東方お仕事記   作:TomomonD

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二十一仕事目 僕が帰る二つの場所

幻想郷が夕焼けに包まれる頃、一十百によるすべての準備が整った……。

 

 

「やっと完成しました! 動力よし、軌道よし、時間よし!」

一十百が腕組みをしながら満足そうにうなずいた。

「本当に、これで帰れるの?」

「帰れますよ。色々と計算に時間がかかっちゃいましたけど、ばっちりです」

「そう……。はい、これ、頼まれていた切符」

博麗霊夢は赤い縁取りに一十百が頼んだ文様の入った札を渡す。

「ありがとうございます! ふぇ~、すごい綺麗にできてる」

「まあ、最後なんだし……、しっかりやっただけよ」

「? えと、ありがとうございます、霊夢さん」

一十百が笑顔を浮かべる。

この笑顔ともお別れか……。

「一十、向こうに帰ったら手紙くらい送ってほしいぜ」

「と、届きますか?」

「無理でしょ」

「そうですよね。郵便番号がわからないですし…」

「「そこ!?」」

霧雨魔理沙はやれやれと言ったような表情を浮かべる。

そして、すこし帽子を深くかぶり直す。

「まあ…、短い間だったけど、楽しかったぜ」

「えへへ……。そう言ってもらえると僕もうれしいです」

 

「そろそろ、出発かしら?」

「紫さん!」

寝ぼけ眼をこすって八雲紫が歩いてきた。

「無事、完成したのね」

「はい!」

「これで外の世界に帰れるとは思えないんだけど……。まあ、一十百君がそう言うなら間違いないわね」

どことなく安心した表情を浮かべて、八雲紫は日傘を広げた。

 

 

「それでは、霊夢さん、魔理沙さん、紫さん、行ってきます!」

一十百が切符に切り込みを入れると扉がひとりでに開いた。

それと同時に電車の中から不思議な声が聞こえてきた。

『この電車は“主の館”行です。間もなく出発いたします』

ボオォ……、と深い汽笛の音が鳴り響いた。

電車の扉が静かに閉まる。

ゆっくりと電車は動き出した。

一十百の組んだ木の線路の上を走る。

「おお、本当に動いたぜ!」

「でも、このままだと鳥居をくぐった後、階段から落ちるんじゃないの?」

一十百の作った線路は鳥居の前で止まっている。

鳥居の後ろは長い階段になっており、飛びでもしない限り間違いなく転がり落ちるだろう。

「たしか、あの鳥居から一十百君は現れたのよね。つまり、あれが出口なのよ」

八雲紫が鳥居を指差す。

「そうなんだろうけど、そうじゃなかったら大変なことになるわよ」

電車は速度を上げ鳥居に向かっていく。

そして鳥居をくぐりぬけた電車は幻想郷から消えていった。

「鳥居の向こうに落ちてないぜ! こう、鳥居の中に吸い込まれていったって感じだったな」

「……本当に帰っちゃったわね」

博麗霊夢はだんだんと暗くなる空を見上げた。

ずっと遠くに、星が瞬き始める。

「向こうに行っても、頑張りなさいよ!!」

霊夢は鳥居に向かって大きく手を振った。

 

 

 

