東方お仕事記   作:TomomonD

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五十仕事目 夜に響く羽音

青色の服が風に揺れ飛んでいく。

 

一十百が夜の森の木々をよけながら地面すれすれを飛んでいく。

「なんでもっと高く飛ばないんだい? もう少し高く飛べば、木を避けなくてもいいだろうに」

「えと、なんだか、地面が近くにないと心配で……」

 

リグル、レミリアと弾幕戦をしてきた一十百だが、やはり飛ぶのには慣れていないようで、どうしても足の着くところに地面がないと安心できないようだ。

どれほどプールで上手く泳げても、足のつかない沖を泳ぐのに不安があるのと同じようなものなのだろう。

 

一十百の飛ぶ速さは決して遅くない。

元々、走る速さが人間とは思えないほどなのだが、それに輪をかけるように飛ぶ速さも速い。

流石に射命丸文ほどの速度は出ないようだが、霊夢、魔理沙と比べると遥かに速い。

同時に、一十百が空を飛んでいる間、軽く体の周りに青い光が纏われ、淡く輝いている。

それが、木々にぶつかることなく、かなりの速さで飛んでいるのだ。

人間にも妖怪にも、その光景は幻想的に映っただろう。

 

 

「あれ? なんだか、暗くなってきましたね」

「そうかい? さっきとほとんど変わらないと思うけど」

だんだんと暗くなってきた森を見て一十百がそう言った。

しかし、魅魔はさっきと変わっていないと言っている。

少し考えて、一十百がポンと手を打った。

「……なるほど、これが鳥目ですか。そうなると、近くに夜雀がいるんでしょうか?」

「正解!」

バサッという羽音と共に一人の少女が降りてきた。

 

翼のついた帽子、リボンが付いた蔓がおしゃれなジャンパースカート。

桃紫色の髪に鳥のような翼。

 

「君が夜雀のミスティア・ローレライ?」

「あれ? 私のこと知ってるの? 人間にしては珍しいね」

「チルノの友達……だよね」

「チルノの事も知ってるなんて、あなた何者?」

「一十百っていうんだけど、チルノから聞いてない?」

「一十百?」

ミスティアが少し考えるそぶりをする。

 

そして、ハッとした表情になる。

「も、もしかして、鼠妖怪を素手でぼこぼこにするっていう一十百?」

「そうだけど……。なんだか、誤解されてる気がする」

「その、一つ聞いていい?」

「ふぇ? 何?」

ミスティアはここで一度深呼吸をして、一十百のほうに向きなおった。

「だんだん周りが暗くなってきてない?」

「うん。でも、これって、ミスティアの能力でしょ?」

「私の…というよりも夜雀としての能力。人間を鳥目にすることができる」

そこまで言って、ミスティアはビシッと一十百を指差した。

「つまり、あなたは人間!」

「な、なるほど……」

 

今まで人外と言われて少しだけ心配になってきた一十百だが、ミスティアのこの一言で自分が正真正銘“人間”だと信じることができた。

これは一十百にとってとても安心できるものだった。

ミスティアもミスティアで、鼠妖怪を素手で退治する人間がいるとチルノに聞いて、何かの間違いじゃないかと思っていた。

しかし、今までの話と目の前にいる一十百らしき人物からして、チルノが間違っていないことを確認できた。

チルノはちょっと、そのアレだけど、嘘は言わないもんね……。

 

「えと、それで、通してもらっていい?」

「え? ああ、もしかして、月がおかしくなってるのを解決しに行くの?」

「そうだよ」

「なら、止めるつもりはないよ。チルノ達とも友達みたいだし、満月も取り戻してほしいし」

そういって、ミスティアが森の奥を指差す。

「こっちに行くと人里があるから、休憩するつもりなら行くといいよ」

「う~ん、霊夢さん達もそっちに向かったかも? ありがと、ミスティア」

 

