東方お仕事記   作:TomomonD

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十八仕事目 姉妹の絆のために

フランドール・スカーレットのスペルカードと一十百のスペルカードが同時に輝いた。

どちらも最後のスペルカードというだけあって、かなり強力な弾幕だった。

 

フランドールの弾幕は、水面に石を投げ入れたときに出来るような波紋のような弾幕。

壁にぶつかると、そこから波紋が現れる。

まさに、弾幕で作られた波紋といったところだろう。

対する一十百の弾幕は、正方形状の弾幕が回転しながら広がっていく。

壁にぶつかるとぶつかった部分が逆回転になり、また広がっていく。

どちらも、はじめのうちは難しくないようなスペルカードだ。

けれど、だんだんと弾幕の放たれる速度が上がっていく。

 

気が付いてみれば、部屋の中を埋め尽くすような弾幕戦となっていた。

「うわっ、おっとっ、よっ」

今までで数えられるような程度の弾幕戦しかやっていない一十百だが、この弾幕はその中で最も避けるのが難しいと思うほどだった。

集中力を出来る限り高めているのに、弾幕にあたる。

直撃のみを避けるように避けているため、服を弾幕が掠めていく。

その中の一発が一十百の頬を掠める。

「まだ、まだっ!」

タン、と床を蹴り一十百は体勢を立て直した。

スペルカードを見ると……光はかなり弱まっていた。

「あと少しっ!」

だんだん下がりながら避けていたので、すでに後ろが壁になっていたようだ。

一十百は一気に弾幕の中に踏み込む。

自分の感覚を研ぎ澄ませ、死角からの弾幕をかわしていく。

 

避けながら一十百は少し考え事をしていた。

この弾幕、避けるのがとっても難しい。

弾幕戦に慣れていても、いつかは当たっちゃうんじゃないのかな?

そう思って上を向く。

そこには全力で弾幕を放っているフランドールの姿があった。

一十百の弾幕はフランドールに届いてはいない。

どうしても威力の差というものがあり、フランの弾幕で一十百の弾幕はかき消されてしまう。

この弾幕の特性上、二人の周りの弾幕は密度が濃い。

なので、どうしても一十百の弾幕はフランに届く前に消えてしまう。

 

「一発だけでも……とどけっ!」

光が失われつつあるスペルカードに願いを託す。

最後の正方形回転弾幕が放たれた。

その回転弾幕はちょうど部屋と同じように広がっていき、部屋の四隅にぶつかった。

跳ね返った弾幕はだんだんと狭くなり……。

そして…

「えっ?」

フランを囲むような正方形の壁のようになっていた。

波紋が放たれ正方形の弾幕をかき消していく。

けれど、奇跡的に囲むようになった正方形の弾幕すべてを消すことは出来なかった。

その中の一発がフランドール・スカーレットに直撃した。

「あぅっ…」

飛んでいたフランがぐらりと揺れ、落ちる。

ぽむっ…。

床にしてはどこか優しい感じにフランは目を開いた。

「大丈夫?」

そこには、この長かった弾幕ごっこを最後まで一緒に遊んでくれた人間の姿があった。

「……大丈夫だよ」

ゆっくりとフランが立ち上がる。

スペルカードはすでに光を失っていた。

「楽しかった?」

「……うん!!」

「僕も楽しかったよ」

二人は笑顔でうなずいた。

 

 

一十百とフランは弾幕ごっこが終わったあと、少し話をしていた。

話しているのは、フランのこと。

「私の能力が危ないからって、お外に出してもらえなかったんだ」

「ほえっ? そういえば、フランちゃんの能力を知らなかった」

「私の能力はね、ありとあらゆるものを壊す程度の能力だよ」

「おぉ、それはすごい能力だね」

一十百が少し微笑みながら感心する。

それを見て少しフランは疑問に思う。

「怖くないの? 十百も壊れちゃうかもしれないんだよ?」

「そうかもしれないけど……、僕を壊そうとしてるわけではないでしょ? なら怖くないよ」

「壊そうとしなくても、壊れちゃうときがあるんだよ?」

「う~ん、それは運が悪かったと思うしかないなぁ……。でも、せっかくこんなふうにお話も出来たんだから、能力を怖がって逃げるのはちょっともったいないと思うなぁ」

ちょっと考えて一十百がそう言った。

 

