東方お仕事記   作:TomomonD

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三十三仕事目 漆黒の伝説

幻想郷を守る、博麗大結界。

その大結界の北東の端。

博麗霊夢と八雲紫はその結界の前に立っていた。

 

 

「歪んでる? 博麗大結界が?」

「ええ。まあ、そんなに大事にするほど歪んでるわけでもないのだけれど…」

「ふ~ん。それで、私にどうしろと?」

「私が一度ここの結界の境界の操作するから、そこで新たに結界を張りなおして」

「面倒ね。ま、仕方ない。やりますか」

しぶしぶと博麗霊夢が頷く。

 

「それじゃ、いくわよ!」

八雲紫が結界に手をかざす。

一瞬、博麗大結界に波紋が広がる。

「用意はいい?」

「いつでも……えっ?」

霊夢が驚きの表情をする。

振り向いたゆかりの後ろにに大きな亀裂が出来ている。

「ちょ、紫! 平気なの?」

「へ、平気じゃないわよ!! なに、この力?」

「どうしたのよ?」

「向こうから、強い力が加えられてる。これは……、まさか!!」

八雲紫が何かに気が付く。

しかしそのときには既に亀裂は大きくなり、そしてそこから巨大な何かがこちらを覗いていた。

「っ!! ここで食い止める!!」

「ちょ、紫どうしたのよ!」

八雲紫が放ったいくつもの弾幕が博麗大結界の裂け目に向かって飛んでいく。

スペルカードは使っていないとはいえ、その弾幕は間違いなく八雲紫の本気に近い弾幕だった。

しかし、その弾幕を全て弾き返し博麗大結界の亀裂から巨大な影が飛び出した。

「何?」

「くっ……、とうとう来てしまったわね」

 

そこには、巨大な黒く禍々しい雰囲気を纏った狼が霊夢と紫を見下ろしていた。

 

 

「えっ……、確かあなたは……ポチ?だったかしら?」

「ガウ」

そうだ、と言うように一度吼える。

「えっと、一十百に…飼われてるのよね」

「ガウ」

「何で、ここに来たのよ? それも、わざわざ結界を突き破って」

「ガウ」

「………」

はぁ~、とため息を吐く。

 

夢の中で会ったときはしっかり人間の言葉を話していたのに。

「紫、ちょっと通訳して?」

「………」

「紫?」

博麗霊夢が横目で八雲紫の表情を見る。

そして、驚く。

博麗神社の巫女をしていて、初めて紫が本気で敵意を抱いている。

ただの低級妖怪なら睨まれただけで絶命しかねないほどの気迫、身体から立ち上り砂や小石程度なら舞い上がるほどの妖気。

大妖怪としての八雲紫がそこにはあった。

 

「ゆ、紫。ちょっと、どうしたのよ?」

「…霊夢、さがって。貴女を巻き込みたくない」

紫の妖力に呼応するように、目の前のポチと呼ばれた黒い狼から、莫大な量のオーラのようなものが放たれる。

霊夢の目測なら、優に紫の十倍は出ているといったところ。

もちろんそれだけで強さが決まるとはいえないが、これだけの差があると結果は明白だった。

「………はぁ。紫、戦ったとしても、勝てないわ」

「それでも、私は幻想郷を守る。それが幻想郷の賢者として、八雲紫としての義務よ!!」

 

完全に頭に血が上ってるわね……。

どうしたものかと博麗霊夢はため息を吐いた。

下手に私が動けば、余計面倒なことになりそうよね。

ポチに戦うつもりはなさそうね。

まあ、相手が向かってくるなら仕方ないといったところかしら。

 

そこまで考えて、博麗霊夢は一歩前に出る。

「! 霊夢、そこを…」

「はいはい。そういうのは一度頭を冷やしてからにして」

ヒュンと紫に向かって軽く札を投げる。

普通ならあっさり避けることができただろう。

しかし、その札は八雲紫の妖力を切り裂いて八雲紫の額に軽く直撃した。

「えっ!!」

これだけ高めた妖力をたやすく切り裂き、額まで飛んできた札に驚く。

霊夢の霊力じゃ、ここまで高めた私の妖力を切り裂くのは無理なはずなのに…。

それこそ、全身全霊の一撃でもない限り……。

紫が霊夢を見る。

よく見たら、息が上がり、軽く汗をかいていた。

「霊夢……あなた…」

「まったく、一気に霊力を高めるのって、かなり疲れるからやりたくなかったんだけどね」

一瞬、博麗霊夢がふらつく。

「霊夢!」

「心配しないで。これで、少しは頭が冷えたかしら?」

やれやれといった表情で紫に向き直った。

「はぁ……。霊夢に心配されるようになるなんて、私も衰えたのかしら?」

「頭ばかり固くなるからそうなるのよ」

 

