東方お仕事記   作:TomomonD

36 / 114
第三異変 忘れられた存在の終わらぬ宴
三十五仕事目 静かに輝く青い光


予定通り博麗神社で宴会が行われる。

食べ物や飲み物、お酒……。

誰もが楽しく宴会を楽しんでいる。

 

 

「よしっと。食べ物もこれだけ作れば大丈夫……かなぁ」

台所で一十百がそうつぶやく。

一十百にしてみれば幻想郷に来て初めての宴会。

今まで出会った人や妖怪がたくさん来ている。

そのために腕によりをかけて色々な料理を作ってふるまっているのだ。

一十百の料理はとても美味しく、好評のためすぐになくなってしまう。

初めのころ山のように作っていた料理も、気が付けばほぼ空になっていた。

 

「う~ん、皆さん美味しく食べてくれているのでよかったんですけど……」

一十百は山積みになった料理を両手に持ち、運びながら考える。

なんとなく、不思議な感じがまだ……。

「あら、十百君。いつの間にかいなくなっていると思ったら、料理を作りに行っていたのね」

「ふえっ。あっ、咲夜さん。えと、料理がもうなくなっちゃいそうでしたから…」

「言ってくれれば手伝ったのだけれど」

「いえいえ。咲夜さんも宴会を楽しんでください。僕はこういう事が好きですから」

「そう? まあ、運ぶのくらいは手伝うわ」

そう言って片手の料理の皿を持つ。

「あ、ありがとうございます」

「いいのよ」

 

咲夜が一十百とならんで歩く。

「……えと、咲夜さん。その、こう、不思議な感じがしませんか?」

「不思議な感じ?」

歩きながら一十百がつい最近から感じている不思議な感じの事を咲夜に話す。

「……そう。十百くんも気が付いていたのね。それもかなり前から」

「ふえっ! えと、もしかして咲夜さんも?」

「そこまで確信していた訳じゃないけれど、ほんの少しだけ違和感を感じただけ」

「そうですか…」

一十百が少し不安そうな表情を浮かべる。

何か、異変の…。

「大丈夫よ。何か起こるなら霊夢が動くでしょう。あれでも、異変には敏感なんだから」

「……そうですね」

一十百が笑顔に戻る。

「今は宴会を楽しみましょう!」

 

 

一十百はいったん料理を宴会の会場に置くと、いったん料理の材料を取りに行くために少しだけ博麗神社から離れる。

あれだけ作ったのだからたぶん大丈夫、のはずなのだが……。

「お酒を飲むと皆さんいろいろ食べたくなりますから、ちょっと心配です」

料理がなくならないよう食材を取るため川に向かっていく。

博麗神社の方向から楽しげな声が聞こえてくる。

「皆さん楽しそうで何よりです。僕もすぐに戻らないと…!」

一瞬、何かの視線を感じて振り返る。

そこには静かに流れる川の景観があるだけだ。

「今……。いえ、気のせいですね…」

 

ふぅ、と一十百が息を吐く。

そのままゆっくりと目を閉じた。

そして、次に一十百が目を開いたときにはその瞳に淡い青色の光が宿っていた。

「気のせい……でもよかったんですけど、ちょっと気になります」

一十百の雰囲気が変わる。

ほわほわした太陽の日差しのような感じから、冷たく鋭い、それでいて近づけば火傷をしそうな雰囲気になる。

魔理沙も咲夜も長く一緒に暮らしている霊夢でも、この雰囲気の一十百を見ることはほとんどない。

 

ゆっくりと一十百が周りを見る。

そして、何もない一点をじっと見つめた。

姿を消しているわけではないようですね。

まるで、身体を薄く引き伸ばして広げてるみたいな……。

一十百は静かに指をさす。

「……一体何者ですか? 僕に、いえ、今回の宴会に何かご用でしょうか?」

「まさか、この状態で気が付かれるとは思わなかったよ」

ゆらりと霧のようなものが集まり、一人の少女が姿を現す。

橙色の長い髪、小柄な容姿、不思議な紫色の瓢箪、……そして二本の角。

一十百の雰囲気が少し、重く鋭くなった。

 

