東方お仕事記   作:TomomonD

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二十五仕事目 幻想郷の可愛い巫女

強い光が霧の湖を照らす。

その光はだんだんと消えていく……。

 

「あれっ?」

一十百のスペルカードが終わると、そこには目をバッテンマークにした三妖精が倒れていた。

相殺程度だと思っていたのだが、やはり威力違いをしていたようだ。

妖精三人がかりのスペルカードよりも一十百の作り上げたスペルカードのほうが強力だった。

「え~と、大丈夫……じゃないよね」

このまま雪の降る中、放っておくわけにもいかないので、一度博麗神社まで三妖精を運ぶことにした。

 

 

博麗神社に戻ると霧雨魔理沙、十六夜咲夜が来ていた。

「あ、魔理沙さん、咲夜さん、こんにちは」

「十百君、こんに……何担いでるの?」

「また面白いものを持ってきたな。妖精か?」

「はい……。弾幕勝負で手加減しそびれちゃって…」

「やっぱり、さっきの空に伸びた光は一十のスペカだったか。前に見たことあったからな」

一十百は三妖精をゆっくりと寝室に運び寝かせる。

「まったく……。妖精なんて放っておいても平気よ」

「あっ、霊夢さん。放っておくのは少し可哀そうですよ。今回は僕が原因でしたし…」

「お人よしね。まあ、一十百らしいと言えばそうなんだけどね」

「おっ、霊夢もここにいたか。丁度いい、あのメイドも来てることだしちょっと話があるぜ」

「話って何よ魔理沙?」

「まあ、立ち話ってわけにもいかないからな。お茶でも飲みながら話し合おうぜ」

 

 

居間には霊夢、魔理沙、咲夜、一十百がお茶を飲みながら座っている。

ふぅ、とため息をついて魔理沙が話し始めた。

「話ってのは、外の事だ。これは間違いなく異変だぜ!」

「冬が明けてないだけでしょ? 異変ってわけでもないわ」

霊夢は冷静にお茶を飲みながら答える。

「この時期にもなって雪だぜ! これでも異変じゃないって言うのか?」

「ま、魔理沙さん、落ち着いてください…」

どうやら霧雨魔理沙は、この異常なほど長い冬を異変と決め、博麗の巫女である霊夢を異変解決に行かせたいようだ。

対する博麗霊夢は……やる気がないように見える。

「私もお嬢様から“異変なら霊夢の力を借りて、違うなら私の力で春を訪れさせろ”と言いつかってきました」

咲夜もふぅとため息を吐く。

「そろそろ冬の備蓄がそこを尽きそうだから、春が来てくれないと困るの」

「ふ~ん」

 

「霊夢さん……」

どうして異変なのに博麗霊夢は動かないのか一十百は考えた。

そして……、答えにたどり着いた。

「もしかして、霊夢さんって……冬眠するんですか?」

真剣な顔で一十百がそう聞いたものだから、霊夢は飲んでいたお茶を思いっきり吹き出してしまった。

その質問に魔理沙は大爆笑、咲夜は唖然。

「けほっ、けほっ……。真剣な表情をしてると思ったら、そんなこと考えてたの?」

「ふえっ! だ、だって霊夢さんの行動がいつもより遅いから…」

「あっはっは、冬眠か! 確かに、ありえなくもなさそうだぜ」

「十百君……、人は冬眠しないわ」

あれほどピリピリした話し合いだったのに、気が付けばいつもの雰囲気になってしまっている。

それを肌で感じた霊夢は諦めたようにため息を吐いた。

「まったく……。わかったわ、でも一日待って。本気で異変を解決するにはそれなりの準備が必要なのよ」

「おっ、やっとやる気になったみたいだな」

「うっさい。もう少し暖かくなってからやろうと思ってたけど、しかたないわね」

そう言って霊夢は立ち上がった。

 

