東方お仕事記   作:TomomonD

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十一仕事目 赤い月夜の終わり

一十百がスペルカードを構える。

「行きますっ! 箒星『シューティング・ブルーム』」

一十百が最も多く使うようになったスペルカード、箒星『シューティング・ブルーム』。

いつも通り一十百の周りから次々と流星が放たれると思われたのだが……。

「あれ?」

「スペルカードが発動しない?」

「あ、そういえば、門番の美鈴さんに使っちゃったからまだ使えないんだ……。どうしよ~」

 

一十百のスペルカードは一度使用すると一定時間しないと使えないもののようだ。

今回の場合、門番の紅美鈴に対して三つのスペルカードを使ってしまっている。

箒星『シューティング・ブルーム』、崩落『多重決壊』、土天『曇天色の大地』。

一十百もまさかこの三つを失った状態で弾幕勝負になるとは思っていなかった。

 

「えと、なら……。濁点『ダークオン・ハート』」

残った一枚のスペルカード、濁点『ダークオン・ハート』。

一十百の周りにハートの弾幕が展開され、一十百と咲夜との間に細かい弾幕の川が流れる。

「へえ、初めて見るスペルね。ちょっと弾幕の速度が遅いけど、当たるのかしら?」

霊夢の心配はハートの弾幕が川を超えた瞬間に消えた。

次々と鳥の形に弾幕が変わり、高速弾幕となり十六夜咲夜を追尾する。

「面倒な弾幕を……、くっ」

急激な速度変化についていけなかったのか、十六夜咲夜は数発の弾幕を体に当てられてしまう。

とはいえ、十六夜咲夜もかなりの使い手であったようで、当てられた弾幕も直撃のようなものではなく、掠らせる程度のものだった。

「そんなっ、このスペルカードのならいけると思ったのに……」

「あまり甘く見ないでください。こちらも本気ですから」

 

 

一十百の持っていたスペルカードから光が消えていった。

「……スペルカードが早くもなくなっちゃいました」

「まさか一枚で私を倒せると思っていたのですか?」

「まさか一枚しか使えないと思っていなくって……」

「「………」」

「なぜか呆れられたような表情をされました。ぐすん」

 

はぁ、とため息をつくと十六夜咲夜がスペルカードを構えなおした。

「これ以上は無駄だと思いますが、どうしますか? 今、退くのならこれ以上は追撃するつもりはありません」

「一十百、どいて。私がやるわ」

「むぅ、どきませんし、退きもしません。もう少し避けていれば使えるようになりますから」

「使えるようになる、という意味は分かりませんが……。そこにいる以上、手を抜く気はありませんよ」

一十百はにこっと微笑んだ。

ピンチの時にする表情ではないが、その表情には絶対の自信が見え隠れするものだった。

 

「……そうですか。なら、覚悟!」

十六夜咲夜の表情が鋭いものになる。

持っていたスペルカードが光り輝く。

「幻世『ザ・ワールド』」

燃えるような赤い弾幕が放たれる。

一十百がそれを回避しようとした瞬間、時が止まった。

前のスペルカードとは比べ物にならないほどのナイフが空中に現れた。

その大半は一十百の方向を向いているようだ。

時間が動き出せば……串刺しは免れないだろう。

 

「あなたには見えているんでしたね。そろそろ時が動き出します。覚悟はいいですか?」

「えへへ……、準備はバッチリですよ」

「!!」

時が動き出す。

しかし、その一瞬前、確かに十六夜咲夜は一十百の声を聞いた。

降り注ぐナイフの雨を一十百は次々とかわしていく。

量だけなら前の時とは比べ物にならないはずだが、前の時より確かに余裕を持ってかわしていく。

避けきれないような幅のところでも、軽くナイフを押し、幅を作り通り抜けていく。

一歩間違えば直撃のようなそんな危うげなかわし方だが、確かにすべてかわしていく。

銀色のナイフが床、壁、天井に突き刺さる。

 

