今回はステージ3ですね。
ここは、かなり運に左右されるステージです。
全く同じ生き方をしていたキャラクターでも、勝敗が分かれる特殊ステージです。
運が良ければ、圧勝。
逆に運に見放されれば、完敗もあり得ます。
そんなステージ3を守るのは、賽子と関係のある、あの妖怪です。
さて、今回とあることが起こりました。
イント・レヴァイナットさんが、とある条件を満たしてしまいました……。
ここのボスが本気モード!状態となります。
勝敗の行方やいかに!
MAGMA様、命麗 命様。
修正箇所等がございましたら、お気軽にメッセージをお送りください。
異変の協力者……クロム・クロロ・クロラージュと人里離。
この二人は、一十百と同じ世界から来た存在だ。
二人とも一十百の主のログ豪邸で暮らし、強い絆で結ばれている。
それ故、今回の異変では協力者として、一十百と共に動いている。
……では、他の協力者はどうして一十百に協力したのだろうか。
その答えの一つが、物々交換であった……。
真っ白なゴシックドレスに身を包み、腕組みをしながら立っている少女がいる。
外の世界から来たばかりの妖怪、妖怪いちたりないの一璃菜だ。
傍目から見れば、一十百と一璃菜はそれほど友好的な関係には見えないだろう。
主に、一璃菜が一十百を避けているのだ。
人間でありながら、自分の能力を隙を突き、あっさりと覆す。
それでいて、しっかりと畏れを抱いているという矛盾……。
一璃菜にしてみれば、何が何だかわからず、近寄れないのだ。
そのためか、一十百相手に話すときは、なるべく相手に心を許さないようにツンとした話し方になる。
そんな相手が異変を手伝ってと言ってきても、了承するわけがない。
しかし……、今、一璃菜は異変の協力者として解決者の前に立ちはだかろうとしていた。
「アイツの言うとおりにするのは癪だけど……条件が条件だし、しかたないわね」
何か納得する条件を一十百に提示されたようだ。
それが何かは分からないが、少なくとも異変の協力者という面倒な仕事を引き受けるに値するものだったのだろう。
さて、そんな風に気構えていた、一璃菜だが……。
明らかに巨大な妖力が近づきつつあることに気が付く。
「ちょ、ちょちょっ……。なによ、この妖力! 異変解決に来るのは人間じゃなかったの!?」
一十百の話が本当なら、異変解決に来るのはいつものメンツで、ほとんどが人間と言っていた。
「さっき来たのは、人間だか幽霊だかわからないやつだったけど……。でも、今回のこれは何っ!?」
妖怪いちたりないは直接的な戦闘力を持たないタイプの妖怪だ。
弾幕勝負はできるが、物理的な戦闘は得意ではない。
元々の能力を併用して、搦め手で相手を翻弄するような戦いを得意とする。
しかし、圧倒的な相手に対しては搦め手が効かない。
威力で押し切られても、範囲で薙ぎ払われても、速さで迫られても、対処できないのだ。
力が強くても頭が弱ければ、負けはしない。
……しかし、近づきつつあるこの妖力。
明らかに大妖怪に匹敵する者だ。
知能の低い大妖怪など聞いたことがない。
つまり、この時点で勝ち目がないのだ。
「じょ、冗談じゃないわよっ! これじゃ契約違反もいいところ! 悪いけど逃げ……」
「少しお喋りが過ぎたようだぞ?」
「えっ?」
後ろから声をかけられる。
聞いたことの無い男性の声だ。
恐る恐る振り返ると、そこには赤い髪をオールバックにした背の高い男性が立っていた。
人間ではない、一目でそれを理解できた。
鋭い眼光、立っているだけで放たれる威圧感、そしてある種族特有のカリスマ……。
「ひっ! あ、あ、アンタは何者っ!」
「人に名前を訪ねるときは、先ず自分からという言葉をしらないのか? まあいい」
軽く腕組みをし、深い声で男性が自らの名を名乗る。
「私はスカーレット家元当主、ブラム・スカーレットだ」
「わ、私は、一璃菜。お、多くの人間が畏れを抱く、妖怪いちたりないよ!」
威勢よく名を名乗ったものの、ブラム・スカーレットの圧倒的な雰囲気にのまれ、一璃菜はへたへたと地面に崩れ落ちてしまう。
これでは、弾幕勝負どころではない。
逃げることもできず、ただ小さく震えるのみ。
「そこまで怯えることもない。今回は力試しとして、こちらに来たにすぎん。戦う意思がないのなら、手を下すつもりは無い」
