東方お仕事記   作:TomomonD

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二十八仕事目 月と太陽と星の幽霊楽団

遥か高い空を妖精の一団が飛んでいく。

その小さな体に大きな意志を携えて、遥か冥界に向かう。

 

 

「あれ? なんだか、演奏が聞こえてこなかった?」

一十百がふわりと止まる。

実際はリリーブラックの春の突風が一十百を浮かしているので、止めたのはリリーブラックなのだが。

「大ちゃん聞こえた?」

「……あっ、聞こえます!」

大妖精とチルノがふわりと止まる。

それにつられてリリーホワイトとリリーブラックがふわっと止まった。

「こっちですね~」

「寄り道するの? まあ、いいけど…」

光の三妖精も気になったのかブレーキをかけるように急停止した。

「本当だ、聞こえる!」

「こっち?」

「行ってみましょう」

 

 

一十百と妖精の一団が聞こえてきた演奏を頼りに飛んでいく。

すると、四本の四角い柱が立ち並ぶ不思議な空間にたどり着いた。

その先に怪しげな空間が見える。

「あれは……」

「あの先が、とっても春ですよ~!!」

リリーホワイトが両手を広げてくるくる回っている。

「リ、リリーさん、春が近づいてきて楽しいのはわかりますけど、落ち着いて」

「あたいが止めてくる~」

「私も!」

リリーホワイトがいろんな方向に飛び始めてしまったので、チルノ、大妖精、サニーの三人が止めにかかった。

「あれ? リリーブラックさんは飛び回らないんですか?」

「だ、誰が……あんな風に飛び回るもんですか」

そうは言っても腕がふるふると震えている。

どうやら飛び回りたいのを我慢しているようだ。

「……春ですか?」

一十百がそっと尋ねた。

「春ですよ――――!!! ……って、何言わせてるのよ!!」

両手を広げ満面の笑みでリリーブラックがそう答え、そして一十百の事をまたポカポカと叩いた。

「あうぅ。それで、さっき聞こえた演奏は…」

一十百が辺りを見回す。

 

すると、ふわりと上空から一人の少女が降りてきた。

金髪で黒色の洋服に月のワンポイントが付いた黒の帽子。

そして、ヴァイオリンを持っている少女だ。

「ふえっ、あなたは?」

「…ルナサ。ルナサ・プリズムリバー」

何だか暗い雰囲気が纏われているような話し方だ。

「えと、さっきの演奏は……」

「……私たちの」

「私たち?」

 

「ルナ姉、待ってって……あれ? お客さん?」

「まだリハーサル中だよ?」

ルナサ・プリズムリバーを追いかけてきたのか、似たような服装の少女がさらに二人現れた。

一人は白い服に太陽のワンポイントの白い帽子の少女。

もう一人は赤の服に星のワンポイントの赤い帽子の少女。

白の服の少女はトランペット、赤い服の少女はキーボードを持っている。

どうやら三人での楽団のようだ。

「ふえっ? えと……」

「私はメルラン・プリズムリバー。このプリズムリバー楽団の躁の音担当をしているわ」

「私はリリカ・プリズムリバー。ルナ姉の鬱の音とメル姉の躁の音を上手く混ぜ合わせるのが私の役目」

「躁の音? 鬱の音?」

「……聞いてみる?」

「ぜひ!」

一十百が目を輝かせて頷いた。

異変解決を控えているのだが、その前の一休憩といったところだろうか。

 

 

始めは鬱の音の担当のルナサ・プリズムリバーの演奏のようだ。

ヴァイオリンの静かで悲しげな音色が空に響き渡る。

さすがに楽団を名乗ることだけあってその腕前は確かだった。

心落ち着く、とても深い音色だ。

聞き始めたころは何ともなかったのだが……、少しすると…。

「春ですよ~」

今まであっちこっちに飛び回っていたリリーホワイトがいつもの状態に戻ってきた。

「あれ? リリーさんが落ち着いてきたみたいですね」

 

