東方お仕事記   作:TomomonD

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一仕事目 初めまして幻想郷

「あれ? 今さっきの風景と違ってるような気がする……」

急いで振り返るとそこには亞心神社はなく、別の神社がそびえ建っていた。

「あれぇぇ!! いつの間に!」

少年は考え込む。

もしや、これが言い伝えに関係する出来事ではないのかと。

「よし! いろいろと調べてみましょう!」

 

鳥居をくぐりなおし境内へと歩みを進める。

亞心神社と違って人の営みを感じられる。

集められた落ち葉、掃き掃除された石畳、これなら……。

「きっと神主さんか巫女さんがいらっしゃるよね」

境内の正面には立派な賽銭箱が置いてあった。

亞心神社の物と比べると三倍はあるだろう。

「多分、ここは亞心神社じゃないんだよね。なら、もう一度……」

そういって少年は賽銭箱に向けて五百円玉を入れる。

カランと気の音が響く。

「言い伝えに関連することが起こりますように。あと……見たことのない神社なので、これからもここが平穏で栄えますように」

 

少年の祈りは青い空に消えていった。

 

「……珍しいことをお祈りするのね。お賽銭も五百円だったし、あなたなかなか見所があるわ!」

「ふぇっ!」

今まで誰もいないと思っていたので、驚いて顔を上げてみると……、そこには大きなリボンをつけた巫女がたっていた。

なんだか満足そうな笑顔をしている。

「あ、貴女は?」

「私? 私は博麗霊夢。この博霊神社の巫女よ」

「は、博麗神社? やっぱり、亞心神社ではないんですね?」

「亞心神社? 聞いたことがないわね。少なくともここは違うわ」

少年は考える、いつの間に移動してしまったのだろうか。

(あの鳥居をくぐったときに移動しちゃったのかなぁ? 一方通行で逆から入ったからここに来ちゃったのかも?)

「どうかしたの?」

「実は……」

 

 

「なるほどねぇ。あなた、外の世界から来たのね」

「外の世界?」

「簡単に言えば幻想郷の外から来たのよ」

「そ、そうなんですか」

「あら、意外と落ち着いてるのね。もっと慌てたり錯乱したりするかと思ったけど……」

立ち話だと疲れるからと、今は縁側で緑茶を飲みながら事の経緯を話している。

少年は事のほか落ち着いており、ゆっくり緑茶を飲みながら話を聞いている。

「でも、どうして幻想郷に来ちゃったんでしょうか?」

「まあ、大方私の知り合いのせいなんだけどね……」

ふうと博麗霊夢は大きなため息をついた。

「ちょっと紫、いるんでしょ。出てきなさいよ」

どこに向かって言っているのかはわからないが、確実に誰かに向かっていったのは確かだ。

 

すると……。

「あ、あれはっ!」

少年が公園で見た空間の裂け目が急に現れた。

次の瞬間!

「えっ?」

裂け目はしっかりと糸で縫合されていた。

「よかったぁ、この前こうやって縫ったはずなのにまた出てくるなんて……」

「え、あの……まあこれはこれで面白いからいいか」

「えと、霊夢さんどうかしましたか?」

「なんでもないわ」

なんだか、にやりと笑みを浮かべている時点でなんでもないわけは無いのだが……。

 

少しすると縫合していた空間の裂け目は消え、何事も無かったかのように元の風景に戻った。

「消えちゃいましたね……」

「また現れるわよ」

確かに今まで裂け目があった場所から少し離れたところに裂け目が現れた。

そして、一瞬にして少年が縫合。

「ふぅ、これでよし」

「そうね、くすくす」

「? どうしました?」

「なんでもないわよ」

「あ、またっ!」

 

空間の裂け目が出来る、瞬間的に少年が縫合、裂け目が消える……。

これが数十度繰り返された。

少年の縫合スピードはまさに一瞬、さらに裂け目までの移動も一瞬。

なので、空間の裂け目は一瞬にして縫合され、開ききることが無かった。

 

