東方お仕事記   作:TomomonD

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十三仕事目 日差しの中の男の娘

幻想郷に本格的な夏が訪れた。

日差しが強まり、焼けつくような世界が広がっている。

博麗神社の石畳からも陽炎が揺らつき、真夏を感じさせる。

 

「暑い……。暑くて死んじまいそうだぜ」

「わかってるわよ、暑いことくらい」

博麗霊夢と霧雨魔理沙が居間でうなだれている。

吸血鬼を退けた博麗の巫女も、桁違いの一撃を放つ魔法使いも、この暑さには勝てないようでぐったりしている。

「おい、霊夢……さすがにさらしだけってのはだめだと思う」

「シャツ一枚でここにいるアンタに言われたくないわ…」

二人とも最低限の服のみ着ているような状態で、他人に見せられる格好とは程遠い。

「冷たい飲み物くらい出してほしいぜ…」

「私だってほしいわよ。魔法使いなんだから、何とかできないの?」

「できたらやってるぜ…」

「そうよね」

二人にいつものような覇気がない。

「一十なら、何かいい方法を思いつかないのか?」

「もうやってもらってるわ」

「おっ! それは期待できそうだぜ!」

がばっと寝転がっていた魔理沙が起き上がる。

「それで、何をしているんだ?」

「氷室がどうとか言ってたわ」

「氷室? 氷を置いておく場所の氷室か?」

「そうなんじゃないの?」

氷室とは冬の時期に雪や氷を集めておき、それを夏に取り出して食べるということを可能にした収納部屋のことである。

基本的には地下深くに作られ、外気に触れないように作られている。

「でも、そんなものを作れるのか?」

「それはできてるらしいわ。今はそれの効率のいい使い方を考えて、氷を運んでいるらしいのよ」

 

 

幻想郷に氷を作るようなものはまだ作られていない。

つまり、真夏に氷を仕入れるのはとても困難である。

しかし、一十百にはとても心強い協力者がいてくれた。

「ありがとう、チルノ。本当に助かったよ」

「まあ、あたいにかかれば、これくらいらくしょーね」

氷の妖精チルノ、冷気を操る程度の能力を持つ妖精である。

彼女の協力を得て、氷室の中にはたくさんの氷の塊を保存することに成功した。

チルノもチルノでこの暑さには参っていたらしく、氷室の中で涼んでいる。

一十百が協力を頼みに行ったときは半分くらい溶けていた状態で、一十百をかなりあわてさせた。

「でもこれで、当分夏の間の氷には困らないよ」

「なくなったら、あたいに頼めばいい。いくらでも作ってあげる」

胸を張りながらチルノがそう言った。

「それはありがたいよ。そうだ、せっかくだからかき氷でも作ろうかな」

「かき氷?」

「小さく砕いた氷の上に甘いシロップをかけて楽しむ冷菓子だよ。ちょっと待っててね」

一十百がポケットからペーパーナイフを取り出す。

氷の器をチルノが用意し、その上に氷の塊を放り投げる。

空中で一十百がその氷に向かって何百という突きを繰り出す。

すると、氷は小さな粒となり氷の器の上に山のようになった。

「おお~」

「よしっ。後は、シロップをかけて……って、シロップがないや。う~ん、あの木の実を砕いたときに出る果汁と砂糖を混ぜて作ればいいかな」

 

一十百はいったん氷室を後にし、台所に目的のものを取りに行った。

両方とも使うと思って多めに貯蓄していたのが役に立ったようだ。

氷室に戻ってきた一十百の手には、赤色のとろりとした液体の入った瓶が持たれていた。

「おまたせ! これをかけて、完成!」

「へぇ~、これがかき氷か。いただきます!」

ぱくっと一口、直後チルノの表情が驚いたものに変わる。

「おいしい! 氷とこの赤いのだけなのに!」

「夏の暑い日にはとってもおいしく感じられる冷菓子だよ。食べ過ぎておなかを壊さないように……って、チルノは氷の妖精だからそれはないか」

 

かき氷を食べ終わり、氷室から出る。

まだ日は高く、容赦のない日差しを照り付けてくる。

「まぶしい。氷室の中が暗かったせいもあって、目が痛い」

「あ~つ~い……。あたい、ひむろの中で暮らそうかな?」

「それは、色々とだめだと思うよ」

そんなことを話しながら境内に戻る。

部屋の中に入ると、霊夢と魔理沙がぐったりとしていた。

「あ、おかえり」

「お、チルノも一緒か。涼しそうだな」

「えと……あの、いくら人通りが少ないとはいえ、その恰好はちょっと…」

一十百が少しだけ目をそらして、二人に注意する。

「いいじゃない。今日は人も来なそうだし」

「それでも、だめですよ。霊夢さんたちだけならいいかもしれないですけど、一応僕は異性なんですから」

「「……はい?」」

「え?」

一十百の言葉に疑問を浮かべる霊夢と魔理沙。

その疑問に疑問を浮かべる一十百。

「ちょ、ちょっと待って……。今、異性って…」

「はい。だって、霊夢さんたちって……女性ですよね」

「当り前だぜ」

「なら間違ってませんよ」

「「……もしかして、一十百って男だった?」」

「ふぇっ!? あ、当り前ですよ! まさか、今まで僕のこと女の子だとおもってました?」

「「うん」」

即答である。

「ひどいですっ!」

「だ、だって、その容姿で男って見えないわよ。声だって高いし」

「あれだけ家事が得意だったから、疑う余地もなかったぜ」

「あうぅ……。とにかく、冷たい飲み物を持ってくるので、それまでには着替えてくださいね」

一十百はそういって部屋を出て行った。

 