さらに演奏が進んでいくと……。

「なんだか、春って騒ごうとしていた、私って……はぁ…」

「どうせ、私たちみたいな妖精が頑張ったところで……、何もできないよ…」

リリーブラックとサニーミルクがどんよりと落ち込み始めた。

「あれ? 二人とも、どうしたの?」

「ああ……。こうやって、最後まで演奏する前に脱落してしまうんだ…」

周りで妖精たちが意気消沈している中、一十百だけが真剣にルナサの演奏を聴いていた。

「あれ? ルナ姉のソロライブを聞いていて、あんな風に普通でいられてるのって珍しいね」

「本当だね。ネガティブに慣れてるのかな?」

 

そして、静かにルナサの演奏が終わった。

パチパチと大きな空に一十百の拍手が鳴り響いた。

「とっても落ち着く演奏でした! さすが楽団の方です!」

「……ソロの演奏を最後まで聞いてもらえたのは……久しぶりだよ」

どことなく、やり遂げることができたとルナサはそっと微笑んだ。

 

 

次はメルラン・プリズムリバーの演奏のようだ。

沈んだ雰囲気の空へ高らかにトランペットの音が弾ける。

応援をしているような、笑いかけているような、そんな音色が響き渡る。

その音色はすぐに効果を発揮していった。

「あれ? 今まで悩んでことが楽になっていく気がします」

「あたいって、やっぱりさいきょー!」

落ち込んでいた妖精一行がやる気を出し、ふわふわと舞い上がる。

「おお~、皆さんのやる気が出てきました。すごいですね」

 

しかし……、さらに演奏が続いていくと……。

「春ですよ――――!! 最高のは・る・ですよ―――!!!」

「お前たちに伝える春など、ないっ!!!」

「私たち、三妖精に不可能という文字は似合わない!!!」

初めのころ飛び回っていたリリーホワイトのように、演奏を聴いていた妖精たちが飛び回り始め、手の付けられない状況になってきていた。

「あ、あれ? なんだか暴走してませんか?」

「メルランの演奏は聴きすぎると……、こうなる」

「あれ? でも、あなたは大丈夫みたい」

 

高らかな演奏もクライマックスを終え、しっかりと幕を閉じた。

妖精たちが舞い踊る中、一十百はその演奏にしっかりと拍手を送っていた。

「元気がもらえる楽しい演奏でした。高らかに響き渡った音色が素晴らしかったです!」

「人間から拍手をもらうのって、久しぶりかも。聴いてくれてありがと!」

大きく手を振ってメルラン・プリズムリバーは一礼した。

 

 

最後はリリカ・プリズムリバーの演奏。

本来なら躁と鬱の音を上手く混ぜ、聴きやすいようにする役目なのだが……。

どうやらソロでもかなりの実力者だったようだ。

キーボードから流れてくる音は、幻想的な音色だ。

今まで聞いたことがない音、楽器からは発することのできない音色が響き渡る。

演奏もとても上手く、いう事がないように思える。

 

ただし……音量を除いては……。

幻想の音色…、それは、聴く者にとっては、大音響になるようだった。

「み、耳が痛いって!!」

「あ、頭がガンガンします…」

妖精たちにはどうやら大音響で聞こえてしまっているようだ。

そのため、耳をふさいだり、頭を抱えて蹲っている状態になってしまっている。

 

対して一十百は……。

「おぉ~……、きれいな音色が響き渡ってます!」

大きな影響がないようで、幻想の音色を驚きの表情で聴いていた。

大音響に悩まされている状態の妖精たちにすれば長く、聴き惚れていた一十百にすれば短い演奏が幕を閉じる。

一十百の拍手が空の劇場に響き渡る。

「今まで聞いたことのない音で演奏を聞かせてもらえました。感動できる演奏でした!」

「人間相手にソロで演奏するのも久しぶりだったから、いい経験になったよ」

ニコッと微笑んでリリカ・プリズムリバーはお辞儀をした。

 

 

「それで……、なんで冥界に?」

「ふぇ? えと…」

一十百が今回の異変の事を語る。

その原因がこの先にあるのかもしれないと。

一十百の話を聞いてプリズムリバー三姉妹が顔を見合わせた。

「……この先には、白玉楼がある」

「白玉楼? えと、死者が向かうって言う、白玉楼…のことですか?」

「そうだよ。私たちこれからそこでライブをする予定だったんだけど…」

「異変解決でそれどころじゃなさそうだね」

 

