東方お仕事記   作:TomomonD

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十五仕事目 全力で遊ぶための封印弾幕戦

霊夢たちが紅魔館に着く少し前……。

 

 

一十百は妖精メイドたちに掃除の基本を教えていた。

その時、強い衝撃が紅魔館を襲った。

「うぁっ……。今のは……、みんな大丈夫?」

「なんとか」

「無事です」

「転びましたけど…」

妖精メイドたちの無事を確認すると一十百は咲夜のもとに急いだ。

 

「咲夜さん、今の振動は…」

「無事だったみたいね。今の振動は…」

話し合っているときにまた強い衝撃が襲ってきた。

「おっと…」

「随分機嫌が悪いわね……。いつもなら、ここまでひどくないのに」

「機嫌、ですか?」

「ええ。十百君には言っていなかったけど、レミリアお嬢様には妹が一人いらっしゃるのよ」

「ふぇっ? 妹さんですか? もしかして…」

「ええ。この衝撃は妹様が暴れてらっしゃるんだと思うわ」

「でも、どうして機嫌が…」

少し咲夜が考える、そして一言。

「たぶん、お暇なんじゃないかしら」

「ほぇ……。あ、暴れるほど暇なんですか」

「妹様のことを悪く言うわけにはいかないけれど…、多少気がふれている所もあるから…」

 

一十百が少しそこで考える。

いま、僕にできる事は……。

「よし、じゃあ遊びましょう!」

「はい?」

「暇だから暴れてるんですよね? なら、何か暇つぶしをしてあげれば機嫌も直りますよ!」

「…確かにそうかもしれないけれど、正直危険よ」

「ほぇ?」

「妹様の好きな遊びは、弾幕ごっこ……つまり弾幕戦だからね」

「そ、そうなんですか……」

弾幕戦となると一十百はかなり不利になってしまう。

通常弾幕が打てないのはハンデにしては大きすぎる。

しかたない、いつも通り私が相手を……と咲夜が踏み出そうとしたときその前を一十百が歩き出していた。

「ちょ、ちょっと……」

「はい? どうかしました?」

「妹様の相手をするつもり?」

「はいっ! 僕の持っているスペルカードじゃ満足してもらえるかわからないですけど、せっかくなので」

にっこり微笑んで一言そういうと一十百は走り去っていった。

唖然とした咲夜も我に返り、一十百を追いかけた。

 

 

地下室、パチュリーのいる大図書館。

その扉のさらに奥……。

誰も近づかないようなところに一つの扉があった。

「今日は随分と機嫌が悪いわね…」

「パチュリー様……、大丈夫でしょうか?」

「問題ないわ。今、この館の周りに雨を降らしてるから。仮にここを抜けられても外には出れないわ」

パチュリーがまた本を読みなおそうと椅子に座った時、大図書館の扉が開かれた。

「たしか……こっちのほうから」

「あ、十百さん」

「小悪魔さん、こんにちは」

入ってきたのは一十百。

何かを探しているような、そんな感じだ。

「探し物かしら?」

「パチュリーさん、こんにちは。探し物…というよりも、探し人なんですけど」

「誰を探してるの? レミィなら博麗神社に向かったわよ。咲夜なら……」

「いえいえ。レミリアさんの妹さんを探しているんです。お暇で機嫌が悪いらしいので、少しお相手して暇を紛らわしてあげようかと」

その一言を聞いて、パチュリーの目が鋭く光った。

 

読んでいた本を閉じ、椅子から降りる。

「……いま、フランのところに行かせるわけにはいかないわ」

「ふえっ、何でですか?」

ズウン、と後ろの扉から衝撃音が鳴り響く。

「今のを聞いてくれればわかると思うけど、今行くのは危険なの」

「……そこにいらっしゃるんですね」

「どうしても通るつもり?」

「さすがに機嫌が悪いまま放置するのはかわいそうすぎます」

パチュリーは一十百をまっすぐ見つめる。

そして気が付く。

彼の目には恐れ、嫌悪、憤怒……その他考えられる負の感情がまったく宿っていない。

ただ……ただ単に遊んであげたいという意思のみ。

腹立たしいほど、まっすぐね……。

 

