三十九仕事目 その一振りに願いを込めて
そろそろ春も終わりかけてきたころ……。
一十百は今日も博麗神社の掃除をしている。
何とも平和なひと時である。
しかし、神社の中では……。
「霊夢、今日こそ一十を貸してもらうぜ!」
「嫌よ! 私のお昼ごはんが寂しくなるでしょ。主に品数と内容的に…」
「たまには私のほうに来てほしいわ」
「だから、紫には式がいるでしょ!」
「せっかくだから白玉楼にきてほしいわ~」
「幽々子の所は、庭師がいるじゃない!」
「一十百には紅魔館に来てほしいと思っていたのだけど。妖精メイドの実力がまた落ち始めてきたから」
「せっかくですから、新聞の執筆を手伝ってもらいたいのですが」
何やら一十百の事で議論している状態のようだ。
霊夢、魔理沙、紫、幽々子、レミリア、文の六人。
それぞれが一十百の手を借りたい状況……、というよりも一十百を借りたい状況のようだ。
こうなってしまうと決めるのに相当時間がかかってしまう。
そう思った霊夢は、ポンと手を叩いた。
「これじゃ、当分決まらないわ。弾幕勝負で決着をつけるにも時間がかかる。だから……これを使って決めるわ!」
霊夢が取り出したのは、賽子だった。
「ちょうど、六人。これなら公平でしょ」
「ちょっと、借りるぜ」
魔理沙は何度かその賽子を投げる。
出た目はバラバラだ。
「グラ賽(重心を傾けた賽子)じゃないか……」
「そんなわけないでしょうが!」
ペシと軽く魔理沙の額を叩いた。
「それじゃ、どの目にするか決めるわよ」
すっと、レミリアが手を挙げる。
「1にさせてもらうわ。その赤色が出る運命だからね」
「……あっそ」
次に幽々子が微笑みを浮かべる。
「4かしら。なんだか、いい響きじゃない?」
「それは幽々子だけだと思うけど……。じゃ、私は6にさせてもらうわ」
八雲紫はそう言って扇子を開く。
残ったのは2、3、5の三つ。
「では、私は2に選ばせてもらいます」
「じゃ、私は5でいいぜ」
「残った3が私っと…」
これですべての目の振り分けは決まった。
1:レミリア(紅魔館)、2:文(妖怪の山)、3:霊夢(博麗神社)、4:幽々子(白玉楼)、5:魔理沙(霧雨魔法店)、6:紫(八雲家)となった。
「この勝負もらったわ。賭け事で私に勝てるわけはないもの」
「確かに……。運命を捻じ曲げられたら勝てないぜ」
「さあ、賽を振りなさい!」
ほぼ勝ち誇ったかのように、レミリアが不敵な笑みを浮かべた。
「そうね、私ができることは、確率の境界をずらして6の目が出やすくするくらいしかないものねぇ…」
「いや、それも十分すぎるほど、卑怯だぜ」
八雲紫は悲しげに眼を細めているが、その眼に宿る光は確実な勝利を見出していた。
「皆さんの目に映らぬほど速く賽の目を変えれば勝機はありますね」
「それも、どうかと思うぜ…」
完全にイカサマ予告であるが、確かに射命丸文の速さはそれを可能にできるものだ。
そうなると、レミリア、紫、文の勝率がグッと高くなり、霊夢、魔理沙、幽々子の勝率は限りなく低くなるはずだ。
「れ、霊夢……いいのか?」
「まさか、このまま振るわけないわ。何をされても、公平に六分の一になると思える方法を使わせてもらうまでよ」
「「「「「公平に六分の一?」」」」」
五人が霊夢のほうを見る。
これほどの能力の使い手がいる中で、公平に六分の一を出すことができる方法に興味津々のようだ。
「そ、それは一体……」
「簡単よ。一十百に振ってもらうのよ」
「なんだ、それじゃまったく意味ないぜ…」
そう思って魔理沙がほかの人を見ると、レミリア、紫の二人がさぁーと顔を青くしていた。
幽々子は首をかしげ、文はなるほどと頷いている。
