東方お仕事記   作:TomomonD

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十仕事目 ヴワル魔法図書館と銀のメイド

紅魔館の門番を辛くも退けた一十百一行は臆せず紅魔館の中に入っていった。

 

「図書館ですね……」

「おかしいわね。入口から入って下ったはずもないのに地下にいるわ」

「空間的におかしいのか?」

入ってすぐのところが地下の図書館だったようだ。

地上から入って、地下の図書館に真っ直ぐつながるというのも不自然だ。

しかし今はそのようなことを気にしている余裕はないようだ。

「そんなことはどうでもいいわ。さっさと先に進むわよ」

「は~い。あれ? 魔理沙さんは?」

「さっきまでそこにいなかった?」

一十百と霊夢が周りを見渡すと、箒に乗って高いところの本を取っているところだった。

「ま~り~さ~……」

「いや、霊夢……、そこまで怒るなって」

「今は異変解決が先でしょ!」

「それは博麗の巫女様に任せるぜ」

「まったく……、じゃ一十百、先に……」

と、博麗霊夢が振り返った時には一十百の姿はなかった。

 

 

「侵入者ですか……」

「えっ?」

一十百の目の前には本の山を持った誰かが立っていた。

顔や体つきなど本の山に隠れて見えないが、声からして女性のようだ。

「侵入者、ですね」

「えと、あの……」

「覚悟して……あっ」

一十百を撃退しようと思ったのか、思いっきり一歩踏み出した。

しかし、重い本を重ねて持ってたのを忘れていたのか、思いっきりバランスを崩してしまう。

いくつもの本が空中に投げ出され、持っていた本人も前のめりに転んでしまう。

その時、くっと支えてくれる何かがあった。

「えっ?」

思わず前に出した手を支えてくれたのは今から撃退しようとした侵入者であった。

その侵入者のもう片方の手には、自分が今まで持っていた本がしっかりと重ねられて持たれていた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい……」

 

一十百の行動はとても素早いものだった。

目の前の本を持っていた人がバランスを崩し、本が投げ出された瞬間に状況を把握し、次取る行動をほぼ直感のみで行った。

ばら撒かれた本を空中ですべて拾い上げ、片手に持つ。

本を持っていた人が手を前に出すと思い、残った左手を倒れかけた誰かの前に差し出す。

そして、予想通り手を支えにして転倒を防ぐ。

ここまでをやり遂げたのだった。

「よかった、お怪我がなくて何よりです。えと……」

「あ、し、侵入者、ですよね」

「そうです、たぶんですけど」

一十百が助けたのは赤い長い髪をした女性。

背中には蝙蝠のような羽、髪にも同じような羽が見えている。

「えと、蝙蝠さん? 蝙蝠さんの妖怪ですか?」

「蝙蝠……、いえ、私は小悪魔。ここのお手伝いをしています」

「小悪魔さん、ですか……。僕は一十百です、こんばんは」

「こ、こんばんは」

双方が一礼をする。

そこで改めて小悪魔が構える。

「侵入者撃退は私のお仕事に入ってないと思いますけど、ここを通すと後でパチュリー様に怒られそうですから……。覚悟してください!」

「あ、その前に……、これお片付けするの手伝いますよ」

一十百の左手には、本が山積みのまま持たれていた。

「えっ、いえ……それは、私の仕事ですから……。それに、いきなり手伝わせるのも……」

「またバランスを崩されたら大変です。それに、これだけの量を片付けるのは少し大変ですよ。これだけ大きい図書館ですし」

そういって三割弱の量を小悪魔に渡した。

何とも絶妙な量である。

「え、あのっ……」

「上のほうの本は、届かないですね。これは小悪魔さんにお願いします」

「あ、はい」

 

 

一十百と小悪魔は次々と本を片付けていった。

初めて来たはずの一十百が正しい位置に本を片付けていくのをみて何度か驚かされた小悪魔。

一十百の手際の良さは掃除に限らず収納などにも発揮されるようだ。

本を片付けながら小悪魔は一十百と自分の主についての話をしている。

双方とも主を持つため色々と大変なことが分かり合えるようだ。

「なるほど。そのパチュリーさんが読んだ本のお片付けというわけですか」

「そうなんです。パチュリー様は読んだ本はそのままにしておくんですよ」

少しは自分で片付けてくれればいいのに、と小悪魔が呟く。

「でも、すごい方なんですね。これだけの本を読み終えるなんて」

「確かに立派な方なんですけど、少しくらいお片付けを手伝ってくれれ……」

二人の話を遮って、ゴウンと地響きがなった。

次いで、図書館の奥のほうから星といくつもの弾幕が放たれているのが見えた

「あれは、魔理沙さんの弾幕!」

「いけない、あそこにはパチュリー様が!」

「ええっ! ということは……」

一十百と小悪魔が同時にうなずく。

「「急ぎましょう!!」」

 

