東方お仕事記   作:TomomonD

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十七仕事目 青い光との約束

一十百とフランドール・スカーレットの弾幕ごっこは続いている。

 

一十百のスペルカード、崩落『多重決壊』は時間が経つごとに決壊の速度も上がり弾幕で囲まれた瞬間に降り注ぐような速度になってきている。

対するフランドールの禁忌『カゴメカゴメ』も弾幕の檻が出来上がると同時、もしくはそれよりも早く強い光の弾幕が飛んでくるため、こちらも直後に壊れ降り注ぐような状態となっている。

双方の弾幕戦はかなり難易度の高いものになりつつあった。

しかし、二人の表情に疲れの色は見えない。

何十度もの構築と崩壊が起こる。

 

そして……、スペルカードの光が消えていった。

「四枚目、よけきれたっ」

「まだ、壊れないんだ。ふ~ん」

フランドールが部屋の中央に移動する。

そして、スペルカードを大きく掲げる。

「禁忌『恋の迷路』」

掲げたスペルカードが怪しく輝く。

フランドール・スカーレットから回転するように弾幕が展開されていく。

正面から見た場合、ほんの少しの隙間しかないように見える弾幕だ。

しかし、一十百は思いっきり弾幕の壁の周りを走り始めた。

すると、抜けられるような幅があいている場所が一カ所あった。

急いでそこに滑り込む。

すると、同じような弾幕が迫ってきている。

「なるほどっ! つまり……」

一十百はこのスペルカードの避け方を理解した。

予想通り、またも一カ所通り抜けられる幅があいている。

そこに滑り込む。

「迷路、かぁ。確かに迷路みたいだ。それも、あんまりのんびりはできない迷路だね」

唯一、滑り込むことができる空間も、時間が経つと次の弾幕の壁に飲み込まれてしまう。

次々と通れる場所を見つけて滑り込んでいく。

この時、一十百は弾幕の壁すれすれを走るようにしていた。

被弾する危険性は上がるものの、最も早く次の空間にたどり着くことができる。

そう思って一十百はそのラインを走り続けた。

 

そして、ふと気が付く。

自分の持っているスペルカードの素が光り輝いている。

「これは……。よしっ」

一十百が今まで走っていたラインから外れる。

バックステップで一気に距離を取る。

次の弾幕の壁がすぐそこまで迫ってきている。

「このスペカの素は……パチュリーさんからもらった物だけど……。これって、よ~し…」

一十百の足元に魔方陣が描かれる。

この魔方陣に一十百は見覚えがあった。

かつて、初めて会った魔法使いが使っていた魔法。

今や親友とも呼べる、大切な夕焼け色の友人が使っていた魔法。

その時にうっすらと見える魔方陣。

それと全く同じものだった。

「爆風『爆炎の都』」

夕焼け色の友人の魔法と名前は違うものの、思い描いた弾幕が現れる。

一十百の目の前に巨大な炎の弾幕が出来上がる。

そして、目の前に迫った弾幕の壁を燃やし尽くしながら渦を巻く。

いつしか、巨大な爆炎の渦となりフランドールの弾幕をすべて燃やし尽くしていた。

「……すごい、すごいね!」

「あつっ、こんなにすごい威力のものを…使ってたんだ」

 

しかし、渦を巻いた炎の弾幕はフランに当たる直前で急に失速し消えていく。

同じような弱点を抱えている友人の姿が思い出される。

飛距離が伸びないと、頭を抱えていたなぁ……。

一十百のスペルカードの光はすでに消えかけていた。

次のスペルカードを構える。

すでにフランドール・スカーレットは次のスペルカードを決めていたようだ。

そのスペルカードは今までと少し違う、いやな気配を纏っていた。

「……残り五枚かぁ。折り返し地点だね」

「ねぇ、そろそろ、壊れてもイイヨ?」

ぞくりと一十百が戦慄する。

今までとは違う気配を感じ一十百はフランドールを見上げた。

彼女の目には酷く物騒で残酷な光が灯っていた。

「あぅぅ、ちょっと…ここからが大変かも」

一十百は大きく息を吸い込む。

よし、と心の中で大きく唱えた。

 