「……この異変の首謀者を見つけたら、どうするつもり?」
「無論、その者と戦うだけだ。可能な限り全力でな」
「………」
こんなのが、十百の所にいったら、確実に……。
でも、だからって、私じゃどうしようもない。
途方に暮れる一璃菜。
しかし、運命のいざこざか、それとも同族に呼ばれたのか……。
静かでありながら、強い力を持った何者かが、この場所に近づきつつあった。
その存在に、いち早く気がついたのは、ブラム・スカーレット。
同族としての気配ではなく、強者としての気配がブラム・スカーレットの感覚を揺り動かした。
随分と静かな気配だ。
それでいて、内に秘めたる力は強大の一言に尽きる。
力を持てども、戦いを好まぬものか……。
一璃菜がその存在に気がつくのは、目視ができる程その存在が近づいてからだった。
緋色の髪、ブロンドの瞳、そして少し変わった服装の女性だ。
割烹着とも、エプロンとも違う、それなのに料理に携わる存在と一目でわかる服装。
外の世界から来た一璃菜には見覚えがある。
コックと呼ばれる、厨房の魔術師たちが着ているような服装だ。
「だ、誰?」
「私か? 私はイント・レヴァイナット、吸血鬼だ」
「また、吸血鬼!? もう、やだ……えっ?」
異変を起こしている側である一璃菜に味方する者は少ない。
このイント・レヴァイナットと名乗った吸血鬼も、異変の解決者なのだろう。
そう思い、一璃菜は絶望に打ちひしがれる……はずだった。
だが、とあることに気がついたため、消えかけていた一璃菜の戦う気持ちが、大きく燃え盛ろうとしていた。
「あ、えっ? ちょ、ちょっといい?」
「なんだ?」
崩れるように座り込んでいた一璃菜が立ち上がる。
そして、イント・レヴァイナットの向かい合うように、移動する。
「………」
「……??」
一璃菜は、じっとイント・レヴァイナットの事を見る。
背の高さは、一璃菜の方が低い。
顔は好みにもよるが、どちらも美少女であることは間違いない。
外見的な年齢も、一璃菜の方が低く見える。
一璃菜を少女と言うなら、イント・レヴァイナットは女性と少女の間くらいと言ったところだろう。
だからこそ、色々な面で負けるのは当たり前なのだが……。
とある部分、そう、ある一点において、一璃菜が完全的かつ決定的に敗北している部分がある。
仮に、同じくらいまで成長したとしても、確実に負けているであろう、とある体の部位を、自分、イント・レヴァイナットの順で交互に見る。
すこし身体を反らして、大きく見せようとしても、その絶望的な差の前ではまさに無力だった。
「ふ、ふふふ……。アンタは、なんでここに来たの?」
「この異変は十百君が起こしたものなのだろう? 一度、彼に会ってみたいと思っていてね」
「そう。なら丁度よかったわ」
「丁度いい?」
そこまで話した時、一璃菜から妖力が揺らめく。
今までに比べると明らかに巨大な妖力だ。
「アイツの所に行きたいなら、私に倒してからにしなさい! 私こそ、ここを守る異変の協力者にして、幻想郷に恐怖を巻き起こした、妖怪いちたりないの一璃菜よ!」
バッと手を軽く払い、ポーズを決める。
「聞いたことの無い妖怪だけど……、倒せと言うなら倒すまで」
「そう簡単に倒せると思わないでよね! 絶対、ぜぇっっったい、アンタだけはここで止めて見せる!」
半ばイント・レヴァイナットに対する逆恨みなのだが、異変の協力者として一璃菜はしっかりと立ちはだかる事となる。
「……私もいることを忘れてないか?」
「えっ? ああ、アンタもいたわね。ついでに相手するわよっ」
先ほどまでの怯えきった雰囲気はどこへやら……。
確実に格上であるブラム・スカーレットの相手を、ついでにと言い切った一璃菜。
慢心しているわけではない。
ただ……、イント・レヴァイナットを倒すこと以外、まったく目に入っていないと言ったところだろう。
恐るべし、嫉妬の念……。
「まあそれでも、二人掛かりだと、ちょっと厳しいかもしれないわね……。でも、今の私はそんなことで止まるつもりは無いわよ!」
頭に血が上ったとはいえ、不利だということだけは分かっているようだ。
タン、タタンと、その場でステップを踏む。