「……一発たりとも当たらないなんて」

「見えますから、避けられます。触れられるものですから、幅を作ることができます」

「だからと言って、それを行動に移せるかというとそうではないはず……。それに、確かに今、あなたは止めた時間の中、私に話しかけた。どういうこと?」

「初めての時は何もわかりませんでした。二回目は、見ることができました。三回目は話すこともできました。次は……動けるかも、しれないです」

「……慣れ、とでもいうつもり?」

「僕にもわかりません。でも今、大事なのは過程じゃないです、避けたという結果で十分です」

一十百が胸を張ってそう言った。

 

「……はぁ、あなたのような人間の相手をもう少し練習しておけばよかったといまになって思ったわ」

「一十百みたいな人間を見つけるころには骨になってるわよ?」

「否定はしないわね」

「してください! 僕が変わってる人みたいじゃないですか」

「「………」」

「えぇぇ、なんでそんな表情で僕をみるんですか?」

「いや、自分自身のことを理解するのって難しいわよね」

「執事なのだから、それくらいは理解しておかないと主が大変よ?」

博麗霊夢は目をそらして、十六夜咲夜はため息をつきながらそういった。

「なんででしょうか、とても孤立しているようなそんな感じがします。ぐすん」

 

 

いくつものナイフと弾幕を避け続け少しだけの時間が流れた。

そして、一十百が待っていた瞬間が訪れた。

「その、光はいったい……」

「やっと来ました! 僕の新しいスペルカードです!」

「そういえば、あの氷の妖精から何かもらってたわね。なるほど、それを待ってたのね」

「いきますよ!」

一十百が地面を蹴り、半回転。

空中でさかさまになりスペルカードを前に突き出す。

「だから、なぜ跳ぶ必要が?」

「……さかさまになる必要もないわね」

「記音『零十区間』」

 

今さらになるが、スペルは書かれている名前の通りの効果が起こる場合が多い。

一十百のスペルカードは特にその傾向が多いのだが、何と書かれているかは読んでいる一十百にしかわからない。

周りの人は一十百が発音した言葉からその効果を読み取らないといけない。

 

よって、今回の場合は……。

「気温『冷凍区間』? 氷の妖精からもらったものから作ったから、氷のような弾幕になるのかしら?」

「悪いけど、多少室温を下げたところで私の動きを落とすことはできないわ!」

博麗霊夢と十六夜咲夜は氷もしくは低温にするようなスペルカードをイメージした。

しかし、一十百が放った弾幕は……。

「「え?」」

一十百から次々と数字型の弾幕が放たれた。

普通の弾幕より少し大きめ程度だが、速度と量が桁違いだった。

規則性がなく、ただ量と速度に任せて放つ弾幕。

まさに、ばら撒き弾幕の原点ともいえるスペルだ。

 

「……なんで数字?」

「氷や冷気とは関係ない? しまった!」

唖然としてしまった十六夜咲夜の反応が一瞬遅れ、いつの間にか目の間に数字の弾幕が展開されていた。

本来ならこれで勝負は終わるはずだった。

しかし、十六夜咲夜の能力が彼女を救った。

わずか一瞬だけ時間を止めることができた。

その一瞬で展開された部分を突破することに成功した。

それでも、次々と降り注ぐ数字弾幕の嵐を無傷で抜けることは難しかったようだ。

 

 

一十百のスペルカードが終わるころには、数発が直撃しボロボロになっていた。

「くっ……まさか……私が」

「こ、これで本格的に打ち止めです。どうしましょう……」

「……私には、まだ一枚スペルカードが……残っています。これで、とどめ……」

そういってスペルカードを振り上げた。

しかし、そのスペルカードが発動する前に手から落ちた。

門番であった紅美鈴と違って十六夜咲夜はあくまでも人間。

いくら強力な能力を持っていたとしても、弾幕が直撃すれば立つことすら難しくなる。

 

「……発動できるほど、力が残っていませんでした……か」

あきらめるようにして十六夜咲夜は崩れ落ちた。

「ふぃ~、ほぼ相打ちですね。すみません、霊夢さん。これ以上お手伝いできそうにないです」

一十百が光の宿っていないスペルカードを見ながらため息を吐いた。

「まあ、スペカがないと一十百は弾幕戦できないから仕方ないわ。まあここで体力の消耗を抑えられたのは大きいわ。後は任せなさい」

「はい!」

そう言うと博麗霊夢はふわりと飛び、紅魔館の奥に向かっていた。

 

 

「うぅ……はっ!」

「あ、気が付きましたか?」

十六夜咲夜が気が付くと、今まで弾幕勝負をしていた相手がすぐ目の前にいた。

反射的にナイフを投げてしまう。

「えっ?」

両手に何かを持っていたためナイフを弾くことができず、一十百に直撃する。

ガキン!