そして、何十度目かの時……。

「これで、よしっと」

「本当にすごいわね。縫う速さも移動もまったく見えないわ」

「えへへ、これくらい速くないとお仕事が終わりませんから」

そういって少年がにこやかに微笑む。

すると、どこからか声が聞こえてきた。

「霊夢~、だして~」

「あれっ!? 今どこからか声が聞こえてきませんでしたか?」

「そろそろいいかしら、その縫合とってあげて」

「これをですか? 危なくないんでしょうか?」

「平気よ」

 

なぜだか自信満々に言われたので、少年は縫合していた糸を切ることにしたようだ。

糸が切れると今までどおりに空間の裂け目が開き、中から金髪の女性が涙ぐみながら出てきた。

「ぐすん、やっと出られた」

「えええっ! 中から人が!」

「スキマ妖怪をやって長いけど……スキマから出られないなんて初めてだわ」

 

 

「ということで、あなたを連れてきた張本人の八雲紫よ」

どうやら、八雲紫と呼ばれた女性は心が少し折れたらしく、代わりに博麗霊夢が紹介することとなった。

「この人が、僕を幻想郷に?」

「そうよ。さあ紫、理由を教えてもらおうかしら? どうせ暇つぶしか何かでしょうけど」

「違うわよ。私が連れてきたんじゃないわ。現に向こうでもスキマを縫われて出てこれなかったし」

「……あら? 違うの?」

こくこくと八雲紫は首を縦に振った。

「じゃあ、あの子はどうやってここに来たのよ?」

「さあ、わからないわ。でも……」

今までの涙ぐんでいた目から、鋭い目つきに変わった。

「あの子の能力が関係してるかもしれないわね」

「どんな能力よ?」

「それは……」

 

「あの~……」

完全に置いてきぼりになってしまっていた少年がおずおずと話しに加わってきた。

「えと、その……そのお姉さんは一体?」

どうも八雲紫と呼ばれた女性が気になっていたようだ。

「私は八雲紫。スキマ妖怪よ」

「ほぇ? 隙間妖怪??」

「スキマって言うのはね、これよ」

八雲紫が手をかざすと先ほどの空間の裂け目が現れた。

「……これスキマって言うんですか」

「そう、これを使うといろいろなところに行ったり、見たり出来るのよ」

「うわぁ、それって瞬間移動みたいです! お姉さんってすごい人…じゃなかった、すごい妖怪さんなんですね!」

ぱぁあと少年の顔が明るくなる。

しかし、それ以上に八雲紫の顔が明るくなっている。

 

「どうしたのよ紫、あからさまに嬉しそうな顔をして」

「“お姉さん”って呼んでくれたもの。嬉しくなるのも当然よ!」

どうやら歳を気にしているようで、少年がお姉さんと呼んでくれたことに対して表情を明るくしたらしい。

 

 

「えと、それで……」

「そう、あなたの能力の事だけど」

「僕の能力?」

「あなたの能力は『思いを結果にする程度の能力』ね」

「??」

「とても強力な能力よ。それも、ここに来る前から持っているみたいだわ」

「え~と……、霊夢さんわかりますか?」

少年には自分の能力を理解できないらしく、隣で話を聞いていた博麗霊夢に尋ねてみた。

「そうね、お金がほしいって思えば手に入る、みたいのじゃないの?」

「簡単に言えばそうね、あなたの願いが本当に起こって叶うみたいな力よ」

「そ、そんなにすごい力が……僕に」

少年は自分の両手を見て、にこやかに微笑んだ。

「そう、強力すぎる能力よ。でも、強力すぎて自在に使える訳じゃないみたいだけどね。今までも無意識のうちに使っていたんじゃないかしら」

「う~ん、そうなんでしょうか?」

少年は今までのことを思い出す。

しかし、心当たりがないのか首をひねる。

まあ、無意識に使っていると言われてしまってるので、思い出そうとして簡単に思い出せるものではないのは当たり前だ。

 

「それで紫、この子の能力が強力なのはわかったわ。でも、幻想郷に来た理由にはならないんじゃないの?」

「何か来たい理由でもあったのかしら?」

「え~と……」

少年は自分が何をしていたか二人に説明することにした。

 

