今回はステージ5が舞台となります。
金色の草原の中、異変の解決者を待つ、灰色の髪の女性……。
このステージは、全六ステージ中、最難関ステージです。
まあ、勝てる時は勝てるんですけれど……。
今回はいろいろと偶然が重なり、作者的にとても面白い組み合わせとなっています。
彼女の能力を無効化できる、数少ない人間が相手であったり……。
マイナーなはずの技が、かぶったり……。
実質、四対一であったりと、本当に珍しいことが多々ありました。
故に長いです。
本当はもっと長かったのですが、いろいろ圧縮しました。
鷹崎亜魅夜様、蓬莱玉の三難門様。
修正箇所等がございましたら、お気軽にメッセージをお送りください。
一十百の元に二人の解決者が到着した頃……。
異変で変色した金色の草原を、学生服に身を包んだ青年がゆっくりと横切っていく。
青年の名は辰上侠。
彼は別世界の幻想郷に滞在しているが、前に一度この幻想郷に足を運んでいる。
一年ほど前、一十百が博麗神社で開催したお祭りに参加したのだ。
今回も前回と同様、大花火を使った奇抜な移動方法でよばれたわけだが、二度目ともなれば、それほど驚くことはない。
ただ、いきなり金色に輝く草原に放り出されるとは思っていなかったようで、状況判断を兼ねて博麗神社の方角へ向かっているようだ。
そんな彼の前に、一人の女性が姿を現した。
スラリと背の高い、灰色の髪の女性だ。
「おや、その服装……学生服か。なるほど、彼が言っていた外からのお客様と言うのは、そういう意味だったんだね」
「貴方は?」
「私は人里離。少し変わった外来人、ということにしておくよ。君も外来人なのだろう?」
「外来人と言えば外来人ですけど、別の幻想郷から来たというか……」
ここの幻想郷にいる人に向けて、別の幻想郷があると言われても、上手く伝わらないだろう。
少し説明が長くなりそうだと、辰上侠はそう思ったのだが、人里離と名乗った人物は、なるほどと軽く頷く。
「ああ、平行世界のお客様のようだね。なら私がここを案内しなくても問題はなさそうだ」
そこまで話した人里離だが、ふと何かに気が付きの表情が少し真剣なものになる。
「ところで、君は人間……いや、その前に名前を聞かせてくれないかな?」
「辰上侠です」
「では、侠君。一つ訪ねたい、君は人間かい?」
……こんな風な事を元の幻想郷でも何度か言われたような。
いや、それにしても……。
「まだ何もしていないのに……。自分、人間に見えませんでしたか?」
「あ、いやいや、そういう意味で言ったわけではないよ。ただ、私の能力……いや、呪いの範囲から外れているようだから、気になっただけさ」
「呪いですか? もしかすると……」
『「うむ。前にも話したが、そういった類の負の影響は主には降りかからぬ」』
人里離から見れば、少し、そう一言くらいの間、目の前の辰上侠が黙ったように感じられた。
それもそのはず、辰上侠は自分の心の中に宿る、とある存在と話していたのだ。
もちろんその声は人里離には聞こえない。
しかし、こちらに向いていた意識が一瞬それたことと、人間でありながら自分の影響を受けなかったこと、この二つから人里離は答えを導く。
「もしや守護霊や、守護神のようなものが君と共にいるのかい? 私には見えないけれど、もしもいるのなら、その存在にも挨拶をしておくよ」
そう言って、人里離は軽く頭を下げた。
『「この僅かな時間の中で我の存在を感じ取ったか。中々の手練れのようだの。主よ、用心した方がよいぞ」』
用心しろと言われても、弾幕勝負をするわけでもないですし、と心の中の存在に語りかける。
『「確かに主はその気がないようじゃが……。どうやら、そうもいかないようだの」』
「えっ?」
辰上侠が人里離の方を見る。
