東方お仕事記   作:TomomonD

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幕間 畏れられ崇められ
三十二仕事目 木漏れ日を映す湖面


少し遅い春の訪れた幻想郷。

大きな異変の解決を手伝った妖精たち。

最弱と罵られてきた種族がいまや幻想郷で一目置かれる存在になりつつあった。

 

 

「……という訳で、大ちゃんにスペルカードを作ってあげたいのさ!」

「なるほど……」

一十百がいるのは霧の湖。

異変の後、チルノたちの様子を見に行った一十百は、大妖精とチルノがなにやら話し合ってるのに出くわしたのだった。

話を聞いてみると、最強の妖精であるチルノがスペルカードを使えるのだから、妖精たちの中では力のある大妖精も使えるはずということだった。

せっかくだから、この機会に作ってみようと、そんな話だったようだ。

「どう思う十百?」

「出来ない事はないんじゃないのかな? 僕だって作れたし。弾幕勝負なら大妖精の方が長くやってるはずだし」

「それはそうですけど……。私なんかがスペルカードを使っていいのでしょうか?」

「別に大丈夫だと思うよ。僕からすれば、今までスペルカードを持っていなかったほうが不思議だったよ」

「よし! 大ちゃんのために、色々とためしてみよう!」

 

 

一十百とチルノは大妖精のスペルカードの提案を出していくことにした。

「えと、まず、大妖精のスペルカードのテーマを決めますか」

「テ、テーマですか?」

「うん。チルノだと氷や雪とか寒さみたいなのがそう。僕は……あれっ?」

そこまで言って一十百は少し考える。

自分のスペルカードのテーマってなんなのだろうか。

霊夢から貰ったスペルカードは結界のようなもの、魔理沙から貰ったスペルカードは星のようなもの。

よく考えてみれば自分自身のテーマはない。

 

「……あうぅ」

「えっ、一十百さん、どうしたんですか?」

「う~ん、僕のスペルカードのテーマってなかったなぁ、と思って」

「そ、そういえば、一十百さんは他の人からスペルカードの素を貰って作るんでしたね」

「そうなんだよね。作ったスペルカードはその人のテーマに沿うような形になるからなぁ」

一十百がさらに考えようとしたとき、チルノが口を開いた。

「テーマならあるじゃん」

「ふえっ? チルノには分かるの?」

「わかるよ。十百のテーマって“友達”じゃないの?」

「友達……」

「だって、友達になった人からスペルカードの素を貰ってるんでしょ。だから友達」

チルノの一言で一十百の悩みは簡単に溶けて言った。

一度頷くとにっこりと微笑んだ。

「ありがと、チルノ。気が付かなかったよ」

「まあ、とうぜんね!」

 

「えと、それで大妖精のテーマって…なんだろう?」

「自分のテーマって考えると、難しいですね」

一十百が大妖精について考える。

まず、大妖精というくらいだから妖精たちのまとめ役であり、それだけの力を持つ存在。

そこから考えられるのは“妖精”や“統率”など。

とはいえ、大妖精が妖精たちを従えて何かをしているところは見たことがないので、テーマとは少し違う気がする。

他のテーマとなると、この辺りの森や湖などの“自然”くらいなもの。

「う~ん、大妖精だと、自然とかが合いそうかな?」

「自然、ですか……」

「木漏れ日とか、湖の反射とか、やわらかい風とか、そんな感じの」

「なるほど」

「そんなのを想像しながら、スペルカードの素を持てば作れるんじゃないのかな?」

「はい、大ちゃん」

チルノが大妖精にスペルカードの素を渡す。

「後は……どうやってやるんだろう? 僕は持ってると勝手に出来上がるし…」

「あたいは弾幕ごっこと氷を思い浮かべてるとできたけど」

「なるほど……」

大妖精がスペルカードの素を持ちながら目を閉じる。

すると、緑色の淡い光が集まり……、一枚のスペルカードが完成した。

「で、出来ました?」

「完成したみたいだね」

「さすが大ちゃん!」

 