「私が準備してる間は一十百が巫女をやってて」

「はい! ………はい? 巫女??」

霊夢がにやりと笑う。

何か嫌な予感がして、一十百が一歩退く。

その瞬間に霊夢が叫ぶ。

「魔理沙、咲夜!」

「言われなくったって」

「悪く思わないでね」

「ふぇぇ!」

逃げようとした一十百を魔理沙と咲夜ががっしりと捕まえた。

「れ、霊夢さん……。えと、一体何を? とっても、いやな予感が…」

「私が一日冬眠するかもしれないから、その間、一十百にはこの服を着て巫女をやってもらおうかと思ってね」

どうやらさっきの冬眠発言でお茶を吹き出してしまったのを、それなりに根に持っているようだ。

「ふぇえ! その服って……僕は男ですって! 巫女は女性がやるものじゃ…? それに、霊夢さんは冬眠しないって…」

「知らないのか一十? 霊夢は一日ぐっすり眠ることで、博麗の巫女として全力を出せるんだぜ」

「ほぇぅ! し、知りませんでした…」

「一日寝てる間にいろいろあると大変だろ? だから一日だけ代わりの巫女が必要なんだぜ」

あからさまなデタラメ。

初めてであった人でも、この話は信じないだろう。

しかし……一十百は違った。

「そ、そうだったんですか。僕が来る前は……もしかして魔理沙さんが代わりを?」

「いろいろ大変だったぜ~」

 

完全に信じ込んだ一十百。

少し考えて、大きくうなずいた。

「わかりました。霊夢さんが安心して休めるように……、その大役、僕が引き受けます!」

一十百の目には強い決意と、やり遂げる意志の光が宿っていた。

純粋でいて、決して曲がらぬ強い光だ。

その表情を見て、霊夢、魔理沙が答えに困る。

冗談半分、一十百の困る顔が見たいの半分で言ったつもりだったのだが、一十百本人がここまで本気にするとは思っていなかった。

とはいえ、ここで嘘でしたとも言える雰囲気ではない……。

「えっと、そ、それじゃ…、任せたわ、一十百」

「はいっ!」

「巫女服は適当に選んで着てくれればいいから……。私は、えっと、休むわね」

そう言って霊夢は奥の部屋に戻っていった。

「れ、霊夢……ちょっと待つんだぜ…」

魔理沙も霊夢を追いかけて奥の部屋に向かっていった。

残された咲夜はこれから起こるであろう面倒事を考え、ますます大きなため息を吐くのであった。

 

 

「霊夢、どうするつもりだ?」

「どうするって……、どうすればいいのよ?」

霊夢と魔理沙は一十百がどのくらい本気なのかよくわかっていた。

異変前の大事な期間、その間の代わりの巫女。

一十百なら全力を持って巫女をやり遂げるだろう。

「あの目は本気だぜ。たぶん一片たりとも疑ってなかった目だったぜ…」

「今さらになって、罪悪感がわくわね…」

「同感だぜ…」

どうしたものかと二人は大きくため息を吐いた。

 

 

一方そのころ……。

「どうでしょうか?」

「…………」

「えと、変ですか?」

「…………」

「あの~、咲夜さん?」

「はっ! な、なんですか?」

「変じゃ…ないですか?」

そう言って巫女服の一十百が一回転する。

咲夜は唖然とした。

似合っている…というレベルではない。

一十百は少女にしか見えないとはいえ、ここまで似合うとは思っていなかった。

黒い髪、黒い瞳、小柄な背丈、そして……一十百の笑顔。

これらがうまく重なり、咲夜の前には頬を少し赤く染めた巫女見習いのようなとても可憐な少女が立っていた。

 

「……これは、マズイわね」

「ふえっ? な、何か変でしょうか?」

「いえ、とても似合ってるわ。似合いすぎて……ちょっとね」

「???」

軽く首をかしげ一十百が頭に疑問符を浮かべる。

その時、奥の部屋から二人が戻ってきた。

「あっ、霊夢さん、魔理沙さん。どうですか? 変じゃないですか?」

「………」

「………」

一十百の姿を見て二人とも黙ってしまった。

「あれ? やっぱり似合っていませんか?」

コテンと首を少しかしげる。

 