「レミィから、あなたは客人として扱えといわれてるわ。客人を危険な目に合わせるわけにはいかないから……実力を持ってお引き取り願うわ」

そう言ってスペルカードを構える。

「今日は体調がとてもいいの。あなたがくれた薬のおかげかしら? 今までの簡易的な魔法じゃなく、本物の魔法を使うことになるわ」

「うぅ……。でも、僕はここを通らないといけないんです。もしも、弾幕戦をして勝ったら通してくれます?」

「勝てたら、考えるわ」

「わかりました」

一十百はいったん距離を取る。

そして、近くにあった机の上に自分のスペルカードをすべて置いた。

「……どういうつもり?」

「僕のスペルカードは一回使うと少しの間使えないんです。だから、一枚も使うわけにはいきません」

「……随分なめられたものね。小悪魔、下がりなさい」

「えっ…でも」

「巻き沿いを食らいたくなければ下がりなさい。彼には現実の厳しさを一回見せないといけないわ。この先、そんなことじゃ本当に命を落としかねないもの」

小悪魔は心配そうに二人を見る。

そんな表情をしたのを心配に思ったのか一十百がいつもの笑顔を浮かべた。

「大丈夫ですよ。小悪魔さんの心配もわかりますから。だから、いったん下がったほうがいいですよ」

「はい…」

小悪魔が大図書館の扉まで下がる。

扉の所には咲夜がすでに到着していた。

しかし、この一戦を止めるつもりはなさそうだ。

静かに、それでいて鋭い気配を出したまま見守っている。

 

「覚悟はいいかしら?」

「準備はオッケーです」

一十百の雰囲気はこれから激戦を繰り広げるようなものではなく、いつも通りのふわりとしたようなものだ。

パチュリーはそれを見て、今さっきのスペルカードを使わないといったのが余裕でも傲りでもないのを感じ取った。

彼にはこの先の…フランと本気で遊ぶということに全力を費やすつもり。

私には本当にスペカを使わない……ようね。

「月符『サイレントセレナ』」

強い光とともに、パチュリーのスペルカードが発動する。

パチュリーから月の雫のような弾幕が放たれる。

同時に空からも月の雫が降り注ぐ。

体調がいいというのは本当のようで、五行に属さない天の符をはじめから使ってきた。

天の符は詠唱、魔力量、集中力を大きく使う符でもあり、それだけ強力なスペルでもある。

「よっ、やっ」

しかし、その強力なスペルでも一十百の速度と回避率にはまだ届かないようだ。

冷たい輝きを宿す月の雫を次々とかわしていく。

「!! 当たらない!」

「当たるわけにはいきません。僕の場合、当たったらそれでおしまいですから」

だんだんとスペルカードの光が弱まっていく。

月符は攻める符ではなく、どちらかというと削る符といったところだ。

もっと、攻める力のある符……。

「そう、ならこれで…」

パチュリーが二枚目のスペルカードを構える。

月符が消え、ほんの少し静寂が訪れる。

 

「日符『ロイヤルフレア』」

二枚目の符、ロイヤルフレア。

月符と違い日符はまさに太陽のように焼き尽くす。

二人の中央から燃え盛る弾幕が回転しながら放たれていく。

さながら、小型の太陽を模した符というところか。

「これなら…」

「これくらいなら、まだ」

一十百がタタンとステップを踏む。

その前を、後ろを炎の弾幕が通り過ぎる。

死角から襲いくる炎の弾幕すら、彼には当たらないようだ。

後ろを見ずに、まるで見えているかのように避けていく。

「うそ…」

「見えないですけど、なんとなくで避けられるんです。外の世界でも、このなんとなくに助けられてきましたし」

 

燃え盛るような弾幕もだんだんと衰えを見せ始めた。

二枚目のスペルカードも終わろうとしている。

相手のスペカ一枚も使わせられずに自分の主力のスペカを二枚も使ってしまったことになる。

これが本来の弾幕勝負だったなら、敗北濃厚だ。

「……まさか、これを使うことになるなんて」

パチュリーがポケットから一枚スペルカードを出す。

今までのスペルカードとは明らかに違う、使う前から強い力を感じるスペルカードだ。

一十百もその気配を感じ取ったのか、ステップを使い体勢を立て直す。

「それ…」

「正直言って驚いたわ。これ、使うつもりじゃなかったけど……。覚悟っ!!」

 

