東方お仕事記   作:TomomonD

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四十一仕事目 基本は衣替えとともに

幻想郷に、もうすぐ夏がやってくる。

一十百が博麗神社に来てから、もうすぐ一年がたとうとしていた。

 

 

「よっ、とっ、ほっ!」

「避けてるだけじゃ勝てないぜ!」

博麗神社の空を星の弾幕が包み込む。

星の弾幕は次々と降り注ぎ、一種の自然現象のようにも見える。

その弾幕の中を一十百が走り抜ける。

タン、タタンとステップを上手く使いつつ、ジグザグに星の弾幕をかわしていく。

「やっぱり当たらないか」

星の弾幕を放っていた少女、霧雨魔理沙は箒に乗りながら一十百の動きを観察していく。

先読みをして一十百の移動点に弾幕を放つものの、見事にかわされてしまっている。

 

「このままじゃ、当たらないか。よしっ!」

霧雨魔理沙はスペルカードを取り出す。

「先撃ちは一十のペースに乗せられやすいから好きじゃないんだが……。仕方ないぜ!」

「むっ、来ますね!」

一十百が目の前の星の弾幕をすれすれでかわしながら魔理沙を見る。

この弾幕の嵐の中でも霧雨魔理沙本人への警戒を怠らないのは一十百ならでは。

 

「今回はスペルカード一枚勝負だから、手加減はなしだぜ! それと、実験の為に覚悟してもらうぜ!」

そう言って、ミニ八卦炉を乗っている箒の後ろの方に投げる。

「あれ? マスタースパークじゃない?」

「マスパだけを極めてるわけじゃじゃないぜ!」

魔理沙の持っているスペルカードが輝き始める。

その光は霧雨魔理沙を包み込み、いつしかその姿が見えないほどになっていた。

そしてその光はミニ八卦炉へと流れていく。

「『ブレイジングスター』」

スペルカードの宣言とともにミニ八卦炉から強い光があふれ出す。

それを推進力とし、一直線に霧雨魔理沙が突っ込んできた。

「ふええっ! あわわ、避けないと!」

一十百が大きくサイドステップをする。

その一瞬後に流星のような霧雨魔理沙が通過して行った。

「まだまだ!」

霧雨魔理沙は通り過ぎた後、大きく向きを変えもう一度向かってきた。

 

「えと、こうなったら……」

一十百も急いでスペルカードを取り出した。

取り出したスペルカードは、完激『バスタースパーク』。

それを後ろに構える。

「よ~し、これなら!」

ダンと、一十百が地面を蹴る。

構えたスペルカードが強く輝きだす。

「完激『バスタースパーク』」

光の束に押されるように、一十百が宙に浮いた。

そして、そのまま霧雨魔理沙に向かっていく。

「なっ、正面から来たか! 面白い、勝負だぜ!」

一十百と霧雨魔理沙の距離が一気に縮まる。

 

「じゃ、避けますね」

「えっ?」

一十百が持っていたスペルカードの向きを真下に変える。

本来なら正面衝突するはずの軌道からは大きくそれ、一十百は高々と舞い上がった。

霧雨魔理沙の軌道は変わらない。

一直線に一十百がいたはずの所に向かって飛んできた。

しかし、そこに一十百の姿はすでに無く……、代わりにバスタースパークの光の束が煌々と輝いていた。

「ちょ…」

どうやらブレイジングスターの特性なのか、急に曲がったり、止まったりすることはできなかったようだ。

見事に真上から降り注ぐバスタースパークに突っ込んだ。

ピチューンと機械的な音が響いた。

 

光が収まると、うつぶせの状態で石畳の上に魔理沙が倒れていた。

「ほぇ? あ、大丈夫ですか魔理沙さん?」

「……だ、大丈夫じゃないぜ」

パンパンと土ぼこりを払いながら魔理沙は立ち上がった。

大きなけがはしていないようで、一十百はホッと一安心。

「しかし、通常弾幕が撃てないのに、それをスペカで補える実力が少しうらやましいぜ」

「えへへ、そうですか?」

「で……、なんで神社で弾幕勝負してるのよ!!」

後ろに黒いオーラを背負った霊夢が、黒い笑みを浮かべながら歩いてきた。

「あぅぅ。えと、練習でしたっけ?」

「新しいスペカの練習と実験だぜ!」

「ここで、やるなぁ!!」

 

