東方お仕事記   作:TomomonD

39 / 114
三十八仕事目 博麗の巫女の支え人

宴会の夜は過ぎ去り、博麗神社に朝がやってきていた。

宴会後の神社は色々と汚れてしまっている。

いつもの神社の景観に戻すため一十百は朝早くから掃除を始めている。

 

「今日もいい朝日です!」

一十百は宴会のごみを拾い、掃き掃除をしながら周りを見る。

昨日の宴会の場所で、魔理沙、霊夢、萃香、紫がそのまま眠っていた。

「………あれ?」

一十百は急いで部屋に戻る。

そして四つの毛布を取り出してきた。

「よっと、これでよし」

四人に毛布を掛けると一十百はまた掃除を始めた。

 

 

段々と日も昇りはじめ、春にふさわしい柔らかな天気になり始めた。

「ちょっと、一十百……。起こしてくれてもよかったのに」

首を抑えながら博麗霊夢がそう言った。

どうやら首を寝違えてしまったようだ。

「なんだか気持ちよさそうでしたから。でも、そのまま眠ると風邪をひいてしまいますよ。次からは気を付けてくださいね」

「いや、だから起こしてくれれば……」

一十百はそっと霊夢にお茶を出した。

「はい」

「ありがと……、ってそうじゃなくって」

「私にも一杯ほしいぜ」

いつの間にか魔理沙も起きてきたようだ。

少し髪が跳ねてしまっている。

「はい、どうぞ」

「魔理沙、いったん髪とか整えたほうがいいわよ」

「飲み終わったら、そうするぜ」

眠たそうに眼をこすりながら魔理沙がそう言った。

 

「さてと、僕は朝ごはんの用意でもしますね」

そう言って一十百が立ち上がる。

「紫さ~ん、萃香~、ご飯の用意をしますから、そろそろ起きてくださ~い」

「う~ん、あと五か月…」

「お酒おかわり~……むにゃむにゃ」

「ふえっ! えと、起きないと朝ごはんがなくなっちゃいますよ~」

少しだけ乾いた微笑みを浮かべて一十百は朝ごはんを作りに向かった。

「今の寝言につっこみなし……」

「さすが一十…」

 

 

朝食も作り終え、一十百が運んでくる。

既に、紫、萃香もしっかりと目を覚ましたようだった。

「お~う、飯だ~」

「……ねえ、紫。なんでアンタまでここで食べていくのよ」

「昨日の宴会での料理がとっても美味しかったから」

「紫には式がいるでしょ!」

「たまには別の人の料理が食べたいのよ」

そう言って朝食を食べ始めた。

「まあまあ、霊夢さん。朝食はみんなで食べたほうが楽しくておいしいですよ」

 

「十百~、昨日の酒ある?」

「あ、朝からお酒ですか……。まあ、あるけど……。昨日たくさん飲んでなかったっけ?」

「昨日は昨日、今日は今日だよ」

「……そういうものなのかなぁ」

一十百のポケットから昨日の鏡酒の瓶が出てくる。

それをひょいと萃香に渡す。

「おおぉ。これこれ~」

「おっ、そう言えば昨日私は眠っていて飲めなかったが……。それって、そんなに美味しいのか?」

「魔理沙さんもどうですか?」

萃香に渡した瓶の三分の一程度の大きさの瓶が一十百のポケットから取り出される。

それを霧雨魔理沙に渡す。

「へぇ~、では一口」

くいっ、と注いだ鏡酒を飲み干す。

霧雨魔理沙の表情が変わる。

「……これは美味しいぜ。昨日眠ってたのが悔やまれる」

「朝っぱらから、酒盛りをしてるんじゃないわよ。まあ、美味しいのは認めるけどね」

いつの間にか霊夢前に酒瓶とグラスが置いてあり、なみなみと鏡酒が注がれていた。

「しっかり霊夢も飲んでるじゃないの」

勿論、八雲紫の前にもしっかりと注がれた鏡酒が置かれている。

 