次の瞬間、一璃菜の姿は霞ように消え、元いた場所の足元から水の波紋が広がるように、黒い光が広がっていく。
その光は木を飲み込み、地面を飲み込み、空すら飲み込んだ。
いつしか、辺りには何もない、どこまでも広く暗い空間が広がっていた。
「これは……結界の一種のようなものか」
黒い空間に飲み込まれたが、大して慌てていないブラム・スカーレット。
カツカツと地面があることを確認し、この空間に飲み込まれたであろうもう一人のもとへと近づく。
ブラム・スカーレットの思った通り、イント・レヴァイナットもこの空間に飲み込まれていたようだ。
「どうやら無事のようだな」
「まあ、何とか……」
先ほどの一璃菜と言う存在、このイント・レヴァイナットという者を執拗に狙っていたようだが……。
外傷はなしか。
少し視線を落とし、考え込むブラム・スカーレット。
となれば、先ほどの力はこの空間を作り出すだけの物と言ったところだろう。
それも、一対一ではなく、私まで巻き込んだとなると、一時的に一定範囲の存在を捕縛する類の結界と言ったところか。
精密さに欠ける分、容易く打破できるものではない、か。
やはり、手っ取り早いのは、この結界の術者である一璃菜という者を倒すことだろう。
さてと……。
「見たところ、かなりの実力を持っているようだが、好んで力を振るうわけではないのだろう?」
ブラム・スカーレットの問いかけに対し、イント・レヴァイナットは軽く頷く。
「なるべく暴力という形で力を振るいたくはない。まあ、弾幕勝負としてなら、話は別だけど……」
「わかった。では、サポートおよび後衛を任せるとしよう。それでは、ひと時とはいえ共に楽しもうではないか」
バッとマントを翻すようにブラム・スカーレットが振り返る。
そこには依然として、暗い空間が広がっているだけだ。
「そろそろ出てきたらどうだ? 隠れているだけでは、何も事は運ばんぞ」
「隠れてるわけじゃないわ! お、思ったよりも準備に時間がかかったのよ!」
一璃菜の声が暗い空間に響く。
少し遠くに光の粉のようなものが集まっていく。
その光の粉は人の形をとると、そのまま四方へとはじけ飛んで行った。
弾けた光の中から一璃菜が姿を現す。
「本当は、アイツとの弾幕勝負までとっておきたかったんだけど……、仕方ないわよね」
一璃菜がゆっくりと目を閉じ、握った拳を胸の前で交差させる。
先ほどの強い妖力が一璃菜の周りをゆっくりと包んでいく。
そして目を開き、その両手をバッと横に開いた。
纏っていた妖力が四散し、辺りへと放たれる。
それに呼応するように、辺りの空間に異変が起きる。
何もない暗い空間の中に、次々と鳥居が現れ始めた。
三人を乱雑に取り囲むように、幾つもの鳥居が並び立つ。
「光栄に思いなさい! 私が全力でアンタ達……というか、イント・レヴァイナット、アンタを倒してあげるわ!」
ビシッと一璃菜が指をさした。
……そこまで私を倒したいのか?
彼女に対して、そこまで敵意を買うようなことはしていないはずなのだけれど……。
流石に心配になったのか、イント・レヴァイナットは、くいっとブラム・スカーレットの服を引く。
「どうした?」
「その、ブラム・スカーレット、一つ聞きたいのだが」
「ブラムでよい。それで、一体何かな?」
「何か私の立ち振る舞いに不快なところがあったか尋ねたくて……」
ブラム・スカーレットは一璃菜とイント・レヴァイナットを交互に見る。
「ふむ……、私が思うに、あの一璃菜という者は、貴殿に対して少なからず劣等感を抱いているように思える」
「劣等感? まだ、出会って間もないのに?」
「お互いの事を知らずとも、そこに二つの存在があれば、自然と優越が生まれるものだ。同性に対して抱く劣等感なぞ、それこそ数えきれないほどある」
少し考えるように、そこで一呼吸置く。
「しかし、会って間もない存在に対し抱く劣等感ならば、限られたものになるだろう」
「それは一体……」
「何をごちゃごちゃ言ってるのよ! 覚悟しなさい!」
イント・レヴァイナットの言葉を遮って、一璃菜から弾幕が放たれる。
ひし形状なのだが、妙に立体感のある弾幕だ。
それが転がるように、二人に向けて幾つも放たれていく。
不規則な弾幕なのだが、その密度と量は、妖精たちのそれとほとんど変わらない。
つまり、随分と簡単な弾幕である。