軽く手を振って一十百が飛び立とうとすると、どこかで感じたことのある気配が近づいてくるのに気が付く。

「何か来ますね」

「おや、どうやら私に似たようなのが来るみたいだね」

「魅魔さんに似た?」

一十百が飛んできた森の方を振り返る。

そして、飛んできた人たちを見て、なるほどと頷いた。

 

木々をよけながら飛んできたのは、白玉楼の主である西行寺幽々子と、その従者である魂魄妖夢だった。

亡霊である西行寺幽々子も、悪霊である魅魔も、似たような存在と言えば確かに似ている。

少なくとも一十百はそれで納得できたようだった。

 

「こんばんは。幽々子さん、妖夢さん」

「あら~、珍しいところで会うわね」

「十百さん、なぜこんなところに?」

「欠けてしまった満月の異変を解決するためなんですけど……。もしかして、お二人も?」

「ええ。さすがにこのままじゃ困るもの」

軽く扇子を開いて西行寺幽々子がそう言った。

そして、何かを期待するように軽く目が細められた。

「まあ、違うと思うけれど、十百君がこの異変の原因じゃないわよね~」

「ち、違いますよっ!」

「でも、それが本当の事かはわからないじゃない?」

「あうぅ……、それは、そうですけど……」

どうすれば信じてもらえるかと一十百が頭を抱える。

その光景を見て、ふふっと西行寺幽々子が微笑む。

ちょっとした意地悪といったところだろう。

 

「幽々子様、あまり十百さんを困らせてあげないでください。可哀そうですよ」

「あら、もしかしたら本当に十百君が異変の首謀者かもしれないわよ? それくらいの実力はあると思うし」

「しかし、なら私たちのように異変解決に奔走していないでしょう」

「かく乱させるつもりかもしれないわよ~?」

「幽々子様……」

ジト目で魂魄妖夢が西行寺幽々子の事を見る。

その視線を受けながらも、何食わぬ表情で一十百のほうに向きなおった。

 

「十百君の事も信じてあげたいけど……、そうね~、よし」

西行寺幽々子はパチンと扇子を閉じ、ポンと軽く手を合わせた。

そして、その閉じた扇子で一十百の事を指差した。

「なら、私と弾幕勝負をして勝てたなら信じてあげるわ」

「ちょっ……、幽々子様!?」

「少しくらい、いいじゃないの。たまには弾幕勝負もしないと、腕が鈍っちゃうじゃない」

「十百さんはこれから異変解決なんですから、ここで時間を使わせるのは、どうかと思いますけれど……」

「十百君はどうするの?」

 

別に受ける必要のない弾幕勝負ではある。

どちらも異変解決に向かっているのだから、ここで時間を使う必要はない。

レミリアと違って、仮に博麗霊夢と鉢合わせしたとしても面倒事にはならないだろう。

そこまで考え、一十百はじっと西行寺幽々子の目を見た。

そして一言。

「……もしかして、お暇だから、弾幕勝負がしたいんでしょうか?」

「そんなことはないわよ~」

西行寺幽々子は素知らぬふりで軽く扇子で風を送っている。

ちょっと呆れた表情で一十百が軽くため息を吐いた。

そして、隣で困り顔をしている魂魄妖夢の方を向く。

「妖夢さん、いつも大変なんですね」

「いえ……、もう慣れていますから」

「心境お察しいたします」

ペコリと一十百が軽く魂魄妖夢に頭を下げた。

同じ従者としての苦労がわかるのだろう。

「ちょっと、二人とも~、ひどいわ」

 

 

「仕方がないですね。お相手します」

「あらそう言ってくれると……」

「ただし!」

西行寺幽々子の言葉を遮ってビシッと一十百が指をさした。

「覚悟はしておいてくださいね。従者を困らせる主を、そのまま見過ごすつもりはないですよ」

「えっ……?」

「ちょっと……、本気でお相手します。だから、覚悟してくださいね」

 