確かに、人里離の雰囲気が先ほどのまでの物とは違う。
どこか、ピリピリと張りつめたような空気を纏ってこちらを見ている。
少しして人里離が口を開く。
「そうそう、言い忘れていたよ。今、私はとある異変に協力しているんだが、ここに来た人を問答無用で追い返さないといけないんだ。悪く思ってくれてもいいが、抵抗くらいはしてほしい」
スッと流れるような足捌きで、一気に辰上侠との間合いをなくす。
そのまま、右、左、右、左、打ち上げ、蹴り落とし、のラッシュをかけてきた。
辰上侠はそのラッシュのうち、打ち上げのみを受け大きく後退する。
しかし、不意打ちともいえる連撃の残りすべてを寸の所で綺麗に捌ききった。
「今ので一撃のみに抑えられたか。正直、自分でも卑怯だと思えるくらい、清々しい不意打ちだったのだけれどね」
「その割には、随分と手加減された気がしますけど」
「おや、さすがにわかってしまうか。いやなに、侠君、君の実力が低かったら、そこまで深追いせずに追い立てるだけにしようと思っていたのだけれど……。どうやら、私が本腰を入れないと、手痛い痛手を受けそうだね」
ゆっくりと、人里離が構えを取る。
凛と澄んだ瞳が辰上侠を見据える。
……なかなかの実力者だね。
さて、大見得を切ったものの、どこまで優位を保てるか。
小細工は私の身を危うくしそうだ……。
それなら……。
人里離がバッと片手を空に突き上げる。
開いた手のひらから巨大な炎が現れ大気を歪める。
同時に周りの土や石がその炎の中に集められていく。
いつしか、炎が燃え盛る巨大な隕石を思い起こさせるものが、かざした手の上に浮いていた。
「直撃してもたぶん焼け死ぬことはないと思う。まあ、運が良ければ致命傷で済むよ」
「それは運が悪いと言うんじゃ……」
「火の肆『フレイムストーン』」
辰上侠のツッコミを待たずに、人里離はスペルカードの宣言と共に手を振り下ろす。
ゴオォォという燃え盛る音を猛らせ、巨大な炎の岩が降り注いできた。
「氷水『ガトリングブリザードアロー』」
辰上侠の両手から、次々と氷柱が放たれる。
その大きさもかなりの物だが、放たれる速度、その連続性が威力に拍車をかける。
氷柱に燃え盛る岩が着々と削られていく。
だが……。
「くっ、押し切られるっ!」
「もう少し、後三歩ぶん距離があったら、相殺……いや、その氷柱で私は貫かれていただろうね。でも、どうやら間に合わないようだ。覚悟を決めるといい」
削られたとはいえ、未だ人を押しつぶすほどの大きさの燃え盛る岩が辰上侠の眼前に迫る。
このまま、無残にも辰上侠は撥ね飛ばされ……。
「電降『雷ドッカン』」
誰かの声が響く。
直後、辰上侠を撥ね飛ばそうとしていた岩に、巨大な雷が降り注いだ。
叩きつけるようなその雷撃は、氷柱で削られて脆くなった岩を難なく打ち砕く。
パラパラと砕かれた岩が砂になり散っていく。
それを横目に、人里離は軽く腕組みをする。
「……どうやら伏兵がいたようだね。一人で挑んでくるように見せて、油断を誘うか。意外と抜け目がないね。嫌いじゃないよ、そういう現実的な考え方は」
「いや、自分も何が何だか……。運よく雷が降り注いだのかと思ったくらいですし」
「おや、そうかい? なら、そこにいる君。出てきてくれて構わないよ。横槍を入れて侠君を守ったのは正しい判断だ。ただし、横槍を入れたなら最後まで関わるべきだ」
組んだ腕を伸ばし、背の高い草に覆われている一帯を指差す。
すると、金色の草をかき分けて、一人の青年が現れた。
手にはスペルカードを持っている。
先ほどの雷は彼が降らしたのだろう。
「さすがに見て見ぬふりは出来なかったからな。真剣勝負に水を差したなら謝る」