少しして、魔理沙が霊夢に話しかける。

「霊夢」

「何」

「借りてくぜ!!」

タッ、と畳を蹴り、一十百の抱えて外に出ようとする。

「ふぇっ???」

「させるか!」

霊夢が魔理沙の次の一歩の所にお札を放つ。

それを踏みつけた魔理沙は思いっきり滑り転んだ。

その衝撃で一十百は放り投げられ転びそうになるが、半ば空中で体勢を立て直すと、魔理沙が完全に転ぶ前に軽く手を添え転倒を阻止した。

「だ、大丈夫ですか?」

「……た、助かったぜ。 ……どんな格好をしていても一十は一十だったぜ」

「魔~理~沙~……」

後ろからゴゴゴ…と地響きが聞こえてきそうな気配を纏い、霊夢が近づいてきた。

「ほら、出来心というやつだぜ…」

「何持って帰ろうとしてるのよ!!」

「…これは持って帰られても仕方ないと思うぜ。それに、たぶん返すのがかなり遅くなると思う」

「死ぬまで返さないアンタが返すのが遅くなるって、いつまで借りる気よ?」

「末代くらいまで借りてくZE☆」

ビターンと魔理沙の額にお札が叩きつけられた。

 

 

「とにかく、一十百を持って帰るのは諦めなさい」

「そのうち借りていくから今回は諦めるぜ」

「貸さないわよ。じゃ、私は準備にかかるわ。一十百、あとお願いね」

「はいっ!」

巫女服の一十百が満面の笑みで答える。

「………」

その表情と自分の巫女服を着た一十百を見て、霊夢は少し考える。

「霊夢さん?」

そして、何かを思いついたようにポンと手を打った。

「……一十百。ちょっといい?」

「ふぇっ?」

「もし明日一日で私がこの異変を解決したら、当分巫女の服を着て博麗神社にいてもらうわ」

「ふぇぇぇええ!!! な、なんで?」

「巫女が一人じゃ神社が寂しいじゃない。じゃ、そういうことで」

まったくもって答えにはなっていないが、そう言うと霊夢は奥の部屋に戻っていった。

 

「なるほどな。よし、ここは私も手伝うぜ!」

魔理沙も奥の部屋に入っていった。

「まあ……、私も手伝ったほうがよさそうね」

咲夜も霊夢、魔理沙を追うように奥の部屋に入っていった。

いつの間にか一十百は一人で居間に取り残されていた。

「み、皆さんで霊夢さんのお手伝いですか……」

これなら明日、霊夢さんの準備ができ次第、異変は解決しそうですね。

そう思って一十百は安心する。

「あれ? なにか忘れてるような……」

一十百が少し前の話を思い出す。

“もし明日一日で私がこの異変を解決したら、当分巫女の服を着て博麗神社にいてもらうわ”……。

「………あっ」

急いで一十百が立ち上がった。

異変が早く解決するのはいいことなのだが、もしも明日一日で解決したら当分は巫女服で過ごすことになってしまう。

「あうぅぅ、たぶん霊夢さんたちに言っても聞いてもらえないし……、こうなったら…」

一十百は外に飛び出していった。

「こうなったら、僕が今日のうちに異変を解決するしかなさそうです! もともとそのつもりでしたし、急がなきゃ!」

 

 

一十百は走りながら考える。

気象に詳しい人の事。

冬に詳しい人の事。

春を呼べる人の事。

「えっと、確かパチュリーさんは雨を降らせることができるから、この雪の事も少しはわかるかも。あと……チルノの友達で冬に起きてくるっていう人がいたと思うから、その人にも会わなくっちゃ。それと、春を告げる妖精さんがいるって前に本で読んだことがあるから……、大妖精なら何か知ってるかな?」

行くところを決めた一十百は博麗神社を駆け抜けていった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

異変解決準備:霊夢さんの準備は一日くらいかかるらしいです。しっかり休んで霊力をためるんでしょうか?by一十百  まあ……、そんなところよ。by霊夢  そんなところだぜ。by魔理沙

巫女服:一日で霊夢さんたちが異変を解決したら当分の間、巫女服で過ごさなくちゃいけないらしいです。な、何とかしないと……。by一十百  これは気合を入れる必要がありそうね!by霊夢  手伝うから一十を貸して欲しいぜ!by魔理沙  十百君には可愛そうだけど、私も協力させてもらうわ。by咲夜
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