フランからすれば、ここまで話をまともに聞いてくれる人間は咲夜以外にはいなかった。

咲夜でさえ、機嫌が悪くて暴れた自分を止めにくる時と、食事を運んでくるとき意外は話すことが少なかった。

そう思うと、なんだかこうやって話を聞いてもらっていることだけでも楽しく思えてくるのであった。

 

「あ、そういえば……、フランちゃんってレミリアさんの妹なんだよね」

「うん……そうだよ」

「あんまりレミリアさんとお話とかしないの?」

「……うん。お姉さま、フランの話聞いてくれないから」

「う~ん……、レミリアさんなら話くらいは聞いてくれると思うけど……」

一十百は少し考え込む。

レミリアさんにも色々と考えがあってフランちゃんをここの部屋から出さないようにしたんだと思う。

でも、フランちゃんにも色々言いたいことがあるみたいだし……。

ちょっと前のフランちゃんは危うげな感じだったけど、今のフランちゃんなら多分大丈夫のはず。

よしっ!

 

一十百が立ち上がった。

「もう行っちゃうの?」

「うん。ちょっとレミリアさんのところに行かなくちゃ」

「まだ…遊びたい、お話もしていたい」

ぐっと一十百の服の裾をフランが掴んだ。

「う~ん……。よし、なら約束!」

「約束?」

「フランちゃんがレミリアさんと話し合って、色々言いたいことを言ってすっきりしてから遊ぼう」

「えっ…でも、お話聞いてくれないよ…」

「そうかもしれない。だから先に僕がレミリアさんのところに行って待ってる。フランちゃんは後から来ればいいよ」

「……でも」

「服を着替えて、顔を洗って、にっこり笑顔で話せば、きっとレミリアさんも話を聞いてくれるよ。フランちゃんのお姉さんなんでしょ?」

「うん……そうだよね! 十百、先に行ってて」

「それじゃ、レミリアさんところで待ってるよ」

そういって部屋の扉を閉める。

 

部屋の外に出てみると……。

「あれ? 霊夢さん、魔理沙さん、レミリアさん……なんでそんなにボロボロになっているんですか?」

長い階段の前の扉で三人が倒れていた。

「弾幕がこっちにまで飛んできたのよ…」

「そうだったんですか…」

「中の話が聞こえてきたけど、面倒なことをしてくれたわね」

「ほぇ? レミリアさんも何か話したいことがあったんじゃないんですか?」

「……なにか、きっかけが欲しかったのは認めるわ」

レミリアは少し目を伏せ、ふうとため息をつきながらそう言った。

「なら、すぐにお部屋に戻ってください。あ、ちゃんと着替えておいてくださいね」

「わかってるわ」

レミリアは駆け足で自分の部屋に戻っていった。

「霊夢さん、魔理沙さん。僕たちも移動しましょう」

「人事だと思って……、まあいいわ」

ひょいと霊夢が立ち上がった。

「魔理沙…は気絶してるわね」

「僕が運んでいきます」

一十百がひょいと魔理沙を抱え上げた。

「それじゃ、行きましょう」

 

 

別の個室に霧雨魔理沙を寝かせた一十百は、咲夜に会いに行っていた。

「咲夜さん。ちょっといいですか?」

「無事だったみたいね……。さっきお嬢様があわてて走って行ったけど…」

「そのことでちょっと…」

一十百は今までの出来事を十六夜咲夜に話した。

「……というわけです」

「お嬢様と妹様がお話を…」

「それで、咲夜さんに頼みたいことが…」

「私に?」

「はい。フランちゃんと一緒に来て欲しいんです。こういう時って結構緊張すると思うので咲夜さんが一緒に部屋までお話しながらエスコートしてあげてください」

「……なるほど。でも、それは十百君のほうがいいんじゃないかしら?」

「僕はレミリアさんのお部屋で待っているという約束なんで、一緒に…というわけにはいかないんです」

十六夜咲夜は少し考えてから、一度うなずいた。

「わかったわ。多分、お嬢様も同じくらい緊張していると思うの。だから、私と妹様が到着する前までにお嬢様の緊張を解してあげて」

「はい、がんばってみます!」

一十百はそういってレミリアの部屋へ向かっていった。

 