「オイ、コンナ所ニ線路ガアルゼ。御主人ノ趣味カ?」

「何、線路だと? 昨日まではそんなものはなかったが……どれ」

鮮やかな金髪の少女がログハウス…いや、ログ豪邸ともいえる館から現れた。

容姿からすると小学生と思えるが……、その身にまとう雰囲気は、子供とは遥かにかけ離れたものだ。

どこか冷たく、それでいて強いカリスマを感じる……。

その少女は館の前に急に現れた線路に近づく。

「確かに線路だな。まったく、なんだというんだ」

「マア、コンナモノヲ作レルノハ、十百ダケダケドナ」

少女の腕には薄緑色の髪の人形が抱えられている。

まるで生きているかのようにその人形が話す。

「はぁ~……。一十の考えを理解するのは一苦労だ。大方、電車がここに走ることを考えて作ったのだろうが…」

「ソンナコト一言モ言ッテナカッタゼ」

「私も聞いていないな。一十に聞こうにも、たしか…亞心神社の調査に向かわせたばかりだ。夕方にならないと戻ってこないだろう」

はぁ、とため息を吐き、少女は線路の行方を見る。

線路は不自然に途中で途切れている。

「作りかけか?」

「珍シイナ。十百ナラ一気ニ仕上ゲソウナ気ガスルゼ」

「そう言えばそうだな。ということは……」

少女は瞳を閉じ考える。

そして思いついたように目を見開いた。

「これで完成か?」

「ドウヤッテ使ウンダ?」

「……知らん。やはり一十に聞くしかないか」

少女は諦めたようにログ豪邸の中に戻ろうとする。

その時、どこからか電車の走る音が聞こえてきた。

「電車の音だと! このあたりには電車は走っていないはずだぞ」

「……イヤ、走ッテルノカモ知レナイゼ」

「どこに……、まさか!!」

「御主人、少シ離レタホウガヨサソウダゼ」

少女が線路から離れる。

それを待っていたかのように、どこからともなく電車が現れた。

ボオォ……と深い汽笛が鳴り響く。

「なっ、なんだこれは!!」

『“主の館”~、“主の館”~、終点です。お荷物をお忘れにならないようにお降りください』

電車の扉が開く。

そこからは見慣れた従者がひょいと降りてきた。

「う~ん、ついた~!」

「なっ……。一十!」

「ふぇっ?」

「ケケケ、派手ナ帰宅ダナ」

「あっ、ただ今戻りました!!」

 

 

一十百は二人の主に今まで起こった出来事を話した。

人形の主は面白がって、吸血鬼の主は呆れてその話を聞いていた。

「…ということで帰ってきました」

「一十、貴様の話だと、その幻想郷というところで数日、いや数週間は暮らしていたようだが…」

「はいっ! あっ、その間の僕のお仕事がたまってますか?」

「ケケケ、ソウジャナイゼ。十百ガ御主人ニ頼マレタ神社ノ調査ニ行ッテカラ、マダ一時間モタッテネエヨ」

「えっ! でも…」

「大方、時間軸が違っているのだろう。別荘と同じ原理か、それとも貴様が戻ってきたときに何か別の力が働いたのか……。とにかく、こちらではほとんど時間が進んでいない」

「そうだったんですか…」

一十百は今まで起こったことを思い出す。

大きな異変、風変わりな人たち、たくさんの友達……。

「…モウ一度、ダナ」

「ふぇっ?」

「そうだな。このレポートだけでは足りないな」

一十百のレポートは少なくとも辞書一冊分なのだが、それでも足りないらしい。

「足りない…ですか?」

「ソウダゼ。異変、トカ言ウノガ、マダ一度シカ起キテネエカラナ」

「次の異変が起こるまで、向こうにいるといい」

「ふぇっ? それだと、長い間帰ってこれなくなるかも……」

「安心しろ。それほど長くなるのだったら戻ってくればいい。それに…」

「戻リタソウナ表情シテルゼ」

「そ、そうでしょうか?」

クックックと金髪の少女が笑う。

「ああ。貴様も守られてばかりでは、つまらないだろうからな。執事として、従者として守る立場も味わっておかないとな」

「弾幕ゴッコダッタカ? マアマア活躍デキテルミタイジャネエカ。少シ立派ニナッタ気ガスルゼ」

「えへへ……」

主に褒められ、一十百は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「それじゃ、行ってきます!!」

「ああ、安心して行ってくるといい!」

「次帰ッテクルトキハ、土産デモ持ッテコイヨナ」

「はい!」

一十百が切符を取り出す。

片方に切り込みが入っている。

「ナンダ、戻ル気ダッタンジャネエカ」

「こんなに早く戻るとは思ってなかったですけど…」

「フン、“往復切符”か。それを作った巫女とやらは気が付いていたのか?」

「う~ん、どうでしょうか。切符とか電車は向こうにはなかったので…」

そういって切符の逆側を切る。

すると電車のドアが開いた。

『この電車は“博麗神社”行です。間もなく出発いたします』

一十百が電車に乗り込む。

低い汽笛が鳴り、ゆっくりと電車が走りだした。

線路の途切れた地点まで走った電車は、見えない道があるかのように消えていった。

 

「行ったか…」

金髪の少女は消えた電車を見送った後、ふっとため息を吐いた。

「御主人ドウシタ? 寂シイノカ?」

「馬鹿を言え。一十も随分と面倒事に足を突っ込んだと思ってな」

「ケケケ、御主人ノ執事ノ時点デ十分スギルホド厄介ダケドナ」

「フン、黙っていろ。一十、私の執事であることを忘れるな。貴様の活躍を楽しみに待たせてもらうぞ!」

バッと少女はマントを翻し、後ろ向きに大きく手を振った。

 

 

 

