東方お仕事記   作:TomomonD

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四十四仕事目 約束のリボン

暗い空を幾つもの流星が切り裂いていく。

その流星は、大きな黒い翼を広げた闇の化身へと向かっていく。

しかし、その闇の化身から放たれる闇そのものが流星を飲み込み掻き消していく。

 

 

一十百とルーミアの弾幕が次々と夜空へと放たれていく。

既に三枚目のスペルカードも終わりかけている。

「そろそろ、これも終わり」

「次のスペルカード…」

 

「ちょ、ちょっと、もう少し周りの事を考えて弾幕勝負しなさいよ!」

二人が新しいスペルカードを構えたとき、霊夢が声をかけた。

今までは八雲紫と一緒にルーミアの封印を作っていたようだが、これ以上弾幕勝負が激しくなるのを止めに来たようだ。

「こっちにも被害が出てるから、あと一枚くらいで終わらせなさい!」

 

「はい、わかりました! ルーミア、準備はいい?」

「あと一枚なら……コレかな」

ルーミアがスペルカードを取り換える。

そのカードに今まで放っていた黒い靄が吸い込まれていく。

……これって、結構すごいスペルカードが来るんじゃ。

一十百は似たような光景を一度見ている。

 

紅魔館の地下室…、濁った霧がスペルカードに吸い込まれて、辛いスペルカードが次々と放たれたことを思い出す。

「う~ん、フランちゃんの時と同じだったら……、厳しいかな」

ふぅ、と一度深呼吸をする。

そして、ルーミアを見上げる。

一十百の瞳にはいつもとは比べ物にならないほど強く青い光が灯っていた。

 

 

「それじゃ、いくよ」

ルーミアが高々とスペルカードを振り上げる。

その瞬間、月が欠け消えていった。

驚いて霊夢が夜空を見上げた時には星も月も見えなくなっていた。

 

「『皆既天食』」

ルーミアのスペルカードが輝く。

次の瞬間、消えたはずの星と月が夜空に映し出された。

「……まさか」

一十百はその一つ一つの星をじっと見る。

星とは違う輝きを放っている。

その星が、ルーミアの振り下ろした手に倣うように神社全体に向かって降り注ぐ。

「やっぱり!! あれ、全部が弾幕!!」

恐ろしい量と速度で、弾幕が降り注ぎ始める。

一十百は、降り注ぐ弾幕の雨の中を駆け抜けていく。

一発たりとも当たっていないが、避けるのに専念しているため撃ち返すことができない。

 

ルーミアの後ろの夜空に映し出された月がだんだんと欠けていく。

欠けていく月に呼応するように、降り注ぐ星が消えていく。

「弾幕が…消えていく? ……違う、これはっ!!」

月が完全に消え、降り注ぐ星が完全に消えても一十百は神社の石畳の上を駆け抜けていく。

時に曲がり、時に留まり、時に跳び……。

 

少し遠くから見ていた、魔理沙たちからは何をしているのか全く分からなかった。

ただ、少しだけ近くで見ていた霊夢には一十百の行動の意味が分かった。

「ルーミアの弾幕は、降り続いているのね……」

神社の石畳に何かぶつかり弾ける。

砂地に何かが落ち、砂が舞い上がる。

弾幕自体は見えないが、確かに弾幕は降り注いでいる。

 

「見えない弾幕をどうやってかわしてるのよ……」

霊夢は流れ弾が来ないように、自分の真上に結界を張り続けている。

何度もその結界に弾幕がぶつかり、弾け飛んでいく。

確かに、こうしていれば何とか防ぐことはできるが、防ぐことだけでほぼ全力を費やしてしまうため反撃ができない。

「どうするつもりよ、一十百……。えっ?」

霊夢がもう一度、一十百を見る。

変わらず一十百は見えない弾幕をかわし続けている。

しかし、先ほどと違うのは、左手に淡く輝く針を持っていることだった。

「あれは、私の封魔針……。通常弾幕の練習の時の残りかしら?」

段々とその針が青く強く輝いていく。

見えない弾幕が降り注ぐ中、一十百の持っている封魔針だけが光り輝く。

 

