東方お仕事記   作:TomomonD

20 / 114
十九仕事目 開かれた心と未来

緊張した表情でフランが部屋に入ってくる。

その後ろでゆっくりと咲夜が扉を閉めた。

 

「それじゃ、僕と咲夜さんは別の部屋で待っていますね」

「「えっ?」」

同時にレミリアとフランが声を上げた。

二人とも仲介役がいるからこそ、緊張はしていても話はできると思っていた。

けれど、その仲介役の二人が同時に退出となるとは思っていなかった。

「ちょ、ちょっと…」

「ほぇ?」

「どうして、さっさと退出するのよ?」

その質問に対して、一十百の雰囲気が少し変わった。

するどい、執事特有の雰囲気だ。

「その答えは簡単です。僕は部外者ですから聞いていい話と、聞いてはいけない話の違いがあります」

「………」

「僕ができるお節介はここまでです。あとは…」

そこまで言って、一十百はフランの元まで歩く。

「フランちゃんとレミリアさんにお任せします」

一十百がにっこりと微笑んだ。

フランの表情から緊張の色が少し消え、少し前の微笑を浮かべたようだった。

 

「それでは」

一十百はタンと床を蹴ると、一瞬でその場から消えていた。

扉が開いたような形跡もなく、まさに消えたような状態だった。

「「「え? ええっ??」」」

三人が周りを見ても一十百の姿はなかった。

「さ、咲夜…。見えた?」

「いえ…、まったく…」

「フ、フランは?」

「見えなかったよ」

「……どうやったのかしら?」

三人が首をかしげる。

咲夜は少し考えて……、同じことを実行する。

タンと床を蹴る、その瞬間に時間を停止させ、その間に外に出る。

「あれ? 咲夜がいない」

「! あ、いつの間に…」

気が付けば、レミリアとフランの二人きりとなっていた。

仲介人の二人が不思議な退出方法をしたために、今さっきまでの緊張はほぐれたようだった。

「えっと、あの……。お姉さま…、少しお話があるの。聞いてくれる?」

「そうね。私もフランに話さないといけないことがあるわ」

こうして、スカーレット姉妹による二人きりの話し合いが始まったのだった。

 

 

別の個室では、一十百と咲夜、霊夢が椅子に座って紅茶を飲んでいた。

「気の利いた退室法ね。おかげでお嬢様と妹様の緊張がほぐれたみたいだったわ」

「いえいえ。これでお互いの気持ちが伝わるといいんですけど…」

「伝わるんじゃないの? これで伝わらなかったら、相当問題だわ」

ふぅ、と霊夢がため息をつく。

その時、横にいる一十百がどことなく寂しげな表情を浮かべたのを霊夢は見逃さなかった。

「どうしたの?」

「あっ……、いえいえ、何でもないです」

「何でもないのにそんな表情は浮かべないでしょ」

「えへへ……、そうですね…。少しだけ、主のことが気になって」

「…やっぱり帰りたい?」

そっと霊夢がそう言った。

もちろん能力を持ってしまった以上、一十百が外の世界に帰ることを手伝うわけにはいかない。

けれど、帰る手段を見つける程度の手伝いなら…と、そのくらいの気持ちで霊夢は一十百に尋ねた。

「…う~ん、帰る方法はあるんですけど……。その方法で帰ると主に怒られそうで…」

「え゛……。帰る方法ってもう見つけてあるの?」

「はい。霊夢さんや紫さんの手を借りないで帰る方法は見つけてあるんです。でも、その方法だとちょっと…」

苦笑を浮かべて一十百が微笑んだ。

一十百が戸惑うほどの方法なのだ、たぶんまともな方法とはかけ離れたものだろう。

霊夢も咲夜もその事は薄々と感じ取れていた。

「一十百…、その方法はやらないでね。内容を聞く前に言っておくわ」

「ふぇぇ…、せめて内容くらい聞いてほしかったです」

「十百君、たぶんその方法はダメだと思うから…」

「咲夜さんまで…、ぐすん」

「わかったわ、一十百。内容は聞いてあげる」

「やたっ!」

一十百がにっこり笑って一枚の紙を取り出した。

 

