東方お仕事記   作:TomomonD

28 / 114
二十七仕事目 白と黒の春の都

高々と舞い上がる妖精二人と巫女。

鈍色の雲を抜けた先には青空が広がり、暖かな世界が広がっていた。

 

 

「雲の上は、こんなに暖かだったんですね」

「下からじゃ、わからなかった」

大妖精とチルノが辺りを見て驚く。

暖かで、柔らかな日差しは間違いなく春の陽気だ。

「この辺りから確かに聞こえたんだけど…」

巫女服の一十百が辺りを見る。

どこまでも青い空と雲の平原が続いている。

その中に、白い何かがふわりふわりと飛んでいるのが見えた。

「見つけた! チルノ、大妖精、あっち!」

一十百の指差した方向を二人が見る。

そして気が付く。

「あっ、リリーさんです!」

「よし、いくぞ~!」

 

「春ですよ~」

楽しげな声が春の空に歌うように響く。

「こんにちは」

「こんにちは~」

一十百がその声の主とあいさつを交わす。

「春ですか?」

「春ですよ~」

「このあたりが~」

「春ですよ~!!」

「もうすぐ…」

「春ですよ~!!!」

一通り話し終わった後、リリーと一十百が微笑みあいながら握手をした。

今の話で何かが通じ合ったようだ。

 

「僕は一十百です。今日だけ博麗の巫女の代理をやってます」

「リリーホワイトです~。春を告げる、春告精です~」

白い服に赤いラインの入った白いとんがり帽子、透明な羽に金色の長い髪。

暖かな春を伝える妖精らしい、柔らかな容姿だ。

「それで、リリーさん。もう春が来ていいころなんですけど、なぜかまだ冬が明けてないんです。なんでですか?」

一十百の問いかけに少しうつむいて考える。

そして、顔を上げる。

「この辺りは確かに春なんです~。でも、もっと上のほうが春なんです~」

「えと、つまり…」

「春がとまってるんですよ~」

「春がとまってる……ですか」

パチュリーが言っていたように、春を引き留めている存在がいるようだ。

「やっぱり、誰かが異変を起こしてるみたいですね」

「いってみよう! あたいがばっちり解決してやる!」

その時、強い風が吹いた。

春に吹く突風に似たようなものだ。

「うわっ、今の風は…」

「あんた達に伝える春などないっ!」

どこからか吹く強い風と共に、黒い影が一十百たちの前に降り立った。

 

その姿は、リリーホワイトそっくりの姿だった。

ただ、服の色が……黒い。

リリーホワイトの白の部分をすべて黒く染めた服だった。

「ふえっ? あれ? 黒い…リリーさん?」

一十百は振り返ってリリーホワイトを見る。

確かに後ろにリリーホワイトがいることを確認する。

同一人物ではなさそうだ。

「えと、あなたは?」

「春告精のリリー。リリーブラック」

「リリーさんって、二人いたんですね……。初めて知りました」

「あたいも知らなかった」

チルノと大妖精も、このリリーブラックの事を知らなかったようだ。

そうなると、あまり幻想郷には顔を見せない妖精なのだろうか?

 

「それで、リリーブラックさんは、何故ここに?」

「ホワイトの仕事がはかどってないみたいだから、こっちに来たの。まあ、あなた達に伝える春などないけどね」

「ふぇぇ! なんでですか?」

「別に……、特に理由はないけど」

「なら伝えてほしいです。春ですよ~って」

「だ、誰が春ですよ~なんて…」

「春ですか?」

「春ですよ~……はっ!!」

しまったという表情になる。

そして、顔を赤くして一十百の事をポカポカと叩いた。

「な、何を言わせてるのよ!!」

「あうぅ。と、とにかく、この異変を止めないと、リリーさんとリリーさんが困るってことがわかりました」

「困っていますよ~」

「べ、別にあんた達の力を借りなくたって…」

「いえいえ、博麗の巫女の代理として、異変は解決しないと!」

 