「ふぁ、ふぁぶなかった……」

正面に飛んできたナイフを口で受け止めることで何とか直撃を避けることができた一十百。

 

「なぜ、目の前に?」

「ちょっと、手当てを……」

「手当て?」

その時になって自分の右手や額に包帯が巻かれていることに気が付いた。

一十百の両手にも同じ包帯が持たれていた。

ちょうど頭に包帯を巻いているところでナイフを投げてしまったらしい。

「……わ、わるかったわ」

「いえいえ」

 

「それにしても……、今さっき戦っていた相手の手当て。下手をすれば命を奪われるわよ」

「そ、そうかもしれません……。でも、放っておけなくて」

「……はぁ~。あなた、長生きできないタイプね」

「そうかもしれません、えへへ。はい! これで応急処置はおしまいです」

とても素人がしたような応急処置には見えないほど、完璧に近い応急処置がされていた。

「手当て、得意なのかしら?」

「執事ですので、いざという時にできないと大変ですから」

「そう……」

立ち上がろうとした咲夜。

しかし、うまく体に力が入らずよろけてしまう。

「だ、大丈夫ですか?」

「思ったより、ダメージを引きずってるわね。あわよくば、お嬢様に加勢しようと思っていたのだけど……無理そうね」

「だめですよ、咲夜さんは人間なんですから無理をしちゃ」

そう言って一十百が立ち上がった。

一十百は怪我ひとつしていないようだった。

 

今思ってみれば、一十百と弾幕勝負をして一発たりとも当てることができなかった。

これで、もしスペカがあと一枚でも残っていたら……いや、もし普通の弾幕を放てるくらいの実力があったなら、一方的に負けていたかもしれない。

そう思うと、相手の手当てをする余裕くらいあるのだろう、と納得してしまった。

 

 

「……どれくらい気を失ってたか教えてくれないかしら?」

「う~ん、だいたい十三分と三十六秒くらいですか?」

「それは、だいたいとは言わないわ…」

「ほぇ?」

「まあいいわ。そうすると、お嬢様とあの巫女の弾幕勝負はまだ始まったばかりかしら」

「わからないですけど……。今さっきすごい音がしましたから、たぶん……」

ゴウン、と地鳴りを思わせる音が響き渡る。

「ほら、また」

「今ちょうどってところね……。お嬢様のところに行かないと」

「だめですよ」

「加勢はしないわ。でも、たとえどんな時も、どんな状態でも主のもとに駆けつけるのが従者、でしょ?」

「そうですね」

にこっと微笑んで一十百は手を貸す。

その手を支えに十六夜咲夜が立ち上がった。

「急ぎましょうか」

「ええ」

 

 

二人が最後の扉を開けた時、すでに弾幕勝負は終わっていた。

片膝をついた小柄な少女と、ところどころ巫女服が破れているものの腕組みをしてその少女を見ている博麗霊夢がそこにはいた。

 

「遅かったわね……って、律儀に手当てしてたの?」

「そのまま放置というわけにはいきませんよ」

「咲夜、あなたも負けたのね」

「すみません、お嬢様」

「まあいいわ。お互い命があった、それで十分よ」

「はい」

「じゃ、さっさとこの霧止めなさい」

「こっちはけが人なのに容赦がないわね」

「当り前よ。退治しないだけありがたく思いなさい」

 

 

こうして幻想郷を包んでいた赤い霧は消え、無事異変解決となった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

記音『零十区間』:僕の五つ目のスペカです。0から10までの形の弾幕が次々と放たれるスペルカードです。量と速さで圧倒するような弾幕です!by一十百  なんで数字?by霊夢  後で見たのだけど、零と十の区間みたいね。by咲夜  また変わったスペカなんだぜ。by魔理沙

十六夜咲夜の主:まだお話ししたことはないのですけど、小柄な女の子のようでした。明日にでもお話ししてみようと思います。こちらの吸血鬼というのは外の世界とはちがうのかなぁ?by一十百
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