東方お仕事記   作:TomomonD

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三十七仕事目 宴会は激戦の後に

川のほとりに青い光と白い霧があふれ出す。

傍から見れば少女に見える少年と角の生えた少女が何やら向かい合っているだけのように見える。

しかし、角の生えた少女の足元の砂や小石は舞い上がり、少女の周りの雰囲気そのものに密度があるようにすら思える。

対する少年の方も、纏っている青い光が揺らめくたび川に波紋を起こしている。

 

そして、ほぼ同時に二人がスペルカードを振り上げた。

「『百万鬼夜行』」

「END『必ず訪れるただ一つの結果』」

伊吹萃香の姿が一瞬霧になる。

その霧は空中でまた萃香の姿に戻る。

そして、そこから回転するように弾幕が放たれ始める。

「さあ、どうする!」

 

対する一十百の弾幕は……、青い炎の弾幕だった。

一十百の真上に青い光を放つ炎の弾幕が放たれた。

しかし、それらはまったく動くことなく静かに揺らめくだけだった。

 

 

「なんだ、すぐに撃ってくるわけじゃないのかい? ま、その間にもこっちの弾幕は激しくなっていくけどね!」

いつの間にか伊吹萃香から放たれる弾幕の大きさが変わっている。

小さな弾幕だけでなく大きめの弾幕も展開され始めている。

そして、力を集めるように伊吹萃香の後ろに黒い重力場のようなものが展開された。

小石や砂などが集められていく。

そして、桁違いに大きな青い弾幕が作られていた。

「はぁぁああ!!」

ブンと両手を振り下ろす。

巨大な弾幕はその手に合わせて一十百に降り注いだ。

タンと一十百が地面を蹴り大きく飛び退く。

しかし、作られた重力場の影響か、思った以上に下がることができない。

「くっ…」

「簡単に離れられると思わないほうがいいよ!」

一十百は伊吹萃香を中心として円を描くように走り始めた。

これならば、重力場の影響をぎりぎりまで軽減できる。

おかげで巨大な弾幕をかわすことができた。

しかし、伊吹萃香の弾幕は中心にいる萃香から円状に放たれているため、この向きに走り続けるという事は最も多くの弾幕を避け続けなくてはいけないことになる。

それでも、一十百はその方向に向けて走り続けた。

わずかな弾幕の隙間を縫うように一十百が走り続ける。

 

 

「しっかし、スペルカードの宣言をしたのに、なんの弾幕も飛んでこりゃしない。一体……うん?」

伊吹萃香が先ほど放たれた青い炎の弾幕を見る。

今さっきまで百を超えていた青い炎の弾幕が少し減っている。

そして、見ているうちにも一つまた一つと炎が消えていく。

一つの炎が消えるのに一秒といったところだろう。

「確か、あの辺りまで炎があったはずだから……、百十……位か?」

萃香は少し考え一十百の事を見る。

「ああ、なるほどね。火の数は百十一か。それが、だんだんと消えていく…」

その炎の揺らめきはとても寂しく、何かを告げているように思えた。

弾幕を放ちながら、伊吹萃香は考える。

 

まるで、時間を現してるみたいじゃないか、あの炎は。

しかし、一体何の時間……。

そこまで考え、一十百のスペルカードの名を思い出す。

「……END『必ず訪れるただ一つの結果』だったね。ああ、なるほど。そういうスペルか!」

伊吹萃香が少し慌てたように、巨大な弾幕を作る。

それを次々と一十百目掛けて放つ。

今までの弾幕の隙間が簡単に見えるほど、弾幕同士の隙間が狭くなる。

しかし、一十百は服を掠らせながらもその隙間を次々と抜けていく。

「これは、少しのんびりしすぎたね……」

次々と放たれる巨大な弾幕を越えて一十百が走り続ける。

 

そして、ついに最後の青い炎が揺らめきながら消えていった。

「時間切れ…かぁ」

「ええ」

走っていた一十百が急に足を止めた。

その一瞬後に、川のほとり全体に青い光の弾幕が現れた。

数にして数千は優に超えているだろう。

そのすべての弾幕が一斉に伊吹萃香目掛けて降り注ぐ。

「これで、終わりです」

静かに一十百が目を閉じた。

 

 