「禁弾『スターボウブレイク』」

「情景『虹にかかる賛辞』」

このスペルカードの素は門番の紅美鈴からもらった物だ。

彼女の弾幕は虹色の弾幕であり、一十百もそれに見とれて当たりそうになった。

その意識が反映されているようなスペルカードだ。

一十百の目の前に虹色の弾幕によって作られた虹が現れる。

そして、どこからともなく拍手の音が聞こえてくる。

その手拍子に合わせて虹色の弾幕が相手に向かって放たれる。

弾幕自体は速くないが、一度に放たれる弾幕の量が多いため避けにくいスペルカードと言えるだろう。

対するフランドールのスペルカードも虹色の弾幕を作り上げるものだった。

天井付近にいくつもの虹色の弾幕が展開される。

その弾幕はそのまま容赦なく降り注ぐ。

展開され降り注ぐ……。

ただこれだけのスペルカードだが展開の速さ、そしてその量が多いため避ける側としては厄介なスペルカードである。

奇しくも虹色の弾幕が降り注ぐような弾幕戦となった。

一十百にとって、力任せに降り注ぐような弾幕は避けやすい。

たとえその量が多くとも、それほど苦にはならない。

「これなら、いけるっ」

タン、タンと小刻みなステップを織り交ぜ次々と降り注ぐ虹色の弾幕をかわす。

問題は降り注ぐ虹色の弾幕に邪魔をされて一十百の弾幕がほとんど届いていないことだった。

どうやら総じてフランドールのスペルカードは一十百のものより強力なもののようだ。

おかげで一十百は苦戦を強いられている。

煌びやかな虹色の弾幕戦もとうとう終わりを迎えることになった。

双方のスペルカードから光が失われていく。

「ほえぇ、これで六枚目、突破だね」

「まだ、コワレナイんだ。そっか」

フランドールの周りに濁った煙のようなものが集まりだす。

その煙のようなものはフランドールが構えたスペカの中に集められていく。

次のスペルカードは気の抜けないものになる。

そう思った一十百は今まで使わなかったスペルカードを手にする。

一番初めに手に入れたスペルカード。

たぶん、自分の持っている中で一番上手く使いこなせる。

一十百の周りに淡い青い光が満ちる。

その光は同じようにスペルカードに集められていく。

 

二人が同時にスペルカードを振り下ろす。

「禁弾『カタディオプトリック』」

「箒星『シューティング・ブルーム』」

フランドールから青白い光を放つ弾幕が放たれる。

大小に分かれている弾幕が、だいたい五方向に向かって打ち出された。

しかし、ほとんどの弾幕が一十百とは別の方向に飛んでいく。

その弾幕は壁にぶつかると跳ね返り、軌道が変わった。

今まで跳ね返る弾幕は見たことがない一十百はその弾幕を見て驚く。

とはいえ、驚いてばかりはいられない。

一十百はその反射弾幕の軌道を予測し、その空間めがけて流星弾幕を放つ。

「行けぇっ!」

反射弾幕を切り裂いて流星弾幕がフランドールに飛び交う。

今まで避けていたフランドールが、初めて弾幕を受ける。

バシッと弾かれたような音が部屋の中に広がる。

 

フランドールは…無傷だった。

当たる直前で反射弾幕が盾になったようだ。

一十百も一十百で集中して狙うことはできなくなってきた。

反射弾幕は速いものもあれば遅いものもあり、その速度差のせいで縦横無尽に弾幕が展開されてしまっている。

そのため、自分の回避に専念し、流星弾幕の軌道はスペルカード任せとなっている。

ほんの少し余裕ができたときに流星弾幕を少し誘導させフランドール目掛けて放つ。

その程度のことしかできないほど、弾幕の密度が高くなってきてしまっていた。

双方、直撃こそしていないものの、掠めている弾幕は少なくない。

そのうちの数発は服を強く掠め下手をすれば肌に届いてしまったかもしれないものもあった。

流星弾幕と反射弾幕がぶつかり、交差し、部屋の中を駆け巡る。

 

 

