東方お仕事記   作:TomomonD

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四十二仕事目 夜より深く暗い闇

一十百が博麗神社の屋根から、夜の空を見上げる。

今夜の月はとても細く、不思議な夜景だ。

もうすぐ新月のようだ。

 

その細い月がさらに欠ける。

それも、上半分だけがなくなるように欠けた。

「えっ!」

一十百が目を凝らす。

よく見れば、その周りの星も見えなくなっている。

「あれって……、もしかして」

段々と星空が暗くなっていく。

実際は全く変わっていないのだが、一十百からはそう見えた。

 

つまり……。

「こんばんは、ルーミア」

「こんばんは~」

ふわふわとルーミアが一十百に近づいてきたのだった。

あまり神社には来ないルーミアだが、こんな夜に一体何の用なのだろうか。

 

「どうしたの? こんな時間に珍しいね」

「ちょっと気になることがあって」

「気になる事?」

「リボンが取れかかってるの」

「リボン?」

一十百がルーミアのリボンを見る。

確かに前に見た時より、少しだけ緩まっている。

「本当だ。でも、そのくらいなら自分で結べるんじゃ?」

「自分だと触れないのか~」

「そうなんだ、不思議だね」

そう言って一十百は結びなおすために、リボンに手を伸ばした。

しかし、リボンに触れたその瞬間、バチッというはじける音と青白い稲妻のようなものが迸り、一十百の手を弾き飛ばした。

「あつっ……。い、今のは…」

「び、びっくりした~」

一十百が弾かれた手を見る。

強い力で弾かれたものの、怪我はなく、火傷もしていない。

ルーミアのリボンも何の変化もしていなかった。

 

「なんだったんだろう?」

一十百が考えていると、後ろの空間に亀裂が走る。

何かの気配を感じて振り返ると、八雲紫がスキマから上半身を出していた。

「あ、紫さん。こんばんは」

「……一十百君、それにはかかわらないほうがいいわ」

「ふぇ? それって……ルーミアのリボンですか?」

静かに八雲紫が頷く。

「…えと、何か込み入った事情みたいのがあるんでしょうか?」

「それを聞いてどうするの?」

「ルーミアは友達ですから、困っていたら助けたいです。どんな小さなことでも」

それを聞いて、紫の視線が少し鋭くなった。

「やめときなさい。現に、あなたじゃそれに触れることもできなかった」

「それは、そうなんですけど……」

一十百がルーミアのほうを見る。

何だか心配そうな表情を浮かべている。

 

「一十百君、あなたが今できることはないわ。それに、これ以上関わると、その子よりもあなたの方が危ないわよ」

「ふぇっ? え、でも、何で僕が?」

「相性が悪い……、いえ、良すぎるのかもしれない。とにかく、危険なの」

「でも、放っておいたら、ルーミアが危ないんじゃないんですか?」

「ええ。まあ、危ないと言っても、数年先の話よ」

「ほぇ? そんなに先の事なんですか?」

紫は頷く。

「まあ、それだと手遅れになるかもしれないから、もう少し早く手を打つけれど」

「………」

少しうつむいた一十百の目に青色の光がゆらりと灯る。

それに呼応するように、ルーミアの赤いリボンがだんだんと緩まっていく。

八雲紫の目が大きく開かれた。

どうゆうこと……、一十百君の青色の光に反応してる?

いえ、それどころじゃないわね…。

八雲紫が大きく手を振り上げる。

すると、どこかから御札が現れ、博麗神社の周りを取り囲んだ。

 

 

「ちょっと……、なんだってのよ?」

いきなり神社の周りに御札が展開されたの見て、霊夢が屋根の上まで上がってきた。

「紫、今度は何?」

「霊夢、少し下がってて」

「はぁ~、また?」

「今回は冷静だから、安心して」

「……わかったわ」

霊夢が屋根を軽く蹴り、八雲紫のより少し後ろに下がる。

「ちょっと、一十百とあのルーミアとか言う妖怪は何をやってるのよ?」

「一十百君のあの青い光と、あの妖怪にかけた封印が共鳴してるみたいなのよ。このままだと、あの封印が解けるわ」

「…面倒ね」

霊夢は額に手を置いて、ため息を吐いた。

そして、一十百のほうを向く。

少しうつむいた一十百の目に淡く青い光が灯っている。

 