 

スペルカードは使ってこそ、その価値が分かるものなので……。

「じゃ、ためしに使ってみよう。避けるのは僕がやるよ」

「あ、危なくないでしょうか?」

「避けるのだけなら得意だから大丈夫」

一十百は大妖精といったん距離をとる。

「大ちゃん、がんばれー!」

チルノが応援する中、大妖精がスペルカードを振り上げる。

 

「落葉光『安らぎの木漏れ日』」

淡い緑色の光がスペルカードから解き放たれる。

大妖精の放った弾幕は、楕円形の少し大きめの緑色の弾幕。

それが空から風に舞う葉のように右に左に次々と降ってくる。

「なるほど…」

一十百からすると避けやすい簡単なスペルカードだった。

落ちてくる弾幕もそれほど速くはなく、量もそれなり。

他に降り注ぐ弾幕もないため初心者でも避けやすいものに見えた。

しかし……、このスペルカードは決して優しいものではなかったようだ。

葉のような弾幕が降り注ぐ中、大妖精の上の方に黄色い弾幕が一つ作られる。

一十百がその弾幕を見て一瞬で考える。

確か、大妖精のスペルは…安らぎの木漏れ日だったような。

なら、あの黄色い弾幕は太陽?

……もしかして!

一十百が何かに気が付き、すぐに移動する。

移動した先は葉の弾幕の真下。

「もし、僕の考えが正しいなら…」

一十百が弾幕の先を見る。

大妖精の黄色い弾幕から淡い光の光線が放たれる。

霧雨魔理沙のマスタースパークほどではないが、かなり威力のある光線だろう。

それが、弾幕勝負をしていた場所を包み込むように放たれた。

 

「こ、木漏れ日…かぁ」

一十百は葉の弾幕が影となり光線の直撃を避けた。

光線自体はそれほど長くは放たれないようで、すぐに消えていった。

一十百は影になっていた葉の弾幕を避けると、次の葉の弾幕の下まで移動する。

何度か移動すると、また光線が放たれた。

同じように葉の弾幕の影に隠れ避ける。

何度か繰り返していくと、スペルカードから光が消えていった。

「ふえぇ、終わったみたいだね」

「ど、どうでしたか?」

「結構難しい弾幕だと思うよ。葉っぱの弾幕を避けるようにして動くと、太陽の光の光線に当たるし、逆に光線を避けるようにすると、ギリギリまで葉っぱの弾幕を引きつけないといけない。落ち着いてないと、たぶん当たるような、そんな感じのいいスペルカードだよ」

「初めてのスペルカードにしたらすごいよ!」

「そ、そうですか? よかったです」

 

 

大妖精が作り上げたスペルカードは、落葉光『安らぎの木漏れ日』だけではないようだった。

「もう一枚あるの?」

「はい。でも、今試したばかりで、もう一度というのは…」

「僕は疲れてないから大丈夫。せっかくだし、試してみよう!」

「あたいがしっかり見ててあげるからがんばって!」

「チルノちゃん……、わかった!」

さっきと同じように一十百が距離をとる。

 

「それでは、いきます」

大妖精がゆっくりとスペルカードを構える。

「湖面映『湖に映る羽を持つ少女』」

光が放たれると足元がいきなり光りだす。

その光が消えていくと、足元がまるで鏡のようになっていた。

自分の姿が湖に映るような感じだ。

そして、大妖精のほうを見る。

大妖精から弾幕は放たれていなかった。

 

