東方お仕事記   作:TomomonD

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三十仕事目 高らかに咲け、春留めの桜

冥界の階段に静かに剣閃が走る。

 

カランと、寂しげな音が鳴り響いた。

一十百の持っていた金属は、見事に両断されていた。

「……お見事……です」

ゆっくりと一十百が持っていた金属を手放した。

透き通るような音を立てながら両断された金属は冥界の階段を転がり落ちていった。

「楼観剣に……斬れぬものは…殆ど……」

魂魄妖夢はそこまで言うとふらりと倒れた。

一十百がその身体をゆっくりと受け止める。

「……気を失ってるみたいですね」

どこか満足そうな表情で魂魄妖夢は気を失っていた。

 

妖怪が鍛えたという楼観剣……。

それよりも遥かに鋭く、鋭利に研ぎ澄まされた魂魄妖夢の集中力……。

その二つが合わさることによって、自分の持っていた絶対的な金属は両断されたのだと。

単純な硬さだけなら間違いなく一十百の金属のほうが優勢だった。

けれど、それを補って余りある魂魄妖夢の精神力と技が全てを覆したのだと。

「これだけのことを一瞬でやり遂げたんです。精神的に疲労してしまうのは当たり前です」

そっと一十百は冥界の背に寄りかかるように魂魄妖夢を寝かせた。

「貴女は、とても立派な剣士です」

深く一十百は頭を下げた。

 

 

一十百と妖精の一行が冥界の階段を上りきると、そこには大きな屋敷が建っていた。

「これが白玉楼ですか。大きなお屋敷ですね」

「冥界にこれほどのものがあるとは思っていませんでした」

大妖精も少し驚いたようにその屋敷を見る。

「十百、あっちに大きな桜の木があるよ!」

「えっ?」

チルノが指差した方には、屋敷より遥かに巨大な桜の木が見えた。

不思議と半分くらいしか咲いていないようだ。

その咲き方も半分が枯れ枝でもう半分が満開という一風変わった咲き方だ。

「春です!! あの桜の木から強い春を感じます~!!」

「あの木が今回の元凶、みたいね」

リリーホワイトとリリーブラックがふわりと浮かび上がる。

一十百は一度頷いて、桜に向かって駆け出した。

 

 

「……あら? こんなときにお客なんて珍しいわね」

桜の木の下には一人の女性が佇んでいた。

水色のふわりとした洋服、変わった形の帽子、桜色の髪…。

そして、人とはあからさまに違う雰囲気…。

 

「えと、貴女は?」

「白玉楼の主をしている西行寺幽々子よ。生きた人間がここに来るのはいつ以来かしら?」

扇子を少し開き、口元を隠しながら微笑む。

一十百はその微笑を見て敵意がないことを感じ取った。

春を集め留めた元凶に間違いはなさそうだが、それほどの悪人には見えない。

「えと、僕は一十百というものです。今日一日だけ博麗の巫女の代理をしています。それで…」

「春を返せー!!」

一十百の話に割り込むようにチルノがそういった。

「チ、チルノちゃん。いきなりはまずいよ…」

「春? 春度のことかしら?」

少し首をかしげて西行寺幽々子は尋ねる。

「はい。幻想郷に春が訪れてないんです。このまま、というわけにもいかないのでここまでやってきました」

「なるほどね~」

西行寺幽々子は少し目を伏せる。

 

そしてゆっくりと目を開いた。

「悪いのだけれど、春度を返すわけにはいかないわ」

「ふえっ? な、何故ですか?」

「これを見て」

扇子で後ろの巨大な桜を指差した。

「この桜は?」

「これは西行妖と言う桜。この下には何かを封印してあるらしいのよ。満開になれば封印が解けると思うのだけれど……。普通の方法じゃ満開にする事はできないみたいなの」

「それで春度を集めて、満開にしようと…」

そっと一十百が西行妖に触れる。

その時、一十百の瞳の青い光が強く瞬いた。

「……っ!!」

横で見ていた西行寺幽々子が身体を押さえてうずくまった。

「えっ? だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫……ではないわ。今の激痛は…?」

「ふえぅ、僕にも分からないです。でも……」

そこまで言って一十百の表情が真剣なものになる。

「この桜の封印は、解かない方がいいかもしれないです。もしかしたら、幽々子さんの命にかかわることかもしれません」

「命…って、一応、私亡霊なんだけど…」

「ほぇ? そ、そういえばそうでした。でも、それでも危険な感じがします」

そう言われて西行寺幽々子が一十百を見る。

嘘は…吐いていないみたいね。

 