「一十百、こっちに来て」

「………」

「一十百!」

「………」

霊夢が呼びかけても反応がない。

ぼんやりと、放心してしまっているような状態だ。

「ああ、もう! 面倒くさい!!」

霊夢が札を一十百に向けて投げる。

狙い違わず、一十百の額にその札が当たる。

「ふぇえっ!! あうう、いたた……」

「一十百、早くこっちに来なさい!」

「えっ、えと、はい!」

タンと屋根瓦を蹴り、ほぼ一瞬で霊夢の真横まで来ていた。

そこで、ルーミアの事を思い出す。

くるりと一十百が振り返る。

丁度その時、ルーミアの髪からリボンがするりと抜けおち、夜風に舞いながら飛んで行った。

 

「あっ…」

ルーミアに黒い霧のようなものが集まっていく。

その黒い霧のようなものはルーミアを包み込み、いつしか屋根の半分を覆い隠すほど大きくなっていった。

そして、その黒い霧の中から二つの赤い光がギラリと光る。

「!! あの、光って……もしかして」

 

黒い霧が渦巻き、一カ所に集まっていく。

その黒い霧は段々とある一つの物の形に纏まっていく。

そして、それは屋根に突き刺さるように姿を現した。

黒く、禍々しく、そして巨大な一振りの大剣。

両方の鍔の所に腕、大剣の中心に頭蓋、そして刃に肋骨。

張り付けられた人の骨が印象的な、一振りの大剣だった。

 

その大剣の柄を黒い霧の中から伸びた腕がつかむ。

黒い霧は二つに割れ、中からルーミアが姿を現した。

しかし、その姿は一十百や霊夢の知っている姿とは異なるものだった。

一十百よりもずっと小柄だった背丈は、霊夢と同じかそれより少し高いくらいまで伸び、その背にかかるよう程に長くなった髪が夜風に揺らいでいた。

 

 

「ルー……ミア、だよね」

「そうだよ」

二つの赤い光、ルーミアの瞳が軽く細められ、後ろの消えかけた月のようにルーミアの口がニヤリと曲がる。

明らかに、いつもと違う。

霊夢と紫はその気配に気が付き、身構える。

いつ、どこから襲われても対処できるように。

しかし……。

「心配したんだよ、いきなり黒い霧みたいのが集まったから。それにしても、背が伸びたね」

まったく無警戒で一十百は今のルーミアに近づいて行った。

「「え゛……」」

二人とも一十百が無警戒で近づいて行ったので、制止する声をかけそびれたようだった。

気が付いたときには、一十百はすでにルーミアの目の前に立ってしまっていた。

 

「それで、ルーミア。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。ちょっと、変な感じはするけど」

「そーなのかー」

「それ、私のセリフ……」

「ちょっと言ってみたかったから」

「そーなのかー」

一十百とルーミアが両方とも手を横にして、“そーなのかー”とやっている。

なんだかんだ言って、いつもと変わらない雰囲気で話し合っているようだ。

「紫……、どういう事? もっと、大事になるんじゃなかったの?」

「な、なると思ってたんだけど……。おかしいわね」

何だかこうやって警戒している自分たちが馬鹿らしくなってきたわね。

霊夢も面倒になったのか、あっさりと構えていた札を下ろした。

 

 

「紫さん、えと、どうします?」

「え、そうね……。もともとその妖怪、宵闇のルーミアの能力が強すぎるから、封印しておいたのよ。幻想郷が危険に冒されないようにね」

「でも、危なくなさそうですけど…」

「そういうわけにはいかないわ。闇を操る程度の能力……この能力は危険なの。封印して多少は弱めないと、下手をすれば幻想郷に朝が来なくなってしまうわ」

「それは、すごいですね……」

一十百がポンと手を合わせた。

そして、ルーミアのほうを振り向く。

「そういうわけで、もう一度封印しなおすけど、平気?」

「平気だよ。それに、もともとはリボンが外れそうでここに来たんだし」

そう言って、ルーミアが紫の方に歩いていく。

 