「?? あれ?」

一十百は周りをよく観察する。

よく見ると、湖のような地面に映りこんだ大妖精からは、速度の遅い弾幕が放たれていた。

映りこんだ映像では確実にこっちに向かってきてはいるが、実際にはまったく見えない。

「……ためしてみようかな」

映った自分がゆっくり飛んでくる弾幕を服にかすらせるように避ける。

すると……、服に当たる瞬間、その弾幕だけが実体化する。

「!! やっぱり!」

ゆっくりな弾幕だったため服のみに当たる程度だったが、威力は普通の弾幕と変わることのないものだった。

「つまり…、映った僕が弾幕をかわせるように動けばいいのか」

弾幕自体は遅く、また量も多くないため避けやすい。

しかし、鏡の向こう側の自分が避けるように動くのはなかなか頭を使う作業だ。

さらに、大妖精が軽く水面に立つような動きをすると、そこから波紋が広がり映りこんだ姿が少し見えにくくなる。

このスペルカードも一十百は何とか無傷で突破できたようだった。

「すごいスペルだったね。ビックリした」

「大ちゃんのスペルすごい!」

「そ、そうでしょうか?」

 

 

大妖精のスペルカード製作は成功したと思える。

チルノもかなり満足だったようで、大妖精以上にはしゃいでいる。

「そういえば、もうすぐ宴会があるんだって?」

「うん。霊夢さんたちが博霊神社でやるみたいだよ」

「あたいたちも行って平気かな?」

「平気だよ。霊夢さんはそんな心の狭い人には見えないですから」

「大ちゃん、今度行ってみよう」

「お邪魔ではないでしょうか?」

「そんな事はないと思うよ。それに、異変解決の話とかを聞きたい人もいるかもしれないからね」

 

 

一十百はチルノと大妖精に別れを告げ、博麗神社に戻っていった。

すると、丁度出発する用意が出来たような霊夢にあった。

「ふえっ? 霊夢さんお出かけですか?」

「ええ。なんでも紫が結界のことで話があるとか言ってるのよ」

「そうなんですか」

「まあ、簡単に終わると思うから、夕飯でも作って待っていてね」

「はいっ! 頑張ってください」

一十百は大きく手を振って霊夢をお見送りした。

「霊夢さんも大変そうですね。では帰ってくるまでの間、博麗神社の掃除もしていましょう!」

そういって一十百が箒を取り出す。

箒の掃く音が博麗神社に響く。

 

「おや? 霊夢はいないのか?」

「あっ、魔理沙さん。霊夢さんは結界のことで紫さんに呼ばれたみたいです」

箒に乗ってふわりと霧雨魔理沙が飛んできた。

ひょいと地面に降り立つ。

「何だ、いないのか。宴会のことで来たのにな」

「魔理沙さんもやっぱり宴会って楽しみなんですか?」

「まあな。季節の変わり目とか、そういう特別なときしか行われないからな。まあ、霊夢が面倒くさがりなのが原因なんだけどな」

少し前に宴会のことを聞いたとき霊夢さんが面倒なのよね、と言っていたことを思い出だした。

宴会自体は楽しいようなのだが、用意や片づけを考えると少し面倒らしい。

「今回は僕もいますし、霊夢さんが帰ってきたら色々とお手伝いします」

「よし。今回は私も手伝うぜ。何はともあれ霊夢が帰ってきてからだな」

「そうです……!!」

その時、一十百がいきなり霊夢の飛んで行った空を見上げた。

「どうしたんだぜ?」

「いま、何か胸騒ぎが……」

「胸騒ぎ? 霊夢に関係ありそうなのか?」

「わかりません。何事もなければいいのですけど」

 

空の遥か彼方の霊夢の無事を祈って一十百は目を閉じた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

大妖精のスペルカード:落葉光『安らぎの木漏れ日』、湖面映『湖に映る羽を持つ少女』の二枚です。どちらのスペルカードも少し頭を使わないと被弾してしまうような難しいスペルカードです。by一十百  私にもスペルカードが使えました!by大妖精  大ちゃんのスペルは遠くで見てるととっても綺麗だよ!byチルノ

胸騒ぎ:霊夢さんのことが心配です。でも、霊夢さんほどの人なら……平気ですよね。by一十百
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