一十百と小悪魔がそこについたときにはすでに弾幕勝負は終わっており、満足げな表情の霧雨魔理沙とぐったりした紫色の服の女性がいた。

「おっ、どこ行ってたんだぜ?」

「今さっきまでお片付けのお手伝いを……」

「まったく、もうそこまで行くと病気みたいなものね」

「ほぇ?」

博麗霊夢はやれやれといった表情だ。

「パチュリー様、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、ゲホッ、ゴホッ……。さすがに体調がすぐれないときの弾幕勝負はつらいわね、ゲフッ……」

話の途中に咳が出てつらそうだ。

「もしかして……喘息持ち、でしょうか?」

「ゲホッ……そうね、少し体が弱いだけだけど。それで、あなたは?」

「一十百です。それで、喘息でつらいときには……」

そういって一十百がポケットの中に手を入れた。

ゴソゴソ……。

「ありました! これです!」

一十百が取り出したのは緑色の液体の入ったフラスコ。

中で泡が立ち、あからさまに飲んだら危険と思われるような薬であった。

「……それは?」

「僕の特製の薬湯です。これを飲むとかなり良くなりますよ」

「飲み物じゃないわ、絶対に」

「大丈夫です! これで僕の主の風邪を一日で治したんですから」

「いや、そういう問題じゃないと思うぜ……」

「それに、なんでドクロマークがついてるのよ?」

「なんとなくです!」

にこっと微笑んだ一十百の表情はとても心落ち着くものだった。

しかし、それを飲まされようとしているパチュリーのみその笑顔が悪魔のほほえみに見えたようだ。

「こ、小悪魔、何とかして!!」

「えっ、は、はい!」

小悪魔が一十百を止めようと動いたときにはすでに一十百はいなかった。

「あれ?」

「……グフッ」

何か後ろで倒れる音が聞こえたので振り返ると、自分の主が真っ青な顔色で倒れているところだった。

その横には、さっきのフラスコが空になって置いてあった。

「これで、きっとよくなります! お大事に!」

いつの間にか一十百が元の位置に戻ってきている。

「……霊夢、見えたか?」

「見えなかったわ。不覚にも」

「パ、パチュリー様!!」

「むきゅ~……」

 

 

約一名犠牲者が出たものの、無事に図書館を抜けることができた一十百と博麗霊夢。

霧雨魔理沙は面白そうな本が見つかったと言って図書館に残ることにしたらしい。

もちろん博麗霊夢は納得しなかったが、一十百の提案でパチュリーの状態を小悪魔と一緒に監視することが条件で、霊夢もしぶしぶ納得した。

「真っ赤ですね。少し目が痛いです……」

「悪趣味ね。主のセンスを疑うわ」

外から見た紅魔館はまさに赤一色で作られていた。

しかし、それは外だけではなかった。

廊下も壁も、赤色で染め上げられていて、始めて訪れる人は目を傷めるのではと思えるくらい赤一色だった。

「でも、この辺りしっかりと掃除されてます。きっと立派な執事かメイドさんがいるんですよ」

「ふ~ん、まあ一十百が言うんだからそうなのかしらね」

「それはお褒めの言葉として受け取っておくわ、侵入者さん」

「えっ?」

二人が前を見ると、銀髪のメイド服を着た女性がいた。

片手には銀のトレイと、ナイフがもたれている。

「あ、こんばんは」

「……一十百、ちゃんと挨拶するのはいいけど、状況を考えてくれるとありがたいわ」

綺麗に一礼した一十百を見て、博麗霊夢が付かれたようにそう言う。

「安心してください。いきなりナイフを投げるような事はしませんから」

「よかったぁ」

「つまり、警告はするって事?」

「そういうことです」

 

コホンと咳払いをし、銀髪のメイドが鋭い視線を投げかける。

「私はこの紅魔館のメイド、十六夜咲夜。これ以上進まれるというのなら、実力を持ってお帰り願うわ」

「随分乱暴なメイドね。こっちもこの赤い霧をどうにかしてくれるまで帰るつもりはないんだけど」

「この霧はお嬢様が作り出したもの。私にどうにかできるものではないわ。どうにかするつもりもないし」

「じゃ、そのお嬢様に会わせてもらおうかしら?」

「わざわざ主を危険な目に合わせるメイドはいないわよ」

「そう、それじゃ……」

そういって博麗霊夢がお札を構える。

 