「あ~、理解できないのは……、私と白玉楼の主だけか…。霊夢、説明頼む」
「わかったわ。一十百の能力って覚えてる?」
「たしか……思いを結果にする程度の能力だったか?」
「そう。それも、自分の好きな時に発現できるのではなく、勝手に起こる事なの」
「それは前に聞いたことがあるぜ。それで?」
「一十百が賽子を振る。もちろん、一十百にも何の目が出るか分からないわ。だからこそ、六分の一になるのよ」
「……よく、言ってることがわからないぜ」
霊夢はお茶を飲むと、はぁ~とため息を吐いた。
「つまり、一十百の考えの中では、どの目が出てもおかしくないと考えてるのよ。つまり、それはどの目も均等に出ると思ってるわけ」
「おお! なるほど! つまり、どの目も六分の一で出ると!」
「そういうこと。それに、一十百の能力は紫でも危惧するほど強力らしいからね。結果はそう簡単に変えられるものじゃない、でしょ紫」
「ううぅ……。た、確かに…そうよ」
ふふんと霊夢が軽く胸を張った。
「さぁ、これで確率は均等ね。じゃ、その振り手を呼んできますか」
そう言って霊夢がいったん外に出ていった。
「あややや……。なるほど、さすが博麗の巫女。頭が切れますね」
「うん? そう言えば、お前さんの速さなら、目が出てから物理的に変えられるんじゃないのか?」
「振り手が十百さんじゃなければ、間違いなく変えられるんですけど……。さすがに厳しいですね」
射命丸文はそう言ってがっくりとうなだれた。
「……こ、困ったわね」
「こうなったら、神頼みかしら…」
レミリアも紫も同じようにがっくりとうなだれていた。
霊夢が外に出てみると、一十百とアリスが何やら話をしていた。
「あ、霊夢さん。何か御用ですか?」
「まあ少しだけね。で、なんでアリスがいるのよ?」
「十百君の裁縫力を見込んで、ちょっとね」
「はぁ~……どうして今日に限って……」
やれやれと霊夢は手を額に当てる。
「え、なに? 何かあったの?」
「まあ、いいわ。ちょっと来なさい。一十百は三分くらいしてから来て」
「ふぇ? は、はい。わかりました」
霊夢は一度頷くと、引っ張るようにアリスを連れて行った。
「??? 今日って何かありましたっけ?」
「……というわけ」
霊夢は今まで起こったことをアリスに説明した。
説明を聞いたアリスは、少しがっかりしたようにため息を吐いた。
「よりにもよって、そんな日に来ちゃうなんて……。ついてないわね」
「で、どうするんだぜ?」
「どうするって……。後からきて割り込むわけにもいかないでしょ」
「いや。まだ7の目があるぜ」
「……馬鹿にしてるの?」
ニカッと悪びれた様子もなく霧雨魔理沙は微笑んだ。
「もう7の目でも、何でもいいわよ」
「よし! じゃ、アリスは7な」
「はいはい…」
ゆっくりとアリスも運命を決めるテーブルを囲むように座った。
「それじゃ……、一十百~」
「は~い」
襖を開けて一十百が顔を出した。
「あれっ! 皆さんお揃いですね! 今日って……何かありましたっけ?」
「一十百、何も考えずにこれを振って」
「これって……賽子ですか? でも、なんで…」
「いいのよ」
「?? わかりました」
そう言って一十百の手に賽子が渡った。
部屋の中が緊張に包まれる。
「えと、それじゃいきま……」
「霊夢~、帰った~」
グッと力を込めて一十百が賽を振ろうとした瞬間、萃香がガラリと襖を開けた。
どうやら散歩にでも行ってきたらしいようで、草の香りがふわりとする。
「ふええっ!!」
問題は、いきなり襖を開けたので一十百が驚いてしまったのだ。
そのとき、振られるはずの賽子は見当違いの方向に投げられてしまった。
賽子はまるで引き寄せられるかのように萃香の角へと向かっていった。
