東方お仕事記   作:TomomonD

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四十六仕事目 正しき札は今どこに?

だんだんと夏が近づいてきているのがわかるような日差しになってきた。

微かだが、蝉も鳴きはじめている。

 

 

今年の夏もまた暑い夏になりそうだと、霊夢は手で日差しを遮りながら思う。

手元には一十百の入れた麦茶が氷入りのガラスのコップに注がれている。

「氷室…、本当に作ってもらっておいてよかったわ」

ひんやりとした麦茶は、こういう日には格別においしい。

これから来るであろう猛暑も、この冷たい飲み物とともにのりきれると安心して麦茶を飲んだ。

「それにしても、一十百は何をしに紅魔館に行ったのかしら? また妖精メイドの指導でもしてるのかしらね」

 

 

紅魔館。

吸血鬼の主、時間を操るメイド、多属性の魔法使い、不得手のない門番……。

攻め込むにも実力が足りず、懐柔するにも知識が足りぬ。

まさに難攻不落の館と思われる場所だ。

幻想郷の強者の一角を担っているのも頷ける。

 

そんな強者たちが向かい合って床に並べた札を見つめている。

札には、何やら文字が書かれているようだ。

そして、その横で一十百が別のところに重ねられた札から一枚取った。

「…ではいきます。お賽銭一枚、霊夢の…」

「「はい!」」

ほぼ同時にレミリアとフランが床の札めがけて手を振り下ろした。

一瞬早く、フランがその札を弾き飛ばした。

 

「はい、フランちゃんだったね。じゃ、見せて」

「これっ!」

フランが弾き飛ばした札を一十百に見せる。

その札には…“お賽銭一枚、霊夢の助け”と書かれており、博麗霊夢が賽銭箱をバックにお祓い棒を構えた絵が描かれていた。

「正解! フランちゃん一枚追加ね」

「やったぁ!」

「うう、あと少しだったのに…」

「お嬢様も妹様もさすがです。能力を使わないと歯が立ちませんね」

……つまり、今やっているのは、かるたである。

 

前回、フランに独楽を教えた一十百。

今回来てみたら、とてもうまく回せるようになっていた。

しかし、やはり独楽は一人で遊ぶようなものに近い。

競い独楽など二人でやるものも多いが、文字通り独楽は一人遊びになってしまう。

フランも一人だけで遊ぶのに飽きてしまったようだったので、次の遊びを考えたのだった。

 

そして思いついたのが、この“幻想郷かるた”である。

一十百が見てきた幻想郷の景色や有名人などを描き、それをかるたにしたものだ。

これが意外と好評で、紅魔館の外に出たことのないフランにとってのいい勉強にもなる、とレミリア・咲夜の二人を交え、三人で遊んでいる。

 

三人ともこの手の遊びは初めてのようだったが、すぐに慣れ今では……。

「じゃ、次行くよ~。春を…」

「「はいっ!」」

咲夜とフランが同時に腕を振り下ろす。

今度は一瞬早く咲夜がその札を弾いた。

「む~、咲夜早いよ~」

「能力は使ってませんよ、妹様。それに、ゲームと言えども全力でお相手しなければ楽しさも薄れてしまうでしょう?」

「ま、全く動けなかったわ。このままだと、最初のリードがなくなるわね…」

…と、まあかなり上級者たちの勝負になりつつある。

 

何せ、上の句……というよりも、札に書かれている文字の初めの部分でほぼ勝負が決まる。

札を選び、腕を振り下ろすまでの時間も極端に短い。

つまり、やっている事こそ遊びのようなものだが、下手をすれば弾幕勝負よりも神経を削るような遊びになっている。

今、咲夜がとった札には“春を告げるは、白と黒の春告精”と書かれ、二人のリリーが桜吹雪の中を飛んでいる絵が描かれている。

「はい、咲夜さん一枚追加ですね」

 

 

一通り札も取り終えて集計をしてみると、レミリア17枚、フラン19枚、咲夜14枚と、なかなかの好勝負であった。

「くっ、フランと二枚差……」

「ふふん。どうお姉さま、こういう遊びではフランのほうが上手でしょ?」

「ま、まあ、最初の一回くらいは勝利を譲るのが姉としての…」

「お嬢様。素直に負けを認めるのも、姉としての礼儀ですよ」

「う~、咲夜~…」

 