淡く光る弾幕が消え、川のほとりが静かになった。

「無事、じゃなさそうですけど、大丈夫ですか?」

「……やったのはアンタだろうに。まあ、生きてるから、大丈夫さ」

心配そうな表情の一十百の後ろに夜空が見える。

あれだけの弾幕を受ければさすがに倒れるか…。

伊吹萃香は反動をつけて起き上がろうとするが、身体が動かない。

「お、思ったよりも大丈夫じゃなさそうだね…これは」

「あれだけの弾幕を受けたんですから、当り前ですよ」

そう言って一十百が伊吹萃香を背負う。

「よっと。それじゃ、博麗神社まで戻りますよ」

「……はぁ~。私はもう少し宴会を長引かせたかったんだけどね。仕方ない、今回は諦めるよ」

残念そうに一十百の背で伊吹萃香がそう呟いた。

「大丈夫ですよ。今日一日で、何日分もの楽しみを見つければ」

「……そうだね。あんた達、人間は私たちよりもずっと短い時間しかないのに、それでも私たちに負けないほどの楽しみを見出してきたんだったね」

ゆっくりと一十百は伊吹萃香を背負って博麗神社のほうに歩いて行った。

 

一十百が見えなくなってから、博麗霊夢は立ち上がる。

「まあ、無事に終わったみたいだから、戻るわよ」

「………」

「魔理沙?」

霊夢が魔理沙を見る。

霧雨魔理沙は完全にフリーズしていた。

「お~い、魔理沙~」

目の前で手を振っても反応がない。

「仕方ないわね~」

霊夢は魔理沙を担ぐとふわりと浮きあがり博麗神社のほうに向かっていった。

 

 

「あら、やっと戻ってきたわね」

一十百が博麗神社に戻ると、八雲紫が出迎えてくれた。

「ただ今戻りました」

「お~う、ただいま」

「あら、萃香。随分とボロボロじゃない」

口元を扇子で隠しながら八雲紫が微笑む。

「いつもの十百なら勝てそうだったんだけどね」

「あら、意外といつもの一十百君でも強いわよ」

「ふえっ! そ、そこまで強くないですよ」

三人がそんな風に話していると、遠くでおかわり~という声が聞こえた。

一十百がひょいと見てみると、あれほどあったはずの料理が九割ほどなくなっているのが見えた。

「あわわぁ、すぐに作らないと! じゃ、おろすよ」

ゆっくりと一十百は萃香を下ろすと、すぐに台所の方に走っていった。

 

一十百が見えなくなったのを確認すると八雲紫はすっと目を細める。

「それで、萃香。どのくらい手加減してたの?」

「……八割、いや八割半くらいだった。まあ、最後のほうはかなり本気だったけどね」

「あらら、もっと手加減して負けたのかと思ってたわ」

「彼の実力は本物さ。弾幕もすさまじかったけど……」

伊吹萃香は掌底を受けた腹部を軽く撫でた。

そして、痛みに顔をしかめる。

「あの一撃は、桁が違っていた。接近戦になっていたら、同じ負けにしても手酷い痛手を受けていたかもしれないね」

「へぇ……。鬼のあなたがそこまで言うのなら、本物ね」

パチンと扇子を閉じ八雲紫が境内のほうに歩いていく。

 

「紫~」

「何?」

「運んで」

「………」

「いや、動くのが面倒とかじゃなくって、ちょっと弾幕を受けすぎたから」

「まったく…」

手を横に動かし、伊吹萃香の足元にスキマを開く。

同じようなスキマが賽銭箱の後ろの階段の上に開く。

すると、そこから伊吹萃香が降りてきた。

「ありがと~」

「そう言えば、一十百君って手加減が苦手だったわね」

やれやれと紫は萃香の横に腰かけた。

 

 

「……そう言えば、食材調達するの忘れてました」

台所に戻った一十百は何のために川まで行ったのかを思い出した。

いまから行くのはちょっと……。

少し一十百が考える。

「十百、いる~?」

ひょいと台所にチルノがやってきた。

頬に少しソースが付いているところを見ると、今さっきまで料理を食べていたようだ。

「あ、いたいた。ルーミアが、またあの鼠妖怪の料理を食べたいって言ってたよ」

「鼠妖怪……あっ! そうだった、そう言えば氷室に…」

一十百が台所を飛び出し氷室まで走っていく。

 

氷室に入る縄梯子を駆け下りると、そこは氷の世界になっている。

「十百~、待って~」

少し遅れてチルノが氷室に入ってくる。

「いや~、チルノのおかげで思い出したよ。冬の間に鼠妖怪がまた増えたから、保存しておいたんだった!」

そこには氷漬けになった鼠妖怪が数体置いてあった。

「よし、これで料理がまた作れそうだね」

ひょいと一十百が鼠妖怪の氷漬けを担ぐ。

「まずこれを外に出してっと。えい!」

一十百の数倍の大きさの鼠妖怪の氷漬けを高々と放り投げる。

降りてきた縄梯子をこえて、氷漬けの鼠妖怪は投げ出された。

「さてと、これでよし。それじゃ、急いで調理しないと」

「……十百ってさ、人間……だよね」

「人間だよ!」

 