「……あなたは?」

「お前さんたちをずっと見てきたものだよ」

「………」

「でも、今のあんたは私が見てきたあんたと明らかに違う。私にそれなりに敵意を持ってる?」

一十百が首を横に振る。

「いえ、そんなことはないんです。でも、せっかくの宴会なのに、皆さんが気になるような異変を起こすというのなら……」

そこまで言った一十百の雰囲気が変わる。

淡く青い光が体に軽く纏われ、周りの空気が凍りつくようにしんとなる。

「ここで、その異変は終わりです」

「ほぅ……」

少女が軽く構えを取る。

自然と構えを取ったと言えるような、そんな構えの取り方だ。

「まあ、別に宴会を邪魔する気はないよ。私だって宴会は好きだし」

「なら問題はなさそうですね。ここにいると宴会が終わっちゃいますよ?」

一十百の雰囲気が少しだけ落ち着く。

しかし表情はいつものように微笑んでいるが、一十百の周りの雰囲気が鋭いままなので別の意味での恐怖が感じられる。

 

「宴会は終わらないよ」

「??」

「ま、そういう異変だという事さ」

「……止める気は、ないですか?」

「そうだねぇ、あんたが私を止めたら止められるんじゃないのかい?」

「そうですか……。わかりました」

「うん? 止める気かい?」

「ええ」

クスリと角を持つ少女が微笑む。

少女の瞳に強い意志の光が宿る。

「まあ、あんたなら……、いや一十百だったかい? 十百なら、どう転ぶかわからないねぇ」

少女がグッと拳を握る。

その合図に少女の存在がとても強いものに変わる。

見た目には何の変化もないが、存在感の大きさが何倍にもなったと錯覚させるほどだ。

「私の力、萃める力……。鬼としての力をその青い目に焼き付けるがいい!」

「あなたの力がどれほどでも、結果は一つだけ。僕の先には平和で楽しい宴会があるだけです!」

 

 

そのころの博麗神社では……。

「霊夢~、お酒が尽きたぞ」

「あんた、飲むばっかりじゃない、魔理沙」

「霊夢、料理の残りが怪しくなってきたわ」

「そんなわけ…」

咲夜が指差した先で、白玉楼の主である西行寺幽々子が恐ろしい速さで宴会の食べ物を食べていた。

「幽々子様~、もう少し遠慮を……」

「あら、妖夢。作られた料理を残したら、作った相手に失礼でしょ。だから、しっかり食べてあげないとね」

「それは……そうですけど…」

そう言ってさらに箸が進む。

もはや空になるのは目に見えているようなものだった。

「はぁ~、まあいいわよ。こうなるのがわかってたから一十百が食材を取りに行ったんだし」

「えっ? そうだったのか?」

「あら、魔理沙。気が付いてなかったの?」

「私からすれば、あなたが気が付いていたのが驚きよ」

「鈍そうで悪かったわね」

 

咲夜は少しばかり驚いたという表情だった。

一十百がそっと抜け出したことを軽く酔っている霊夢が気が付いているとは思わなかった。

それも、食材を取りに行っていると、しっかりと把握していたようだ。

「ま、わざわざ何も言わずに行ったんだから、こっちも何も知らないふりをするのがいいのよ」

「霊夢……」

「ちゃんと陰で感謝していれば、表だって言わなくってもいいのよ。一十百ってそういうところ、鋭いし」

そう言って霊夢は注いであった酒を飲む。

咲夜は何だか安心したように一度頷くと、主であるレミリアの元に戻っていった。

 