そこで一十百は考える。

あれほどの演奏を聞かせてもらったのに、異変解決でライブをつぶしてしまうのは、恩を仇で返すことになってしまう。

とはいえ、異変を解決できなければ幻想郷の危機。

そうなると……。

「せっかくのライブです。ここで中止させてしまうわけにもいきません。急いで異変を解決してくるので、待っていてください! たぶん、一時間もかからないと思います!」

「え……、そんなに早く?」

「無理じゃないかな?」

「無理だと思うよ」

「いえ! 解決して見せます! 春も、ライブも、中止するにはもったいなさすぎますから」

一十百の目に強い意志の光が灯った。

 

少しの沈黙の後、ルナサ・プリズムリバーが口を開いた。

「……わかった。一時間くらい……リハーサルをしているよ」

「ルナ姉、待つの?」

「せっかく呼ばれたんだ、向こうの用事が一区切りしてからのほうがいい」

「まあ、そうだけど……」

「本当に一時間で解決できるの?」

リリカ・プリズムリバーがすこし心配そうに尋ねる。

しかし、一十百の表情には迷いはなかった。

必ず時間通りに解決するという確固たる意志がその眼に、表情に宿っていた。

「大丈夫、みたいだね。うん」

「それじゃ、まかせた!」

「はいっ!」

 

 

一十百と妖精の一行はゆっくりと冥界の門をくぐる。

そこにはいつしか地面があり、遥か彼方まで続く階段が伸びていた。

「ここが冥界……。僕の知っている冥界とはちょっと違うなぁ」

「冥界って、ほかにあるんですか?」

「う~ん、外の世界の冥界はもう少し禍々しかった気がする」

大妖精の質問に一十百が答える。

「春がちかいですよ~!!」

「ま、まあ、これだけ近ければ、言わなくてもわかると思うわよ」

リリーホワイトとリリーブラックが階段のずっと先を見てそう言った。

一十百は頷いて階段を上り始める。

その時、何かを思いついたのか懐から何かを取り出した。

陶器で作られた三角形の笛のようなものだ。

「十百、それ何?」

「オカリナって言う楽器だよ。さっき、プリズムリバー楽団の演奏を聴いて久しぶりに吹いてみようかなって」

 

一十百がゆっくりと階段をのぼりながら、オカリナを奏で始めた。

寂しげで、それでいて深く、どこか遠い場所を思い浮かべるような音色が静かに響き渡る。

一十百のオカリナの音はプリズムリバー楽団に負けないほどの音色だった。

その音色は、外でリハーサルをしていたルナサ、メルラン、リリカの耳にも届いた。

「……寂しげな、音色が聞こえる」

「本当だ。でも、悲しげな感じはしないね」

「どこか、遠くにいる誰かのために演奏してるって感じだね」

三人が演奏をやめ、その音色に耳を傾けた。

その音色は自分たちの演奏に負けないほど素晴らしいものだ。

「……上手い」

「ソロ…だよね」

「私たちも負けないようにしないと」

 

 

一十百の演奏が、不意に止まった。

白玉楼に続く階段を誰かが降りてきたようだ。

「あなたは……」

一十百が見上げる。

そこには、二振りの刀を腰に携えた、銀髪の少女がこちらを見下ろしていた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ルナサ・プリズムリバー:プリズムリバー楽団の一人で、鬱の音を奏でるヴァイオリニストです。ヴァイオリンだけじゃなくって弦楽器全般が得意みたいです。落ち着いていて、面倒見のいいお姉さんのような感じです!by一十百  ソロで演奏を聴いてくれたけど……、大丈夫だった?byルナサ

メルラン・プリズムリバー:プリズムリバー楽団の一人で、躁の音を奏でるトランペッターです。管楽器が得意楽器みたいで、たまにトランペットじゃなくってトロンボーンを使って演奏していることがあるそうです。明るくって、笑顔が眩しいお姉さんです。by一十百  異変解決頑張ってね~!byメルラン

リリカ・プリズムリバー:プリズムリバー楽団の一人で、幻想の音を使って鬱の音、躁の音を聞きやすく調整するキーボードニストです。幻想の音を使ったパーカッションも得意って言っていました。にっこり笑顔のお姉さんです。by一十百  冥界から聞こえてきた演奏って……、十百君?byリリカ
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