一十百は桁違いの速さで次々と料理を作り上げていく。

材料は肉類がなかっただけであって、山菜などはかなりの量余っていた。

そのおかげで、肉は一種類しかなくとも多種多様な料理が作られていった。

「よ~し、これで完成!」

「お~。速い!」

「もぐもぐ…」

「って、ルーミア。つまみ食いは駄目だよ」

「む~、少しくらい~」

ひょいと一十百が料理の皿を持ち上げる。

飛べばいいものの、ルーミアは背伸びをして手を伸ばしている。

「さ、ルーミア、チルノ、運ぶの手伝って」

「は~い」

「わかった!」

 

 

宴会の盛り上がりはまだまだ衰えを見せることはないようだ。

一十百の持ってきた料理は紅魔館組、白玉楼組、妖精組と色々なところに配られていった。

「相変わらず速いねぇ」

伊吹萃香がニカッと笑いながら感心したように言った。

「いえいえ。あれ? そう言えば……大事なことを忘れてました」

「大事なこと?」

「名前。僕の事を一十百って知ってるみたいだけど、僕は君の名前を知らないなぁと思って」

「ああ、そう言えば名乗ってなかったね。私は伊吹萃香。まあ、知ってるとは思うが種族は鬼だよ」

そう言って瓢箪から出たお酒をくいと飲む。

「萃香っていうんですね。もしかして、酒好き?」

「鬼はみんな酒好きだよ! 宴会が楽しみなのもこうやって賑やかに酒が飲めるからさ」

「宴会じゃなくても常に飲んでるくせによく言うわ」

横に座った八雲紫がやれやれと手を横に広げる。

 

「お酒ですか……」

「うん?」

「いえいえ、外の僕の部屋に鏡酒っていうお酒があったなぁと思って」

「上等なものなのかい?」

「外の世界だと、ある年齢になるまでお酒は飲んではいけなかったんですよ。ですから前はお酒そっくりに作ったんです。それで、主が本物を飲んでみたいって言ったので作ったのが鏡酒です」

「気になるねぇ、その鏡酒っていうお酒」

「ま、まあ僕が作ったものですから……。そこまで期待されると…」

そこまで言った時、紫の瞳がきらりと光った。

「一十百君が作った?」

「はい。でも、外の世界の……」

既にその時にはスキマが開いていた。

「これで一十百君の部屋につながったはずよ。ちょっと取ってきて」

「ふえっ!」

一十百がスキマを覗き込むと、自分の部屋がその先に見えた。

そのまま一十百が手を伸ばす。

「確か、この引き出しに……。あ、あった」

一十百がスキマから手を引き抜く。

その手には、西洋風の酒瓶が握られていた。

「これです。まあ、味は……わからないですけど」

そう言って一十百は萃香と紫に鏡酒を注ぐ。

二人は、くいっとそれを飲み干した。

「どうですか?」

「「………」」

二人の瞳がきらりと光る。

一瞬にして酒瓶は紫の手に収まっていた。

「ゲット」

「紫! 独り占めするな~。私にも飲ませろ~」

「あなたに渡すと空になってしか帰ってこないもの」

「まあまあ、二人で分け合って飲んでくださいね」

一十百は微笑みながら夜空を見上げた。

 

いつしか薄い霧はなくなり、満天の星空が輝いていた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

END『必ず訪れるただ一つの結果』:ANS『111通りの結果』というスペカが変化したものらしいね。百十一個の青い炎の弾幕が放たれて、一秒ごとにそれが一つずつ消えていくんだよ。全部消えると恐ろしい量の弾幕が降り注ぐ、逆耐久スペカだね。百十一秒以内に十百を倒せばいいんだけど……、難しいよ、本当に。by萃香  あれほどの弾幕を受けてよく無事ね……。by霊夢

伊吹萃香:二つの角と瓢箪を持った鬼の女の子です。とても強い力があって、能力で密度を変えたりする事ができるらしいです。お酒好きで、真っ直ぐで正直な性格の持ち主です。何でも紫さんとは古くからの友人らしいです。by一十百  やることもなくなったし、少し神社に滞在させてもらうよ。by萃香  どうしてそうなったのよ……。by霊夢
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