「真剣勝負であったけれど、謝る必要はないよ。侠君にしてみればコンティニューチャンス、私にしてみれば同時に二人を相手にできるいい機会だからね」
そう言って、人里離は軽く二人から距離を取る。
二対一になり、不利な状況になりつつある。
しかし、彼女の表情には一点の曇りはなく、むしろしんと静まり返った空気を纏い、攻め手に一歩退かせるほどの気配を醸し出している。
先ほどの青年が辰上侠の横に並ぶ。
「俺は胡蓮龍夢。さっきはつい手を出しちまった、悪く思わないでくれ」
「いや、おかげで助かったよ。自分は辰上侠。少しの間、よろしく」
簡単な自己紹介は済ませたようで、二人とも人里離の方を向く。
「さてと、二対一になってしまった……おや? ……なるほど、実質、四対一か。これは少し厳しいかな?」
人里離の、その一言を聞いて辰上侠と胡蓮龍夢はお互いの顔を見合う。
「まさか、君も?」
「あ~、最悪な守護神がいるんだよなぁ……」
「自分は、ご先祖様いますけど、いろいろ助けられてるし。そこまで嫌な感じはないかな」
「羨ましいな。もういっそのこと、取り替えたい」
そんな風に話し合っていると、二人の眼前に小さな稲妻が走る。
言わずとも、人里離が放ったものだろう。
「そろそろ始めるよ、準備はいいかい? 私もそこまで強くはないが、油断だけはしないでほしい」
人里離がスペルカードを構える。
その瞬間から、どこか北風が吹きこんでくるような、そんな寒さを感じる。
まだ夏だと言うのに、この寒さは明らかにおかしい。
「あのスペルカードは冷気系。それなら、胡蓮、何か冷気系のスペルカード持ってる?」
「ああ、持ってる。こっちも冷気系で攻めるのか?」
「たぶんそっちの方が効率がよさそうだからね」
「そうか、よし! いくぞ」
二人がスペルカードを取り出し、構える。
「氷の弐『さぶざむ』」
「適合『ブリザードオーバードライブ』」
「吹雪『寒々』」
ほぼ同時に人里離と胡蓮龍夢のスペルカードが発動する。
人里離の方からは粉雪と共に圧倒的な冷気が、龍夢の方からは密度の高い氷状の弾幕が放たれる。
奇しくも、二人の放ったスペルカードの名は同じ。
滅多に起こらないような状況が、今起きようとしている。
「……先ほどの雷を見て、もしやと思ったけれど、まさかこんなマイナーな技を主とする人がいるとは思っていなかったよ」
「それはこっちのセリフだ。別世界に飛ばされて、同じような技を使ってくる人がいるとは思ってなかった」
「なら、説明は不要だね。このさぶざむは、全体攻撃だよ? 君は防げそうだが、侠君は無事で済むと?」
そう言って、人里離が辰上侠の方を見る。
すると、そこには巨大な氷柱が地面からそびえ立っていた。
「氷の柱に入り、冷気を防御……。まあいい方法だけれど、結局戦力が一人減るのには変わりないよ」
強い冷気と氷の弾幕がぶつかり合う。
冷気に押され、氷状の弾幕が人里離まで届かず地面に落ちて行く。
少しずつではあるが確実に、人里離のスペルカードから放たれる冷気が胡蓮龍夢の弾幕を飲み込んでいく。
「どうやら、相性的に私の方が有利に進みそうだね。氷づけになる前に、次の作戦を考えた方がいいよ」
「冷気系の方が効率がいいんじゃなかったのか? このままだと……ん?」
今まで静かに佇んでいた氷柱に亀裂が入る。
そして、何かが割れるような音と共に、砕け散った。
「どうやら、攻勢に転じる……おや? その姿は一体……」
砕けた氷柱の中から現れた辰上侠は、先ほどまでの姿とは少し違っている。
黒い髪は少し長くなり色も水色に、目の色も同じように水色だ。
服装も少し変わり、青いコートを羽織っている。
そして、先ほどまではなかった、白い靄が彼の周りを漂っている。
あれは……、冷やされた空気。
なるほど、つまり今の侠君は冷気を纏っているようだね……。
……冷気を纏う?