 

一息つくために、一十百が三人分のお茶を入れてくる。

萃香は昼間は散歩に出ることが多く、この時間帯は基本的に神社にはいない。

なので、霊夢、魔理沙、一十百の三人分である。

「やっぱり、アレよね。通常弾幕が撃てない一十百って、弾幕ごっこのではかなり不利よね」

「そりゃそうだぜ」

「僕はあんまり不便に感じませんけど……」

「そういうわけにもいかないわよ。今まではショットなしでどうにかなったけど、次もそれで平気というわけにはいかないでしょ?」

「それは、そうですけど……」

一十百が少しだけ心配そうな表情を浮かべた。

その表情をみて、少し深く帽子をかぶりなおす。

よし、と言って魔理沙がお茶を飲み干した。

「一十、ちょっといろいろ試してみようぜ。前にも試したみたいだけど、今回は私も手伝ってやる」

「あら、面白そうね。確かにこのままじゃさすがに厳しいものね。私も手伝ってあげるわ」

「霊夢さん、魔理沙さん……。はい!」

にこっと一十百が満面の笑みを浮かべた。

 

 

まず最初に試したのは、霊夢の札や針の弾幕である。

「どう? 準備できた?」

「えと……、なんで着替える必要が……」

一十百は巫女服を着せられてお札を構える。

手伝うと言った魔理沙はいったん家に戻るといって飛んで行ってしまった。

「何事も形から入るべきなのよ。それじゃ、やってみて」

「そ、そうなのでしょうか? う~ん、まあとにかく……」

一十百が札に意識を集中させ、そして投げる。

札は、ひらひらと舞うだけだった。

霊夢が飛ばすように一直線に飛ばすことはできないようだ。

 

「無理、みたいです…」

「やっぱり無理か……。それじゃ、次は針のほう」

「はい」

一十百が針を構える。

そして、投擲。

札と違い、針は一直線に飛んでいく。

「いや~、いろいろ探した…ぜ?」

魔理沙がスタンと地面に降りる、

しかし、その降りた場所は一十百の針の投擲軌道の正面。

速さだけなら霊夢が放つ針の弾幕よりも遥かに速い針の弾幕が、霧雨魔理沙に襲い掛かった。

カカカッ、と魔理沙の服が見事に壁に縫い付けられた。

「「……あ」」

「わ、私に何の恨みがあるんだぜ!!」

どうやら、身体には当たってなかったようで、一安心といったところだ。

「結果的には、針なら使えるわね。少し加工しないと危ないけど」

「魔理沙さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫、じゃないぜ……」

 

 

次に試すのは星の弾幕。

霧雨魔理沙の得意とする弾幕だ。

一十百には魔力がないため、こういう系統の弾幕は撃てないはずなのだが……。

「やってみなくちゃ、わからないぜ」

「そうですけど……、なんで服装まで変える必要が……」

 

今の一十百の服装は、霧雨魔理沙の服を借りている。

黒髪の西洋の魔法使いという、一風変わった雰囲気が出ている。

「へえ……、似合うわね」

「やっぱりそう思うか? 私もためしにと思った程度だったんだが、これはこれで…いいと思うぜ」

「写真がほしいわね」

「そういうのはあの天狗に任せるしかないぜ」

「呼びましたか?」

シュタンと黒い影が舞い降りる。

そこにはカメラをしっかり構えた射命丸文がいた。

カシャリとシャッター音が響く。

「それでは!」

バシュンと射命丸文は大きく羽ばたき、空の彼方へと消えていった。

「「………あの天狗」」

「あれ? いま、一瞬……文さんがいたような」

「いえ、気にすることはないわ。どうせ、後で取りに行くし」

「今度は逃さないぜ」

 