そこで、霊夢がふと疑問に思った。

確か、一十百はポケットからこの酒瓶と魔理沙の小さめの酒瓶と萃香に渡した大きめのやつと、今一十百の持っている酒瓶、あとグラスが三つ……。

そして、もう一度一十百のほうを見る。

正確にはそのポケットの大きさだが……。

「ねえ、一十百」

「ほぇ? なんですか?」

「そのポケットってどうなってるのよ…」

「? 普通のポケットですけど…」

ポンポンと一十百が服に着いた両方のポケットを叩く。

「普通のポケットからはそんなにいろいろと出てこないわよ」

「そうか? 私の帽子の中にもいろいろ入ってるから、そんなもんだと思うぜ」

「私のスキマにもいろいろ入ってるし」

「いや、帽子はともかく、スキマと比べるのはどうかと思うわ」

 

 

朝食と軽い酒盛りも終わり、一十百が食器を片づけていく。

「じゃ、そろそろ戻るわね」

八雲紫がそう言ってスキマを開く。

「今度異変があった時は、私も手伝ってあげようかしら?」

「別に、一人で十分よ」

「まあまあ、気が向いたら手伝ってあげるわ。それじゃ」

軽く手を振って、八雲紫はスキマの中に消えていった。

「それじゃ、私もいったん家に戻るぜ」

「はやく戻りなさいよ」

「あっ、そうそう。次何か異変が起きたら、私と霊夢、どっちが先に解決できるか競争しないか?」

「しないわよ」

「ノリが悪いぜ、まったく。ま、楽しみにしてるぜ」

そう言って霧雨魔理沙も箒に乗って遥か高い空に消えていった。

 

「ふぅ、それで……、あんたはいつまでいるのよ」

「私かぁ? う~ん、行くあてもないし、少しここにいようと思う」

「さっさと出ていきなさいよ。ここは宿屋じゃないんだから」

「行くあてのない私を追い出すのか? この鬼~」

「鬼はあんたでしょうが!」

「まあまあ……」

一十百がお茶を出しながら二人をなだめる。

しっかり桜色の茶菓子を出すのも忘れていない。

「僕も居候させてもらってる身ですから、あまり強くは言えませんけど……。いいじゃないでしょうか?」

「え゛……」

ジト目で一十百のほうを見る。

一十百は落ち着いてお茶を飲む。

「ただし、宿を借りるからには巫女としてお手伝いとかをするってことで」

「まあ……、それなら………」

ここで断ってしまうと、同じ境遇の一十百を追い出すのと同じなのでしぶしぶと頷いた。

「と、いうわけです。それで大丈夫、萃香?」

「おう、まかっせろ~」

 

 

掃除や料理、洗濯などの家事全般は一十百がほとんどこなしてしまう。

よって、伊吹萃香のやることは博麗の巫女の手伝い全般となった。

しかし……。

「お~い、霊夢~。やることってあるのか?」

「特にないわよ。本来なら神社の掃除とかするべきなんだけど…」

「ああ、十百が終わらせちゃってるんだよね~」

「ええ。だから、巫女服とお祓い棒でも持って神社の中でもふらふらしてなさい」

特にやることがないのが現状だ。

結界の管理も、それほど大きな異変が起きなければ放っておくだけでいい。

人里から何かの依頼があればそれを解決しに行くこともあるが、もちろん毎日そんな依頼がくるわけでもない。

それに、忘れてはいけないが、鬼が異変の解決をする……というよりも人里に行かせるわけにいかない。

「考えてみると、本当にやることがないわね」

 

