東方お仕事記   作:TomomonD

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四十五仕事目 変わらない日常

ルーミアの封印をした日の夜が明ける。

 

 

「う~ん、あっ! いつの間にか朝になってる!」

朝の日差しを浴びて目が覚めたのか、ハッとした表情で一十百が起き上がった。

そのまま急いで居間に向かう。

 

居間では霊夢がのんびりとお茶を飲んでいた。

「霊夢さん、あのっ!!」

「あら、意外と早く気が付いたわね…。紫の話だと二日くらい寝込むかもって言ってたのに」

「えと、その……、あの夜からどれくらい時間が経っちゃいました?」

「そうね……九時間くらいかしら?」

「ほぇっ…。えと、という事は、昨日の夜が…」

「ええ。ルーミアを封印しなおした日よ」

一瞬、一十百の表情がホッとしたものになる。

 

しかし、すぐにまた真剣な表情に戻る。

「ルーミアは? 無事にルーミアは元に戻れましたか?」

「ええ、無事に戻ったはずよ」

そこでまで聞いて、初めて一十百は心の底から安心したようなため息を吐いた。

表情もいつもの微笑みに戻っている。

「よかったぁ……。けが人とかも出なかったみたいですね」

「あ……、そのことなんだけど…」

今度は霊夢の表情が暗くなる。

何か言いにくそうな事があるのだろうか?

 

「一十百、ちょっと左手見てもらえないかしら?」

「左手? 別にいつもと……あれ?」

一十百が自分の左手を見ると、そこには真っ黒に染まった左手があった。

その手を握ったり開いたりする。

そして、一十百は霊夢のほうに向きなおった。

「えと、黒くなってますけど、いつもと変わらないみたいなんで問題なさそうです」

「えっ!? こう、もっと慌てないの?」

「まあ、ちょっと不思議な感じはしますけど、料理とか掃除とかには影響なさそうなんで大丈夫ですよ」

そういって、にこっと一十百が微笑んだ。

霊夢は少しの間、唖然としてしまったが、一十百の表情を見てやれやれとお茶飲みほした。

まったく、本人よりも周りが心配してどうするのよね…。

 

「それで、左手は無事だとして、身体とかは大丈夫? あれだけ派手な弾幕勝負だったし、なんか羽みたいのも生えてたじゃない?」

「あ、それなら大丈夫みたいです。羽っぽいのも気が付いたらなくなってたので」

「そう。まあ、とにかく無事でよかったわ」

 

 

一十百はいつものように食事を作り洗濯をし神社の掃除をする。

左手が黒く染まったため、何かしらの影響が出るのかと思いきや、まったくそのようなことはなかった。

朝食もいつも通りとても美味しいものだった。

洗濯物もいつも通りしっかりと洗われていた。

掃除もいつも通り隅々まで行き届いていた。

 

「……本当に黒く染まっただけみたいね」

一十百の注いでくれたお茶を飲みながら霊夢は神社の景観を見渡す。

「おぉぅ、霊夢~」

「何よ萃香?」

いつの間にか萃香が霊夢の隣に座っていた。

この時間はいつもなら散歩にでも行っているはずなのだが、今日は神社にいるようだ。

「十百の左手が気になってね。チラッと見えたんだけど、あれはなんだい?」

「私にもさっぱりわからないわよ。本人も何ともないって言ってるし、黒く染まっただけ…なんじゃないの?」

「いや、あれでも十百は人間だよ。人間の手が黒く染まるって、ただ事じゃないと思うんだ」

「そりゃ、そうだけど……。紫もじきに戻るって言ってたし」

「紫が? ってことは、紫は何か知ってるっぽいね。よし」

萃香が縁側からひょいと降りた。

そしてそのまま霧状になり、いつしか見えなくなった。

どうやら八雲紫の元に行ったようだ。

あの紫が正直に話してくれるとは思えないけど……。

「まあ、いいわ」

霊夢も同じように縁側から降りる。

 

 