「霊夢、ちょっといいかしら?」

霊夢の座っている隣にスキマが開き中から八雲紫が顔を出した。

「今度は何? 今、せっかくのんびりと…」

「一十百君が……ちょっとだけ、本気になってるみたいなの」

「食材集めに本気も何も…」

「そうじゃないわ。霊夢、貴女も気が付いてなかったの?」

「何の話よ?」

八雲紫が困ったように片手を額に置く。

「この宴会の感じ。何か気が付かない?」

「いつもと変わらないじゃない。主に妖怪ばかりでお賽銭が入らない残念感漂う楽しい宴会でしょ」

「それはそうなんだけどね……」

「この妖気みたいな霧みたいなものの事を言ってるのかしら」

霊夢が博麗神社の少し上のほうに漂っている靄を見てそう言った。

夕方のころから微かに気になっていたが、なにも異変が起こらなかったので放っていたのだった。

「そうよ。この霧はとある妖怪……いえ、幻想郷ではすでに忘れられつつある“とある存在”が起こしたものなのよ」

「ふ~ん、それで」

「その“とある存在”と一十百君がすでに勝負を始めてしまったみたいなの」

「弾幕ごっこでしょ? 別に一十百はそこまで弱くないわよ。通常弾幕は撃てないけど」

「それは知ってるわよ。問題はそこじゃなくて、一十百君がちょっと本気なところなのよ」

「???」

霊夢も紫の言っている意味がよくわからないようだ。

 

そもそも一十百は弾幕戦の時、手加減をするようなことはしていないはずよね……。

常に全力っていうイメージがあるし。

「いつも本気なんじゃないの?」

「たしかに、一十百君はいつでも全力で弾幕勝負に臨んでいるわ。でも、全力であって本気じゃないのよ」

「何が違うのよ?」

「……霊夢、貴女なら見たことあるんじゃないかしら。青い光を纏った状態の一十百君の事」

「………、あるわね。一回だけ」

あの時は確か、下級妖怪に大妖精を食べられたと勘違いした時だっけ。

「それで?」

「その時、スペルカードが変わってなかったかしら」

「…変わってたわね。あれが一十百の本来のスペルカードなんでしょ?」

「!! あらら、霊夢は気が付いていたのね」

「まあ、なんとなくね。それで?」

「相手が誰だか気にならない?」

霊夢は少し悩む。

霧を起こせて、妖力があって、一十百を本気にできそうな人物……。

「レミリアかしら? これだけの妖力で霧を起こせるのはアイツだけだし」

「まあ、吸血鬼……っていうなら、半分…いえ三割ほど正解かしら」

紫が扇子を開き口元を隠す。

小馬鹿にしたような表情が少し真剣な表情に変わる。

「今の一十百君の相手は“鬼”よ」

「鬼? また、適当なことを言って…」

「本当よ。伊吹萃香という名の鬼が一十百君と勝負をしているわ」

霊夢はやれやれと霧が微かにかかった夜空を見上げる。

 

「どうして、一十百はこう、面倒事しか起こさないのかしら」

ひょいと霊夢が立ち上がる。

「それで紫、私にどうしろってのよ?」

「止めに行くか、それとも待つか。貴女に任せるわ」

霊夢が腕組みをして考える。

その時、トンと肩をたたかれる。

振り返ると、ニカッと笑みを浮かべた魔理沙がいた。

「面白そうじゃないか。私は見に行きたいぜ」

「あんたねぇ……。面白いとかどうとか、そういう問題じゃないわよ」

「いや、気になるぜ。鬼ってのも気になるけど、一十の本気ってのも見てみたいからな」

はぁ、と疲れたようなため息を吐く。

「どのあたり?」

「ここから少し西に行ったところの川のほとりよ。ただ、止めるにしろ見てるだけにしろ、不用意に近づくのは危険よ。それなりに気合を入れることね」

 

 

霊夢と魔理沙は西の川を目指す。

「一十の本気のスペルカードってのが気になるぜ」

「それもそうだけど、なんで本気になったのかよね。紫はちょっと本気って言ってたわ」

「ちょっとなのか、本気なのか分かりにくいぜ」

「まあ、とにかく行ってみればわかるわね」

宴会の空、二人は真っ直ぐに川のほとりを目指した。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

宴会の始まり:幻想郷での宴会は初めてです! 腕によりをかけて、おいしい料理を作ります!by一十百  美味しいわ、一十百!byレミリア  十百君、おかわり~。by幽々子

角を持つ少女:う~ん、とても強い気配を感じます。これは……、本気でかからないと…。by一十百  久しぶりに、楽しくなりそうだね!by萃香

一十百の本気:私も一回だけ……って、あれが本気だったかもわからないけどね。まあ、少なくともスペルカードが変わってたわ。by霊夢  楽しみ半分、心配半分だぜ。by魔理沙
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。