東方お仕事記   作:TomomonD

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第四異変 満月を取り返すために協力し合って
四十七仕事目 悪意なき悪霊


一十百が月を見上げる。

今夜は満月。

博麗神社の屋根から見る満月は、とても趣深いものがある。

一十百のちょっとした趣味にもなっていた。

 

だからこそ、唯一人間で今回の異変を感じ取ったのだった。

 

 

「……う~ん、何度見ても見間違いじゃない。満月のはずなのに、欠けてる」

博麗神社の屋根に上りじっと月を見上げる一十百。

別に満月じゃなくても、月見はできる。

しかし、満月というのは満ち足りた月夜。

人間はこれで満足できるが、妖怪だとそうもいかない。

「レミリアさんやフランちゃんにとっては満月っていうのは大切なもののはず…」

 

少し考え、ひょいと屋根から降りる。

「霊夢さんに、一旦報告をしないと…」

「その必要はないわ」

「ふえっ?」

後ろから聞きなれた声が聞こえる。

振り返ると、そこにはスキマから八雲紫が出てくるところだった。

「あっ、紫さん、こんばんは」

 

 

八雲紫と一十百は今晩の満月の事について話し合っている。

やはり妖怪にとって、満月の夜は大切なものらしい。

そのため、これは人間にとっては大したことのない異変だが、妖怪にとっては大きな異変のようだ。

 

「でも、一十百君、よく気が付いたわね。人間にとってはほとんど変わりない月夜なのに」

「気が付きますよ。僕だって月見は楽しみにしている事ですから」

八雲紫は一度頷く。

流石、一十百君…といったところかしら。

でも……。

「一十百君。今回の異変は月を満ちさせない…もしくは覆い隠すほどの異変なの。つまりそれだけの力を持った存在が今回の異変の首謀者なのよ」

そこまで言って、八雲紫は真剣な表情になる。

「だから、今回の異変は私と霊夢で解決するわ」

「ふえっ! あの…」

「あなたも手伝いたいのはわかるわ。でも、今回のこれは、危険なのよ。せめて“空を飛ぶ”くらいの力や、“ショットを放つ”くらいの事が出来ないと行かせるわけにはいかないわ」

「あぅぅ……」

 

今、八雲紫が提示した二つの条件は、一十百がどれほど練習してもできなかったことである。

弾幕戦において、空を飛べると飛べないとでは大きく避け幅が変わる。

ショットを放てるか放てないのでは、戦略に大きく影響する。

逆に、この二つができずに今までよく弾幕勝負に勝てたものだ。

 

「それじゃ、私は霊夢と話をつけてくるわね」

そう言って八雲紫は境内の方に向かっていった。

 

 

一十百は考える。

今から二つを練習して、今回の異変を解決するのに間に合うだろうか。

心の中で首を横に振る。

そんなにすぐにできるようにはならない。

「なら……、僕のできることは…」

一十百は走り出す。

 

向かった先は、博麗神社裏手の倉庫。

異変解決のための道具や宴会のための道具が置いてある倉庫だ。

そっと、そこの扉を開く。

春先に一度掃除をしたため、しっかりと整理はされている。

「僕ができることは、この道具が使いやすいように磨いておくことくらいですね」

そう言って封魔針や札などの埃をふき取っていく。

ここの道具はいわば予備のようなもの。

もしも、異変解決の途中で何か不慮の事故があって、道具を失うようなことがあったらここの物を使うらしい。

「だからこそ、ここの物はしっかり磨いておかないと…」

いざという時のものほど、使われない。

しかし、本当に使われるときに、それが錆びていたり汚れていたりしたら面倒だ。

月明かりが差し込む中、一十百は静かに倉庫の中で異変解決の道具を磨いていた。

 

 

道具磨きも終盤に差し掛かったとき、一十百の手が止まる。

「これだけ、他と違う気がするんですけど…」

前に倉庫の掃除をしていた時にも同じような感じがしたものが手に触れる。

長い棒のようなものに三日月の形をしたものがつけられている。

一見すると、杖のように見えるが……。

「杖? 星とか月とかの杖なら魔理沙さんのでしょうか?」

一十百はそっと手に取る。

 