向かった先は八雲紫の家……ではなく、ポチの社だった。

霊夢にはそれほど信仰心はない。

しかし、このポチの社にだけは、ほぼ毎日お祈りに来ている。

まあ、お祈りと言っても軽く手を合わせるくらいなのだが……。

今日もいつものように軽く手を合わせる。

けれど、今日のお祈りはほんの少しだけ長かった。

「…あなたの主、今日もいつもと変わらずに過ごしてるわ。あれだけの事があって、自分の身体に異変があったのに、何事もなくね。まったく……、あなたといい、一十百といい、外の世界はいつから魔境になったのかしら」

問いかけたところで社から返事が来るわけでもない。

霊夢はふぅと息を吐き、顔を上げた。

 

「お、霊夢。こんなところにいたのか?」

空から魔理沙がふわりと降り立った。

いつもと変わらず、黒い魔女服に身を包んでいる。

「何か用?」

「用ってほどでもないけどな。せっかくだから私も祈らせてもらうぜ」

そう言って、魔理沙もポチの社の前で軽く手を合わせる。

何を祈ってるのかは分からないが、それほど真剣なものではない気がする。

「ふぅ…」

「祈るなら、お賽銭くらい入れなさいよ」

「プライスレスだぜ!」

 

 

魔理沙とポチの社の前で話し込んでいると、シュタンと後ろで音が聞こえた。

二人が振り返ると、そこには射命丸文がいた。

「おや、お二人ともここにいらっしゃったんですか」

「文まで……、何か用かしら?」

「まあ、用ってわけではないのですけれど、昨日の事が気になりまして。せっかくですから、私もお祈りさせてもらいましょう」

文もポチの社の前で軽く手を合わせた。

鴉天狗でも神に祈る事があるのかしら?

 

文は少しして顔を上げた。

「これで少しは私の新聞の事が広まるといいのですが…」

「適当なこと祈らないでよ……。てか、賽銭」

「賽銭は気持ち、という言葉があったような気がしなくもないのですけれど……」

やれやれと言った表情で文は賽銭を入れる。

「あら? さすが天下の鴉天狗だわ。どこぞのモノクロとは器量が違うわね」

「モノクロって私か!? いや、ほら、髪は金色だぜ!」

「……そう、なら一度燃やして黒くする?」

「い、いや、遠慮しておくぜ…」

 

「さてと、それで文は何しに来たのよ?」

「数少ない購読者の十百さんの左手が気になりまして……。元に戻ったのでしょうか?」

「まだ、黒いままだったわ。でも、本人が言うには全く問題ないみたいよ」

それを聞いて射命丸文が少し驚いた表情をする。

「問題ない…ですか。普通、自分の腕が黒く染まったら、何事もなくてもかなり慌てるものですけど」

「それはそうなんだけど、一十百だからね…」

「一十ならしょうがない気がするぜ」

「そ、それでいいんでしょうか? う~む」

何か釈然としないと言ったように射命丸文は首をかしげた。

 

 

三人は縁側でのんびりお茶を飲むことにしたようだった。

文も今日はのんびりできると言ったので、珍しく三人でお茶にするようだ。

「そう言えば、一十の姿が見えないんだが?」

「あら、そう言えばそうね。さっきまで洗濯物を干してくれてたんだけど…。どこに行ったのかしら?」

「もしかしたら、あの妖怪の所に行ったのではないでしょうか?」

「ルーミアの所に? 確かに、その可能性は高いわね」

 

 

射命丸文が言ったように、一十百は仕事が終わるとルーミアの所に向かっていた。

無事封印できたとは聞いたものの、やはり自分の目で確認しないことには安心できないと言ったところだろう。

いつものように霧の湖目指す。

霧の湖にはチルノと大妖精とルーミアがいた。

「あっ、ルーミア!」

「十百だ~」

ルーミアも呼ばれて気が付いたようで、大きく手を振りかえした。

「ルーミア、無事元に戻れたんだね。よかった~」

「十百のおかげだよ。ありがと」

にっこりとルーミアが微笑んだ。

 