「あっ…」

一十百のスペルカードから光が消えていく。

遠くに見えるフランドールのスペルカードからも同じように光が消えていく。

威力に差はあるものの、スペルカードが発動している時間は同じくらいのようだ。

二人のスペルカードから光が消えると、部屋の中の弾幕が消えていった。

「こ、これで七枚目…」

「ナンデ、まだ立ってるの? 壊れてナイノ?」

「頑張って避けてるからね。もう少しくらいならいけるよ」

一十百もこれほど長い弾幕戦をやったことはない。

今までも短期決戦が主で、今回のような長期戦は外の世界でもやったことがなかった。

体力は十分に残っているのだが、精神力と集中力が落ちてきているのが一十百自身にもわかっていた。

今までは、当たることのなかった弾幕が服をかすめるようになってきた……。

スペルカードが難しくなったのもそうだけど、それ以上に僕の集中力が途切れてきているんだ。

一十百の残りのスペルカードは一枚。

すでにスペルカードは出来上がっている。

 

「よし! 気合を入れてっ!」

タンと一十百が足を踏み鳴らす。

スペルカードが構えられる。

同じようにフランもスペルカード構える。

どこかでカチリと時計の針の音が聞こえた。

「禁弾『過去を刻む時計』」

「時空『過去と現在と未来へ向かう懐中時計』」

フランドールのスペカから巨大な十字の光が二つ現れる。

その二つの十字の光は片方が時計回り、もう片方が反時計回りで一十百に向かっていった。

一十百のスペルカードも似たようなものだ。

時間を操るメイド、十六夜咲夜から渡されたスペルカードの素から作られたスペカは巨大な十字の光を三つ作り出していた。

フランドールものに比べると一つの大きさが小さいものの、よく似ている。

そして、その弾幕の軌道も同じであった。

一つが時計回り、一つが反時計回り……。

そして、フランドールのスペカにはない三つ目の十字はそのまま動かず、フランドールへと向かっていった。

 

次々と放たれる十字状の弾幕で部屋は覆い尽くされていった。

弾幕の大きさが巨大なため、かなり大きな避け幅を作らなければならない。

空を飛べる分その空間が作りやすいフランドールに比べ、一十百はかなりつらい弾幕戦となっている。

一十百も壁を蹴り、疑似的に空によけたりしているがそう何度もできることでもない。

わずかに避けそびれた左腕の服の袖が大きく破れる。

腕は奇跡的に無事だが、この被弾で一十百は自分自身の限界が近いことを理解する。

限界まで戦う……。

今までの生活の中でも、そんなことはなかった。

「でも、だからこそ、ここで諦めるわけにはいかないよ!」

すでに一十百のスペルカードの光は消えかけている。

たぶん、もうすぐこの弾幕戦も終わる。

次からの弾幕戦は速度と回避のみを武器に行わなくてはならない。

今の僕の集中力でできるとは到底思えないけど……。

やるしかない、よね。

一十百の中から無駄な力が消える。

それと同時に二人のスペルカードから光が失われていった。

 

 

「あと、二枚」

「もう壊れテイイヨ。どうせ、ダレモいなくなるんだし」

どこか、遠くを見ながらフランドール・スカーレットがそう言った。

その姿はどこか寂しそうで、そしてとても危なげであった。

今までとは違う光を宿したスペルカードが取り出される。

「秘弾『そして誰もいなくなるか?』」

光がフランドールを包み込むとその姿が消えた。

ただ、青い弾幕がこちらに向かってくるだけ。

「これが咲夜さんの言っていたスペルカード。この時だけは、何をしても意味がないんだっけ。避けることに専念しないと!」

青い弾幕は一十百を追尾しているようだが、その速度は遅い。

弾幕の軌跡から別の弾幕が放たれているものの、避けられないほどでもない。

タン、タン、タンと一十百は無理のないステップで距離を取る。

すると、追尾弾幕が一度消える。

直後、部屋の数カ所から同じ追尾弾幕が現れる。

「うわぁ、油断するつもりはないけど。危なかった」

追尾弾幕の下をくぐり部屋の中央まで戻る。

追尾弾幕はある程度まで追尾したものの、途中で消えていった。

すると、部屋の周りに不思議な魔方陣が出現する。

その魔方陣から次々と弾幕が放たれる。

規則正しく並ぶものもあれば、交差するようなもの、中央に向かうだけのものさまざまである。

そして時間が経つにつれて、弾幕の放たれる間隔が狭くなってくる。

部屋の中央に弾幕が残っているのに周りから次々と放たれるので必然的に避けにくくなる。

少し前の力んでいた一十百なら当たってしまったかもしれない。

しかし、一十百には掠ることすらなかった。

覚悟を決めた一十百からは無駄な思考が消え、ただ避けることだけに専念していた。

ただ避けることだけに専念した一十百に弾幕を当てるのは至難の業である。

 