小さく折りたたまれた紙のようだ。

一十百がそれを開いていく。

初めは手のひらより小さかった紙が、開いていくにつれて大きくなり……、いつしかテーブルを覆い隠すほどまで広げられた。

「どうやって畳んであったのかが気になるわ」

「そんなところを気にしてたらこの先が思いやられるわよ」

一十百の出してきた紙には、不思議な公式と、理解が出来ないような幾何学模様と、博麗神社と不思議な館をつなぐ一本の道、そして……鉄の箱のようなものが描かれていた。

「…これは?」

「博麗神社と主の家をつなぐ線路を作ろうと思ったんです」

「せんろ?」

「あ……、そういえば幻想郷には電車はないんでしたね」

 

 

一十百が電車と線路の説明を二人にする。

それを聞いて二人の表情が段々と唖然となっていく。

「……というものが電車と線路なんですけど」

「よくわかったわ……」

そこで霊夢がはぁ~と思いっきりため息をつき、そして…

「一十百、絶対に! 絶対に出来ないわよ!!!」

「ふぇぇっ!」

まさに叩きつけるように霊夢が一十百に言う。

 

確かに幻想郷に電車を作るというのは確かに無理であろう。

まず一つとして、電気の普及率が低すぎるという問題がある。

霊夢や咲夜も電気という単語についてほとんど理解していなかった。

そのため、電気で動く電車は間違いなく作る事は出来ないだろう。

そして、博麗神社と一十百の主の館をつなぐ線路という事は、一度外に出なくてはいけない。

外の世界に帰る方法を作るために外の世界に行く……。

随分と滑稽な話である。

 

「一十百の考える提案だから、まあ無理だと思ってたけど……。さすがにこれはひどいわね」

「そ、そこまで言わなくても……、ぐすん」

「でも、これは絶対無理よ」

「……そうなんですよ。電車の元…、せめて車両があれば…」

「「あっても無理」」

今度は咲夜も声をそろえてそう言った。

「ふぇぇ……。動かす方法は考えてあって、後は車両だけだったんですけど…」

「「………」」

一十百はすでに動かす方法を思いついていたらしい。

つまり、外の世界と繋がるかどうかは分からないが、もし車両さえあれば幻想郷に電車という不思議な乗り物が作られるようだ。

霊夢と咲夜は顔を見合わせて、頷いた。

((絶対にその車両というものが見つからないようにしないと…))

「??」

二人の考えた内容は一十百にはまったく悟られることはなかった。

 

 

しばらくすると、部屋のドアが開かれた。

そこには…

「あ、フランちゃん。お話は終わった?」

「うん!!」

満面の笑みのフランドール・スカーレットが立っていた。

「仲直りできた?」

「うん! お姉さまも、ちゃんと仲直りしてくれた!」

「よかった~」

「そういえば、お姉さまが来るようにって言ってたよ?」

「僕?」

フランが首を縦に振る。

 

 

一十百はレミリアの部屋前まで来ていた。

「失礼します」

一十百がドアを開ける。

先ほどと同じようにレミリア・スカーレットが椅子に座っていた。

「お呼びですか?」

「ええ。直接、お礼を言いたくてね」

「ふぇ?」

「前に、きっかけが欲しかったと言ったわよね。フランと仲直りするためにも、この暗く寂しい状況を変えるためにも……」

軽く目を閉じながらレミリアが話し始めた。

「何か大きなきっかけが欲しかった。フランの能力が開花して、フラン自身を壊してしまわないように、あの部屋を作ったの」

「ふえっ? 閉じ込める…ためじゃなかったんですね」

「ええ。壊せるものがなくなれば、きっと大丈夫だと思っていたの。でも…それは間違いだったわ。その間違いに気が付くまで300年かかってしまった」

「ほぇ? あれ? フランちゃんが能力に目覚めたのって…何歳のときですか?」

「完全に開花してしまったのは、100歳くらいのころだったわ……って、どうしたの?」

一十百が驚いた表情をしていたのでレミリアが尋ねる。

「えと…、そういえば、見た目どおりの歳じゃないんですよね。忘れてました」

やれやれと言ったようにレミリアがため息をつく。

「…間違いに気が付くまで300年。その後、後悔の20年があったわ。何も出来ない自分を、こうなってしまった運命を悔やんだわ。皮肉なものね…」

「………」

「後の50年は迷走して、残された可能性を探し続けた。でも…、どうしても…上手くいかなかった。残された25年は……、奇跡を待った。何か、大きなきっかけを…。今になって思えば、今回の赤い霧を作り出したのも私のためだけではなくて、心のどこかで大きな異変を起こせば何か変わると思っていたのかもしれないわね」