「それじゃ、お願い」

「あなたは、本当にそれでいいの? 力を封印されて、小さくなって、本来の力をほとんど使えない姿になっても」

紫は確認をするようにルーミアを見てそう言った。

「別にそこらへんはいいよ。私だって幻想郷に住んでるんだし、別に力がほとんど出せなくたって、おもしろい毎日を送れてるし」

「……強いのね。それじゃ、悪いけど封印させてもらうわ」

いつの間にか紫の手には前と同じような赤いお札が持たれていた。

それをそっとルーミアの髪に結びつけた。

 

「これで、いいはず……えっ?」

紫が手を放した瞬間、髪に結びつけたお札はボロボロになりそのまま崩れ落ちた。

ルーミアの姿は依然成長したままだ。

「紫、封印できてないじゃない」

「思っていたよりも強い力だったわ。もっと強力な封印じゃないと……」

そういってもう一度似たような札を取り出した。

それをルーミアの髪に結びつける。

直後、パンという音と共にその札は粉々に砕け散った。

 

「………紫?」

「これはっ……、まずいわね」

「えと、どうしたんですか?」

一十百も心配になったようで、八雲紫の方を向いた。

紫は少し困ったように眉間に指を当てた。

「ルーミアの力が強くなってるみたいで、どうもうまく封印できないの」

「ふぇっ! えと、どうします?」

「そうねぇ……」

紫はう~んと一度唸って、そして何かを思いついたのかポンと手を打った。

 

「一十百君。ちょっとルーミアと弾幕勝負をして」

「えっ? 弾幕勝負ですか?」

「そうよ。それで多少は疲れて、能力も少し和らぐはず」

「でも、弾幕勝負なら紫さんや霊夢さんのほうが…」

「私は封印のための結界を作らないといけないから。霊夢にはお札の方を作ってもらうの」

「必然的に一十百しか弾幕勝負をする人がいないの」

なるほどと一十百が頷いた。

そして、ルーミアのほうに向きなおる。

「そういう事だから、準備はいい?」

「十百が相手なら、本気で挑んでも平気?」

「い、今のルーミアだと、ちょっと厳しいかも…」

一十百が少し苦笑いを浮かべた。

 

 

ルーミアと一十百はいったん距離を取る。

「今回は負けないよ~」

ルーミアが持っている大剣を振り上げた。

すると、今まで纏っていた黒い霧が大きく二つに割れる。

それはそのまま翼になり、大きく羽ばたいた。

いつしか、飛んで行ったはずのルーミアのリボン…封印の札がルーミアの頭の上で輪になっている。

黒い翼と赤色の輪、そして巨大な剣。

既にただの妖怪などとは比較にならないほどの威圧感だ。

 

「うわぁ……、なんだか、すごい……。よーし、僕もそれっぽいことをやってみよう」

一十百から淡く青い光が満ち溢れる。

その光は一十百の両手と背中に集まっていく。

両手の光は青く燃えるような揺らめく光になり、手首の周りを回る。

背中の光は段々と細く纏まり、骨だけで作られたような翼のようなものが現れた。

「う~ん、それっぽいのはできたけど……、飛べないかぁ」

一十百が残念そうにため息を吐く。

 

そして、飛び上がったルーミアを見上げた。

「それじゃ……」

「勝負!」

 

 

「……紫。ここ危なくない?」

「……危なそうね」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ルーミアのリボン:ルーミアの強い力を封印するための御札らしいです。僕が触ったら弾かれちゃいました。それだけ強い力で封印されてるみたいです。by一十百  触れないなんてことはないと思うけど……。by霊夢

宵闇のルーミア:封印が解けた状態のルーミアです。背が高くなって、髪が伸びて、黒い翼が生えて、赤い輪ができて、巨大な剣を持ってます。見た目は大きく変わったけど、性格とか、根っこの部分はいつものルーミアだと思います。by一十百  いつもの私とはちょっと違うけど、それほど変わってないと思うよ。byルーミア  少し大人びた感じがするわね。by霊夢  子供っぽくなってるのは封印の影響があるからね。by紫

常闇の戦い:ルーミアの力を抑えて封印しなおすため弾幕勝負です。いつもよりずっと強そうなので、僕も真似をしてそれっぽくしてみました。翼っぽいのはできたんですけど、空は飛べませんでした、がっかり……。by一十百  ……人間は、そういう事できないわよ。by霊夢  なんでもEX化した二人が弾幕勝負をすると聞いて、今向かっています!by文  同じくだぜ!by魔理沙
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