東方お仕事記   作:TomomonD

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五十一仕事目 夜闇に咲き誇る桜

暗い森の中、蝶の弾幕と鳥の弾幕が飛び交っていく。

その二つの弾幕の発生点には、ふわりとした桃色の髪の女性と、淡く青い光を纏った少年の姿があった。

 

 

一十百と西行寺幽々子の弾幕勝負は始まったばかりだというのに、かなり派手な弾幕戦になっていた。

スペルカードも使っていないのに、既に避けるのが不可能と思える程、弾幕同士の隙間が小さい。

 

「………」

一十百が黙ったまま弾幕の隙間を抜けていく。

 

ただ、いつものような余裕を持った避け方ではなく、ギリギリまで弾幕を引きつけてから少し横に動きかわしていく避け方だ。

無駄な動きが少ない分、体力の消費を抑えられる。

しかし、一十百がこんな避け方をするのは珍しい。

体力というだけなら、それこそ日本の端から端まで走って往復したところで息すら上がらない程あるのに、体力の消耗を抑えるような避け方をしている。

 

今この弾幕勝負を見ている、やっている者の中で、一十百の弾幕勝負を見たことがあるのは魅魔だけだ。

故に、一十百はこういう風に弾幕をかわしていく人だと他の人達は思い込んでいる。

しかし、二度弾幕勝負を見ていた魅魔は今までとは違うかわし方をする一十百の事が気になった。

 

弾幕勝負の邪魔にならないように、そっと杖の中から尋ねる。

「どうしたんだい? 随分と危うげな避け方をするじゃないか。さっきみたいに余裕を持って避けないのかい?」

すると、一十百が小声で、困ったように一言。

「前が……よく見えないんです」

「はい?」

「その、目の前に弾幕が来るまで何も見えなくって……。幽々子さんの姿も見えませんし……」

「………まさか、鳥目のまま、かい?」

「そ、そうみたいなんです」

 

魅魔は自分の顔色が青くなっていくのがわかった。

まあ、杖の中にいるので、他の人にはわからないが……。

目の前まで来るまで見えないって……、その状態で今まで避け続けていた?

魅魔からは、しっかりと西行寺幽々子の弾幕が見える。

目の前が埋め尽くされるような程の弾幕の量だ。

それを、ほぼ見えない状況でかわし続けている。

これは……、私が思っていたよりも、ずっと実力のある少年のようだね。

 

 

「普通の弾幕じゃ、当たらないわね。そろそろ……」

西行寺幽々子がスペルカードを構える。

その気配を感じ取って、一十百が幽々子の方を見る。

見ると言っても、見えているわけではないが……。

そっと、一十百がスペルカード構える。

その瞬間、スペルカードに集められていた青い光が爆発するように輝いた。

夜の森が青色の光照らされて、明るくなっていく。

「えっ、な、なに!?」

「あっ、やっと見えました! これならスペルカードを使ってる間はしっかり見えますね」

一十百は構えたスペルカードを大きく振り上げる。

慌てて、西行寺幽々子もスペルカードを振り上げた。

 

「氷精『アイスナイン』」

「亡郷『亡我郷 -道無き道-』」

二人のスペルカードが輝く。

 

西行寺幽々子から左右三連ずつ、うねる様な弾幕が放たれる。

その弾幕は段々と閉じる様に一十百に向かってくる。

同時に持っている扇子から扇状に広がる光線が放たれる。

それを半回転させるように薙ぎ払う。

一十百にうねる弾幕と光線状の弾幕が当たると思われた瞬間、一十百の周りの弾幕がすべて凍りついた。

「なに! 何が起きたの?」

弾幕から弾幕に氷が広がっていく。

いつしかその氷は幽々子の手元までたどり着こうとしていた。

急いで扇子から放たれる光線で遮る。

手元まで届こうとしていた氷は光線によって弾かれた。

 

一十百のスペルカード、氷精『アイスナイン』は、チルノからもらったスペルカードの素より作られた、記音『零十区間』の変化したもののようだ。

よく見ると一十百の周りを青い大きな弾幕が三つ回転している。

どうやら、それにぶつかると、弾幕自体が凍りついてしまうようだ。

 

数回転すると、その弾幕は一十百の元から離れ、幽々子目掛けて飛んできた。

青い弾幕自体はそれほど速くはないのだが、飛ばされた青い弾幕自体も弾幕を凍らせる力があるようで、弾幕を撃とうものなら逆に自分の身を危険にさらしてしまう。

唯一、光線状の弾幕は凍らないようなので、光線状の弾幕を得意なら簡単に突破できるスペルカードだろう。

今回の場合、うねる両三本の弾幕は凍りつかせられるが、扇子の光線弾幕は凍らせることができないようだ。

 