「霊夢さん、ちょっと待ってください!」

「な、なに?」

「……えと、咲夜さんでしたっけ。もしかして、貴方の主って……吸血鬼ですか?」

「!! なぜそのことを?」

「やっぱり……」

やっぱりという事は一十百にはここの主が吸血鬼であると何かしらの確信があったようだ。

「一十百、ここにくるの初めてよね? なぜ、このメイドの主が吸血鬼ってわかったの?」

「……いえ、なんとなく。こっちに進むにつれて、懐かしい感じがしたのでもしかしてと思いまして」

「懐かしい感じ?」

「はい……。霊夢さん、霊夢さんはちょっと休んでてください。異変を解決するには吸血鬼と一戦交えないといけなくなりそうです。このメイドさんで体力を消耗したら勝てませんよ?」

 

一十百が一歩前に出る。

「僕がお相手します。ダメでしょうか?」

「……どちらも追い返すつもりだから、どっちが先でもいいわ」

「では……」

一十百が片手を胸に置き、一礼。

その動作は紛れもなく執事の貫禄が身に纏われていた。

「僕の……いえ、私の名は一十百、同じ従者としてお相手させていただきます。覚悟はよろしいですか?」

「「!!」」

今までの一十百の雰囲気とはまったく違う、別物の雰囲気。

その雰囲気に二人が戦慄する。

「……あなた、何者? そこの巫女の従者……ではなさそうね」

「僕の主は外の世界にいます。もしかしたら、いつか会えるかもしれません」

「そう。 ……ちょっと、あなたを侮ってたわ。これは本気でかからないと、痛い目を見そうね」

十六夜咲夜が一歩引き、ナイフを構える。

 

 

「悪いけど、いきなり決めさせてもらいます」

手にはいつの間にかスペルカードが持たれていた。

「あれ? いつの間に?」

「幻幽『ジャック・ザ・ルビドレ』」

その瞬間、時間が止まった。

止めた時間のなか、十六夜咲夜はナイフを投擲する。

一本や二本ではなく、それこそ数十本のナイフが一十百に向かって放たれた。

止めた時間の中、ナイフが空中に浮き、その切っ先は全て一十百に向けられた。

「これで終わり」

十六夜咲夜が指を鳴らす。

時間が動き出だした。

「えっ?」

一十百が気が付いたときには目の前にナイフの壁が広がっていた。

「いつの間にこれだけのナイフを……」

投擲範囲から外れていた霊夢は唖然としてみていることしか出来なかった。

そして、あと数秒もしないで、自分が戦わなくてはいけないこともわかっていた。

「一十百っ!!」

博麗霊夢の叫び声が一十百に届く前にその空間をナイフの壁が遮った。

 

「そんな……」

「これで、一人」

そういって、十六夜咲夜が一歩踏み出した瞬間、目の前の床にナイフが刺さった

「!! これは……、まさか!」

「あ、危なかったぁ~。後ちょっとで串刺しになるところでした」

ナイフの壁が通り抜けた空間には一十百が無事な姿で立っていた。

一本たりとも当たることなく、ナイフの壁を避けきったようだ。

「……まさか避けられるとは思ってなかったわ」

「危なかったんですよ。まさか、ナイフがいきなり現れると思ってなかったんですから」

腰に手をやり、むぅと一十百が表情を変えた。

「まあ、今ので咲夜さんの能力がわかりましたからよかったですけど……」

「今ので? 冗談……ではなさそうですね」

「時間を止める能力か、とても速く動く能力のどちらかです。ナイフを投げるところが見えなかったんで、そのどちらかだと思います。ナイフを作る能力かと思いましたけど、ちょっと違うみたいでしたし」

「……やっぱり、手を抜かないでかかってよかったわ。あなたの言う通り、私の能力は時間を操る程度の能力よ」

「でも、まき戻しは出来ないみたいですね。ならまだ勝てます。それに……」

「それに?」

「時間が止まってる風景って、面白いですね。飛んできそうなナイフが空中で止まってるんですから」

「……まさか、見えるの?」

「見えますよ? 擬似時間停止なら前に少しだけ体験したことがあるんで慣れました」

時間が止まっている状況に慣れだけで対処できるとは思えないのだが、一十百の表情に嘘偽りは見えない。

 

「さて、あまり時間をかけるわけにはいきませんから、僕も全力でお相手しますよ!」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

小悪魔:パチュリーさんの図書館で働いている悪魔さんです。たくさんの本を片付けるのは大変そうだったので、少しだけお手伝いしました。by一十百  おかげで助かりました。by小悪魔

パチュリー:大図書館にいる紫色の服を着たお姉さんです。色々な本を読んでいるみたいで、物知りのような気がします。読んでいた魔法の本を見たところ、たぶん火・水・土・木・金と月と日を使えるすごい方だと思います!by一十百  あれを理解できるなんて……只者じゃないわ。byパチュリー

十六夜咲夜:吸血鬼の主に仕える、銀髪のメイドさんです。時間を操ることができるすごい方です! 同じ従者として見習いたいところがたくさんあります。カッコいい女性ってこういう人のことを言うんだろうなぁ~。by一十百  ほめ言葉として受け取らせてもらうわ。by咲夜
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