東方お仕事記   作:TomomonD

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三十四仕事目 明日の宴会のための準備

幻想郷崩壊の危機は去った。

外の世界と幻想郷の力の均衡も戻った。

 

 

「で?」

「えと、ポチが、帰るそうです」

博麗神社の縁側でお茶を飲みながら博麗霊夢と一十百が話し合っている。

話の内容からすると、ポチの事のようだ。

「帰るのはいいんだけど……」

ゆっくりと霊夢が立ち上がる。

霊夢の視線の先には、小さな社がある。

博麗神社に新しく作られた社だ。

「……紫が作れっていうから作ったのに、本体がいなくなってもいいのかしら?」

 

数日前、博麗大結界の修復をした後、八雲紫が社を建てると言ってきたのだった。

何でも幻想郷と外の世界との力の均衡を守ったポチを祀るらしかった。

本体がいるのに祀るのかと霊夢が聞くと、社だけでも建てておけば力をとどめることができる言っていた。

幻想郷と外の世界の力の均衡を守るために社を建て、あわよくばお賽銭が増えると考えた霊夢は、次の日に一十百、霧雨魔理沙とともに神社の横に社を建てた。

 

「まあ、力の均衡とやらはこれのおかげでどうにかなるからいいのかしら?」

「たぶん、大丈夫だと思います」

一十百もその社の前に来る。

そして軽く手を合わせた。

祀られているのは自分の飼っている犬だというのに、礼儀正しいというか、なんというか…。

やれやれと霊夢も社の前で手を合わせる。

「それで、ポチはどこに行ったの? もう帰った?」

「ふえっ? 確か、いったん幻想郷を走ってくるとかで……」

「走ってくるって……、漠然としてるわね~。それに、あれだけの妖力…じゃなかった、力を持ってるんだから面倒なことにならないといいんだけど…」

以前、ポチから立ち上ったオーラのようなものは、妖力でも霊力でも魔力でもなかったので、八雲紫が“力”と決めたようだった。

博麗霊夢も面倒なのでそれに倣うようにした。

その力は強力な妖怪になればなるほど察知しやすく、無駄な警戒をさせてしまうようだった。

「ま、弾幕勝負になれば……、怪我はしても死ぬことはないでしょ」

そう言うと、博麗霊夢は縁側に座りお茶を飲むのだった。

 

 

場所は変わって、妖怪の山。

「………」

「ガウ?」

巨大な黒狼と、雪のような白い髪の少女が向かい合っている。

黒狼は言わずともポチだ。

対して白髪の少女、大きな盾と刀、髪の合間からは犬のような耳が出ている。

「……これほどの、力を持つ、狼の……妖怪…?」

「ガウ」

ポチは一度、その少女の事を見下ろす。

瞳の中に少しだけ怯えた光が映っているが、それよりも遥かに強い意志の光が宿っている。

ポチはその光を見て、一度大きくうなずくと大きく遠吠えをした。

その遠吠えは、巨体から発せられたとは思えないほど透き通った声だった。

「………」

遠吠えが終わるとポチはクルリと踵を返した。

「…あっ、あのっ!!」

少女が声をかけようとした時にはすでに黒狼は姿を消していた。

「……今のは、一体………」

 

 

広い幻想郷に、黒い風が駆け抜けていく。

ポチが向かったのは赤い館、紅魔館である。

その到着を最も早くに気が付いたのは門番の紅美鈴ではなく、館の主であるレミリア・スカーレットだった。

その圧倒的な気配が近づいてくるのを感じ取った彼女は、日傘を差し正門まで歩いて行った。

その手には、静かに光り輝く槍のようなものが持たれている。

「……来たわね」

正門の横では、紅美鈴が居眠りをしている。

そして、黒い風が現れる。

「ガウ」

「敵意は、ないわね。あったとしたら、本気でまずかったけど…」

レミリアの手の槍が溶けるように消えていった。

「紅魔館に何か御用かしら?」

「ガウゥ」

首を横に振っているところを見ると特に用はないようだ。

「そう」

「ガウ」

まるでレミリアに会う事だけが目的だったかのように、ポチはそのまま消えてった。

ポチがいなくなった後、レミリアは大きなため息を吐いた。

「いったい何のよ……」

 

 