「どうやら、相手の弾幕を利用するスペルカードみたいね。まあ、わかっていても、対処のしようがないけど……」

青い弾幕にさえ当たらなければ普通の弾幕でも一十百に届くはずだが、今回のように弾幕同士がつながっているようなものだと、途中で青い弾幕に触れるとすべて凍り付いてしまう。

そのため、今回、一十百は光線弾幕のみに集中するだけでいい。

とはいえ、一十百側も決め手がなく、凍りついた弾幕が相手まで届くことを祈ることしかできない。

 

 

結局どちらのスペルカードも、相手に決定打が与えられる前に光が消えていった。

スペルカードから光が消えると、また夜の闇が森を包む。

「やっぱり、見えない……。なら、二枚目!」

一十百は一枚目のスペルカードから光が消えるとすぐに二枚目を構えた。

どうやら鳥目はまだ治ってないようで、なるべく弾幕が見えるようにスペルカードを連続で使うようだ。

ここまで一十百が攻めに回るのも珍しいことだ。

 

「轟天『雷鳴轟き裂ける大地』」

「えっ、もう二枚目!?」

バシュンという音と共に一十百のスペルカードが発動する。

一十百がパチンと指を鳴らすと、落雷状の弾幕が降り注ぐ。

そして、落雷状の弾幕が落ちたところから赤い弾幕が吹き上がる。

落雷弾幕はほぼ一瞬で落ちるのに対して、赤い弾幕は吹き上がった後、それなりにゆっくりと落ちてくる。

この時間差があるため、赤い弾幕がそのまま残っている状態で落雷弾幕を避けなくてはいけない。

 

落雷弾幕が次々と降り注ぐ中、西行寺幽々子はしっかりとその弾幕を避けていた。

吹き上がる赤い弾幕と落雷弾幕の中、舞うように弾幕をかわしていく。

一十百ほど速く動けないとはいえ、避けることに専念すれば、大方の弾幕は避けられるようだ。

しかし、スペルカードを使う暇がなく、通常弾幕を放つので精一杯になってしまっているようだ。

段々と一十百のスペルカードから光が消えていく。

そして、静かに二枚目のスペルカードが終わっていった。

 

 

「う~ん、あと一枚かぁ」

「なかなか厳しいんじゃないかい?」

そう魅魔が尋ねる。

「まあ、ちょっと厳しいですけど、まだ一枚ありますから」

そう言って、一十百は三枚目のスペルカードを構えた。

スペルカードに青い光が吸い込まれ、輝く。

「そんな、スペカは連続して使う物じゃない気がするんだけどね」

「いえいえ、これも一つの作戦だと思ってください」

一十百が輝いたスペルカードを高々と振り上げた。

 

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~開花前線~』」

「ちょ、ちょっと、連続三枚!?」

西行寺幽々子が驚く中、振り上げたスペルカードが輝いた。

 

放たれた弾幕は小さ目の桃色の楕円弾幕。

それが舞うようにひらひらと降り注ぐ。

しかし、今までのスペルカードに比べると、随分と避けやすいものだ。

不規則に舞う弾幕だが、弾幕と弾幕の間はそれなりに離れており、落ち着けば楽にかわせる。

「最後のスペルにしては簡単ね。これなら、避けるほうに集中していれば……」

西行寺幽々子が安心した瞬間、一十百のスペルカードの光が一瞬消える。

それと同時に舞っていた楕円弾幕も消えていった。

 

「あら? もうおしまい? 最後にしては随分と……」

西行寺幽々子がそう言い終わる前に、一十百のスペルカードからまた強い光が溢れだした。

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~弐分咲~』」

「えっ?」

消えたはずの桃色の楕円弾幕がまた舞い始める。

消える前よりも弾幕の量が増え、避けにくくなっている。

「今、確かにスペルカードから光が消えたのに……」

疑問に思いつつも、西行寺幽々子は弾幕をかわしていく。

まだ、問題なく避けられる程度の弾幕の量だ。

 

避け続けていると、またもや一十百の持っているスペルカードから光が消えていく。

前と同じように周りの弾幕も消えていく。

 

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~肆分咲~』」

今さっきと同じように消えたはずのスペルカードの光が強く輝く。

その瞬間、桃色の楕円弾幕が舞うように放たれる。

先ほどより弾幕の量はさらに多くなり、大きめの楕円弾幕まで放たれ舞い始めた。

「だ、だんだんと避けにくくなってきたわね。スペルカードを使う暇もないし、ショットだけでどうにかなるかしら?」

西行寺幽々子から蝶の弾幕が放たれる。

しかし、その弾幕は一十百の目の前まで飛んでいくと、溶けるように消えていった。

「これは、耐久スペル!? 十百君が持っているなんて思わなかったわ」

 