 

「……と言う事なんです」

「ふ~ん、言い伝えね」

「その話からすると、あなたはその主のために言い伝えの原因を見つけてあげようとしたのよね」

「はい」

「その思いが結果を導き出したのよ。言い伝え……もしかしたら、あなたの言っていた亞心神社という所が、この幻想郷と何かしら接点があったのかもしれないわ」

そこまで言うと八雲紫は腰を上げた。

「もともと持っていたのかもしれないけれど、能力を持ってしまった。こうなると、私や霊夢の力を借りて幻想郷から出ることは出来ないわ」

「え? えぇえ!! 帰れなくなっちゃたんですか!!」

「ここで得た能力は外の世界だととても強力だから帰すわけにはいかないのよ」

「そ、そんなぁ……」

 

少年の瞳にうっすらと涙の膜が浮かんだ。

もともと主に全力を持って仕えている少年なので、その主の下に帰ることが出来ないといわれたのはかなりこたえたのだろう。

もとの世界には少年の親友もいる、家族もいる、大切な主もいる……。

でも、決して会うことが出来ない。

 

「そ、そこまで悲しまれると……」

「ぐすっ……」

どちらかと言うと声を出して泣かれたほうがまだ慰めやすい。

けれど少年は、なるべく声を押し殺して静かに涙を流すタイプらしい。

もともと少年とは思えぬほどの容姿で、このように泣かれてしまうと一人の少女が悲しみにくれているようにしか思えなくなる。

下手をすればそれ以上の儚ささえ思い起こさせてしまう。

「いや、その……紫、何とかしてあげなさいよ! 可愛そうじゃない」

「私のせいになるの!? そ、そうね……」

八雲紫は眉間に指を当てて思考をめぐらす。

 

そして、何か思いついたのかポンと手を打った。

「確かに私たちの力は貸せないけど……、あなたの能力が本当に開花して使えるようになれば戻れるんじゃないかしら?」

「そう、なんでしょうか?」

「主の下に帰りたいって、そう思えば結果になるわ。きっと戻れるはずよ」

「そうね、きっと戻れるわ!」

少年はその言葉を聞いてほっとしたのか、涙を拭きにっこりと微笑んだ。

「そうですね、頑張ってみます!」

なんとなくその微笑を見て、八雲紫は安心したようだ。

 

(あの子、自分の能力がどれほど危険なものかわかっていないようだけど、大丈夫そうね。それに……あれなら近いうちに使いこなせるようになるわね)

幻想郷の結界を管理するものの一人として、そう易々と帰られても困るのだが……、少年の能力はそれをあっさり覆す程のもののようだ。

 

「それじゃ、私は帰るわね。詳しいことは霊夢が教えてくれるわ」

そう言って八雲紫はスキマを開き帰っていった。

「ちょっと紫……ってもういないわね」

「えと……」

博麗霊夢は少年のことを見ていたようだが、ふぅと一つため息を吐いて、手招きをした。

「仕方ないわね、いろいろ教えてあげるからこっちに来なさい」

「はいっ」

 

 

少年が聞いたのはこの世界、幻想郷の世界観。

スペルカードと弾幕ごっこと呼ばれる戦い方。

人里や妖怪の話。

 

「まあ、こんなところかしら?」

「………」

少年はスペルカードに興味津々で、どうやら途中の話をまったく聞いていなかったようだ。

その状態は今も続いている。

「……そんなに珍しいの?」

「………」

「聞いてる?」

「………」

「はぁ……、まったく……え?」

 

今まで少年がじっとスペルカードを見ているだけだったので気がつかなかったが、少年の両目に淡い青色の光が灯っている。

たまに揺らめいて見えるその光は淡い青色の炎を見ているようだった。

「へぇ……」

「ふぇ? あの……霊夢さん、顔に何かついてますか?」

「え? な、なんでもないわ」

どうやらじっと見られていたのが気になったのか、少年が霊夢に尋ねた。

霊夢は軽く首を振った。

気が付いていないのかしらね。

「それで話はちゃんと聞いていた? もう一度説明するのは面倒だからしないわよ」

「大丈夫です! 百聞は一見にしかずですから」

「じゃあわざわざ説明する必要なかったじゃない!」

やれやれといった感じで博麗霊夢は緑茶を飲み干した。

 