「あっ、ポチお帰り」

「ガウ」

ポチは妖怪の山に行く前に幻想郷をいったん見て回ったようで、満足した表情をしている。

まあ、その表情の違いが判るのは一十百くらいなものだが……。

「もう帰る?」

「ガウ」

「そっか。そこの鳥居から帰るの?」

「ガウ」

「それじゃ、主の館をしっかり守ってね」

「ワォン」

ダンと石畳を蹴りポチは鳥居をくぐっていった。

「あら? 一十百、今誰かと話してなかった?」

「あ、霊夢さん。ポチと話してましたよ」

「……どこにもいないけど」

「先に主の館に帰ったみたいです」

一十百がそう言って鳥居のほうを見る。

いつもと変わらぬ鳥居がそこにはあるだけだった。

「……はぁ、一十百といいポチといい……、幻想郷と外の世界を隔てる結界をなんだと思ってるのよ」

「ほぇ?」

「そんなにポンポンと簡単に通られてもねぇ……。まあ、一十百に言っても仕方ないけど…」

霊夢はそっと鳥居に触れる。

どこか外の世界の風が吹き込んできているように感じられた。

 

「そういえば、そろそろ宴会の準備を始めますか?」

「あ~、そういえば、そんな時期だったわね。色々あったから、すっかり忘れてたわ」

霊夢が面倒だと言わんばかりにため息を吐く。

「皆さん楽しみにしているみたいですから、すぐ用意をしましょう。そうすれば、明日には宴会ができそうですよ」

「準備が面倒なのよ。後片付けも」

「う~ん、今までは霊夢さん一人でしたけど、今回は僕もいますし……。あっ、そう言えば、魔理沙さんも手伝ってくれるって言ってましたよ」

「魔理沙が? 珍しいわね……」

霊夢は少し考え、ゆっくりと伸びした。

「仕方ないわね。いつもみたいに魔理沙が飛んできたら、手伝ってもらうとして、それまでは私たちで準備しますか」

「はい!」

 

 

博麗神社の倉庫に色々なものが入っている。

今回のように宴会に使うものであったり、新年の時に使うものであったり、異変解決の時の為に使うものであったりと。

「えと、その……、少しお片付けをしたほうがいいみたいですね」

「……そ、そうね」

魔理沙の家ほどではないが、色々なものが雑多に置かれている。

適当に積み上げられて崩れかけている部分もある。

「霊夢さん、いったん外に出ていてください。まず、整理をしてから宴会の準備をしますので」

「ええ、わかったわ」

一十百がそう言ったのでいったん霊夢は外に出ていることにした。

 

霊夢が外に出たのを確認すると、積み上げられた物の山の前にきた。

下手に下の物を取り出せば崩れることは必至である。

しかし、一十百はあっさりと一番下のたらいのようなものを引き抜いた。

「えいっ」

だるま落としのように真下に一段ずれる、と一十百は考えていたのだが……。

ぐらりと積み上げられた物の山が揺れる。

「ふぇえっ!」

容赦なく積み上げられた物が崩れる。

一十百よりも少し高く積み上げられているので、普通このままなら埋まる、潰されるなどの事が起こったはずだ。

けれど、一十百の掃除力は常識を超えている。

崩れる物の山がほぼ一瞬にして別々の場所にしまわれていった。

霊夢が今の瞬間を見ていたら、一十百が何人にも見えたに違いない。

結局、崩れた物が一つたりとも地面に落ちる前にその一角の掃除は終わっていた。

 

「さて、次は…」

一十百が次々と倉庫の中を片付けていく。

片付けも終盤に差し掛かったとき、少しだけ変わったものを見つけた。

長い棒のようなものの先に三日月を模したようなものがつけられている。

「あれ? なんだか、今まで倉庫にあったものとちょっと違う気がするけど…」

少し悩んだが、異変解決のための何かだと思ったので棚の横に立てかけておくことにした。

 

「終わりました~!」

「相変わらず速いわね…」

山積みされたものを仕分け、取り出しやすいように整頓し、なぜか埃とかまでしっかりとふき取ってある。

これを終えるのに三十分かからない、さすがである。

「……まあ、考えてみれば、魔理沙の家をあっさりと掃除したんだから、これくらいは大したことないのかもしれないわね」

「???」

「何でもないわ。それじゃ、宴会に必要なものを運び出しますか」

「はーい!」

霊夢と一十百は宴会に必要なものを運ぶ。

途中、魔理沙が合流したため一十百は宴会の知らせと、食材の調達に行くことにした。

 