 

八雲紫の猛っていた妖力も静かになり、落ち着いた話し合いが出来るような雰囲気になっていた。

ポチのオーラのようなものは既に消えている。

「それで……、なんて言っているのよ?」

「…分からないわ」

「はい? 紫の能力で言語の境界を弄ればいいんじゃないの?」

「それが出来ないのよ。私の能力が通じないの」

「紫の能力が通じない? そんなことあるの?」

静かに八雲紫が頷く。

「……ポチ、だったわね。あなたの能力が強大すぎるのよ」

「ワウ?」

「ポチの能力? アレかしら、一十百以外には従わない程度の能力とか?」

「……“絶対的で絶大的である程度の能力”よ」

その能力を聞いて、霊夢の表情が真剣なものになる。

「漠然としすぎて、さっぱり分からないわ」

「そう、分からないのよ。能力の詳細がまったく。文字通り、絶対的で絶大的なのよ」

 

「……はぁ。とにかく、話が通じないのは分かったわ。こうなったら一十百を呼んでくるしかないわね」

そう言って霊夢が飛ぼうとすると、袖を何かに引っ張られる感覚があった。

見てみると、ポチが口の端で袖を咥えている。

「何?」

「ガァウ」

「……任せろって言いたいの?」

ポチは大きく頷いた。

霊夢は少し考え、そしてゆっくり地面に降りた。

「じゃ、任せるわ」

「ガウ」

ポチが大きく息を吸い込む。

そして、空に向かい大きく遠吠えをした。

近くにいる霊夢や紫はその音の大きさに耳をふさぐ。

まるで幻想郷に響き渡るような、そんな遠吠えが響いた。

 

 

「ポチ!!」

「な、何事なんだぜ!」

のんびりと博麗神社で霊夢の帰りを待っていた一十百と魔理沙。

どこか遠くで聞こえた遠吠えのような音を聞いて一十百が急に立ち上がった。

「今ポチの声が……」

「声って…さっきの遠吠えか?」

「はい」

そう言って一十百が遥か遠くの空を見つめる。

「魔理沙さん、その、頼みたいことが…」

「ふふん、箒に乗せてほしいって所か?」

「ふえっ、えと、ダメですか?」

「もちろんかまわないぜ。ただ待ってるってのもつまらないからな、丁度よかったぜ」

霧雨魔理沙がバッと手を伸ばすとどこからか箒が飛んできた。

「それじゃお願いします」

ひょいと一十百が箒に乗る。

「さあ、飛ばすぜ!!」

霧雨魔理沙が操る箒は、暗くなった空を目指して流星のような速度で飛び出していった。

 

 

霊夢と紫が待っていると、遠くに見知った姿が映った。

「本当に来たわね。いくら響きそうな遠吠えでも、さすがに博麗神社まで届くとは思ってなかったわ」

「ガウ」

箒に乗ってるところを見ると魔理沙も一緒かしら?

「霊夢さ~ん、紫さ~ん」

ひょいと箒から降りた一十百がほぼ一瞬で目の前まで来ていた。

「相変わらず速いわね……」

「魔理沙さんのおかげです。 ……って、やっぱりポチだったんだ」

「ガウ」

「久しぶりだね。でも、どうして幻想郷に?」

「ガウ…ガウァ、ワウ」

「なるほど……」

 

一十百とポチがなにやら話しているのを見て、霊夢、紫、そして降りてきた魔理沙が唖然とする。

「何で、あれで通じるのかしら?」

「一十だからだろ。もう、そういうことにしておこうぜ」

「そうしておいた方が、いいわね」

一十百とポチの話し合いが終わったようで三人の方に歩いてきた。

「近くで見ると、大きいぜ。一十、撫でてもいいか?」

「ほえ? 大丈夫ですよ」

ゆっくりと魔理沙が手を伸ばす。

それにあわせるようにポチが頭を下げた。

「よしよ……、思った以上に毛がサラサラしてるぜ」

「ガウ」

 