少しの沈黙が流れた……。

「魔理沙」

「なんだぜ」

「気づいてた?」

「いや」

「そうよね」

「気づけるほうがすごいと思うぜ」

ふぅ、と二人が息を吐く

「……見られたわよね」

「考えないほうがいいと思うぜ。恥ずかしくなる」

「やっちゃった感じがするわ…」

「同じく」

 

 

一十百が氷の入った麦茶を持ってきたときには二人はいつも通りの格好に戻っていた。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがと」

「……だぜ」

「さんきゅー」

麦茶を飲みほして、気持ちを落ち着かせる。

いったん冷静にならないと、墓穴を掘りかねない状態だ。

「ねえ、一十百」

「なんですか?」

「なんで、男だって初めに言ってくれなかったのよ……」

「だって、気が付いてると思ってて…」

「あたいは気が付いてたよ」

「「えっ!!」」

驚くことにチルノは一十百が男であるとわかっていたらしい。

「いつ? いつ気が付いたの?」

「初めて会った時から気づいてたよ」

「なんで、どうして、一十が男だってわかったんだ?」

「う~ん、なんとなくかな。まあ、さいきょーのあたいだからかもね」

ふふんと得意げに胸を張るチルノ。

「ほら、チルノはわかってたみたいですし…」

「「これはカウントしない」」

「あうぅ。とにかく、僕は正真正銘の男ですから」

「それはわかったわ、うん。次から気を付けるわ」

「同じく気を付けるぜ」

その一言が聞けてホッとしたのか、一十百が立ちあがった。

「それじゃ、洗濯をしてきますね。汗をかいてしまったら、脱衣所に置いておいてください。一緒に洗っちゃいますから」

そう言って一十百は井戸のほうに向かっていった。

 

「……あ~、今になって恥ずかしくなってきたわ」

「終わったことだぜ、深く考えないほうがいい」

「そうね……」

「十百って二人の服を洗ってくれるの? あたいも見にいってみようっと」

チルノも一十百の後を追って井戸のほうに向かっていった。

「「っ!!」」

チルノの一言で二人が何かに気が付く。

「魔理沙」

「……いや、気にしたらダメだぜ」

「でも…」

「気にしたら、顔からマスタースパークが出そうだ」

「……やっちゃったわね」

「ああ」

 

 

一十百は洗濯を終わらせると、気になったことがあったのか霧の湖に向かっていった。

チルノも帰るということで、一緒のようだ。

霧の湖にはルーミアと大妖精がちょうど来ていた。

「十百なのか~」

「おひさしぶりです」

「あ、ちょうどよかった。二人とも、ちょっと聞きたいことが…」

「「?」」

「僕って、男の子? 女の子?」

「男の子なのか~」

「えっ、女性じゃないんですか?」

チルノに続いてルーミアは一十百の性別をしっかり見抜いていたようだ。

残念ながら大妖精は女性だと思い込んでいたらしい。

「僕は男だよ」

「やっぱり、そーなのかー」

「え? え! ええっ!!」

「なんか、すごい驚かれた…」

「大ちゃん、気が付いてなかったの?」

「女性とばかり…」

「やっぱり、女の子に見える?」

「はい…」

「う~ん、これで二勝三敗かぁ……。紅魔館の人たちにも聞いてみようかなぁ…」

 

一十百はそのまま紅魔館に向かうことにした。

まずは門番、紅美鈴。

「えっ、女の子に決まってますよ!」

「なんだか確定されてしまいました……」

「あれ?」

次に大図書館の二人。

小悪魔はしっかりと見抜いていたようで……。

「男性ですよね。悩みますけど、男性っぽい雰囲気がありますから」

「おお~」

対してパチュリー。

「……え、その容姿で男? みえないわ」

「率直に言われてしまいました……ぐすん」

そして最後に紅魔館の主レミリアとその従者咲夜。

「男性ですね。執事と言っていましたし、その貫録もありましたから」

「女性でしょ。男性だったら詐欺ね」

「さすが咲夜さん。レミリアさん……詐欺って……ぐすん」

「え? え? あれ?」

「お嬢様……」

 

 

結局、一十百の性別を見抜いていたのは、ルーミア、チルノ、小悪魔、咲夜の四人。

対して見抜けなかったのは、霊夢、魔理沙、大妖精、美鈴、パチュリー、レミリアの六人。

「……ぐすん」

「いや、そこまで落ち込まなくても…」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

氷室作り:神社の裏手に氷室を作ってみました、これで夏の暑さに勝てますね。チルノに協力してもらって氷もたくさん作れました。かき氷もおいしく食べられましたし、いうことなしです!by一十百  おいしかった! またたべたい。byちるの  チルノちゃんがちゃんと書けるようになっていてよかったです。by大妖精

男性としての僕:僕は男ですっ!by一十百  次から気を付けるんだぜ……。by魔理沙  見た目だけじゃわからなかったです…。by美鈴  詐欺だわ。byレミリア  まあ一十百は男の娘だからな~。by???  あ、また。by紫
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