東方お仕事記   作:TomomonD

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三十一仕事目 一枚の写真と一本の桜の枝

長い冬が終わった。

暖かさが訪れ、人里の活気も戻ってきた。

 

 

「……なるほど」

「こうして、私たち妖精たちの大活躍で異変は解決したというわけ」

「そんなに活躍してなかったと思うんですけど…」

博麗神社の前で妖精たちが集まっている。

その集団の中には、黒い翼をもつ鴉天狗の射命丸文もいるようだ。

異変解決の事について取材をしているようだ。

 

しかし……。

「やはり、十百さんから異変の事を聞くべきでしたね……」

妖精たちの話している内容は、各々で違っており、どれが本当の出来事かわからない状態になってしまっている。

一通り妖精たちから取材を終えると、射命丸文は境内のほうに向かっていった。

 

 

ショートカットの黒髪の巫女が石畳をせっせと掃き掃除している。

巫女見習いのような雰囲気はどこか初々しさを感じさせる。

「あやや? 霊夢さん……、ではないようですね。新しい博麗の巫女でしょうか? 世代交代にしては早すぎるような…」

ゆっくりと射命丸が巫女に近づく。

それに気が付いたのか、巫女が射命丸のほうに向きなおる。

「御参拝の……あっ! 文さん、こんにちは」

「こ、こんにちは。ふ~む、初めて会ったはずなのですが、私の名前を知っているとは…」

「ふぇっ? は、初めて?」

その反応を見て、この巫女の正体に気が付く。

「えっ!! 十百さん、ですか!!」

「は、はい。そうですけど…」

少しの間、射命丸文は唖然となる。

 

我に返ると急いでカメラを構えた。

フラッシュとともにシャッターが切られる。

しかし、既にそこに一十百の姿はなかった。

「ほぇっ……。い、いきなり写真を…」

「くっ、さすが十百さん。簡単には撮らせてくれませんか」

「な、なぜ写真を?」

「……『文々。新聞』の為に決まってるじゃないですか~」

どことなく一十百から視線がずれる。

「…何か別の用途に使うつもりですね?」

「いえいえ、まさか。しっかり厳選して新聞に載せるつもりです」

「厳選して……新聞に載らなかったものは?」

「私のコレ……、コホン。誰にも見られないように厳重に保管しておきます」

「今聞いてはいけない単語が聞こえたような…」

「…気のせいです。さあ、しっかり撮影しますから、動かないでくださいね!」

「ふぇえっ!!」

この後、数十分にも及ぶ撮影を試みたようだが、一枚として一十百の巫女服の姿をフィルムに収めることができなかった。

単純な速さだけなら射命丸文のほうが速いのかもしれない。

しかし、シャッターが切られるのに少しばかりのタイムラグが生じるため、高速回避をし続ける一十百をとらえることはできなかったようだ。

 

 

「し、仕方ありません。涙を呑んで写真は諦めます。では本題の、今回の異変について詳しく!」

「ふぇっ? チルノや大妖精や三妖精に取材をしていたんじゃ……?」

「妖精たちの話だと色々と事実が捏造されているので……。やはり、十百さんの見聞きした異変の全てを取材させてください」

「ぼ、僕の話でよかったら…」

一時間程、今回の異変について一十百が射命丸について話した。

 

一十百の説明はとても伝わりやすく、射命丸の質問等についても上手く答えたられたようだった。

「やはり、妖精たちが言っていたのとは少し違いますね」

「そ、そうですか?」

「まあ、重要な部分は同じなので、大きくは変わりませんが」

そう言って射命丸文は立ち上がった。

「そういえば、何故巫女服のままなんですか? 異変は十百さんが解決したのですから、巫女服は着なくてもいいはずでは?」

「そ、そうだったんですけど……。霊夢さんと、魔理沙さんと、咲夜さんが……、あと一日どうしてもって…」

射命丸は見えないようにガッツポーズをした。

あの三人にはお礼を言わないといけませんね。

「なるほど。さてと、そろそろ私は戻りますね。このことを記事にしないといけませんから」

「はい! 射命丸文さん、頑張ってください。応援しています」

鳥居の所まで戻った射命丸に朗らかな微笑みを浮かべた一十百がそう声をかけた。

「………」

 

カシャリとシャッターが切られた音が響いた。

 