「大見得を切った割には、と言ったところか」
軽く飛んできた弾幕を払うように、ブラム・スカーレットは手で空を薙ぎ払う。
そこからいくつかの弾幕が現れ、飛んできた弾幕を撃ち砕いていく。
「これじゃ、私の所に来るまでに全部叩き落とされてそう」
ブラムの後方にいるイント・レヴァイナットは軽く息を吐く。
狙われているとはいえ、弾幕が飛んでこなければどうってことはない。
いくつか撃ち漏らした弾幕を、あっさりと避けていく。
「ふ、ふん。こんなただの弾幕に当たるなんて、思ってないわよ。これからが本番」
流石に劣勢と悟ったのか、一璃菜がスペルカードを構える。
……えっと、確か、スペルカードを宣言して、記録した弾幕を放てばいいのよね。
物理的な攻撃も、多少ありって言ってたけど、そんなにすごいのは来ないわよね。
一璃菜にとって、正式に弾幕勝負をするのはこれが初めてである。
しかし、そんなことを言えば、いろいろと自分に不易なことが起こるのは目に見えている。
精一杯の強がりと共に、スペルカードを振り上げた。
「不平等『七人の子どもと四十八の飴』」
スペルカードが輝き、一璃菜から巨大な光弾が七つ放たれた。
その七つの光弾はブラム・スカーレットとイント・レヴァイナットを取り囲むように展開する。
そして、取り囲んだ空間の中心から、外側の光弾に向けて七色の弾幕が次々と放たれ始めた。
「なかなかの弾幕だ。逃げ場をなくすために、光弾を周りに展開したのもいい策だ」
「狭いとはいえ、まだ避けられる。これなら問題ないな」
ブラム・スカーレットもイント・レヴァイナットも軽やかに七色の弾幕を避けていく。
「そ、そのくらい避けられて当然よ! でも、そのまま避けていていいのかしら?」
辺りの光弾がだんだんと光を失い消えていく。
しかし、そのうちの一つが、強く輝いたかと思うと、爆発を起こす。
はじけ飛んだ光弾の中から七色の高速弾幕が現れ、二人に向けて一斉に放たれた。
「小癪な!」
ブラム・スカーレットの右足が弧を描くように、唸りを上げて蹴り放たれる。
迫ってきていた七色の弾幕がその脚撃により次々と粉々になっていく。
「ちょ、ちょっと! なんで生身で受けて、弾幕の方が壊れるのよ!?」
「鍛え方が違うのだ」
「は、反則じみてる……。でも、あと何発防げるのかしらねっ!」
一璃菜から同じように七つの光弾が放たれ、二人を取り囲む。
また七色の弾幕が中心から放たれていく。
「同じことの繰り返しか。威力に任せて抜けきるのもいいが……」
「……五つ、六つ、七つ、あっ! ブラム、右斜め前の光弾を消し飛ばせない?」
七色の弾幕を避けつつイント・レヴァイナットが指をさす。
何やら数を数えていたようだが……。
「何か気がついたようだな。どれ、試してみるか」
一足でその光弾の前に近づく。
そして……。
「『ブラッディ・バンカー』」
抜き手の要領で、ブラム・スカーレットが光弾を貫く。
相手の心臓を丸ごと貫くのではないかと思える程の抜き手だ。
ブラムの一撃に光弾は貫かれ、砕けて散っていく。
その瞬間、パリンという音が響き、辺りの光弾と弾幕が消える。
「ス、スペルブレイクした!? な、なんでそれが弱点だってわかったのよ!」
「光弾が子ども、虹色の弾幕が飴。それなら後は、光弾に飲み込まれた弾幕の数が一つ少ないのを探せばいいだけだ」
事もなげにあっさりとイント・レヴァイナットがそう答える。
「あの弾幕の中で、そんな余裕があるっていうの!?」
「私の方に弾幕が来ないように、切り開いて……いや蹴り開いてくれたから数えやすかった」
「なに、いいサポート役がいるとわかれば、こちらは後ろに弾幕を流さなければいいだけの事。後は、何かしらの策が出たら実行するだけだ」
出会ったばかりだというのに、お互いを信頼しあい、見事な連携を見せている。
さすが吸血鬼同士と言ったところだろう。
「た、たかが一枚よ! まだ他の手もあるんだから!」
これだけのコンビネーションを見せつけられてしまったとなると、かなり厄介だ。
あの、イント・レヴァイナットを倒すには、まず前衛のブラム・スカーレットを倒さないといけない……。
でも、それは、ちょっと難しいわよね……。
思った以上に自分の目的が遠い気がしてきた一璃菜。
ええい、今さら引けないわ!