そして……。

「これで、終わりっ! やあぁぁっ!!」

一十百が半回転し、その勢いを殺さないように、封魔針を放った。

星ひとつ輝かなくなった夜空に一筋の青い光が突き抜けた。

その光は、狙い違わずルーミアのスペルカードを貫いた。

 

「あっ……」

ルーミアのスペルカードにひびが入る。

それと同じように、星が見えなくなった夜空にもひびが入った。

カシャンとスペルカードと夜空が同時に割れた。

ゆっくりとルーミアが降りてくる。

「……大丈夫、ルーミア?」

「うん、平気。すこし……疲れただけ」

黒い翼は消え、ルーミアが一十百に寄り掛かるように倒れた。

「お疲れ、ルーミア」

 

 

弾幕勝負が終わり、夜の静けさが戻ってくる。

一十百はルーミアを背負って紫の所まで歩いていく。

あれだけ弾幕が無差別に放たれていたのに、八雲紫たちの周辺は何事もなかったかのように無事なままだ。

「御無事でしたか?」

「何とか、無事といったところね。いくらスキマ妖怪だからって、これだけ長くスキマを開き続けるのは、少し骨が折れるわ」

よく見たら、八雲紫の上に大きなスキマが開いていた。

どうやら、スキマを傘のように使い弾幕の雨をよけていたようだった。

「あれ? 魔理沙さんと文さん、いつの間に? それよりも、大丈夫でしたか?」

「な、何とか大丈夫だぜ…」

「改めて、妖怪の賢者の大切さがわかった気がしますね」

どうやら、八雲紫と一緒にいたため二人とも無事だったようだ。

 

「えと、それで……、ルーミアの封印は?」

「何とか作ることができたわ」

八雲紫の手には、前と同じような赤いリボンの札が持たれていた。

「これで、宵闇のルーミアをもう一度封印できるはずよ」

「………」

一十百が背負ったルーミアを下ろす。

ルーミアは弾幕勝負で疲れたのか、寝息を立てている。

少し成長しているとはいえ、その寝顔にはまだあどけなさが残っている。

 

「それじゃ、封印するけど……。何か彼女に言い残したいことはある?」

「ほぇ? ルーミアはルーミアですから、言い残すことはないですよ。前のルーミアも今のルーミアも一緒ですから」

「そう……」

八雲紫がそっとリボンを一十百の前に差し出す。

「これは、あなたが結んであげるべきよ。結んであげる約束だったんでしょ?」

「はいっ!」

一十百がリボンに手を伸ばす。

しかし、一十百がリボンに触れたときバチッという音と共に青白い稲光のようなものが放たれ、一十百の手を弾いてしまった。

 

「あうっ……、さ、触れない…」

一十百が自分の手を見る。

淡く青い光が自分の手をほのかに光らせている。

……これのせい?

「やっぱり、一十百君には触れないのね…」

「……いえ、ルーミアと約束したので、諦めるわけにはいきませんよ」

「えっ?」

 

一十百は紫の手のリボンを思いっきり握りしめる。

弾けるような稲光がほとばしる。

「あぐっ……」

「ちょ、ちょっと、一十百君!」

凄まじい稲光がリボンからあふれ出る。

しかし、一十百はそのリボンをグッと握りルーミアのほうに向きなおった。

「ちゃんと結びなおしてあげるからね」

にっこりと微笑んで一十百はそっとルーミアの髪にリボンを結わいた。

そして、しっかりと結びつけたのを確認すると、一十百は崩れるように倒れた。

 

 

「一十百! ちょっと、大丈夫!」

霊夢が一十百を軽く揺する。

しかし、相当疲れていたのか、一十百も静かな寝息を立てているようだ。

「…って、寝てるし」

「一十は無事そうだな」

「あれほどの稲光でしたから、少し心配ですが…」

射命丸文が一十百の手を見る。

「………」

「文、どうしたの?」

霊夢が振り返ると、文の顔色が真っ青になっている。

「ちょっと、どうしたのよ?」

「れ、霊夢さん。十百さんの……手…」

「手? 手がどう……」

 