一十百も、撮影したはずの射命丸ですら一瞬何が起こったかわからなかった。

まるでカメラ自身に意志があり、その一枚の写真を撮るために射命丸の手を動かしたような、そんな一瞬だった。

「えっ?」

「ふえっ?」

「「………」」

二人が状況を把握する。

「………あの、その…」

「…ふ、ふふふ!! これは、ベストショット間違いなしです!!!」

タンと石畳を蹴って一十百がカメラに手を伸ばす。

しかし、ほんの一瞬の差で射命丸が空に高々と飛びあがった。

「ふえぇっ!! あ、文さん! えと、あのっ!!」

「安心してください! ばっちり厳選して、私が保管しておきますから!! それではっ!!」

淡い光を纏いながら射命丸文ははるか遠くの山に飛んで行った。

「げ、厳選って……、僕の写真は一枚しかないと思います…」

一十百は呆然と遠くの山を見ることしかできなかった。

 

 

「文が? わかったわ」

「なるほどだぜ」

「わかりました」

一十百が掃除を終え、部屋に戻ると霊夢、魔理沙、咲夜の三人が異変の片付け……、もとい、異変解決のための道具の片付けをしていた。

一十百と射命丸文が何やら話していたのが気になったようで、一十百は今さっきの出来事を説明した。

三人は互いの表情を見て頷くと、射命丸の向かっていった山のほうに飛んで行った。

「えと、留守番は、任せてください」

一十百のその言葉を言う前にすでに三人はいなくなっていた。

「は、速いですね……」

 

 

一十百は一人になってしまった博麗神社で今回の異変の事をまとめていた。

外の世界にいる主に今回の事を伝えるためにレポートにまとめている。

春を引き留めた異変、春を呼ぶ妖精、協力し合うことではるかに強い力をだす妖精達。

「今回もいろいろあったなぁ~」

 

「お邪魔するわ~」

「ふえっ!!」

一十百が振り返るとそこには今回の異変の首謀者であり、白玉楼の主の西行寺幽々子が立っていた。

「あれっ? 幽々子さん、どうしたんですか?」

「ちょっとだけ用があってね」

そう言って一十百に何かを手渡した。

「これは……枝、ですか?」

一十百が受け取ったのは腕ほどの木の枝だった。

「えと、これって……」

「西行妖の枝よ」

「ふえっ、あの桜の?」

「ええ。それ、綺麗に折れてるじゃない。まだ枯れていないのに、こんな風に折れるなんて普通じゃありえないと思って」

一十百も折れている部分を見る。

無理やり折ったわけでもなく、綺麗に折れている。

枝自体が枯れて乾いているわけでもないようだ。

「本当です、珍しいですね。でも、何故これを僕に?」

「あなたが来た次の日に私の上に降ってきたの。なんとなく、あなたに渡すべきだと思ったの。何に使うかは、任せるわ」

「……はいっ!」

少しだけ考え、一十百はすぐに使い道を決めたようだった。

「それじゃ、せっかくだから博麗の巫女にでも……」

「いま、外出中なんです……」

「あら? せっかく挨拶しようと思ったのだけれど……、まあ仕方ないわね」

「せっかくですし、お茶でもどうですか?」

「そうね~。いただいていこうかしら?」

 

 

西行寺幽々子はのんびりとお茶を飲みながら一十百の事について尋ねてきた。

外来人という事はなんとなくわかっていたらしく、外の事についていろいろ話している。

「なるほど~、あなたも色々と苦労してきたのねぇ」

「ほぇ? そうでしょうか。僕はこちらでの生活もあちらでの生活も充実していて楽しいものですけど…」

「まあ、楽しみ方は人それぞれね」

そう言って庭においてある電車を見る。

「あれに乗るとあなたの主のところにいけるのかしら?」

「はいっ。切符さえあればいけると思います」

「…あの、電車だったかしら? 白玉楼まで来させることって出来ないかしら?」

「ふえっ? う~ん、たぶんできると思います」

「なら、その駅?とか言うものを白玉楼に作ってほしいわ。ここまで来るのって、少し面倒だから」

「白玉楼に駅ですか! なるほど」

 