「未到達『高速機械に届かぬ背』」
一璃菜の二枚目のスペルカードだ。
大きめの弾幕が一つ現れる。
すると、同じ形の弾幕が、続々と連なるように後ろへと延びていく。
「行けっ!」
一璃菜が手を前に振るった瞬間、連結した弾幕が恐ろしい速度で飛び出していった。
かなり距離のあったはずのブラム・スカーレットが一歩出遅れるほどの速度だ。
一歩出遅れたとはいえ、ギリギリ半身引くことは出来たようだ。
左手の甲を連結弾幕に添えるような形で、直撃を避ける。
「ぬぅん!」
その添えた左手を、力任せに薙ぎ払う。
連結弾幕はその一撃を側面から受け、大きく横になびく。
しかし、連結弾幕はまるで車線を戻すように斜めに突き進む。
「そんなのじゃ、今回の弾幕は消せないわよ! また素手で弾いたのはすごいけど……」
「いや、これでよいのだ」
「えっ?」
斜めに進んだためか、ブラムの少し後方にいたイント・レヴァイナットは動かずとも弾幕が自ずと避けていく状態となっていた。
「あっ……。で、でも、弾幕自体は止まってないわ!」
一璃菜が手で糸を引くような仕草をすると、連結弾幕が大きな弧を描いて向きを変える。
速度を落とさず、連結弾幕がまた二人に向かっていく。
「原罪『孤高のヴァンパイア・ロード』」
ブラム・スカーレットの手からスペルカードの光が満ちる。
すると次々と周りに逆十字が現れ始めた。
同時にブラム・スカーレットから緋色の光線が放たれる。
十字弾幕がそれを拡散させ、いつしか連結弾幕の目の前には、緋色の網が出来上がる。
更にそこに向けて、ブラム・スカーレットが大きさの違う弾幕を次々と放つ。
「そんなもので、捉えられると思わないでよねっ!」
一璃菜が大きく右手を引く。
直後、緋色の網に突っ込むはずの連結弾幕が、まったく速度を殺さずに直角に曲がった。
「何っ!?」
「甘いわよ! これ、アイツに追いつけるくらいまで速度と操作性を強化したスペルカードなんだから!」
L字を描くように、一璃菜の右手が動く。
連結弾幕がさらに二度直角に曲がり、緋色の光線が薄くなっている場所を貫く。
ブラム・スカーレットの側面から、一気に連結弾幕が襲い掛かってくる形となる。
「……そう来ると思っていた」
連結弾幕が直撃する瞬間、タンと地面を蹴り、ブラム・スカーレットがバックステップをする。
ギリギリで避けられたため、車線変更もできずそのまま連結弾幕はブラム・スカーレットの僅か前を通り過ぎていく。
「外した!? で、でも、もう一度……」
「打符『ダイヤモンドフランスパン』」
凛とした声が響く。
一璃菜からすれば、ブラムの陰になって見えなかったのだが、既にイント・レヴァイナットがスペルカードを持って待ち構えていたのだ。
そして、ブラム・スカーレットが一歩退いたことにより、連結弾幕は真っ直ぐにイント・レヴァイナットに向けて突き進むこととなる。
「あ、しまった! ま、曲が……」
「遅い!」
棒状の何かを持ったイント・レヴァイナットが、剛速球を打つがごとく連結弾幕を、ほぼ正面からフルスイングで打ち抜いた。
バキャンという甲高い音と共に、連結弾幕があらぬ方向に跳ね上がる。
そして、連結弾幕は地面に落ちる前に砕け消えていった。
パキンと、一璃菜の持っているスペルカードから音が鳴る。
「な、何よそれ!?」
「フランスパンだが」
ポンポンとイント・レヴァイナットが手に持った大きな棒状の物を叩く。
確かに、よく見れば見たことのあるフォルムだ。
先ほどの連結弾幕を弾き飛ばし、なお折れることの無いフランスパン。
美味しそうではあるが、果たして食べられるのか……。
「何でそんなもので私のスペルカードが……。それよりも、なんでパンなのよ!?」
「私の職業柄、こっちの方がイメージしやすかった」
「ほう。その恰好、やはり食に携わるものの正装か。今度、何か一つ作ってもらいたいところだ」
「なんで私の弾幕がパンに負け……ああ、もういいわよっ!」
スペルブレイクしたスペルカードをしまい、即座に次のスペルカードを構えた。
「無意味『騎士と女王と王と始まりと赤の9』」
一璃菜から長方形の弾幕が次々と放たれていく。