一十百の手を見て霊夢の言葉が止まった。

一十百の右手はいつもの通り、人間の右手だった。

しかし、左手は……いつもの通りではなかった。

まるで焼け焦げたかのように真っ黒に染まっていた。

炭化してるわけではなく、文字通り黒く染まっているだけ。

ただ、どこか……危険な感じがする。

 

「紫……、あの封印に何をしたの?」

「何もしてないわ。宵闇のルーミアを封印するだけのものよ」

「じゃあ、なんで一十百の手がこんなになってるのよ!」

「それは……一十百君の方に、問題があるのよ」

「…? どういう意味よ」

紫は少し視線をそらし、首を横に振った。

「あまり…気にしないほうがいいわ。その手も、じきに元に戻るはず」

「……そう」

 

 

「う~ん、はっ!」

霊夢と紫が話し合っている後ろでルーミアが目を覚ましたようだ。

封印がしっかりできたのか、元の小柄なルーミアに戻っている。

「おっ、気が付いたみたいだな」

「うん。あれ? ……おおっ、元に戻ってる!」

ルーミアが嬉しそうにクルリと一回転する。

「なんだ、封印が解けてた方がいいんじゃないのか?」

「なんとなく、こっちの方がしっくりくるのか~」

「ふ~ん…」

 

「あら、気が付いたみたいね」

霊夢もルーミアが起きたことに気が付いたようで、近くに歩いてきた。

「どう、体の調子は? 紫の封印が適当だったりしてない?」

「霊夢、ひどいっ」

「問題ないよ~。今まで通り」

「ならよかったわ。あら、今回のリボンは青いのね」

「「えっ?」」

 

ルーミアと紫が同時に疑問を浮かべた。

ルーミアにしてみればあまり大したことじゃない。

新しい封印…もといリボンが青くなっただけで、今までと全く変わらない。

単純に、今回の封印は青なのか~、といったところだ。

 

しかし……紫は違った。

なにせ、封印を作ったのは自分自身。

前と同じように赤色の御札をもとに作り上げたはず…。

必然的に封印は赤いリボンのようになるはずなのだが。

そう思って紫もルーミアの近くに行く。

月明かりのせいではなく、確かに青いリボンがルーミアの髪に結ばれていた。

「…本当に青い封印ね」

「なに言ってるのよ? 紫が作ったんだから、わかってることじゃない」

そうね、と静かに紫は答える。

…一十百君も、封印しておくべきだったかしら。

八雲紫はそっとスキマを開き、消えていった。

 

 

「あ、十百が寝てる~」

「あれだけの激戦ですから……、疲れるのも無理はないでしょう」

「あれ? 左手が黒い?」

「あっ、その……何かあったみたいなので…」

射命丸文が少し一十百の左手から目をそらし、ルーミアに話しかける。

「あむっ…」

「「「へっ?」」」

何やら、聞き覚えのある言葉が聞こえたので、三人がルーミアの方を見る。

ルーミアはしっかりと一十百の左手を口の中に入れていた。

「なにやってるのよっ!」

「む~、む~」

霊夢が慌ててルーミアの口から一十百の手を出す。

 

「はぁ…、まったく油断も隙もあったもんじゃないわね」

「なかなかおいしかったのか~」

「いや、そう言う問題じゃないんだぜ…」

「何はともあれ、異変にならずに済んだようですね」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

『皆既天食』:スペルカードの発動と同時に、弾幕で作られた星空が広がります。そのあとすぐに弾幕が降り注いできます。量、速さ共にとても難しいスペルカードです。さらに、月食で月が欠けてなくなってしまうと、降り注ぐ弾幕がほとんど見えなくなってしまいます。僕は勘で避けてましたけど……。by一十百  勘!!by霊夢  あ~、良い子でも悪い子でもマネしちゃダメだぜ。by魔理沙  マネ…できないと思いますよ。by文

封印:無事に宵闇のルーミアは封印できたわ。 ……でも、色々と面倒事が残ってしまったわね。何事も起こらないのを願うとするわ。by紫

黒く染まった左手:一十百の左手が真っ黒に染まってしまったのよ。紫はじきに戻るって言ってるけど、心配よね。なんか、ルーミアの封印とも相性がよくなかったみたいだし…。by霊夢
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