「そう。なら、諦めましょ」

「ええっ! そ、そんなにあっさり?」

後ろで見ていたサニーミルクが唖然とする。

「私だって危険を冒してまで封印を解くつもりはないわ。ちょっとした好奇心で封印を解いてみたかっただけだったし」

「ただの好奇心で、春を止めるって……」

「きっと、それだけの力があるのよ」

スターサファイアもルナチャイルドもため息を吐いた。

 

 

「でも……、一度でいいから西行妖の満開を見てみたかったわ」

少しだけ寂しげに西行寺幽々子がそうつぶやく。

「……う~ん」

一十百が西行妖を見上げる。

この桜の花は…確か春度を集めたものなんですよね…。

「えと、リリーさん達。ここの春度って、普通の春にするとどれくらい?」

訳のわからない質問だが、どうやらリリーホワイトとリリーブラックには伝わったみたいだった。

「そうですね~、幻想郷の倍くらいの春ですよ~」

「そのくらいみたいね。よくここまで集めたものね」

「幻想郷の春の倍……ですか。よし」

一十百がぽんと手を打った。

「えと、擬似的でよかったら満開にする事は出来そうですけど」

「えっ? できるの?」

少しだけ驚いたように西行寺幽々子が尋ねる。

これだけの春度を集めたのに半分程度しか咲かなかった西行妖、それを擬似的とはいえ満開にする…。

普通に考えれば出来ないはず…。

「出来ます! でも、短い間しか咲きませんし、集めた春度も解き放たれてしまいますけど、いいですか?」

「いいわよ。春度を集める方法で満開にすると、危険なんでしょ?」

「はい。でも僕の考えた方法ですと、実際には一輪も咲きません。でも、満開になる予定ですから」

「……? 咲いているのに、咲いていないの?」

「咲いているように見える、だけですから」

「まあ、絶対に咲かない桜を見るよりも、咲く可能性のある桜を見ているほうが面白そうね」

西行寺幽々子は軽く微笑む。

 

 

「それで、何か必要なものでもある?」

「えと、スペルカードの素ってありますか? たぶん、幽々子さんの物じゃないとダメなような気がします」

「? スペルカードの素? これで大丈夫?」

懐から一枚の白いカードを取り出した。

「はい! あとは…」

一十百の手から桜の花びらの形をした春度がスぺルカードの素に吸い込まれる。

それを合図とするように、西行妖の花びらが一斉にスペルカードめがけて舞い落ちる。

一十百が振り上げたスペルカードに全ての花びらが吸い込まれていく。

「綺麗ですね」

「春が集まってますよ~!」

大妖精は桜の花が舞い集う光景に驚きつつも感動したようだった。

リリーホワイトは春度が集められているので前のように気分が高まってきているようだ。

 

一十百の掲げたスペルカードは全ての花びらを吸い込むと淡く桜色に輝いた。

「よしっ! それじゃいきますよ!!」

一十百がそっとスペルカードを包み込む。

その手の中から桜色の光が零れだす。

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~満開~』」

一十百が大きく両手を掲げ、そして開く。

その瞬間、桜色の光が強く輝き、辺りを染めた。

 

 

光が弱まるとそこには……。

「うわぁ……」

「これが……西行妖の満開…」

冥界の空に高々とそびえる巨大な桜の木、西行妖。

その全ての枝に淡く輝く桃色の花が咲き乱れていた。

今まで多くの桜を見てきた妖精たちも、亡霊となって長い間過ごしてきた西行寺幽々子も言葉が出てこなかった。

幻想的で圧倒的で見ているだけで感動を呼ぶ景色だった。

まるで暗く星も瞬かぬ冥界の漆黒の空が青空になったような、そんな気さえ起こさせる満開の桜だ。

「すごいですね。これほどの桜が見られるなんて、ここまで来たかいがありました」

そういって隣の西行寺幽々子を見る。

西行寺幽々子は静かに涙を流していた。

悲しんでいるようではなく、ただ感動しているような、そんな表情だ。

たぶん、今なにを言っても聞こえないんだろうなぁ…。

そう思った一十百も静かに西行妖を見上げた。

あれほど気分が高まっていたリリーも、いつもならもう少しはしゃいでいるチルノも静かに西行妖を見上げていた。

 