咲夜が地下室の小部屋の扉をノックする。

「咲夜です。妹様、よろしいでしょうか?」

「咲夜? ちょうどよかった! 入ってきて」

「失礼します」

中に入ると、鏡の前で難しい顔をしたフランが座っていた。

「洋服は決まったんだけど……、髪がはねてる様な気がして…。何とかできない?」

「妹様……、いつもの帽子はどうなされたのですか?」

服装はいつもどおりだが、レミリアとおそろいの帽子をかぶっていない。

何かわけがあるのだろうか?

「あっ! 忘れてた」

トコトコとタンスのところまで行き、中から帽子を取り出した。

「どう?」

「バッチリですよ」

「やったぁ!」

フランは嬉しそうにくるりと回った。

その姿を見て咲夜は安心することができた。

今までの妹様とはどこか違う……。

とても良い方向に進んでいらっしゃるみたいね。

これなら、お嬢様とも普通にお話できるわね。

「そろそろ、お嬢様のところへ向かいますか?」

「……うん!」

 

 

そのころレミリア・スカーレットは……。

「…う~、これで大丈夫かしら?」

「レミリアさん…。そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ」

「べ、別にそういうわけじゃないわよ」

「“う~、これで大丈夫かしら?”ってすでに十三回目です。もう少し落ち着いてください」

フランと違い、レミリアはまだ話す心構えが出来ていないようだ。

視線がうろうろと泳いでしまっている。

「ねえ、何を話せばいいのかしら?」

「ほぇ? レミリアさんの話したいことを話せばいいんじゃないですか?」

あごの下に手を当てて少し考え込む。

 

そして…

「な、何も思いつかない…」

「む~……。そうですね…」

思った以上にレミリアが緊張しているのを悟った一十百は一緒になって考えることにした。

今のレミリア一人では話す内容もうまく決められないだろう。

少しだけ考えて、一十百はポンと手を打った。

「フランちゃんの顔を見れば自然と話したい内容が出てきますよ」

「え? つ、つまり…アドリブ?」

「考えた通りに話を進めたって相手に伝わるのは内容だけです。内容がまったく伝わらないほど下手に話してしまっても、何も言えずに微笑むことしか出来なくても、本人の前で自然と出た行動なら…一番大切な部分は絶対に伝わります」

「……そう、ね」

ただの人間の一言にここまでの説得力があるとは思わなかったわ…。

無駄な力が抜けていくのがわかる。

「今のレミリアさんなら大丈夫そうですね」

「ええ。無駄に緊張する必要は無かったわね。私の言いたいことを言う、それだけ」

「それじゃ、レミリアさん一度立ち上がってください」

「何をするの?」

そう言いつつレミリアは立ち上がる。

「最後の手直しです」

一十百は手早く服のしわを伸ばし、リボンを結びなおす。

そして少し離れてレミリアを見た。

「…どう?」

「ばっちりですよ!」

にっこりと一十百が微笑む。

 

満足したようにゆっくりとレミリアは椅子に腰掛けた。

一十百がレミリアの横に戻ったとき、扉がノックされる。

「……お姉さま、フランです」

「入りなさい」

二人とも少し緊張しているのか、かすかに声が震えている。

扉が開く前に一十百はレミリアの肩に軽く手を乗せた。

「大丈夫ですよ」

「…わかっているわ」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ANS『111通りの結果』:正方形の弾幕が回転しながら広がっていくスペルカードです。壁に当たるとその部分が逆回転して跳ね返ります。時間がたつにつれて弾幕の放たれる速度が上がっていく強力なスペルです!by一十百  本当に楽しかった~!byフラン
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