 

始めに向かったのは紅魔館。

霧の湖を抜けるため、ルーミアやチルノ、大妖精にも会えるかもしれないからだ。

目的通り、大妖精に会うことができ宴会の事を伝える。

チルノやルーミアには大妖精が伝えると言ってくれた。

一十百はお礼を言うと紅魔館に向かっていった。

紅魔館は少し騒ぎになっていた。

何でも少し前にただの妖怪とは思えないほどの強力な存在が来たらしい。

それに気が付いたのはレミリアだけだったらしい。

一十百はレミリアとそんな話をしている。

「そうだったんですか」

「まあ、別に敵意があったわけじゃないからよかったんだけどね」

「あっ、それで…」

「ええ。宴会の件だったわね」

「はい。明日の夜、日が落ちてから始めるらしいので、是非いらして下さい」

 

 

一十百が次に向かったのは白玉楼。

前は妖精たちに運んでもらったため行くことができたが今回はそうもいかない。

空を見上げて悩んでいると、高い空に黒い翼が見えた。

「あれは……、文さ~ん!!」

一十百が大きく透き通る声で呼びかける。

呼びかけられた相手もすぐに気が付いたようで、手を振りながら下りてきてくれた。

「十百さん。お久しぶりですね」

「えと、文さんって幻想郷に広い情報網を持ってそうですから、頼んでもいいですか?」

「宴会の事でしょうか?」

「ふえっ! あれ? なんで、そのことを」

「ふっふっふ、この射命丸文の記者魂を甘く見ないでいただきたい。宴会の用意ができたから、明日の夜に宴会があるという事くらいすでに調査済みです」

「おお~」

「明日の朝までに新聞にして配る予定ですから、安心してください」

「さすが文さんです!」

一十百が驚きながら軽く手をたたいた。

「それでは、私はこれで」

「あ、えと、その……」

「あや? まだ何か?」

「しゃ、写真は……」

「………」

グッとサムズアップをして射命丸文は高らかに飛んで行った。

「あううぅ~」

 

 

宴会の告知は射命丸文に任せておけば大丈夫そうなので、一十百は宴会に必要な食材を集めることにした。

まずは川魚を狙い博麗神社の近くを流れる川…とはいっても一十百基準の近くなので普通の人だったら数時間単位の所にある川に向かっていった。

幻想郷に来た当初から一十百はこの川でよく魚を取っていた。

一十百の魚の取り方は……。

「よ~し。よ~く狙って~、たぁっ!」

ヒュンと小石が投げられる。

水切りのように跳ねるのではなく、川に突き刺さるような投擲だ。

少しすると、川の流れに負けるように魚が浮かんできた。

「やったっ!」

一十百がひょいと魚を取る。

不思議と石が貫通したような跡はない。

一十百が持ってきた桶に入れると、息を吹き返したように魚が動き出した。

 

「川魚は鮮度が大切ですからね。よ~く、狙って……。たぁ!」

一十百が投げた石は川の中を泳ぐ魚の頭部を掠るように放たれる。

そのため気絶しているだけであって、鮮度が落ちることはないようだ。

「よし、これくらいで足りますよね」

桶の中には少なくない量の川魚が入っている。

一十百は一度頷くと博麗神社に向かおうと走り出す。

その時、一瞬だけ何か違和感を感じた。

「ふぇ……?」

辺りを見回しても誰もいない。

少し気になったが、今は先に宴会の準備をしないといけないので真っ直ぐに博麗神社を目指して走っていった。

 

宴会の夜は明日……。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ポチの社:紫さんの提案で、ポチを祀った社を作りました。ポチが帰った後でも幻想郷と外の世界の力の均衡を守ってくれるように、だそうです。毎日、霊夢さんとお祈りをしています。by一十百  まあ、御利益はありそうよね。by霊夢  ちゃんと祈れば御利益はあるわ。by紫

倉庫の掃除:宴会のためのものを取り出すのと一緒に掃除と整頓をしておきました。不思議なものもありましたけど、たぶん異変解決のための物だと思います。by一十百

微かな違和感:なんでしょうか。よくわからないんですけど、不思議な感じがしました。悪意とかそういうのじゃないと思うんですけど……。by一十百
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