 

春の空を赤と白の巫女が飛んでいく。

水色と黄緑色の妖精、白と黒の春を引き連れてゆっくりと飛んでいく。

「こっちのほうが春ですよ~!」

「方向は間違ってないみたいですね」

どこからか桜の花びらが舞ってきている。

空の上に舞い上がるほど強い風も吹いていない、桜も咲いているわけもないのだが……。

確かにどこからか桜の花びらが舞ってきたようだった。

「桜……ですね」

「あたいが一番初めに見つける!」

そう言ってチルノがいろんな方向を飛び回る。

 

一十百から手を放して飛んでいるが、一十百が落ちる気配はない。

大妖精一人で支えているというわけでもない。

完全に一十百は一人で飛んでいるようにみえる。

「リリーさ……えと、リリーブラックさん、ありがとうございます」

「べ、別に、あんたのためじゃないし。同じ妖精が運んでるのを楽にしてあげようと思っただけ……って、別にそこの二人のためでもないから!」

リリーブラックが放っている春の突風を一十百に当てることによって、疑似的に空を飛べるようにしているようだ。

「リリーブラックさん、優しいですね」

「なっ、何を…」

「優しいですね~」

「ちょっ、ホワイトっ!!」

一十百の周りをリリーホワイトとリリーブラックがくるくると追いかけっこをするように飛んでいく。

一十百もその二人についていくようにふわりと飛んでいく。

 

 

そのころ、博麗神社では……。

「霊夢、どうだ?」

「安心しなさい。明日になったら、朝一番に解決に向かうわ」

「解決に向かうって……、誰がこの異変の首謀者か知ってるのか?」

「さあ?」

「おいおい……」

「そのために咲夜とアリスに頼んだんじゃないの」

博麗霊夢はお札とスペルカード、妖怪退治に必要な道具を用意しながらそう言った。

その道具をいろいろ整理しながら霧雨魔理沙はふぅとため息を吐いた。

 

咲夜は異変の事を調べると言って紅魔館に戻ったばかりだ。

その後にふらりと博麗神社に立ち寄ったアリス・マーガトロイドにも、この異変と一日で異変を解決した場合に起きる出来事をを話した。

アリスは二つ返事で即協力してくれることになった。

「明日になる前に場所くらいは特定できるでしょ」

「まあ、そうだろうな……」

「そういえば、一十百が運んできた妖精がいたわよね。あれにも手伝ってもらいましょう」

霊夢と魔理沙が光の三妖精たちの寝かされている部屋に行く。

襖を開けると……、そこはもぬけのからだった。

「あら? いつの間にかいなくなってるわね。手伝ってもらおうかと思ったのに」

「まあ、妖精が好き好んでここにずっといるとも思えないぜ」

「仕方ないわね。魔理沙、さっさと終わらすわよ」

「そうだな。 ……そう言えば、一十の姿が見えないんだが」

「そう言えばそうね……。まあ、そのうち戻ってくるでしょ」

 

 

一十百たちが異変の元凶がいるであろう場所を目指して真っすぐ飛んでいく。

「こっちのほうですか?」

「はい。こっちのほうがさらに春ですよ~」

「春っぽさって、あたいにはわからないけど…。大ちゃん、わかる?」

「私にもさっぱり…。やっぱり、春告精のリリーさん達にしかわからないんだと思う」

今までは春の柔らかな空だったのだが、だんだんとその様子が変わってきた。

いつしか周りは暗くなり、どことなく不思議な雰囲気に包まれてきている。

「なんだか……、変な感じですね」

 

一十百がさらに進もうとした時、後ろのほうから声が聞こえてきた。

「ちょっと、まった~!!」

「あれっ? 今の声って…」

一十百が振り返ると、かなり近くまで三妖精が飛んできていた。

「やっぱり、光の三妖精の、サニーとスターとルナ。どうしてここに?」

「はぁ、はぁ、急いでついてきてよかった。この先は冥界っていうところらしいよ」

「死んだ人が行くところ。好んで行きたい場所ではないわね」

「知らないで進もうとしてたから、急いで止めにかかったと言うわけ」

「そうだったんだ、知らなかったよ。わざわざありがと」

一十百が微笑んでお礼を言った。

 

