二十仕事目 弾幕砲に願いを託して
博麗神社……。
幻想郷の端に建っているといわれる神社。
たった一人の外来人が来てから、大きな変化があった神社でもある。
そして今日、また新たな変化が起きようとしていた…。
「え゛……」
神社の巫女である博麗霊夢が唖然として止まる。
今までの神社になかった巨大な鉄の塊が庭に存在していた。
直方体の鉄の箱……、多くの車輪と窓がある……。
数日前に外来者である一十百から教えてもらったモノがそこにはあった。
「…電車?」
一車両だけだが、そこには確かに電車が存在していた。
「一十百――――――!!!!」
朝早くから博麗の巫女の声が幻想郷に響き渡った。
所変わって……。
「紫さん、どうしてあんなものが幻想郷に?」
「前に少し話したけど、あなたのいた外の世界で忘れられたものはここに流れ着くの。あの電車も忘れられたものの一つよ」
八雲紫と一十百がのんびりと話している。
場所は霧の湖の近くの森。
一十百が電車のことで紫の話を聞きたく、探しているとき森の中でいきなり後ろから声をかけられたのだった。
一十百はそのときかなり驚き、涙目になってしまった。
冗談のつもりで脅かした紫だったが、一十百の表情を見て慌てて謝ることとなった。
その後、電車のことで話しているところのようだ。
「あの電車は……忘れられたものなんですか…」
「廃線になった、古くなって使われなくなった、忘れられる理由はたくさんあるわ」
「そうなんですか…」
「それで、私に相談って?」
「はい。あの電車、貰っていいですか?」
八雲紫が少し考える。
一十百の能力の強力性を理解している彼女だからしっかり考えなくてはならない。
「…なにに使うつもり?」
「僕の帰り道です!」
「はい?」
一十百の使い道を詳しく聞いた紫は頭を抱えた。
不可能の一言に尽きるのだが……。
もし、もしも、そんな事が可能になってしまったら……と。
ありえないはずなのだが、一十百は既に色々とずれている外来人だ。
かつてスキマを縫われて外に出れなくなったこともあった。
一十百の考えているようなこともありえるかもしれない。
それならば、渡すわけにはいかない。
しかし普通に考えれば、一十百の方法は不可能としか言いようがない。
それに、ここで“電車を使うな”といえば一十百の希望を消し去ることになる。
前に一度、外の世界に帰れないと言い切ってしまったこともあった。
その時、目の前の外来人は本気で落ち込んでしまったのを覚えている。
そこまで考えて……。
「分かったわ。使うのはかまわないわ」
「本当ですか! やった~!!!」
ピョンと一十百が両手を挙げて飛び上がった。
その光景を見て、紫は静かに頷いた。
たとえ目の前の外来人が目的のものを作り上げてしまっても、この選択は正しかった……と、そう思うのだった。
「それで、その電車はどこにあるのかしら? たしか、霧の湖の近くって言っていなかった?」
「ほぇ? もう博麗神社に運んじゃいました」
その言葉を聞いて八雲紫は疑問に思う。
運べる大きさだったかしら…?
スキマを使い、外の世界をよく見ていた八雲紫は電車も少なからず見ていた。
彼女が知っている電車は何人もの人を乗せる鉄の箱であり、人間の力だけじゃ到底運ぶことはできないものである。
「……私の知ってるものとは違うのかしら?」
「ふぇ?」
「まあ、いったん博麗神社に行きましょう」
博麗神社に戻ってみると…
「あらら……。まさかとは思ったけど……、これを運んだなんてね」
「ちょっと、大変でした。重かったですし」
「…ちょっと一十百君、腕を見せてくれない?」
「ほぇ?」
一十百が服の袖を捲る。
白く細い腕がそこにはあった。
大妖怪である私が力を入れたら簡単に折れてしまいそうな腕……。
どう考えても腕力で運んだとは思えないわね。
「あの~、どうかしました?」
「えっ? あ、ほら…、どうやって運んだの? その細い腕じゃ、無理じゃないかしら?」
「そうでしょうか? こんな風に持ち上げて…」
一十百が電車の前の部分を下から持ち上げる。
すると、桁違いの重さの車両がいとも簡単に持ち上がった。
「あとはこのまま引きずってきまし……紫さん? どうしました?」
八雲紫が目を見開いたまま止まっている。
一十百はいったん車両をおろし、八雲紫の前まで行った。
完全にフリーズしているようだ。
「ふぇっ…。こういう時は、はい!」
一十百はパンと柏手を紫の前で打った。
「きゃっ!」
「大丈夫ですか?」
「…いま、見ちゃいけないものを見てしまった気がするわ」
「ふぇ?」
八雲紫は一十百の持ってきた電車を観察する。
これ自体に結界を越える力は……ないわね。
「あっ! 一十百!! どこに行ってたのよ!!」
「ほぇっ!」
電車を観察していると博麗霊夢が歩いてきた。
腰に手を当てて、かなり機嫌が悪そうだ。
「あら、霊夢。随分とご立腹ね」
「当たり前でしょ! こんなもの拾ってこられても困るわよ! 邪魔じゃないの」
「私に言われても困るわ。それよりも、どうやってこれを運んだか疑問に思わないの?」
紫がそう言うと、霊夢は大きなため息を吐いた。
「一十百が運んだんでしょ? たぶん、理解のできないような方法で」
「よくわかったわね」
「一十百には常識が通用しないもの。 ……そうね、持ち上げて引きずってきたとかじゃないの?」
「はい! その通りです! さすが、霊夢さん」
パチパチと一十百が手を叩く。