魔法使いの本領発揮、といったところか。

パチュリーの足元に巨大な魔方陣が描かれる。

外の世界で魔方陣の勉強をしてきた一十百にはその魔方陣の内容が理解できた。

「ほぇぇっ!! 五属性の平衡励起!! 力を強めあう属性を連続して同時に展開させることで元の何倍もの力を得る、属性魔法の原点であり神髄!」

「まさか、魔方陣を見ただけでそこまでわかるなんてね。天賦の才かしら? まあ、わかってるならいいわ。手加減はできないわよ」

魔方陣が強く輝く。

それ以上に強くスペルカードが光を放ち始める。

「火水木金土符『賢者の石』」

パチュリーの魔法陣が五つに分かれる。

分かれた魔法陣が新たな魔法陣を形成する。

次の瞬間、五つの魔法陣から火、水、木、金、土を模した弾幕が放たれる。

「ほぇっ!! たった一枚のスペルカードでここまでの弾幕が! おっと」

一十百は飛ぶこともできなければ、瞬間移動のような空間転移も出来ない。

つまり、弾幕の隙間をかろうじて通るほか避ける道がない。

五箇所から桁違いの弾幕を降り注がせるこのスペカは、一十百にとってとても厳しい弾幕となった。

けれど……それでも、一十百に弾幕が当たる事はなかった。

 

次々と放たれる五行の弾幕を避け、一十百が一言つぶやく。

「……68」

「? 何のこと?」

一十百が言った何かの数字。

その意味がわからぬまま、弾幕は展開され続ける。

時に近づき、時に大きく離れ、軽く跳び、地面すれすれに伏せ、一十百は弾幕をかわしていく。

「23、22……」

「カウント? 一体何の……、まさか!」

そのときになって初めて一十百の言っていた数字の意味を理解する。

そして……、そのカウントは10を切る。

「6、5、4…」

タンとステップを踏み、弾幕の隙間を見極める。

「3、2…」

一十百の斜め上に弾幕の隙間ができる。

一十百は大きく跳んだ。

「1…」

ふわりと浮いた一十百がパチュリーの目の前に降り立つ。

「0」

スタンと一十百が着地した瞬間、五つの魔法陣が音を立てて崩れ去った。

 

「……あなたのカウントは、このスペルカードの終わりまでの時間というわけね」

「はい。五属性の平衡励起には弱点はありません。たとえ一つを砕いても、力の均衡によってすぐに再生できますから…。唯一の欠点は、その術式が強力すぎて魔法陣が長い間耐えられないことです」

「そこまで……。よく知っていたわね」

「学校で勉強してましたから。それと…、お身体大丈夫ですか? あれだけの力を使ったんですから、たとえ体調が良くっても相当消耗してしまったはずです」

「あなたの言う通りよ。小悪魔、椅子を持ってきて」

「は、はい」

パチュリーは小悪魔が持ってきた椅子にゆっくりと腰掛けた。

 

 

「ふぅ…、さすがに疲れたわ。止められると思ったんだけど…」

「えへへ、僕には僕のやる事がありますから。それをやり遂げるまで止まるわけにはいきませんよ」

もう一度パチュリーは一十百をみる。

弾幕勝負をする前と変わらない、強い意志を宿した瞳がそこにはあった。

彼の意思を曲げることができなかった時点で、私に勝ち目は無かったのかもしれないわね…。

目の前で微笑む少年を見て、パチュリーはそう思うのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

レミリア・スカーレットの妹:とても強い力を持つ妹さんらしいです。好きな遊びは弾幕ごっこと聞いたので、全力でお相手しようと思います。機嫌が直るといいなぁ……。by一十百  正直心配だけど、任せるわ。byパチュリー

スペルカード無しの弾幕勝負:僕は通常弾幕は使えませんから、全力で避けるだけの弾幕戦です! 何度も出来るわけじゃないけれど、出来ないことはなさそうです。by一十百  十百君の速さなら、それだけに集中すれば可能だと思うわ。by咲夜
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