お礼を言った後に、一十百は疑問に思ったのか三妖精に尋ねた。

「あれ? でも、リリーさん達に会うまでここに向かうなんて決めてなかったのに。なんでここにいるってわかったの?」

「えっ? そ、それは…」

サニーミルクの視線が一十百の方向から思いっきり逸れた。

「えっと……、まあ、ほら、妖精の勘かな?」

「そうなんだ……。ふ~ん」

一十百は何か隠しているように見えたので少し考える。

 

そう言えば初めて会ったとき、いきなり現れたっけ。

もしかして……と、一十百が何か思いつく。

「でも、リボンが隠せてなかったのは、ダメだったね」

「えっ! か、隠せてなかった? 完全に見えなくなってたと思ってたのに! 一回も振り向かなかったから、気が付いてないと…」

「やっぱり、ついてきてたんだ……。それに姿を消すことができるんだね、知らなかった」

「あえっ? ……も、もしかして、だまされた?」

一十百が満面の笑みで頷いた。

それを見てサニーがおもいっきり肩を落とす。

「でも、わざわざ伝えてくれてありがと。おかけで、ちょっとした心構えができたよ」

 

「それじゃ、僕たちは行くから」

一十百は光の三妖精に手を振る。

「まって! せっかくだから、ついていく!!」

「ちょっと、サニー……。本気?」

「もっちろん!! 今まで小さいいたずらしかしてなかったじゃん。でもここで異変を解決する手伝いをしたら、少しは私たちの事が有名になるかも」

「それはそうだけど…」

「それに、よく見たら…、大妖精もチルノもリリー達も、みんな妖精だよ。これで異変が解決できたら、最弱の種族として笑われてきた妖精たちに対して、私たちでも大きなことができるっていう大きな狼煙になると思う!」

サニーの一言に、スターとルナの二人が顔を見合わせる。

そして、頷いた。

「わかったわ。行きましょう!」

「妖精たちの力を見せるいいチャンスかもしれないもの」

光の三妖精が一十百の前に立った。

「邪魔はしないから、ついて行っていい?」

「もちろん!」

「やったぁー!!!」

こうして、春を取り戻すため一十百と多くの妖精たちが冥界のほうに向かっていった。

 

 

「「「そう言えば、なんで巫女服?」」」

「聞かないで~……」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

リリーホワイト:春告精の一人で、真っ白い服のほんわかした感じの妖精さんです。春ですよ~って、楽しそうな声で春を伝えてくれます。普通の妖精さんと違って、少し強い力を持っているらしいです。by一十百  春ですよ~。がんばって伝えますよ~!byホワイト

リリーブラック:春告精の一人で、リリーホワイトさんの服装の黒バージョンを着てる妖精さんです。異変でリリーホワイトさんのお仕事が進まないのを手伝いに来てくれたそうです。他人に冷たく接する時があるんですけど、本当はとってもやさしい妖精さんです!by一十百  ちょ、っと……べ、別に優しくなんてしてないわよ。byブラック

異変解決妖精チーム:僕とチルノ、大妖精、リリーホワイト、リリーブラック、サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドの八人で異変を解決しに行きます! 妖精たちの力の可能性を幻想郷に轟かせるときです!!by一十百  あたいがさいきょーだから、このくらいはらくしょーね!byチルノ  私も頑張って、お手伝いします。by大妖精  春を取り戻しますよ~!byホワイト  ま、まあ春のためだから…手伝ってあげるわよ。byブラック  妖精のすごさを見せてやるっ!byサニー  サニーがやる気に満ち溢れてるわね。友達を手伝うのは当たり前よね。byスター  ほかの妖精たちのためにも頑張らないとね。byルナ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。