 

いつしか弾幕は消え、フランドールの姿がそこにはあった。

手に持っているスペルカードからは光が消えている。

「次でラスト!」

「なんで、ナンデ、なんでっ! なんで壊れないの!!」

「だって僕は遊ぶためにここにいるんだよ?」

「えっ?」

一瞬、フランドールからいやな気配が消える。

「あそぶ…ため」

「そうだよ。だって、暇だったんじゃないの?」

コクリとフランが首を振る。

「十枚、スペルカードを持っているんだよね」

「そうだよ」

「つまりそれだけ遊べる種類があるんだよね。もし二枚目で僕が逃げたら、あと八枚あるのに、ってがっかりすると思う。五枚目で僕が倒れたら、まだ半分残ってるのに、って寂しくなると思う。九枚目で僕が壊れたら、結局最後まで遊んでくれなかった、って落ち込むと思う」

そこまで聞いてフランは一十百を見る。

黒く透き通った瞳が自分を見ていた。

「せっかくだから僕は楽しく遊びたい。がっかりさせたり、寂しく思わせたり、落ち込ませたりはしたくない。だから、ちゃんと最後まで相手をするよ!」

 

目の前の人間を壊そうとしていた気持ちがどこかに消えていくのがわかる。

どこか、重い気持ちがなくなっていくのがわかる。

ただ……、ただ最後まで遊んでもらえることが嬉しい。

フランドール・スカーレットを包んでいた濁った煙は消えていった。

ゆっくりとフランが一言紡ぐ。

「…約束だよ」

「もちろん! 最後のスペルカードまでしっかり相手をして、楽しかったって言いあえる。そんな風に遊ぶ、約束!」

一十百がにっこりと微笑む。

フランも同じように微笑んだ。

今までの笑顔とは違う、安心のできる微笑み方だった。

「それじゃ……最後のスペカ」

フランが一枚のスペルカードを取り出し、高々と掲げあげる。

一十百も同じように手を伸ばす。

濁った煙が青い光と混ざり合う。

光が濁りを消し、徐々に一枚のカードになる。

青い光が消えたときそこには一枚のスペルカードがあった。

「これが、最後のスペルカード」

同時に二人がスペルカードの名を叫ぶ。

 

「QED『495年の波紋』」

「ANS『111通りの結果』」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

爆風『爆炎の都』:僕の六枚目のスペルカードです。巨大な炎の弾幕が渦を巻いて突き進みます! でも、ちょっと飛距離が短かくて遠くまでは届かないんです。外の世界の大切な友人が同じ魔法を使っています!by一十百  これほどの魔法を使える友人っていうのに会ってみたいぜ。by魔理沙

情景『虹にかかる賛辞』:七枚目のスペルカードです。虹色の弾幕で作られた虹が僕の前に現れます。後は拍手の音に合わせて、次々と弾幕が放たれます。きれいなスペルカードです。by一十百  確かにきれいな弾幕ね。by霊夢

時空『過去と現在と未来へ向かう懐中時計』:八枚目のスペルカードです。十字の光の弾幕が右回転、左回転、無回転で相手に向かっていきます。このスペルカードに描かれている懐中時計の絵は見たことがあります。by一十百  変わった懐中時計だけど、何に使われてたのかしら?by咲夜  懐中時計なんだから、時計じゃないの?byレミリア

ANS『111通りの結果』:僕の九枚目のスペルです! 今までスペルとはたぶん違う……ような気がします!by一十百  彼の能力の片鱗が見え隠れする強力なスペルのはずよ。by紫
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