まさか!
人里離が何かに気が付く。
既にその時、辰上侠は人里離に向かって走り出していた。
人里離の放った冷気の中を流れるように突き進む。
そして、走りながらスペルカードを構える。
「武符『リトルセイバー』」
辰上侠の声と共に手に持たれた柄に水色の刃が現れる。
まるで冷気をそのまま刃にしたような、一振りの剣だ。
人里離まで、あと一歩の距離もない。
周りの冷気を切り裂き、水色の剣閃が走る。
「……半歩差、いや四分の一歩差だね。運がよかったよ」
確かに辰上侠の一撃は、人里離を捉えていた。
僅か、そう人里離の言ったように半歩にも満たない距離。
しかし、その僅かな距離が、人里離を助けたのだった。
辰上侠がこちらに向かってきていると気が付いた時点で、発動しているスペルカードを捨て、大きく後ろに飛びのいたのだ。
それでも、軽く服を切り裂かれその部分が凍りつく。
もしも、あと一歩、辰上侠が踏み込めていたら、この勝負はここで終わっていただろう。
「外したっ!」
辰上侠も、すぐに追撃をかけるが目の前から人里離が消えている。
「上だ!」
龍夢の声で、視線を上に向ける。
その視線の先には、空中を蹴り、一直線にこちらに向かってくる人里離の姿があった。
斜め上空から鋭い蹴りが辰上侠を襲う。
辰上侠は手に持った剣を即座に盾にするが、それでも衝撃を抑えきれず大きく吹き飛ばされた。
「やれやれ。危うく断ち切られてしまうところだったよ。九死に一生、運で助かったとはいえ、このチャンスを逃す程、私は甘くない」
バシュンと言う音が響く。
何かが爆発したような、そんな音だ。
同じような音が連続して辺りに響く。
「これは……まさか!」
「何か知っているのか?」
「何でもいいから身を守らないと……」
話の途中、二人の近くで何かが爆発し二人が吹き飛ばされる。
「ぐっ……」
「い、今のは……」
「間に合わないかっ。何でもいい身を守れ!」
龍夢の焦りの声が響く。
直後、先ほどの爆発が連続して辺り一面に吹き荒れる。
土は吹き飛び、草は散り、さらに爆発が激しくなる。
その中で、高らかに人里離がスペルカードを振り上げた。
「爆の参『すいじょうきばくはつ』」
連続した大気の爆発が巻き起こり、解決者二人を無残にも飲み込んでいく。
そして、止めと言わんばかりに、二人の中心でひときわ大きな爆発が起こった。
金色の草原に、静寂が戻る。
ゆっくりと、人里離が草を踏みしめ、二人に近づく。
「……さすがと言うべきだね。あの状況下から、それだけの被害で済んだなんてね」
そう言って二人を見下ろす。
胡蓮龍夢は片膝をつき、なんとか耐えたと言った感じだ。
辰上侠はうつ伏せに倒れている、気を失ってしまったのだろうか。
どう見ても、それだけの被害と言うには酷い有様だが、人里離の思っていたより遥かに軽傷だったのだろう。
「あれほどの爆発を、事もなげに起こすのかよ……」
「異変の協力者として、一十君の能力で少しだけ実力の底上げをしてもらっているんだ。だからこそこれだけの威力がでる。本来ならもっと寂しい威力のはずさ」
人里離は、ゆっくりとスペルカードを手に取る。
「さてと、君たちは十分すぎるほど戦った。ここで終わりにしよう」
振り上げたスペルカードに呼応するように、大気が震える。
先ほどのスペルカードも強力なものだったが、さらに強力なスペルカードであることが容易に理解できた。
「この状態の相手に、なんてものを使おうとしてるんだよ……」
「私はいつでも全力さ。安心してくれ、たぶん、死にはしないよ」
ゴオォォとスペルカードに光が集まっていく。
「くっ……起きろ、辰上っ! なんでもいいから、アレを止めないと、今度こそ終わりだぞ!」