耐久スペルとは、そのスペルカードが発動している間は、相手の弾幕が一切通じなくなるスペルカードの一種。

主に、力の強い妖怪や、博麗霊夢のような数少ない実力者しか使う事の出来ないスペルカードだ。

今まで一十百が相手をした中では、フランドール・スカーレットの秘弾『そして誰もいなくなるか?』が耐久スペルだった。

しかし、耐久スペルとわかれば、やることは一つ。

避け続ければいいだけだ。

こちらの弾幕が通じないのだから、スペルカードが終わるまで避け続けるしかない。

西行寺幽々子も回避に専念する。

 

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~陸分咲~』」

弾幕が一瞬消え、そして放たれる。

大小の桃色の楕円弾幕が舞い、桜の花を模した五枚の花弁の弾幕が回転しながら落ちていく。

弾幕同士の間隔も初めとは比べ物にならないほど狭くなり、避けるのがかなり困難になってきている。

回転しながら落ちてくる桜花弾幕のせいで、避ける難易度がかなり上がっている。

今までは当たることなく避け続けきた西行寺幽々子も、服に当たったり、持っている扇子に当たり始めた。

「こ、このままだと……」

 

「幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~玖分咲~』」

今までと同じようにすべての弾幕が消える。

そして、強い光と共に、弾幕が放たれる。

桜の花びらのような桃色の弾幕が舞い、五枚の花弁を模した弾幕が回転しながら落ちる。

同時に、桜の木を模した弾幕が地面から放たれていく。

今までは主に上、もしくは前からだけの弾幕だったが、これに死角になりやすい下からの弾幕が加わるといきなり難易度が上がる。

更に、桜の木を模した弾幕は他の弾幕に比べて、大きさも大きく放たれる速度も速い。

なので……。

「避け……、あっ!」

舞い落ちる楕円弾幕を避けている所に桜の木を模した弾幕が現れる。

それをギリギリのところで避けるも、バランスを崩し、そのまま楕円弾幕に当たってしまった。

西行寺幽々子はそのまま地面に落ちてしまう。

まあ、亡霊なので地面に落ちた程度ではどうってことないのだが……。

 

「幽々子さん危ない!」

地面に落ちかけた幽々子を助けようとして一十百が空中を蹴り、一気に西行寺幽々子の元へ向かう。

文字通り風を切って、ほぼ一瞬で手の届く場所までたどり着く……はずだった。

一十百自身も忘れていたのだが、今、一十百は鳥目である。

スペルカードの光が消え、夜の闇が訪れる。

そのせいで、一十百は西行寺幽々子の姿を一瞬だけ見失ってしまった。

一十百の伸ばした手は空を切り、そして………。

 

ゴン!!

「あうっ!」

「いぇっ!」

 

風を切るほどの速度で、頭突きをしてしまった。

夜の森に鈍い音が響き渡った。

本来落ちる速度の倍ほどの速度で西行寺幽々子は地面まで落ちていった。

「あいたた……。あれ、幽々子さんは?」

「あ~、今のお前さんの頭突きで、思いっきり落ちていったみたいだ」

「ふぇぇっ!?」

急いで一十百が地面に降りる。

そこには……。

 

「きゅ~……」

目をバッテンマークにして気を失っている西行寺幽々子がいた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

氷精『アイスナイン』:記音『零十区間』が変化したもののようです。青色の弾幕が十百さんの周りに放たれ、それに触れてしまった弾幕は凍りついてしまいます。凍った弾幕自体も凍らせる力があるようで、連続した弾幕を伝って相手まで氷が届くみたいです。光線状の弾幕には効果がないとはいえ、強力なスペルカードですね。by妖夢  私なら楽に突破できるスペルカードでもあるぜ!by魔理沙

幻景『始まりと終わりを紡ぐ花 ~開花前線~』:十百君の持っている耐久スペルみたいね。開花前線、弐分咲、肆分咲、陸分咲、玖分咲、そして満開、と続くらしいわ。弐分咲までは桜の花びらを模した小さな楕円弾幕が舞うだけ。肆分咲では大きな楕円弾幕が追加されるわ。陸分咲で桜の花を模した弾幕が回転しながら落ちてきて、玖分咲で大きな桜の木の弾幕が足元から放たれるわ。一つ一つの時間は短くても、全部合わせるとかなり長いから、避けるのも一苦労よ。全部合わせて一枚のスペルカードみたいね。by幽々子
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