど変わらない一文……。

『異変、起こしちゃいました。頑張って止めに来てくださいね』

しっかりと、銀色の字でそう書かれていた。

 

「え、えっと、まだ目が覚めて……」

「……魔理沙。いいのよ、わかってたから」

「そ、そうか。うん、そうだよな」

霊夢は俯きつつ、ゆっくりと外に向かう。

大きく息を吸い込み、キッと、空を睨み付けた。

「何やってるのよ、一十百――――!!!!」

 

 

叫んだことにより、何とか一旦は落ち着きを取り戻した霊夢。

「さてと、紫。何か知ってるんじゃないの?」

「ええ。一十百君から挑戦状をたたきつけられたもの。異変の首謀者が一十百君だってことは知ってたわ」

「紫に挑戦状? 随分とまあ、大きく出たものね」

やれやれと、霊夢は軽く首を振る。

一十百はそれほど自信家ではないけど、異変の首謀者として気合をいれたのかしら?

それにしても、紫を相手に回すなんて……。

 

「それで、一十百はどこにいるの?」

「知らないわ」

「知らない? 手紙をもらったんじゃないの?」

「私にこの手紙を渡してすぐにいなくなったもの。本気で私たちに探させて勝負するつもりよ、彼」

紫が微笑む。

しかし、いつもの様な不敵な笑みではない。

どちらかというと、魔理沙がするような晴れた青空のような笑顔だ。

 

「紫、実は楽しんでるでしょ?」

「あら? そんなことはないわよ」

八雲紫はパチンと扇子を閉じる。

まあ、紫がやる気を出してくれるなら、それでいいわ。

 

「それじゃ、一十百を止めに行きますか!」

「場所がわからない以上、別行動の方がよさそうね」

「六人もいれば、誰かしらが一十の所まで行けそうだな」

「異変の協力者もいると思うから、その人たちとの弾幕勝負は避けられないわ」

「どちらにしても、弾幕勝負になりそうですね」

「これは面白くなりそうですね」

 

霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、文、紫の六人は、それぞれ別の方向に飛んで行った。

実力のある解決者たちだ。

そう簡単に負けることもないだろう。

お互いが、お互いを信頼して異変解決に向かった。

 

 

しかし……。

この僅か数十分後、三人が博麗神社に戻ってきていた。

三人が三人とも、弾幕勝負で負けたのか、服が破れていたり土で汚れていたりしている。

その三人というのは、霧雨魔理沙、射命丸文、そして……八雲紫だ。

 

「くっ……変な邪魔が入って、撤退せざる得なかったぜ。というよりも、なんでアイツに邪魔されたんだ?」

「まさか、あの人が異変に参加してるとは思ってませんでした。それも、かなり強かった……」

どうやら、魔理沙と文の二人は、見知った顔の協力者に阻まれたようだ。

そのため、悔しそうな表情を浮かべる二人。

 

対して、八雲紫はかなり深刻そうな表情を浮かべている。

「どうしたんだ? そんなに強敵だったのか?」

「……あれ程の存在が、一十百君の……いえ、この幻想郷にいるなんて」

ギュッと唇を噛む。

どうやら、八雲紫も予想だにしなかった存在がいるようだ。

その相手に負けてしまったらしい。

 

「それで、どうする?」

「一度負けてしまった以上、他の人が返ってくるまで待つことにしましょう」

そう言って、八雲紫は縁側に腰を下ろした。

 

 

この話をした数分後、二人、博麗神社に戻ってきた。

十六夜咲夜と魂魄妖夢だ。

「おっ、この時間帯に戻ってきたってことは……」

「悔しいけど、負けたわ。たぶん、十百君の協力者にね。段違いに強力な使い手だったわ」

「妖夢、あなたも?」

「……なんだか奇怪な技を使われて、弾幕が当たらなかったんです」

どうやら、二人とも初対面の相手だったようだ。

結果的には負けたようだが、負け方が違う。

咲夜は純粋に実力差で、妖夢は搦め手で負けたようだ。

 

「これで残ったのは霊夢だけか」

「でも、このうちの全員が十百さんの所にたどり着けていないということは……」

「霊夢がたどり着いた可能性はあるわね」

そんな話をしていると、遠くの空に青と黒の巫女服姿が映る。

「どうやら帰ってきたみたいね」

しかし……。

「あの、言い難いのですけど、異変がまだ終わってないような……」

妖夢の言うとおり、確かに未だ空は桃色のまま。

そんな中、帰ってきたということは、つまり……。

 

 

ゆっくりと霊夢が神社に降り立つ。

所々、巫女服が破れている。

 

「霊夢……まさか」

「……負けたわ」

「なっ……。一十との弾幕勝負は相性が良かったんじゃ……」

確かに、一十百と博麗霊夢との弾幕勝負の戦績は霊夢に軍配が上がる。

ほぼ、七割前後の確率で霊夢が勝っているのだ。

確かに、それなら四回に一回で負けるということなのだが……。

霊夢の表情を見るに、どうやら何か別の要因で負けたようだ。

 