「霊夢……、そろそろ中に戻ろうぜ。暗くなってきたからな」

「……そうね」

霊夢と魔理沙が中に戻ろうとすると……。

どこからか、ガタゴトという小気味の良い音が聞こえてきた。

「この音って……」

博麗霊夢が振り返る。

その音は鳥居のほうから確かに聞こえてくる。

それがだんだんと大きくなり、そして……電車が戻ってきた。

電車は元の位置まで戻ると、ゆっくりと停車した。

『“博麗神社”~、“博麗神社”~、終点です。お荷物をお忘れにならないようにお降りください』

少し前に聞いた不思議な声が響き渡った。

扉が開き、ひょいと一人の外来人が降りてきた。

今さっき見送ったはずの一十百だ。

「到着っ! ばっちりです……。あっ、ただ今戻りました」

いつものような笑顔を浮かべて一十百が戻ってきた。

「え? えっ? わ、忘れものでもしたの?」

「ほぇ? いえいえ、主の所まで戻って、もう一度ここに来たんですよ」

「いや~、今生の別れかと思ったんだぜ。それがこんなに早く戻ってくるとは」

「えへへ…。戻ってくるつもりではあったんですよ。でも、こんなに早くなるとは僕も思ってませんでした」

魔理沙はやれやれといった表情を浮かべた。

「ま、一十が帰ってそれなりに寂しがっている巫女もいたから、戻ってきたのはよかったけどな」

「ふぇ? 霊夢さんが?」

「な、何を言ってるのよ、魔理沙!!」

「うん? 寂しくなかったのか? 私は寂しかったけどな~」

口笛を吹きながら、あっさりとそう言った。

「ちょ……、はぁ~。まあ、少しはね…」

霊夢も少し顔をそむけてそう言った。

 

 

一十百は霊夢と魔理沙に外の世界の事を話した。

外の世界とはいっても、主のログ豪邸に住んでいる人の事なのだが……。

霊夢も魔理沙もそれぞれ興味を持ったようだ。

「ふ~ん、一十百には姉がいたのね。知らなかったわ」

「血は繋がってないですけど、とってもやさしいお姉ちゃんです」

「夕焼け色の髪の魔法使いに会ってみたいぜ! 爆炎の魔法とか言うのも見てみたいしな」

「とってもカッコいい人ですよ。魔法もすごいですし」

そこまで話して一十百はまわりを見る。

「どうしたの?」

「紫さんは帰っちゃいました?」

「スキマ妖怪なら帰ったぜ」

「紫さんにもいろいろとお話ししたかったです」

「紫に外の事を話してもしょうがないわよ。覗き見とかしてそうだし」

「まったくだぜ」

 

 

 

「なるほど。一十が随分と迷惑をかけたようだな」

「マア、十百ダト思ッテ諦メルンダナ」

「主であるあなた達なら少しはストッパーになると思ってついてきたんだけど……、無理みたいね」

「「無理」」

「即答は一十百君が可哀そうよ」

「ほう…。なら、キサマならどう答えた」

「……即答したわね」

「ケケケ、仕方ネエヨ。十百ダカラナ」

八雲紫はゆっくりと立ち上がる。

「もう少しゆっくりしていったらどうだ? 幻想郷の賢者とやら」

「嬉しいお誘いだけど、また今度にさせてもらうわ」

そういってスキマを開く。

「そうだ、言い忘れるところだった」

「何かしら?」

「十百を使うのは構わん。だがな……、アレは私の従者であり下僕でもある。壊すようなことがあれば、覚悟しておくことだ」

「……警告かしら?」

「どう受け取るかはキサマ次第だ」

一十百の主である金色の髪の少女を鋭い殺気が包み込んだ。

「……肝に銘じておくわ」

八雲紫はスキマに入る。

 

さすがに彼の主、性格も実力も一筋縄じゃいかないわね。

それよりも……、あの生物は一体……。

見えなくなった外の世界のほうを振り返る。

決して見えないはず向こうの世界から鋭い視線を感じ、身震いをする。

「あれだけは、幻想郷に来させてはいけないわね……」

静かに八雲紫は決意するのだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

無事帰宅:いったん主のログハウスまで戻りました。いろいろとレポートにまとめたので読んでくれるとうれしいです。by一十百  読み切るのは……無理だな。by???

紫さんの心配:僕が戻ってきた次の日に紫さんに会ったんですけど……、なんだか難しい表情をしていました。僕の主に会ってきたと言っていたんですけど、それだけじゃないみたいです。by一十百  いろいろ……あったのよ。by紫
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