「すでに間に合わないさ。覚悟してもらおうか。異変の協力者として、
光が集まりきった、スペルカードが二人に向けられる。
しかし、その時、倒れていたはずの辰上侠が、スペルカードを宣言、発動する。
「……式神『五徳』」
倒れたまま発動させたのが悪かったのか、それとも、すでにスペルカードを発動させるほどの気力が残っていなかったのか……。
スペルカードは光ったものの、何も起こらず、静かに光が消える。
しかし、それでも人里離に油断はない。
スペルカードが発動したということは、彼の方から弾幕か、それとも冷気のようなものが来るはず……。
残念だけれど、どんな弾幕でも、間に合わないよ。
仮に放たれたとしても、このスペルカードの威力の前では、すべてが吹き飛ぶ。
君たちが無事でいることだけを、私は祈るとしよ……。
「……ナァー……」
「今のは声は? いや、気のせいかな。止めだよ。爆の終『ジャスティスブr……』」
「ナッ!」
「えっ? きゃっ……」
ゴンと鈍い音が聞こえる。
何か、少し大きめな毛玉のような何かが、急に人里離の上に降り注いだのだ。
その何かは、人里離の額に直撃すると、そのまま地面に転がり落ちていった。
衝撃と重さに耐え兼ね、人里離は後ろ向きに倒れてしまった。
「ナァ~」
何だか気の抜けるような声を発する大型の毛玉。
よくよく見て見ると、かなり大きめの三毛猫だ。
何やら金属製の輪っかのようなものを頭に乗せている。
「な、なんだあの毛玉? てか、猫か、アレ」
「一応自分の式神で、飼い猫の五徳だよ。爆発で意識が朦朧してたから、適当なスペルカードを使っちゃったけど、結果的に上手くいったみたいだ」
人里離が額を抑えながら起き上がる。
「いたた……。いきなり猫が降ってくるなんてね。まあ、重かったし、それなりの衝撃はあったけど、大した痛手じゃない。さて、これで止めだ……ん?」
手に持っていたスペルカードの様子がおかしい。
先ほどまで集まっていた光が消え、震えていた大気も元に戻っている。
どうやら、今の一撃で、スペルブレイクしたようだ。
人里離の視線が、五徳の方を向く。
五徳はナァ~と一鳴きすると、その場に丸まってしまった。
そして視線をスペルカードに戻す。
何度見なおしたところで、スペルブレイクしてしまっているようだ。
五徳、スペカ、五徳、スペカと何度か視線を動かす。
静かに時間が流れる。
人里離がスッと息を吸う。
「ネコォォォッ!」
「ニャッ!?」
激高したのか、それともネタなのかは分からないが、人里離が声を荒げる。
いきなり自分を見て叫ばれたのに驚いたのか、五徳は転がって辰上侠の元まで行ってしまった。
意外と早い移動だったのは、少し驚きである。
「武の肆『レインソード』」
人里離が高々とスペルカードを放り投げる。
スペルカードが輝いたかと思った瞬間、桃色の空を埋め尽くすのではないかと言う量の剣が一斉に現れた。
「お、おい! 随分凶悪なスペカじゃないか!?」
「当たり所が悪くなければ、死なないよ。ただ、全身に余すところなく当てるつもりだけどね」
「殺すつもりかよ! やっぱりさっきの事を根に持っているのか?」
「さて、なんの事かな?」
空に浮かんだ剣が回転を始める。
間違いなく、この少し後には、あれが降り注いでくるのだろう。
弾幕だから、鋭さはそれなりと考えても、あの量をさばききるのは、かなりの苦難だ。
「辰上! あ、謝るんだ! そうすれば、少しは弾幕の量が減るかもしれない!」
「えっ? 自分が謝るの!? さっきのは、どっちかと言うとファインプレーだったと思うけど……」