「まあ、これくらいわかって当然……って、そうじゃないわ!! これ、どうにかしなさいよ!」
「ほぅぇ……、もう少しだけ待ってください。そうすれば、動くようになるんで」
「これが? 正直、信じられないわ。でんき、とかいうので動くんでしょ? ここにはないじゃない」
確かに電気は幻想郷には普及していない。
動かなければ電車もただの鉄くずである。
「ふぇ? これは電気で動かしませんよ? 電気の力じゃ、ちょっと出力不足ですから」
「じゃあ何を使うのよ?」
「弾幕力です!」
そういって一十百は一枚カードを取り出した。
それは真っ白なスペルカードの素のようだ。
「「弾幕力?」」
弾幕は知っていても弾幕力という単語は知らない霊夢と紫。
二人が知らないようなので一十百が弾幕力について説明することになった。
一十百の弾幕力の説明はかなり難しいの一言に尽きた。
弾幕力を簡単に説明すると、弾幕とスペルカードの生み出すエネルギーの事のようだ。
「…というわけなんです。えと、理解して……もらえてないですね」
「……紫、わかった?」
理解することを諦めて聞いていた霊夢は紫のほうを向いた。
すると……、頭と口から煙を出している紫がいた。
目もうつろな状態になっている。
「ちょ、ちょっと! 紫、大丈夫?」
「ぷしゅ~……」
霊夢が紫の肩を揺すると、八雲紫は目をバッテンにして倒れてしまった。
八雲紫は妖怪の賢者と呼ばれており、その名に恥じずかなりの知識人である。
だからこそ、一十百の話を聞いてこの状態になってしまった。
半ば理解できるからこそ、頭が追い付かなくなってしまうと言ったところだろうか。
「ふぇぇ! ゆ、紫さん大丈夫ですか!」
「きゅ~…」
「これはダメね。一十百、寝室にでも運んでおいて」
「は、はい」
八雲紫を寝室に運んだ一十百は霊夢と話し合うことにした。
「それで、僕の考えた方法だと……あと、二日……いえ、半日で完成すると思うんです」
「半日…ねえ」
霊夢はお茶を飲みながら考える。
紫と違い霊夢は一十百の実力をわかっており、今回の方法で確実に外の世界に戻っていくと考えている。
つまり、一十百との別れがあと半日ということになる。
「霊夢さん?」
「え、あ…、何?」
「なんだか、難しい表情をしていたので…」
「何でもないわよ」
まあ、せっかく帰れるんだし、ここで心配させるわけにもいかないわよね。
霊夢はそう考え、一気にお茶を飲みほした。
「ま、私も何か手伝ってあげるわよ。あれが早く退かしたいもの」
「ほぅえっ! ありがとうございます」
一十百が霊夢に頼んだのは……、切符作りだった。
霊夢の使うお札の素に一十百に頼まれたように文字を書いていく。
「こんなもの必要あるのかしら? まあ、頼まれたからには作るけど…」
切符を作りながら外を見る。
一十百が木を組んで何かを作っているようだった。
たしか…あれは…。
「線路、とか言うものだったわね」
ふぅとため息を吐く。
少しさみしくなるわね…。
「霊夢、いるか~?」
聞きなじんだ魔理沙の声が聞こえてきた。
「何よ…」
「おっ、いたいた……って、何やってるんだ?」
「切符作りよ。一十百が外の世界に帰るために必要らしいわ」
「帰るって…、一十もう帰るのか!!」
「そうらしいわよ」
魔理沙は一十百のほうを見る。
「あの、鉄の箱で帰るのか?」
「…らしいわ」
「ふ~ん」
魔理沙がゴロンと寝転がる。
「寂しくなるな~」
「そう?」
「霊夢は寂しくないのか?」
「そうね、おいしい料理ときれいな神社とふかふかの布団……」
「おいおい…」
「それと……、あの笑顔が見られなくなるのは、すこし寂しいわね」
「霊夢…」
寝転がった魔理沙が起き上がる。
少し帽子を深くかぶりなおして、軽く霊夢の頭を撫でた。
「まあ、派手に見送ってやろうぜ」
「…そうね」
そういって二人が外を見る。
すると……
「仮符『バスタースパーク』」
一十百のスペルカード宣言とともに、スペルカードが輝いた。
スペルカードが空中で静かに回転する。
一十百が両手を重ねてスペルカードへと突き出す。
そこから光と衝撃が砲撃となって空に向けて放たれた。
雲を突き破り、そこの一点だけが穴が開いたような空になった。
「「……え゛」」
「もう少しで完成ですね。後は…」
一十百は見られていることに気が付くことなく、そのまま作業に戻っていった。
「………」
「………」
霊夢は完全に唖然、魔理沙は光が放たれた空を見上げた。
「すごいんだぜ……。まさか、マスパと同等の……いや、それ以上の弾幕砲なんだぜ。やっぱり弾幕はパワーだよな」
「……魔理沙。確かにそうかもしれないけど、あれ、正面から受けたらどうなるかわかってる?」
それを聞いて、霧雨魔理沙は少し考える。
そして……
「弾幕は、避けるものだぜ!」
と、サムズアップをするのだった。
そして……一十百の電車を動かす最後の符が完成する。
「完激『バスタースパーク』」
夕日を遮り、一直前上すべてを消し去る弾幕砲が放たれた。
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
完激『バスタースパーク』:僕の十枚目のスペルカードです。弾幕のエネルギーを一点に集めて放つ、威力のみを求めたスペルカードです。弾幕戦に使うかは分からないですけど、とにかくこれで主の所に帰れそうです!by一十百 やっぱり弾幕はパワーだぜ!by魔理沙 博麗大結界に穴が開きそうだから、乱発はやめてね……。by紫