「今回の異変、一十百が知ってか知らずか、自分の性質を生かしているのよ」

「えっ? そうか? ただの色が変わる異変に思えたけど……」

「魔理沙。アンタなら分かると思うけど、一十百って、たまに青い光を纏ったりするじゃない」

「するな。特に強いスペカとか使ってくるとき、目とか身体とかに青い光を纏うみたいだぜ」

魔理沙も何度も弾幕勝負をするなかで、それを見てきた。

 

「でも、それならいつも通りじゃないか?」

「……今回といつも。違うのは何だと思う?」

「色……ってまさか!?」

「そうよ。赤い光を纏った一十百が相手だったのよ」

さぁぁ、と霧雨魔理沙の顔色が青くなる。

赤い一十百の圧倒的な力を思い出す。

山を削り、田畑を両断し、竹林を灰に変え、それを一瞬で元に戻した存在。

あの赤い一十百が相手……。

 

「れ、霊夢……。よく無事で……」

「早とちりし過ぎよ、魔理沙。今回の弾幕勝負の相手は、いつもの一十百だったわ。単純に赤い一十百に見えた、いつもの一十百だったの」

「えっ? それなら、なんで負けたんだ?」

「……無駄に力み過ぎたのよ。くやしいけど、いつもみたいに動けなかったわ」

 

赤い一十百を変に意識し過ぎたのか、赤く見える一十百に対して全力が出せなかったようだ。

全力が出せなければ、結果は変わる。

それに今回は異変の首謀者であるということで、意気込んでいる一十百が相手だ。

勝率がひっくり返ってもおかしくはない。

結果として、霊夢は異変の首謀者の一十百に負けることとなったのだ。

 

 

「これで、一十百君が率いた異変の協力者に全敗したわけね……」

八雲紫が腰を上げる。

何やら、何かを決意した光が目に宿っている。

その表情を見て、霊夢が声をかける。

「紫、何をするつもり?」

「今回の異変。もしかすると、この幻想郷にいる存在だけではどうにもならないかもしれないわ」

「……なんで、そう思うのよ」

「数多くの異変を見てきた私だから分かる……。この異変は、この幻想郷では解決できない……」

 

八雲紫からしたら、大きな誤算だったのだろう。

一十百の協力者たちが、幻想郷に来て間もない存在ばかりなのだ。

まだ、その実力の全てを把握していなかった。

少なくとも、私を止めに来た存在は桁違いの実力者だった。

 

「それで、どうするつもり?」

「霊夢、一年前の秋の出来事を覚えているかしら?」

「一年前の秋? ……ああ、ここでやったお祭りの事ね」

「そう。あの時、一十百君はここではない幻想郷や外の世界、異世界の客人を呼び込んでいたわ」

博麗神社が前代未聞の活気に包まれたあの夜。

あまりかかわる事はなかったが、別世界の人が来ていたと言う噂がちらほらと流れていた。

 

「でも、あれは一十百がいろいろ手を打ったからこそ出来たことじゃないの?」

「そうね……。確かに、私も外の世界にはそれなりに詳しいけど、異世界には疎いわ」

「ならどうするのよ」

「一つ……手が残されているわ」

バッと八雲紫が手を払う。

すると、巨大なスキマが現れ、そこから巨大な筒が一つ地面に突き刺さるようにして現れた。

 

「これは、あの大花火……よね」

「そうよ。まだ残ってたみたいだから、使わせてもらうとしましょう」

「勝手に使って大丈夫なの? ほら、結界とか、あの虚数次元空間とかいうのにも、影響するんでしょ?」

「……たぶん何とかなると思うわ」

珍しく、八雲紫がたぶんと言った。

つまり、しっかりと使い方がわかっていないのだ。

本当に背に腹は代えられないと言ったところか。

 

「打ち上げ花火の衝撃で世界線が歪み、その瞬間だけ色々な世界に繋がる、というのは分かったのよ。ただ、一十百君みたいに、繋がる場所が特定することはできないのよ」

「つまり、繋がったのはいいけど、どこに放り出されるか分からないってこと?」

「私たちに協力してくれる人たちには悪いけど、そうなるわね」

随分と投槍な……、と霊夢達は心の中で声を発する。

「その人たちが、いきなり協力者の目の前とかに放り出されたらどうするつもり?」

「頑張ってもらえばいいわ。この空の色だもの、異変だということくらいは分かるでしょ」

そう言って、八雲紫は巨大な筒の中に向けて、火を投げ入れる。

 

ゴウッ、という音と共に真っ直ぐに筒から白い煙の柱が昇り立つ。

次の瞬間、空から爆発音とその衝撃が響く。

「これで、確実に異世界とつながったはず……。後は、出てきた人達に任せましょう」

「私たちも、少し休憩したら、もう一度挑むわよ」

 

一十百が起こし、八雲紫が焚きつけた、大きな異変がすぐそこまで迫っていた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

揺らぎの花火:僕の使い残した大花火……なんですけど。なんででしょうか、それが打ち上げられたような……。by一十百  これで異世界の解決者に助けを求めるわ。by紫
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