「えと……、何やら、話が変な方向に?」

「まあとにかく、ショットを試してみたら?」

「あ、そうでした」

一十百が両手を前に出して、強く念じる。

しかし、星の弾幕は出てこなかった。

「ふぇ、やっぱり無理です」

「う~ん、魔法使いの素質は一十にはなかったか」

仕方ないといった風に魔理沙は両手を軽くあげた。

 

 

その後も霊夢、魔理沙、一十百は色々なところを巡り、色々な弾幕を試してみた。

紅魔館に向かい咲夜のナイフ弾幕を試す。

なぜかこの時も一十百は咲夜の服を借りて弾幕の練習をすることになった。

サイズが少しだけ大きかったため、昔使っていたメイド服を借りたようだ。

物理的な弾幕は得意なのか、針と同じようにかなり速い速度のナイフ弾幕を使いこなしていた。

しかし、どうしてもナイフの残量があるため、打ち止めになってしまう。

咲夜のように時間を止めてナイフの回収を行うことができない。

そのため、通常弾幕としては少し厳しいという結果になった。

 

レミリアの赤い弾幕や、フランの波紋の弾幕も試すことになったのだが……。

やはり、魔力関連なのか、そういう弾幕は一切放つことはできなかった。

この時も一十百はなぜか着替えさせられていた。

咲夜が作ったと思われる、青色主体で黄色のリボンが特徴的な洋服だ。

レミリアやフランと同じような服装で色が違うようなもののようだ。

なんでもレミリアがもう少し大きくなったら着させる予定だったとか、何とか……。

 

 

紅魔館のほか、白玉楼にも向かったようだ。

魂魄妖夢の剣戟の弾幕をまねようと思ったのだが、それも上手くいかないようだった。

幽々子と霊夢の話し合いによって、一十百は妖夢の服を借りることになった。

銀髪の妖夢とは違い黒髪の一十百が妖夢の服を着ると少し幼く見えた。

元々、一十百は幼げに見えるが、それが際立って見えた。

弾幕自体は出なかったものの抜刀や納刀の速度は桁違いに速く、ただの剣術ならそれなりの実力を発揮できるだろうと妖夢は頷いていた。

 

他にもルーミア、チルノ、大妖精など、色々なところで弾幕の練習をしたものの、これと言って成果は出なかったようだった。

 

 

「あぅぅ、どうしてもうまくいきませんね」

「これは……諦めるほうがいいかもしれないわね。ショットにばかり集中してもしょうがないもの」

「まあ、今のままでも弾幕勝負はできてるし、無理をする必要はないぜ」

「あぅ、ちょっと残念ですけど、仕方ないですよね」

一十百が空を見上げる。

もうすぐ日が暮れるようで、空が紫色に染まっている。

 

「あ、そう言えば、一つ行くところがあったのを忘れてたわ」

「そういえば、忘れてたぜ」

二人がポンと手を叩く。

「ふぇ? えと、どこでしょうか?」

「一十百は留守番してて。夕食の時間くらいには戻るから」

「私の分も忘れないでほしいぜ!」

そう言うと、二人は暗くなり始めた空へ飛んで行った。

「行くところ? う~ん、まあ、ご飯の用意をして待ってましょう」

少し悩んだが、まったく思い当たる節がないので、諦めて夕食の用意を始める一十百であった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

通常弾幕:ショットって呼ばれるもので、スペルカードの合間とかに使う簡単な弾幕です。なぜか僕は撃つことができないので、色々と苦労しそうです。by一十百  スペカが使えて、ショットが撃てないことはないはずなんだけど……。by霊夢

弾幕練習:紅魔館や白玉楼に行っていろいろ試しました。服まで変える必要はなかったと思うんですけど……。by一十百  文! 写真よこしなさい!!by霊夢  今回は逃がさないぜ!by魔理沙  今回は大収穫ですが、一枚たりとも渡しませんよ!by文
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