「まあそうだけどさ。ほら、自分の必殺技が猫に邪魔されたら、さすがに怒るだろ?」
「それって、ただの八つ当たりじゃ……」
「ちょっ、声が大きいって!」
恐る恐る、龍夢は人里離の方を見る。
にこっと微笑んだ人里離がそこにはいた。
これは……やばい。
「君たちに恨みはない……いや、恨みしかないが、ここで潰えてもらうとしよう」
パチンと、人里離が指を鳴らす。
その瞬間、回転していた剣が一斉に降り注いできた。
「うわあぁ! 本当に降り注いできたっ! こうなったら、辰上! 少し時間を稼いでくれ!」
「何か手があるのかい?」
「溜めが必要だが、強力なのを一つ持ってる! それまで、盾になってくれ!」
龍夢がスペルカードを取り出す。
溜めが必要と言うだけあって、スペルカードに光が満ちるのが遅い。
しかし、その威力の高さは、既に感じることができた。
先ほどの人里離が使おうとしていたスペルカードを同じように、周りの大気が震える。
「あまり盾になるのは慣れてないけど、やるしかないみたいだ」
辰上侠がスペルカードを構えた。
「防符『リフレクション』」
赤い靄のようなものが辰上侠の前に現れる。
その靄を纏い、辰上侠は龍夢の前に立ちはだかった。
降り注ぐ剣がその靄に当たると、跳ね返っていく。
本来なら、そのまま相手まで跳ね返るようだが、降り注ぐ量が量。
跳ね返った弾幕も次々と剣に貫かれていく。
けれど、しっかりと盾としては機能しているようで、動くことのできない龍夢への弾幕をすべて弾き返している。
「なるほど、いいスペルカードだね。ただ、いつまで持つか、見物させてもらうよ」
降り注ぐ剣は、未だ赤い靄に跳ね返されている。
しかし、その靄が急速に消えつつあった。
どうやら、短期決戦向きのスペルカードのようで、長時間の発動はできないようだ。
「もう、さすがに持たないっ。胡蓮、まだ溜めが必要なのか?」
「ふせろっ、辰上!」
振り向こうとした辰上侠は、竜也の声を聞きそのまま身を伏せる。
「『ジャスティスブレイカ』」
直後、その後ろにいた胡蓮龍夢から巨大なレーザーが放たれた。
大気を焼き切り、降り注ぐ剣を蒸発させ……。
「空が……開けた!?」
辰上侠が驚きの声を上げる。
それもそのはず、今まで空を埋め尽くしつつあった剣の雨が完全に消滅している。
スペルブレイクをしたわけでもなく、弾幕自体が蒸発消滅したのだ。
「なんて威力だ……」
「まあ、かなり威力の高いスペルカードだからな。欠点は射程の短さと、溜め時間中は無防備って部分だな。逆に、これだけ近づいていれば、一気に薙ぎ払うこともできる」
「でも、そのスペルカードの名前は……」
「ああ。さっき、そこの五徳が止めてくれたのと同じだ。もしも、スペルブレイクしてなかったらと思うと……恐ろしいな」
龍夢は光を失ったスペルカードをしまう。
人里離は空にあった弾幕が全て消えたのを確認すると、ゆっくりと二人に近づいて来る。
「まさか、今のスペルカードを越えてくるなんてね。正直言って、驚いたよ。流石は、別世界の解決者と言ったところかな」
けれど、先ほどまでの殺気や敵意を感じない。
いつも通りの冷静な人里離だ。
「少なくとも、今のスペルカードは本気で放った。それを越えられてしまったということは、私に勝つ手段が無くなってしまった、と言うことだよ」
「つまり、それって……」
「ああ。この弾幕勝負、君たちの勝ちさ。そこの猫君の一撃以外、被弾こそしていないが、攻め手が無くなったのだから勝つことは出来ない。だからこれ以上やる必要もないよ」
そう言って人里離は自分の服に着いた土埃や草を払う。
「随分余裕そうに見えるけど、それでも負けを認めるのか?」