少し悩んでから、その杖を磨き始めた。

ここにあるのだから何かに使われるかもしれない…。

そんなことを考えながら杖を磨き始める。

しっかりと磨きあがった三日月の杖は月の光を浴びて淡く輝いた。

 

 

「……霊夢さん達はもう出発したのかなぁ」

倉庫にあるすべての物の清掃も終わったので、一旦境内にもどってみる。

どうやら博麗霊夢と八雲紫は異変解決に出発したようで境内の中はとても静かだった。

やることもなくなってしまった一十百はもう一度屋根に上る。

二人が異変を解決してくれると信じ、屋根の上で月見を始めた。

一十百の左手には先ほどの三日月の杖が持たれている。

もしも、霊夢がまだ出発していなければこの杖の事を聞こうと思ったのだが、既に出発してしまったので、戻ってきてから聞くつもりのようだ。

「…不思議な杖ですね」

そっと、一十百が呟く。

欠けてしまった月に合わせるように、その三日月の杖を重ねる。

 

その時、何かの気配に一十百が気が付き振り返る。

振り返った先には一人の女性が立っていた。

「ふえっ!? あれ? えと……、こんばんは?」

「こんばんは。霊夢はいるかい?」

「霊夢さんですか? ちょうど異変解決に出かけちゃいましたけど…」

どうやらこの女性は霊夢の知り合いのようだ。

 

太陽の絵が描かれている青色のとんがり帽子に青色のマントのついた洋服のようなローブ。

背中にかかるくらいの長く透き通った緑色の髪。

背は、高い方だ。

少なくとも一十百よりは高い。

雰囲気では、霊夢や魔理沙より少し年上…といったような感じだ。

そして、一十百が気が付く。

この人……足がない…。

幽霊…なのかなぁ?

一方、一十百の前に立って…と言っても浮いているが、その女性は一十百の持っている三日月の杖をじっと見つめていた。

 

「少し、いいかい?」

「ほぇ? えと、なんでしょうか?」

「その杖、どこで見つけたんだい」

「これですか? 博麗神社の倉庫にあったんです。異変解決に使うものだと思ったんで、磨いていたんですけど…」

その一言を聞いて、緑髪の女性は一度頷いた。

そして、そっと手を伸ばす。

すると、一十百の手をすり抜けて三日月の杖はその女性の手元に飛んで行った。

「やっぱり、私の杖か。どこに置いてきたかと思ったけど、まさか倉庫に置き忘れたなんてね」

「えと、その、あなたは…」

「私かい? 私は…、そうだね、お前さんからはどう見える?」

「ふえっ……、そうですね…。幽霊さん、ですか? なんか、もっとこう、力の強い感じがしますけど…」

一十百の答えに満足がいったのか、軽く頷いた。

「まあ、そんなところだね。一応、悪霊ってことになってるよ」

「あ、悪霊ですか…」

 

 

いろいろ話し合ってみると、どうやらこの神社に住んでいるらしい。

今まで会えなかったのは、ただ単に旅行中だったらしい。

何でも、昔に力の大半を博麗霊夢に封じられて、幻想郷ではそれほど強い力は出せなくなってしまった。

しかし、満月の夜は妖怪たちと同じように力が満ちるようで、全力ではないにせよ、かなりの力を出すことができるそうだ。

 

「でも、今回の異変で月が満ちなくなったので、力も満ちなくなった…と」

「まあ、そういう事だね。また、面倒だからとかで、異変の解決を遅らせるとか言いそうだったから、来てみたんだけど…。ちゃんと異変解決に出たみたいで、まあ、一安心といったことだね」

「なるほど……」

「それで、お前さんは何者だい? この神社に住むなんて、変わり者だね」

「そ、そうですか? う~ん……。えと、僕は一十百です。外の世界に主がいますけど、今はここで暮らしています」

そう言って一十百がペコリとお辞儀をする。

 