魔理沙はポチをなでているので話には参加しないようだ。

「えと、ですね、何でもこの幻想郷を形作る結界が歪んでいるらしいです」

「ええ、知ってるわ」

「それで、この歪みが大きくなると幻想郷が壊れてしまい、その反動で隣り合った世界にもそれなりの影響を与えてしまうらしいです」

「隣り合った世界?」

「ポチがいうには僕の主の館が隣り合ってしまっているらしくて、このままだと幻想郷と主の館が消滅しかねない事態になる、らしいです」

「い、意外と深刻なのね。紫、どうするの?」

「歪みは直すわ、もともとそのつもりだし。ただ、問題は…」

紫が亀裂の入った結界を見る。

「なんで歪みが生じたのか、わからないのよ」

「原因がわからないと手の打ちようがないわけね」

 

「えと、そのことなんですけど、ポチが言うには“外の世界の存在と幻想郷の存在の力の均衡が違い始めた”らしいんです」

「力の均衡?」

「えとですね、幻想郷側から強い力を加えれば元に戻るらしいんですけど…」

そう言って一十百は八雲紫のほうを向く。

「紫さん、できますか?」

「ちょっと、厳しいわね。ここの一角ならできそうだけど、さすがに幻想郷全体となると…」

「なら、ポチに手伝ってもらいますけど、大丈夫ですよね」

「手伝うって……。そんなことできるのかしら?」

「出来ますよ。ポチ!」

一十百がヒュンと手を挙げる。

するとポチが一瞬で一十百の隣に移動していた。

「「速い!!」」

ざっと8mは超えるだろう巨体が一瞬で移動するのは圧巻である。

 

「それじゃ、ポチ。お願い」

「ガウ」

少し前に立ち上ったオーラのようなものがポチからあふれ出す。

そのオーラはポチの右前足に集まっていく。

いつしか揺らめく程度のオーラは強い光になっていた。

光り輝く右前脚をポチが振り上げる。

その右前脚に見たことのあるカードが張り付いていた。

「あれは、スペルカード!!」

「神威『御手』」

振り下ろされた右前脚が地面に当たると、見えない衝撃波が吹き抜けていった。

その衝撃波は幻想郷の果てまで広がり、博麗大結界を内側から押す形になった。

桁違いの威力のはずなのだが、博麗大結界を壊すことはなく押し戻すだけのようだ。

「これだけの威力を使って、大結界に亀裂一つ入らないなんて…」

「えと、これで結界と外の力の均衡が元に戻ったらしいです。後は…」

「あの亀裂を塞げば終わりね!」

霊夢が高々とお祓い棒を掲げる。

いつしか、裂けていた結界は元通りになり、歪みもなくなっていた。

 

 

「よし! どう、紫?」

「ええ、これで大丈夫よ。一つだけ忘れてることがあるけど……」

「何よ?」

「……どうやって、ポチを返すのよ?」

「……あ」

「えと……、どうしましょう?」

 

こうして一部不安は残るものの、無事博麗大結界は修復されたのだった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

博麗大結界の歪み:外の世界との力の均衡が破られた……らしいです。紫さんとポチにはわかっていたみたいなんですけど、僕にはよくわからなかったんです。by一十百

博麗大結界修復:ポチが強い力を幻想郷側から与えることによって歪みを直し、霊夢さんと紫さんが結界を修復することで無事終わりました。これで長い間、博麗大結界は無事のはずです!by一十百  いろんな意味で疲れたわ。by霊夢  私も同じくらいつかれたわ…。by紫

ポチ:僕の愛犬です。大きな黒い犬で、名前はポチです。by一十百  ……犬、まあ一十百君が飼ってくれているなら犬でいいわ。決して人に譲ったりしないで。by紫

神威『御手』:ポチのスペルカード……みたいね。弾幕勝負をするとは思えないけど、あれはどう見てもスペルカードだったわ。by霊夢
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