一十百はかるたを片付けながらその光景をほほえましく見守っていた。

レミリアさんとフランちゃんはやっぱり仲のいい姉妹なんだなぁ。

レミリアさんがちょっとだけ意地を張っちゃってて、フランちゃんがちょっとだけ甘えるのが苦手みたいだけど……。

「何、一十百?」

「いえいえ、何でもないですよ」

「今、何か失礼なこと考えてなかった?」

「ほぉぇ…? いえいえ、レミリアさんの気のせいですよ」

「…ふ~ん」

レミリアが何か納得できないといったような表情で頷く。

 

そして、にやりと不敵な笑いを浮かべた。

「一十百、一勝負しなさい」

「ふえっ! レ、レミリアさんとですか? ちょっと……厳しいです」

「安心しなさい。別に弾幕勝負をするわけじゃないわ。勝負の方法はそれよ」

そう言ってレミリアは一十百の持っているかるたを指差した。

「かるた…で勝負ですか?」

「そう。私と一対一でね」

「それなら、いいですけど…」

「ただし!」

ビシッと一十百に向けてレミリアが指差す。

「私に25枚以上差をつけて勝ちなさい。何せ、あなたの手作りのかるたですもの。そのくらいのハンデはもらってもいいでしょう?」

「ふぇええっ! 25枚差、ですか!? ……えと、それで、僕が負けた場合って…」

「三日ほど紅魔館で働いてもらうわ」

「えっ……と、きょ、拒否権は?」

「あると思うの?」

「あうぅ……」

 

 

さて、こうしてレミリアと一十百のかるた勝負が始まった。

読み手は咲夜がやるそうだ。

 

「しかし、お嬢様……。これはさすがに…」

「いいのよ咲夜。早く始めなさい」

「…十百君、悪いわね」

「いえいえ。それに、僕が先に38枚取ればいいんですから、何とかなりますよ」

「た、確かにそうだけど……。まあ、それじゃ、始めますよ」

二人が床の札に集中する。

 

コホンと咲夜が軽く咳をし、札を読み始めた。

「め…」

「はいっ!」

パシンと一十百が札を弾く。

「「「速い!」」」

「“冥界に花開く、満開の西行妖”ですよね。はい」

「えっと……、そのとおりよ。十百君、一枚追加ね」

「いや、今のは一十百の調子が良かったのよね。そうに決まってるわ」

レミリアは一言そう呟くと床の札に全神経を集中する。

 

「それでは……。き…」

「はいっ!」

パシンとかるたが一枚弾き飛ばされる。

言うまでもないが一十百が弾き飛ばしたのだが…。

「“斬れぬものなど殆どない、楼観剣”ですね」

「そ、そうね。十百君、一枚追加ね」

 

「………ねえ、一十百。もしかして、負けるつもりどころか、一枚とも取られる気がないの?」

「ふえっ? まさか、全部なんて無理ですよ。一、二枚は取り逃しちゃうと思います」

あっさりとそう一十百が答えた。

つまり、負ける気はない。

取られても取るに足らない枚数、と宣言されたわけだ。

「フ…、フフフ……、いいだろう。こうなったら意地でも勝ってやるわよっ!!」

レミリアから弾幕勝負の時に匹敵する、いやそれ以上のオーラのようなものが立ち上った。

 

「お姉さまが本気になってる。大人げないなぁ…」

「妹様、あれはお嬢様のプライドのようなものですから」

「本気になっても十百に勝つのは難しいと思うけどね」

「まあ、それもそうなんですけど……」

「咲夜、次!!」

「あ、はい。では…、あ…」

「はいっ!」

パシン。

 

 

結局……、一十百49枚、レミリア1枚という結果に終わった。

まさに圧勝の一言に尽きる。

 

レミリアが取った一枚は奇跡的に反応できた一枚だった。

それを取ったのは一十百が18枚取ったところだったので、ここからレミリアの反撃が行われるのではないかと思われる一枚だった。

その時のレミリアの喜んだ表情は、咲夜を一分ほど完全に失神させるほどの物だった。

 