「私は魅魔。さっきも言った通り、悪霊ってことになってる。それでだ」

魅魔が三日月の杖を軽く構える。

「今回の異変。さすがに力を封じられた私だけじゃ、厳しい。そこで、十百。ここであったのも何かの縁。お前さんの力を借りたい」

「ふえっ! えと、異変解決は…霊夢さんに任せるんじゃ…」

「まあ、それでもいいんだけどね。でも、せっかく異変の時に戻ってきたんだから、首を突っ込んでみようと思ってね」

「……えと、つまり、異変解決をただ待ってるのは、その、お暇だと」

「言い換えれば、そういう事だね」

ニヤリと魅魔が笑う。

この、異変ですら楽しむような性格、どこか魔理沙さんに似ているような……。

う~ん…。

「その、確かにお手伝いはしたいんですけど……。色々と事情があって、今回の異変に手を出せないんです」

「事情?」

「はい…」

 

 

一十百は八雲紫から言われた今回の異変解決に同行するための最低条件の事を話した。

その話を聞いて、魅魔は顎に手を当て少し考える。

 

「つまり、その二つをクリアーすれば行ってもいいんだろう?」

「それはそうなんですけど……」

「なら簡単だね。ちょっとこいつを持ってくれないかい」

そう言って、魅魔は三日月の杖を差し出した。

「これを、ですか?」

そっと、一十百がその杖を受け取る。

別に何か変わったというわけではないようだが…。

 

「何も起こりませんけど…」

「ん? そろそろだと思うけどね」

「そろそろ? あっ!」

いつしか一十百の右側と左側に青色の魂のようなものが二つ浮いている。

「これは?」

「私がショットを放つ時に使っていた物さ。弾幕を放つイメージをするんだ。それで撃てるようになるはずさ」

魅魔が言ったように、一十百は弾幕を放つイメージをする。

すると、青い魂のようなものの中から、鳥型の弾幕が次々と放たれていった。

「あっ、本当にできました! でも、どうやって…」

「まあ、後で説明してあげるよ。じゃ、後は飛ぶだけだね」

「飛べ…るんでしょうか…?」

少し心配そうに一十百が魅魔を見る。

「飛べるさ。ショットだって撃てたんだからね」

「……えいっ!」

一十百は博麗神社の屋根から身を躍らせるように飛び降りる。

今までなら地面に向かって落ちるだけの身体がふわりと浮く。

「あっ……」

「ほら、飛べただろう?」

屋根の上から魅魔がゆっくりと降りてくる。

 

「本当に飛べるようになってる……。でも、どうして…」

「その杖さ。仮にも私の杖だから、その杖を経由して私の力が使えると言ったところさ。まあ、私の力が戻ってないからできることはその二つくらいだけどね」

「な、なるほど…」

 

 

「さてと、じゃ、そろそろ行くとするかい?」

「はいっ……と、その前に…」

一十百が境内の中に入っていく。

そして、数分くらいして戻ってきた一十百の服装は先ほどの物とは違っていた。

「準備はできました!」

「…まさか、今の間でそれを作ったのかい?」

「はい! 布もありましたし、すぐに作れました」

 

一十百の今の服装は、まさに魅魔と同じと言っていいだろう。

青いとんがり帽子、青いローブ。

この数分で作ったとは思えぬほどの出来栄えだ。

「わざわざ服装まで合わせないでもいいだろうに」

「そういうわけにはいきませんよ。せっかく杖まで貸してもらってるんですし」

「そうかい? まあ、これはこれでいいけどね」

そう言うと魅魔の姿が消えた。

一十百がどこに行ったのか探していると、頭の中に直接魅魔の声が聞こえてきた。

「そうそう、力が戻るまではこの杖の中にいるからね。しっかりやりな」

「はいっ!」

 

一十百は一直線に駆け出す。

そして鳥居をくぐった時に大きく地面を蹴った。

青色の少年は空へと飛び出した。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

欠けた満月:何やら新たな異変のようです。妖怪たちにとって満月は大切らしく、妖怪の賢者である紫さんが自ら異変解決に赴く程のようです。by一十百

魅魔:青いとんがり帽子に青い洋服、緑色の髪の悪霊さんです。悪霊と言っても嫌な感じは全くしないんですけど…。何でも霊夢さんに力を封じられていて、全力は出せないそうです。それでも、何か強い力を感じます…。by一十百  今回の異変に同行してもらうからね、よろしく。by魅魔  なんか、面倒事が近づいてきてる気がするわ…。by霊夢  なんだか今回の異変は頑張れる気がするぜ!by魔理沙  なにか、嫌な思い出がこっちに来てる気が…、気のせいよね。byアリス
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