弾幕の速度も速く、その量もなかなか多い。
しかし、今さら量が多いだけの弾幕で怯む二人ではない。
ブラム・スカーレットは放たれた弾幕の隙間を縫い、立ちはだかる弾幕を拳で粉砕し、一璃菜の前まで瞬く間に移動する。
「またっ素手で!?」
「どうやらこれで終わりのようだ」
風を切って、ブラムの蹴りが一璃菜に向けて放たれる。
しかし、その蹴りは空を切った。
距離的にはかなり余裕のある蹴りのはずだったのだが、一璃菜が大きく避けたのだろうか。
「むっ、距離を測り間違えたか?」
「あ、危な……」
「ならば、これでどうだ」
蹴り抜いたはずの足がそのまま軸となり、ブラムの重心が前に動く。
そして、そのまま拳を突き出した。
ほぼゼロ距離での一撃だ。
当然、体術の心得の無い一璃菜に避けることは出来ない。
ブラム・スカーレットにも確かな手ごたえが伝わる。
しかし、その一撃が確実なものになる瞬間、急にその手ごたえが消える。
まるで何もない空間を殴ったようなものに変わってしまったのだ。
「何っ!」
拳の先に一璃菜の姿はなく、二歩ほど右にずれた位置で、怯えたように腕を前に出して目を閉じていた。
「おかしい。確かにとらえたはずだが……」
「ふ、ふん。惜しかったわね。あと少し、貴方の一撃が速ければ、確実に当たってたわ。まあ、ここじゃそうもいかないけどね」
「どういう意味だ?」
「ここは、私が作り上げた空間なのよ。私が集めた畏れを惜しげもなく使った空間、僅かな失敗が多発し続ける空間。断言してあげる、ここではアンタたちの攻撃は私に当たらないわ!」
そう言って、一璃菜が両腕を組む。
「ま、まあ、ギリギリ当たらないだけだから、威力の高い奴とかだと余波で……、コホン。とにかく、アンタたちに勝ち目はないわよ!」
何やら弱点を暴露しつつあるが、勝ち誇ったように一璃菜はピンと指を立てた。
なんだか、あのブラム・スカーレットとかいうの、体術はすごい……というか、もうそれだけで十分なんだけど……。
あんまり弾幕やスペルカードで攻めてこないわね。
これで、接近戦用のスペルカードでもあれば、話は変わったけど……。
そうなると、後はあの、イント・レヴァイナットだけね。
フランスパンは驚いたけど、他にもなんかトリッキーなスペルカードを持ってそう。
注意するのはそっちが優先で……。
明らかに見当はずれの考えをしていると、目の前のブラム・スカーレットが一枚、スペルカードを取り出した。
「魔剣『ダーウィンスレイブ』」
次の瞬間、スペルカードはブラム・スカーレットが両手で持つほどの大剣となる。
もちろんただの剣ではない。
どう少なく見積もっても、確実に弾幕の力は宿っているだろう。
つまり……。
「せ、接近戦用のスペルカード!? 持ってないんじゃなかったの!」
「誰がそんなことを言ったのだ?」
「いや、アンタは拳で十分でしょ! というか、その剣……」
アイツのと同じ名前……。
まさか、威力まで同じってことはないわよね。
同じ名前のスペルカードを一度別の場所で見ている一璃菜。
さぁぁと顔色が青くなる。
ガシャリと音を立てて、ブラム・スカーレットが大剣を構える。
そして、そのまま大きく薙ぎ払った。
大気を切り裂き、空間を砕き……、きゃぁという叫び声をあげつつ飛びのいた一璃菜の頭上を切り裂いていった。
しかし、避けたとはいえさすがに無傷では済まない。
余波だけで、相当な衝撃だ。
「ひぅ! こ、こんな威力、反則じゃないの!」
吹き飛ばされ、横に転がりながら一璃菜は何とか立ち上がる。
急いで一枚のスペルカードを取り出した。
「生半可なスペルカードでは太刀打ちできんぞ?」
「わかってるわよ! ……これ、正直言って使いたくなかったけど、仕方ないわ。アイツの力なんて……借りたくないのに。ア、アンタたちのせいだからね!!」
スペルカードに光が集まる。
今までの光とは違う、透き通った赤い光がスペルカードに集まっていく。
そのスペルカードを高々と振り上げた。
「人十百『確立を超えた一人の少年』」
持っていたスペルカードから赤い光が溢れ、一璃菜を包み込む。