「私に勝ちの目がないと言うことは、これ以上やっても勝負が長引くだけで結果は変わらないさ」
まあ、やってみてもいいけれど、疲れるだろう?と軽く微笑む。
こうして、金色の草原での弾幕勝負は幕を閉じた。
「それじゃ、俺は一度、博麗神社に戻る。他の人たちも集まってそうだし」
「自分も博麗神社に向かおうかな。確か、元の世界に帰るための電車が出てるはず」
そう言って、二人が博麗神社に向かおうと歩き出す。
その時、人里離が何か思いついたように、声をかける。
「あ、侠君。ちょっといいかい?」
「何ですか?」
「少し話があるんだけれど」
人里離の表情を見るに、何か頼みごとでもしたいのだろうか。
「じゃ、俺は先に博麗神社に向かってるよ」
胡蓮龍夢はそのまま博麗神社に向かっていった。
「それで、何の話ですか?」
「君には伝えておこうと思ってね」
そっと、人里離が辰上侠に二言三言告げる。
その話を聞き、驚いた表情をする辰上侠。
「なぜ、そのことを自分に?」
「勘、と言うやつだよ。まあ、行くのか戻るのかは君に任せる」
少しの沈黙の後、辰上侠は顔を上げた。
「行くことにします」
「まあ、君ならそう言うと思ったよ。それじゃ、そこを動かないでほしい」
人里離の手に、淡い黄色の優しげな光が満ちる。
その光は幾つもの星の形をとり、辰上侠の周りをくるりと数回転していく。
「『だいかいふく』」
星の流れるような音と共に、回っていた星が光に戻る。
すると、辰上侠の傷や怪我が次々と治癒されていく。
「これは……、すごい。怪我だけでなく疲れまで無くなっていく」
「ふふっ、これで君はほぼ万全の状態だよ」
そう言って、人里離は道をあける。
「さて、私ができるのはここまでだ。活躍を期待しているよ」
「はい」
一度大きく頷いた辰上侠は、博麗神社とは真逆の方角へと走っていった。
異変の協力者の気まぐれな決断が、大きく異変を変えていく瞬間でもあった……。
今回の結果
人里離VS辰上侠&胡蓮龍夢
勝者:辰上侠&胡蓮龍夢
~人里離からひと言~
異世界の解決者が来るとは思っていなかったからね、さすがに驚いてしまった。
それにしても、随分と、私にあったような相手だったよ。
侠君は私の能力が効かない珍しい人間だったようだし、龍夢君は私と同じ技を使うという珍しい人だった。
他の人だったら、こうもうまく立ち回れたりはしなかっただろうね。
二人とも立派な解決者だったよ。
~TomomonDからひと言~
共闘、二戦目ですね。
……正直に言いますと、この五ボスである人里離は強いです。
ほとんど勝てません。
数値的に、かなり厳しい条件が幾つもあり、そこに大型のプラス点があります。
逆にマイナス点は取りやすく、たぶん六人のうち最強だと思います。
……なぜ負けたし。
まあ、答えは単純明快で……辰上侠さんです。
いや、その……このボス相手に三桁プラスって、どうなってるのか小1時間問いただしたいです。
普通、三桁マイナスが当たり前の相手ですよ。
それも、この辰上侠さん、とある事情により、すべての種族に当てはまっているんです。
これ、この人里離相手ではかなりのハンデとなり(具体的には-70)確実に負けます。
これで、三桁プラス……、恐ろしすぎます。
余談ですが、仮にもし、鷹崎亜魅夜様の小説、『幻想世界に誘われて』のもう一人の主人公が、四ボスである一十百に挑んでいたら……。
+40 +80 +100 +200のすべてを獲得します。
この後、多少マイナス点を取るものの、結果的は+300を超える、異変中最高点を叩きだしていました。
……本気モードの一十百でも、手も足も出ません、アハハ。