 

「それで、あなたこれからどうするの?」

「……そうですね、まず寝泊りできる場所を探さないと」

「今から? 人里につくころには日が落ちてるわよ」

「あうぅ……」

「……しかたないわね、今日一日くらいなら泊めてあげるわ」

「本当ですか! やったぁ」

少年も宿のことが気になっていたのか、ほんわかした笑顔を浮かべた。

人を和ませる笑顔、そう形容するのが相応しい柔らかな笑顔だ。

 

「さて、そろそろ夕食の用意をしようかしら?」

「あっ、せっかくなので僕に任せてください! 主にも認められた腕前ですから、きっと満足してもらえると思います」

「そう? でも、残念だけどそこまで材料が無いわ。見てもらえばわかると思うけど、お米と山菜が少しあるくらいよ」

「それだけあれば大丈夫です! 任せてください」

そういって少年は台所のほうにむかっていった。

「……まあ、任せてみようかしら。私が作ったって出来るものは同じでしょうし」

 

 

「お待たせしました~。釜で炊くお米って一味違った美味しさがありますよね」

少年がお盆に乗せて持ってきた料理は、山菜だけでは到底出来ないようなものが沢山乗っていた。

少なくとも焼き魚やお刺身がある時点で山菜だけではないのは確実だ。

「え、え……。そんなに材料あったかしら?」

「いえ、さすがにちょっと足りなかったので、近くの川まで行ってきました」

「川って……、ここからどれくらいあると思ってるの?」

「えっ? そんなに遠くなかったですよ?」

「そう、だったかしら……。まあいいわ、さめないうちに食べましょ」

 

食事が進むにつれて段々と博麗霊夢の口数が減ってきた。

かわりに箸の進む速さがどんどん速くなっていっているのだが……。

「………」

「あの……、お口に合いませんでしたか?」

「……ねえ」

「な、何ですか?」

「……こういう料理って、毎日作れるの?」

「はい。僕が仕えていた主のときはもう少し豪華な料理を毎日作ってました。仕える者として、主の笑顔が見られるように全力を出さなくちゃいけませんから」

「つまり、作れるのね!」

「は、はい」

 

なぜか博麗霊夢のテンションが一気に上がり、大きなガッツポーズまで取った。

「そうね、宿が見つからなかったら、当分ここにいていいわ! むしろ、ここに残って!」

「えぇぇ! そ、そんなに長い間お世話になるのは少しご迷惑じゃ……」

「そんな訳無いわ! これだけ美味しい料理が作れる時点で迷惑なわけが無いじゃない!」

がしっと博麗霊夢は少年の肩をつかんでそういった。

この様子だと、どうやら少年の作る料理が相当気に入ったようだ。

「えと、その……か、考えておきます」

「うんうん!」

 

「そういえば、まだあなたの名前聞いてなかったわね」

「あれっ? そうでしたか?」

少年は右手を胸の前に添え自分の名を名乗った。

 

「僕は一十百です。外の世界では執事をしていました」

 

 

こうして、一十百が初めて幻想郷に来た日の夜は更けていった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

博麗神社:亞心神社に比べると大きな神社です。霊夢さんがここに住んでいるらしく、幻想郷にとてもかかわりのある神社らしいです。by一十百

博麗霊夢:ちょっと変わった巫女服を着てる巫女さんです。いろいろ僕に教えてくれたやさしい人です!by一十百  照れるじゃないby霊夢

八雲紫:スキマ妖怪さんです。美人のお姉さんで、才色兼備ってこういう人のことを言うんだなぁと思いました。by一十百  いい子だわ!by紫

僕の能力:思いを結果にする程度の能力……らしいです。願いを叶えるのとはちょっと違うらしいです。by一十百
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