そこまで話して、レミリアはゆっくりと目を開けた。

「異変を起こしたのは…正しかったわ。霊夢、魔理沙、一十百の三人と出会えたのだからね。本当に……、本当に感謝しているわ」

レミリアは立ち上がり、一礼した。

「ほうぇ! あ、頭を上げてください。お二人が…、いえ、紅魔館の方々が幸せならそれだけで十分ですよ。それに、きっとレミリアさんの本当の気持ちがフランちゃんに伝わったんですよ」

「そう、ね」

ゆっくりと椅子に腰掛ける。

 

「一十百…あなたの言うとおりだったわ。いろいろ考えた言葉なんかよりも、本当に伝えたかった言葉をたった一言、ただそれだけでフランには伝わったみたい」

「ほぇ? よかったら、教えてもらえますか?」

「……“おかえり”って一言」

その一言を聞いて、一十百は微笑んだ。

「なるほど……。とても、深い…それでいて相手に伝わる、とてもいい言葉ですね」

一十百はその一言を深く考える。

いつか、自分が主の家に戻れたとき、同じ言葉を主はかけてくれるのだろうか?

ふっと、視線を戻すとレミリアと自分の主がかぶって見えた。

「!!!」

「ど、どうしたの?」

「あ…いえ……。どことなく、主とレミリアさんが似ていたので、ちょっと驚いただけです」

「そう…」

 

 

「一十百……。何かお礼がしたいのだけれど、何かある?」

「ふえっ! いえいえ、別にいいですよ」

「貰いっぱなし、というわけにはいかないわよ。仮にも紅魔館の主なのだからね」

一十百は少し考えて……。

「えと…、それじゃレミリアさん、これをどこかで見たことないですか?」

そういって一十百が紙を広げる。

今さっきまで霊夢と咲夜に見せていたものだ。

「この、車両というものをどこかで見たことありますか?」

「……これ、見たことあるわ」

「本当ですか!!」

「え、ええ。前に……霧の湖の近くで、これに似たものを見たことがあったわ。でも、錆でひどい状態だったと思ったけど…」

「大丈夫だと思います! ありがとうございます、レミリアさん」

タンと床を蹴って、一十百はレミリアの部屋を退出した。

「…あんなもの、なにに使うのかしら??」

 

 

一十百は霧の湖まで、ほぼ一瞬で駆け抜けていった。

「この辺り…らしいんだけど。前に来たときには見つけられなかったなぁ」

「あれ、十百?」

「あ、チルノ!」

「ぼろぼろじゃん! なにがあったの?」

「え~と……」

一十百は今まで起こったことを簡単のチルノに話した。

「なるほど! じゃあ、すごい弾幕勝負をしてきたんだ!」

「そうだよ。あ、そうだった、それで…」

一十百が紙を広げて、チルノに尋ねる。

「これによく似たもの、この辺りで見なかった?」

「見たよ」

「ふぇっ! どっち?」

「こっち!」

 

チルノが案内した先には…銀色の車両が錆をまとって、ひっそりと佇んでいた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

スカーレット姉妹の話し合い:レミリアさんとフランちゃんの仲直りのためのお話し合いの場を上手く作れた気がします。やっぱり姉妹は仲良くして欲しいですし、なんとなく主を助けられたような…そんな不思議な感じでした。by一十百  私からもお礼を言わせてもらうわ、ありがとう。by咲夜

帰るための手段:僕の考えた方法は上手くいくと思います。あとは、用意をすれば…。by一十百  無理よ。by霊夢  無理だと思うわ。by咲夜

電車の車両:僕の帰る方法に欠かすことの出来ないものです。レミリアさんの情報とチルノの案内があって見つけることが出来ました! 少し錆びていますけど問題なさそうです!by一十百
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。