西行妖は段々と桜の花びらを散らせ、数分後には一輪も咲かぬ枯れ木に戻っていた。

一十百の持っていたスペルカードからも光が消えている。

「……終わったわね」

「その……、満足していただけました?」

少し心配そうに一十百が尋ねる。

全ての春度を使い切ったために、もう一度はない。

文字通り一回っきりの満開だったのだ。

「ええ、亡霊として長く存在してきて、今日ほどよかったと思えた日はないわ」

ついと涙を拭いて西行寺幽々子が目を閉じた。

「ありがとう。可愛い巫女見習いさん」

そっと一言そう紡いだ。

その一言は今まで数多くお礼を言われてきた一十百の中でも、とても心に響いた一言だった。

それだけ、西行寺幽々子の気持ちがこめられていたのだろう。

 

 

「それでは、そろそろ僕は戻ります。きっと幻想郷に春が訪れてる頃だと思いますから」

そう一十百が振り返ると、すでにリリーホワイト、リリーブラックの姿はなかった。

「あれ? リリーさん達は?」

「“春ですよ~! 待ちに待った春ですよ~!!”って言いながら飛んで言っちゃったけど…」

「い、いつの間に…」

 

一十百は少し唖然としてから、一度頷く。

「えと、それでは幽々子さん、これにて僕は博麗神社に戻ります。もしかしたら、もうすぐ博麗神社で宴会があるかもしれないんで、そのときは是非いらして下さい」

「あら? 一応異変の首謀者だったのに、参加していいのかしら?」

「ふえっ? う~ん、たぶん大丈夫ですよ。霊夢さんもそんなに心の狭い人じゃないですし……。何か美味しいものでも手土産に持ってきてくれれば、問題はなさそうですよ」

一十百がにっこりと微笑む。

幽々子も一度頷いて扇子を大きく広げた。

「宴会、楽しみにさせてもらうわね。それじゃ、お見送りさせてもらうわ」

西行寺幽々子がふわりと浮かび上がる。

扇子を掲げあげると、その幻影のような大きな扇子がその背に大きく開かれる。

掲げあげた扇子を振り下ろすと淡く光り輝く蝶が次々と放たれ、冥界の階段までを淡く照らしあげた。

「おぉ~…、綺麗です!」

「十百行くよ~!」

チルノに手を引かれて、一十百は走り出した。

 

 

冥界の階段の途中で魂魄妖夢に出会う。

今までの出来事を話すと、一度頷き白玉楼に戻っていった。

なんだか安心したような表情だったので、一十百も安心して冥界の階段を駆け下りていった。

外に出ると丁度プリズムリバー楽団が入ってくるところだったようだ。

三人に異変の解決を伝えると、安心してライブができると張り切って冥界の門をくぐっていった。

 

 

一十百が博麗神社に戻った頃には既に暖かな日差しが登り、春の陽気が訪れていた。

チルノは大妖精をつれてレティがちゃんと眠れたか確認しに行くと言って森の方に向かっていった。

光の三妖精も今日はいったん戻るようで、ふわふわと森の方に飛んでいった。

 

一十百は大きく伸びをして空を見上げる。

そこには青く澄み切った春の空がそこにはあった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

西行寺幽々子:冥界の白玉楼の主でふわりとした感じの桜の似合う亡霊さんです。なんだか優しそうな中にも強いカリスマを秘めた女性です。西行妖の封印と何か関係があるみたいなんですけど、よく分かりませんでした。by一十百  博麗の巫女の代理というのもあながち間違ってなかったわね。by幽々子

西行妖:冥界にある大きな桜の木です。何かを封印してあるみたいなんですけど、その封印は解かない方がいいようです。擬似的に満開にしてみましたけど、とても綺麗でした!!by一十百  あなたのおかげで西行妖の満開が見られたわ~。by幽々子

幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~満開~』:僕の十一枚目のスペルカードです。今まで集めた春度を一気に使うことによって桜の花びらの弾幕を放ちます。次からは春度がないので満開にはならないのかなぁ。by一十百  参分咲とか伍分咲とかになるのかしらね。by幽々子
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