ニコッと一十百が微笑む。

それはいつもの微笑みと変わらないもののはずなのだが、間違いなく何かが違っていた。

主に一十百の後ろの雰囲気のようなものが明らかに違う。

その微笑みを向けられて、西行寺幽々子の顔色がさぁーと青ざめていく。

一十百の後ろに禍々しい悪魔……と言うよりも魔王のようなものがぼんやりと見える。

 

「え…っと、十百君。その、やっぱり、また今度にしましょうか? ほら、急いでいるみたいだったし」

「はい。だから安心してください。スペルカード三枚くらいで……終わりますから」

「そ、そういうことじゃ……。よ、妖夢~」

横にいる魂魄妖夢に助けを求めようと振り返ると、既にそこに魂魄妖夢はいなかった。

弾幕勝負の邪魔にならないように、そっと地面に降りたようだ。

まあ、逃げたともいうが……。

「ちょ、ちょっと、妖夢~!?」

「幽々子様、頑張ってください。この魂魄妖夢、陰ながら応援しています」

そういって、そっと木の陰に隠れた。

 

「……十百君~。わ、私が悪かったから、その…」

「幽々子さん、ちゃんと準備してくださいね。弾幕勝負と言っても、よそ見をしたりすると、危ないですから」

そう言って一十百は自分のスペルカードの中から三枚を選んでいる。

……こ、これは本気でかからないと、本当に危ないわね。

前の異変の時のしわ寄せがここに来たのかしら?

まさか、亡霊になってから、これほど恐怖することが起きるとは思わなかったわ……。

がっくりとうなだれて、西行寺幽々子は弾幕勝負に備えてスペルカードを選んだ。

 

対する一十百は集中して三枚のスペルカードを選らんでいる。

一十百の中で西行寺幽々子という存在はかなりの実力者であると思われている。

実際に弾幕勝負をしたことはないが、紅魔館の主であるレミリア・スカーレットや、妖怪の賢者の八雲紫、そして博麗霊夢とほぼ同等くらいの実力を持っているのだろうと思っているのだ。

この中で一十百が弾幕勝負をしたことがあるのはレミリアのみ。

しかし、そのレミリアも手加減してくれたのだろうと一十百は思い込んでいる。

つまり、今、一十百は本気で悩んでいるのだ。

魅魔の力を借り、空が飛べるようになり、ショットも撃てるようになった。

 

しかし、それだけでは、確実に勝てないだろう。

だからこそ、この三枚のスペルカードが勝負のカギを握っている。

その三枚を選ぶために一十百は真剣な表情でじっとスペルカード見る。

いつもなら適当に取ったスペルカードで勝負するのだが、今回はそうもいかない。

一十百の周りに淡く青い光が灯り始める。

本来なら弾幕勝負の最中に灯る青い光がすでに灯り始めている。

一度深呼吸をして、三枚のスペルカードを選び取った。

 

「さあ、それじゃ、そろそろ始めましょうか?」

そう言って一十百が顔を上げる。

「そうね……。こうなったら、覚悟を決めるわ」

グッと、扇子を握り、ちょっと涙ぐんだ西行寺幽々子が一度頷く。

 

ふわりと、一十百と西行寺幽々子との間に夜の風が流れていった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

ミスティア・ローレライ:夜雀の妖怪で、チルノ達とよく遊ぶ友達らしいです。鳥目にする能力があるみたいですけれど、ほかにも能力を持っているみたいです。鳥目を治すには八目鰻を食べることで治るみたいで、その屋台の店主として働いているらしいです。今度、食べに行ってみようと思います!by一十百  ぜひ一度は来てみてね!byミスティア

異変解決・白玉楼チーム:幽々子さんと、妖夢さんの白玉楼の異変解決チームです。幽々子さんがお暇そうにしているのと、妖夢さんが困っているようでしたので、僕が幽々子さんと弾幕勝負をすることになりました。幽々子さんは、かなりの実力者だと思うので、僕も本気でお相手します!by一十百  うぅ、大丈夫よね……、ぐすん。by幽々子  十百さんの実力はどのくらいなのでしょうか?by妖夢
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