「十百、あたいにも新しいリボンがほしい!」

「ふぇ? ……あ、そういえば、ルーミアのリボンが青い」

ルーミアのリボンが青くなっているのを今まで気が付いていなかったようだ。

「夜だったから気が付かなかったよ。うん、青いリボンでも似合っててよかった」

「えへへ~」

「チルノにも新しいリボンかぁ。う~ん、赤色とか黄色とか、あえて黒や白でもよさそうだね。今度、作って持ってきてあげるよ」

「やったっ!」

 

 

一十百は三人と昨日の話をしている。

封印が解けた状態のルーミアの姿を見たのは、ここでは一十百だけだったので、その話で盛り上がっている。

「ルーミアが大きく? 見たかった」

「ルーミアちゃんが成長した姿ですか……」

チルノも大妖精も封印の解かれたルーミアの姿を一度くらい見てみたかったようだ。

「宵闇のルーミアの時の弾幕はすごかったよ! いつもとは比べ物にならないくらい難しかった」

「そーなのかー? あまり覚えてないから、自信がないな~」

 

「ねえ、十百。あたいもリボンを取ったら、もっとさいきょーになれるのかな?」

「えっ? う~ん、別にチルノは力をセーブしてるわけじゃないから、リボンをとっても変わらないんじゃないかなぁ」

「む~、やっぱり変わらないかぁ」

少し残念そうにするチルノ。

 

しかし、一十百はチルノの一言を聞いて何かを考え出した。

……チルノは氷の妖精。

妖精は自然のから生み出された存在のはず。

だからこそ、冬だとチルノの力も少し高くなってる。

つまり、自然的に作られたもので、チルノの冷気を高める何かがあれば……。

 

「十百? どうしたの」

「いや、ちょっとね。もしかしたら、チルノの力を高めることができるんじゃないかなぁと思って」

その一言を聞いて、チルノが身を乗り出す。

「それなに! おしえて!!」

「ま、まあまあ、落ち着いて。僕の考えだとたぶん上手くいくと思うけど……、問題はそれが外の世界に…というか僕の部屋にある事なんだ」

「え~、だったら取ってこれないじゃん」

「紫さんに頼めば、すぐに取ってこれるかもしれないけど……」

そこまで言って、一十百はポンと軽く手を合わせた。

「でも、今は別に必要ないからさ。また今度ね」

「え~、あたいもへんしんしたい!」

「チルノも弾幕の練習をしてれば、そのうち変身できるようになるかもよ?」

一十百が軽く微笑みながらそう言う。

 

チルノは少しだけ不満そうな表情をしていたが、すぐにいつもの明るい笑顔に戻った。

そして元気よく立ち上がった。

「よ~し、なら今から練習だ! ルーミア、しょうぶ!」

「まけないよ~」

ルーミアとチルノが空高く舞い上がった。

少しすると弾幕勝負を始めたようだ。

二人とも楽しそうに弾幕を撃ち合ったり、スペルカードを使ったりしている。

 

 

「あの…一十百さん。ちょっといいですか?」

おずおずと大妖精が何かを訪ねようとしていた。

何か聞きづらいことのようだ。

「なに? 大妖精」

「その、一十百さんの左手が黒くなってるのが気になって」

「これ?」

一十百が自分の左手を前に出す。

今日の朝に見たときとまったく変わっていない、黒く染まっている。

その左手をそっと大妖精が包み込むように握った。

「?」

「…普通の手なんですね。ちょっと驚きました」

「冷たくなってたり、固くなってたりとか、そういうわけじゃないからね。本当に何ともないんだよ」

そっと大妖精が手を放す。

大妖精は大妖精で何か考えがあったようだが、それが外れたのか少し悩んだ表情をしている。

その表情をみて、一十百は何かを思いついたようにポンと手を打った。

 

「大妖精」

「なんですか?」

「大妖精も、もしかしたら変身できるかもよ?」

「ええっ! どうしてその話になるんですか!?」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

チルノの力を高める物:僕の部屋の箪笥にしまってあるはずですけど……。もし必要になったら紫さんに頼むか、電車を使って取りに行くつもりです。by一十百  なにか気になるなぁ。byチルノ
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