「霊夢~、巫女服って……、どれ着ればいいんだ?」

「えっ?」

霊夢が巫女服を着ようとしている萃香を見る。

しかし、明らかにサイズが合わないようだった。

「あ~、そう言えば、そんな小さい巫女服あったかしら?」

「私が少し大きくなるか?」

「いや、それもそれで……。よし、ここは…」

霊夢は外にいる一十百に声をかける。

「一十百、ちょっと」

「は~い」

ほぼ一瞬で霊夢の前までやってくる。

相変わらずの速さね……。

「何か御用ですか?」

「萃香用の巫女服って作れるかしら?」

「大きさを仕立て直すくらいなら、すぐにできますよ」

「じゃ、任せた」

「は~い」

 

一十百がポケットから針と糸とはさみを取り出す。

そのポケット……どうなってるのよ。

「さてと、それじゃ仕立て直しますね」

ついと針に糸を通す。

次の瞬間、巫女服が空中にふわりと浮いているように停止した。

その周りでは一十百の腕が何本にも見え、銀色の光が巫女服を貫通しているように見えた。

大方、銀色の光は針とはさみの光だろう。

十数秒後には少し小さくなった巫女服が一十百の手に持たれていた。

「はい、これでばっちりですよ」

「速いね~。おお、これなら着られそうだ」

 

「……ねえ、一十百」

「ふえっ?」

霊夢が少し目をそらしながら、一十百に話しかける。

「その、簡単に仕立て直したけど、なんで萃香の丈がわかったのよ」

「ほえ? だいたい見ればわかりますよ」

「もしかして、私のも……」

「はい。霊夢さんの丈もわかりますけど」

それがどうかしたんですかと一十百が首をかしげた。

うん、悪気があるわけじゃないのよね……。

多分…そういう才能なのよね。

「はぁ、何でもないわ」

「ほぇ? まあ、また何かあったら呼んでください」

一十百は一礼すると鳥居のほうに向かっていった。

「萃香……、大きさは?」

「ぴったりだよ。いや~、こんな才能まであるとは、驚いたよ」

仕立て直した巫女服は伊吹萃香がしっかりと着こなせる大きさになっていた。

袖もお祓い棒が持てるように、袴も地面に引きずらないようにと仕立ては完璧だった。

霊夢は巫女服を着こなした萃香を見る。

そして、一つ大きなため息を吐いた。

「え、あれ? 似合ってない? そこまで似合ってない?」

「そうじゃないわよ。一十百の見ただけでだいたいわかるってのがここまで正確なのか、と思ってね」

「まあ、あれだよ。十百に悪気はないよ」

「ええ。いっそ、悪気があってくれればよかったのに」

 

 

一十百はいつものように神社の掃除が終わると、ポチの社の前で手を合わせていた。

巫女服に着替えた萃香も気になったのか、その社に向かっていった。

「この社は?」

「あっ、着替えたんだね。えと、この社は幻想郷と外の世界との力の均衡を支えるため、力を貸してくれた黒狼を祀った社なんだ」

「へぇ……。それほどの黒狼がねぇ」

「えへへ。僕の愛犬のポチなんですけどね」

「愛犬? まあ、十百ならなんとなくそんなのが愛犬でも納得できるよ」

そう言って、萃香も静かに手を合わせた。

「幻想郷を守ってくれたなら、私も感謝しておかないと」

ふぅ、と祈願がすんだのか萃香が顔を上げた。

「せっかくのんびりできるところが見つかったんだ。もう少しくらい、平和が続いてほしいね」

「そうですね」

一十百もふぅと顔を上げた。

まだまだ幻想郷は平和は続くようだった。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ポケット:僕の洋服のポケットは普通のものだと思うんですけど……。まあ、ほかの人のポケットよりも色々なものが入ってるだけ……だと思うんだけどなぁ。by一十百  私の帽子並み、いやそれ以上っぽいぜ!by魔理沙  私のスキマレベルね。by紫  だから…比べる相手がスキマって……。by霊夢

巫女萃香:博麗神社に少し住まう代わりに、霊夢さんのお手伝いをするという約束です。大きさの合う巫女服がなかったので、丈が合うように仕立て直しました。by一十百  おかげで着やすくなったよ。by萃香
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。