カツンと高い音が聞こえた。
「おおぅ! なんだぁ」
「あ、ごめん萃香。大丈夫だった?」
「ん、まあ何ともないよ。で、何が角に当たったんだい?」
「賽子だよ。いきなり開けるからびっくりして変な方に投げちゃったんだ」
「そりゃ、悪かった。それで、私の角に当たった賽はどこだい?」
そこまで話したときにカランとテーブルのほうから音がした。
六人が覗き込むようにテーブルを見た。
そこには、赤々と佇む紅魔館を現したような、1の目が出た賽子が転がっていた。
「フッ、フハハハ! どう、たとえどんなことがあっても、そう、それこそ何も通用しなくても運命は私を選んだ!」
「くっ……。確かに、1の目が出てる」
「残念です」
「はぁ。六分の一なら何とかなると思ったのに」
「あ~あ、美味しい料理……」
勝ち誇るレミリアと思いっきり肩を落とした紫、文、霊夢、幽々子がテーブルを囲んでいた。
「………」
「どうしたのよ魔理沙?」
しかし、魔理沙だけは別の方向を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
アリスも何があったのかとその視線の先を見る。
「あっ……」
そこには何か白く四角い欠片のようなものが転がっていた。
「何よ二人して……、えっ!」
霊夢も何事かと二人と同じ方向を向いた。
そして、その白く四角い欠片に気が付いた。
畳の上に、投げ出されるように落ちている。
テーブルを囲んでいた他のメンツもその欠片のほうを向いた。
「……まさか」
魔理沙がその欠片を上から覗き込む。
そこには、六つの黒い点が確かに刻み込まれていた。
「賽子の……6?」
「えっ、だって、目は1のはず!」
レミリアが急いで確認する。
その1の目が出た賽子は……歪に割れてた。
「わ、割れてる……」
「うん? ああ、さっきぶつかったからかね」
くいと酒を飲みながら他人事のように萃香が言った。
一十百がかなりの速度で投げてしまい、それが萃香の角に当たった。
その時にすでに賽子は二つに割れてしまったようだ。
そのうち一つはテーブルに落ち、カランと音を立てた。
もう一つは音もなく静かに畳の上に落ちたようだ。
「えと、この場合は……7の目がでたってことになるんですか?」
「ははは、7の目なんて、選んだ奴……あ」
魔理沙の動きが凍りついた。
そして、ギギギ…と錆びついた人形のように振り向いた。
「7……ね。まあ、約束だから」
すっとアリスが立ち上がった。
「十百君、ちょっといい?」
「ほえ? なんですかアリスさん」
「さっき言ってた、上海の服、手伝ってもらえるかしら?」
「はい! お掃除も終わったんで」
一十百はひょいと立ち上がると、アリスとともにアリス・マーガトロイド宅へ向かっていった。
「7……の目」
「あ、ありえないわ…」
「確率のさらに上…」
「あらあら…」
「そ、それはよめませんでした」
「一十百に……常識は通用しないんだったわね」
六人は魂が抜けたように座り込んだのだった。
今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋
賽子振り:何のためかわかりませんでしたけど、賽子を振りました。みなさん何やら真剣な表情でしたけど……。結果は、賽子が割れちゃって7になりました。とっても珍しい目ですよね!by一十百 ありえないわ……。by霊夢 ありえないぜ……。by魔理沙 ありえませんよ……。by文 ありえるはずないわ……。byレミリア ありえないわよ…。by紫 ありえないのよ……。by幽々子 さすが、十百君といったところかしら。ある意味、納得できないけど……。byアリス