しかし、結局レミリアが取れたのはその一枚だけだった。

後は、一十百の無双ともいえるほどのかるた取りとなった。

「………」

「はい、これで僕の勝ちですね、レミリアさん」

「う~…、さ~く~やぁ~…」

「お、お嬢様落ち着いてください」

「咲夜、咲夜。はい、ハンカチ」

咲夜が赤い液体を鼻から流し続けてしまっていたので、フランがハンカチそっと渡す。

 

ハンカチを渡したフランは一十百の前に来る。

「さすが十百だね。お姉さまじゃ、相手にならなかったかぁ」

「う~ん……。レミリアさんも強いと思うけど、やっぱり作ったのが僕だから、その分だけ有利だっただけだよ」

「それだけじゃないと思うけど……、まあいっか。今度は私と勝負!」

「えっ? フランちゃんと? 別にいいけど……」

「もちろん、ハンデくれるよね?」

「別にいいけど……。う~ん、フランちゃんは何枚?」

 

そこまで聞いてフランはにやりと微笑んだ。

これは、罠にかかった時の獲物を見るときの笑みに近いものだ。

つまり……、フランのハンデは枚数ではないようだ。

「目隠しして勝負して! 見ていいのは初めに並べたときだけ」

「ええっ! ……う~ん、ほかの札が動いちゃう可能性もあるからなぁ」

「うん。だから、枚数のハンデはなくていいよ」

「それなら、なんとか…」

 

 

床にかるたが並べられる。

そして一十百がそれを覚えるのだが、ほんの一分くらいで一十百は目隠しをした。

 

「もう覚えたの? 外せないんだよ、いいの?」

「いいよ。ちゃんと覚えたし」

「ふ~ん…」

「それでは妹様、十百君、準備はいい?」

「はい」

 

「あ、ちょっと待って、咲夜。十百に私が勝ったら、三日くらいたっぷり遊んでもらうから」

「うん、わかった。じゃ、頑張らないとね」

そう言って一十百が目隠しをした状態でかるたの方を向く。

「あ、もう一ついい?」

「? 何、フランちゃん」

「えっと、18に3をかけて、その後に4を足したものを2で割るといくつ?」

「えっ…と、(18×3+4)÷2=……えっと、29かな」

「へ~、すごい暗算だね。それじゃ、始めよっか」

「あれ? …ねえ、フランちゃん、もう一回、目隠し外しちゃダメかな?」

「ダメだよ」

「あうぅ…」

(フラン、考えたわね)

(妹様、なかなかの作戦ですね)

 

全てのかるたの位置を覚えていたところに、ちょっとした暗算。

こうなると、記憶は曖昧になるものだ。

つまり、これはフランの作戦のうち。

これで一十百の覚えてる枚数がかなり減る……。

 

「それでは、始めますね。コホン、き…」

「はいっ!」

パシンと一十百があっさりとかるたを弾いた。

「「「えっ?」」」

「“霧の湖に映りこむ、大妖精”ですね。たぶん、これだと思います」

一十百の弾いたかるたには確かに大妖精の絵と“霧の湖に映りこむ、大妖精”と書かれていた。

「えっと、十百君、一枚追加ね…」

「あれ? 十百、位置忘れちゃたんじゃ、ないの?」

「う~ん、自信がないのが結構あるんだよ。これは、厳しいかな?」

 

一十百が少し苦笑を浮かべる。

しかし、一十百には見えていないが他の三人も同じように苦笑いを浮かべていた。

フランの圧勝で終わると思えたかるた取りがどちらに動くか分からない状態に戻ったのだ。

「それじゃ、続けよっか。フランちゃん」

 

 

結局……。

「五枚しか取れなかった…」

「ふぅ、さすがに難しかったよ」

「……さ、咲夜。どうなってるの?」

「わ、わかりません……。お、恐るべし、十百君……」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

かるた取り:フランちゃんのための新しい遊びです。僕が作った“幻想郷かるた”で遊びます。かるたの種類もだんだんと増やしていきたいですね。そういえば、レミリアさんやフランちゃん、咲夜さんが頭を抱えていたみたいですけど、なんででしょうか?by一十百  これは……、完敗だわ…。byレミリア  なんで、勝てるのでしょうか?by咲夜  十百、強すぎるよ~…。byフラン
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