一十百が持っている紙に何か描き出す。

どうやら白玉楼の簡単な図と、博麗神社の絵がかかれていいる。

他には理解できそうにないような公式と、幾何学模様が描かれている。

「たぶん、こうすれば……」

「???」

「えと、この辺りに駅を作る予定ですけど大丈夫ですか?」

「この辺りがいいわ。白玉楼の門から出て、すぐのところくらいが」

「わかりました。それじゃ、数日のうちに作りにいきますね」

「楽しみに待っているわ。さてと、そろそろ帰らないと妖夢が心配するわね」

ふわりと浮いて幽々子が微笑む。

「それじゃ、宴会も駅も楽しみにしているわね」

「はいっ!」

一十百が大きく手を振る。

西行寺幽々子が空高く飛んでいった。

 

一十百は西行寺幽々子から貰った西行妖の枝をじっと見つめた。

博麗神社に西行妖を咲かす……、それも考えていたのだが…。

「これは、僕の主へのお土産ですね。よしっ!」

一十百が一枚切符を取り出す。

前に一度戻ったときと同じような切符。

パチンとその切符を切る。

前と同じように電車のドアが開く。

『この電車は“主の館”行です。間もなく出発いたします』

一十百が乗り込む。

電車は静かに走り出し、そして鳥居をくぐると消えていった。

 

 

 

「オイ、御主人。イツノ間ニカ、庭ニ木ガ生エテルゼ」

「なにっ?」

金髪の少女が外に飛び出す。

今さっき一十を見送ったというのに、いったい何だというんだ…。

金髪の少女の目には大きな木が映った。

もともと山の中に立っているため、木が周りに生えているのは当たり前なのだが……。

「この木は……、桜か?」

「ドウヤラ十百ガ植エタミタイダナ」

緑色の髪の人形が木の根元を指差す。

そこには一通の手紙が置いてあった。

金髪の少女はそっとその手紙を開く。

「え~と、なになに…“お土産です。きっと大きな桜の木になると信じて植えていきます。一十百”……」

「コレヨリ巨大ニナルノカ? ソレヨリモ、ドウヤッテ運ンダンダ?」

「……もしかしたら、元はもっと小さい苗木のようなものだったのかもしれないな」

そう言って金髪の少女は手紙を閉じる。

「一十のことだ、なるべく早くこの桜を見せたいとでも思ったのだろう。後は、言わないでも分かるだろう?」

「ケケケ、ソウイヤ変ナ能力ヲ持ッタンダッタナ。別ノ所デ使エルヨウニナレバイイモノヲ」

「かなり強力な能力だと妖怪の賢者とやらも言っていたからな。大方、使いこなせてないんだろう」

そう言って、少女は桜の木を見上げた。

さすがに時期が時期なので咲いてはいないが、青々とした葉が空を覆い隠していた。

「ふっ、まあ春まで楽しみに待っていてやるか」

「土産ハ食イ物ノホウガヨカッタゼ」

金髪の少女と緑髪の人形はログハウスの中に戻っていった。

 

 

 

一十百は無事に幻想郷と主の館を往復したようだった。

夕食の支度などがあるため、西行妖の苗木を植えてすぐに幻想郷に戻ってきたようだ。

「霊夢さん達は……、まだみたいですね。よしっ、頑張って夕食の支度でもして待っていましょう!」

一十百は一度伸びをすると、台所のほうに向かっていった。

 

 

そのころ……

「文!! その写真、渡しなさいっ!! 私がしっかりもらってあげるから!」

「返すつもりはないが、借りるぜっ!!」

「十百君の為にも、渡してもらおうかしら?」

「そういうわけにもいきませんよ!! これは、私がしっかりと保管させていただくつもりですから!」

遠くの山では弾幕勝負が行われている真っ最中であったとさ。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

西行妖の苗木:まだ枯れていない枝だったので、植えれば立派な桜の木になりそうです! とっても楽しみです!by一十百  既ニ立派ナ大木ニナッテルゼ。by???  春を楽しみにしているぞ。by???

博麗神社‐白玉楼の線路:幽々子さんに頼まれて、作ることになりました! 空を飛ばせる事は出来なくても、空間内を移動させる事は出来るはずなので、作れるはずです!by一十百  紫から聞いたのだけれど、駅弁って言うお弁当がでるのよね!!by幽々子  そのお弁当を売れば……少しは稼げるかしら?by霊夢

巫女服の写真:えと、文さんに撮影されてしまいました。その後はどうなったのか分かりません……。by一十百  し、死守しましたよ!!!by文  逃したわっ……、無念。by霊夢  借り損ねたぜ…。by魔理沙  ……まあ、仕方ないわ。あきらめましょう。by咲夜
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