光が消えたとき、一璃菜の姿が少しだけ変わっていた。
真っ白の長い髪は黒く染まり、ゴシックドレスの上から羽織るようにフードのついた紫色のジャンパーを着ている。
そして手には、一振りの魔剣が握られていた。
「その剣は、まさか……」
「遅い!」
今までとは明らかに違う速さで、一璃菜がブラムに近づき剣を振るう。
まるで瞬間移動かと思える程の速さだ。
しかし、さすがはブラム・スカーレット。
何とか反応し、手に持った剣で防ぐ。
そこで、ブラム・スカーレットが顔をしかめる。
目の前の一璃菜の実力はこの弾幕戦の中で大体は理解できている。
いくら無理な体勢で防いだとはいえ、力で押し切られることはまずないはずだ。
しかし、今、確実に押し負けつつある。
「甘いわ! この空間じゃ、アンタは全てが僅かばかり足りなくなるのよ! 反応の速度、剣を振るう力、踏み込みの大きさ、そのどれもが足りなければ、私が押し切れる!」
グッと一璃菜が一歩踏み込む。
「この力……、明らかに別の存在の物だ。一体、何者の……」
「アイツ、小柄な癖に恐ろしい筋力だからね。吹き飛べっ!」
一璃菜が一度、剣を大きく薙ぎ払う。
体格差はかなりあるはずなのだが、ブラム・スカーレットが大きく後ろに撥ね飛ばされる。
「これで終わりよ、ブラム・スカーレット!」
止めとばかりに、吹き飛んだブラムの前に高速で移動した一璃菜が、手に持った魔剣を振り下ろす。
その速度の前に防ぐことかなわず……。
仮に防げたとしても、一撃の重さの前に押し切られる……。
そんな刹那の瞬間、静かにスペルカードを読み上げる声が響いた。
「強化『害の無いT-ウイルスってドーピングだよね』」
直後、現れた赤黒い光がブラムスカーレットに吸い込まれていく。
その瞬間、ブラム・スカーレットの目に映る世界が変わる。
今までは、その速さのため残像すら残ろうとしていた一璃菜の姿が、まるでスローモーションのように見えるのだ。
今、まさに振り下ろされているはずの魔剣も、自分に向かってゆっくり振り下ろされているように見える。
これならば、間に合うか!
自分の手に持たれているもう一つの魔剣をしっかりと握る。
「ぬぅん!!」
「えっ!?」
ガキィンと刃と刃がぶつかり、火花を散らす。
先ほどとは違い、押し負けることもない。
じわりじわり、確実に一璃菜の持っている魔剣が押し戻されていく。
「ど、どうして。アンタの力は、私に僅か届かなくなっているはずじゃ!」
「その通りだ。まったく、恐ろしい力を持った者もいたものだ。しかしな……」
「それは、ブラムが一人だったらの話だ。でも、今は違う。足りない分は、私が補う!」
ブラム・スカーレットの後方から、スペルカードの光と共に凛とした声が響く。
先ほどのスペルカードは、イント・レヴァイナットが発動したもののようだ。
効果は、主に自信および味方の強化なのだろう。
サポートとしてのスペルカード、単体でならそれほど怖くはなかっただろう。
しかし、切迫した実力差の中ならば、相手の実力がいきなり変化するこのスペルカードは、決着すら左右するほどの物にもなるだろう。
ブラムの魔剣に押され、一璃菜の魔剣がだんだんと光を失っていく。
そして、パキリと一璃菜の持っている魔剣に亀裂が入った。
「そ、そんな!?」
「これで終わりのようだな。確かに、此度の勝負、僅かな差だった。だが、その僅かな差が、勝利を呼び込むのだよ」
ブラム・スカーレットの魔剣が一閃する。
一璃菜の持っていた魔剣が根元から折れる。
ブラムの放った一撃は、それだけにとどまらず、その一閃の衝撃で辺りの鳥居にひびが入る。
それが楔だったのか、黒い空間にも同じようにひびが入りはじめた。
「まさか、私が負ける……。それも、この空間で……。ふ、ふん、アンタたち、やるじゃないの」
空間の崩壊に伴い、一璃菜の姿がだんだんと光の粒となり消えていく。
出てきたときも光の粒のような状態だったので別に命を落としたとかではないだろう。
「でも残念。私はアイツの居場所を知らないわ。だから異変の首謀者には会えない。いい気味ね……。でも、それだと、ちょっと納得できそうにないでしょうから、次の行き先を伝えてあげる」
「行き先?」
「そう。あの、赤い館……じゃなかった、青い館に向かうといいわ。たぶん、あの妖精なら何か知ってるはずだし……。こ、これは、ヒントというか、本気の私に勝った報酬みたいなものだからね!」
消えかけているのだが、腰に手をやり一璃菜がつんとそっぽを向く。
空間のひびも大きくなり、崩壊は間近に迫る。
「……今回は、素直に負けを認めるわよ。でも、次はそうはいかないんだから! 覚悟しておくことね、イント・レヴァイナット、と他一名!」
「なっ!?」
「私だけフルネーム……。なにがどうして、そこまで敵意を買ってしまったのだ?」
ビシッと指を突き付けて、一璃菜は光の粉になって消えていった。
それに合わせるように、辺りの空間が崩れ、光が満ちる。
気がつけば、先ほどの景色が目に入ってくる。
空は依然として桃色のまま、辺りの色も変わったままだ。
「どうやら、元の場所に戻ったようだ」
「ブラム、これからどうする?」
「先ほどの一璃菜という者の言葉を信じるなら、赤い館……つまり紅魔館の事だろう。そこに行くしかあるまい」
そう言ってブラム・スカーレットは歩みを進める。
「私も特に行くあてがない。ひとまずは一緒に行動させてもらおうかな」
イント・レヴァイナットもブラム・スカーレットの後を追う。
吸血鬼たちの行く先には、青くなった紅魔館。
そこには異世界の妖精メイドが、いつもとは違う表情で来訪者を待っている。
はたして、無事に一十百の行き先を尋ねることができるのか……。
今回の結果
一璃菜(本気モード!)VSブラム・スカーレット&イント・レヴァイナット
勝者:ブラム・スカーレット&イント・レヴァイナット
~一璃菜からひと言~
今回、私は本気だったわ。
でも、勝てなかった。
ブラム・スカーレットって吸血鬼は、弾幕を素手で弾くし、砕くし、貫くし……。
何とか接近戦は避けるようにしてたから、それほどケガはないけど……。
正直言って、再戦したくないわ。
あんな風に生き生きと身体を使った戦い方もあるのね……。
イント・レヴァイナットは……負けたわ。
な、何がとはいわないわよ!
とにかく、サポートもバッチリだし、状況判断も素早いし、なんか料理もできるみたいだし、スタイルいいし……。
……ハッ!?
そ、その、ま、まあまあの女性だと思うわ、うん。
~TomomonDからひと言~
本気モード!とは一体……。
おかしい……、こっちが勝てるように、こんなのを作ったはずなのに……。
今回のお話である三戦目、吸血鬼同士の共闘というとても珍しい組み合わせでもありました。
ブラムさんが前衛、レヴァさんが後衛。
ガチ勝負だと、相手が泣き出しそうなレベルのコンビです。
力押しではブラムさんに勝てず、搦め手でもレヴァさんのサポートで無に帰す……。
戦う前に、頭を下げて頼みましょう。
『どうか、人の形を保ったまま、逃がして下さい』って。
さて、一璃菜はかなり乱数……ぽい何かにプラス点やマイナス点が支配されます。
そのため、種族や、生き方や、誰に出会っているかなどは、ほとんど関係ありません。
最弱であり、最強でもある、みたいな特殊な感じですね。
今回イント・レヴァイナットさんが一璃菜の本気モード!の条件を達成したので、情報公開です。
一璃菜の本気モード!になる条件は『相手が女性であり、なおかつスタイルがいい』です。
ただし、スレンダー美人の場合は条件から除外されます。
本気モード!というか、ただの逆恨みです、ハイ。
この状態の一璃菜が相手だと、乱数によるマイナス点、つまり一璃菜にとって有利な点数が取りやすくなってしまいます。
……なんで負けたんでしょうか。
命麗 命さんの運がいいというか、間が良かったというか……。
このままだと、一十百チームの完敗が見えてきそうです。
そろそろ、何とかしないと……。
今回せっかく本気モード!に勝ったので、このお二人は、この先のお話でも登場することにさせていただきます。
弾幕勝負をするわけではないはずですが、登場させていただきます。
場面的には……やっぱり紅魔館でしょうね。
それでは、お楽しみに~。