東方お仕事記   作:TomomonD

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五十二仕事目 懐かしきの東方の竹林

弾幕勝負の最終局面。

 

一十百の弾幕は確かに西行寺幽々子をとらえた。

それだけならよかったのだが……。

バランスを崩した西行寺幽々子を助けようとして、手を伸ばすも届かず、逆に頭突きをしてしまった。

そのため、西行寺幽々子はいまだ気を失っている。

 

事故とはいえ、悪いことをしてしまったと、一十百が謝っているところだ。

「その……、何というか、ごめんなさい」

「ま、まあ、幽々子様が無理を言っていた部分もありますから、気にしないでください」

そう言って魂魄妖夢は西行寺幽々子を背負う。

「それでは、一度白玉楼に戻ります。十百さんなら心配はないと思いますが、頑張ってください」

魂魄妖夢はそう言うと、ふわりと浮き夜の空に消えていった。

 

 

「それじゃ、そろそろ行きましょう!」

「あっ、ちょっと待って」

飛び立とうとした一十百にミスティアが声をかけた。

「うん? 何、ミスティア」

「はい、これ。チルノが言ってたんだけど、あなたに会ったらこれを渡すんだよね」

そう言って一枚の白紙のカードを一十百に渡す。

「渡した人によって違うスペルカードができるって聞いたけど……、本当?」

「うん、そうだよ。ありがとう、ミスティア。さっき幽々子さんとの弾幕勝負で、三枚使っちゃったから、助かるよ」

ミスティアから白紙のカードを受け取ると、それに淡い光が灯る。

すぐにスペルカードになるわけではないが、この感じならそれなりに早く完成するだろう。

 

「では、改めて出発!」

一十百が強く地面を蹴る。

その反動でふわりと浮きあがる。

「おや? 随分高く上がるんだね。さっきまでは、地面すれすれを飛んでいたのに」

「鳥目が治るまでは、暗い森の中を飛ぶのは危ないので……」

「そう言えばそうだったね」

一十百と魅魔は夜空を切って、まっすぐ飛んで行った。

 

 

しばらく飛んでいくと、一十百が辺りを見回す。

そして、少し心配そうに、考え込む。

「どうしたんだい? なにか、心配事みたいじゃないか?」

「その……、僕の記憶が正しければこのあたりに確か大きめの人里があったはずなんですけど……」

「そう言えば、さっきの夜雀もそんなこと言ってたね」

杖の中から、魅魔も辺りを見回す。

しかし、人里らしき影はどこにもなく、広い平野が広がっているだけだ。

「鳥目だから道を間違えた、ってことはないのかい?」

「う~ん、そんなことはないと思うんですけど……」

 

一十百が探している人里は、前に上海と一緒に買い物に来た人里だ。

あの時は歩いて森を抜け、その人里に着いた。

大きさ的にはかなり大きめの人里だったはずだ。

いくら鳥目になったとはいえ、空から見下ろしている一十百の目に人里が映らないはずはない。

一十百が空中を蹴り、さらに高く飛び上がる。

欠けた満月とはいえ、十分明るい月夜だ。

これならば、暗くて見落とすこともない。

一十百がゆっくりと辺りを見回す。

しかし、人里の影はどこにもない。

 

「あれ? おかしいですね」

「もしも、人里が妖怪に襲われて壊滅したとしたら、その残骸くらいは残るもんさ。それすらないという事は……」

「人里を隠すような能力を持っている人がいる、ってことですか?」

「そんなところだね。でも、どんな能力だって、完璧じゃあない。と、なれば、その人里だって、完全に消えたわけじゃない」

「なるほど。ちょっと、降りてみましょう!」

一十百がゆっくりと地面に降り立つ。

降りたときの風で、ふわりと着ている服が揺らめいた。

 

「このあたりまでは街道が続いてるんですけど……」

「そこで、急に途切れているね」

一十百が街道を歩いていく。

途中までは地面がむき出しになった土の街道が続いていたのだが、急にその街道が途切れ草原になっている。

丁度、その街道が途切れたところで一十百は立ち止まる。

そして、じっとその先を見つめた。

すると、今まで気が付かなかったが、うっすらと人里が見える。

蜃気楼のような、実態がないような、そんな雰囲気だ。

「……あれは?」

「お前たちか? こんな真夜中に里を襲おうとするやつは」

「ふえっ?」

 

一十百が振り返ると、そこには月夜に映える青銀色の髪の女性がこちらを見ていた。

女性も振り返った一十百を見て驚いたようだ。

「妖怪かと思ったのだが、人間か。すまない」

「いえいえ。えと、もしかして、そこの人里って……貴女が?」

消えかけた人里を指差し、一十百がそう言った。

その一言を聞いて、目の前の女性の気配が一瞬鋭くなる。

「人間……なのか、妖怪なのか……。どちらにしても、何者だ?」

「ふえっ? 僕は一十百です。種族は人間です。満月がおかしくなったので、それを解決するためにこっちの方まで来ました」

「満月……か。夜が明けないことよりも、満月の事の方が気になる人間も珍しいな」

「そ、そうでしょうか?」

一十百はコテンと首を横に倒した。

 

青銀髪の女性も、一十百が人里に害を与えるような存在じゃないのがわかったのか、ふっと一度息を吐いた。

鋭い気配は静かに消えていったようだ。

「疑ってすまなかった。私は上白沢慧音という。ここの人里……いや、ここにあるべき人里で寺子屋の教師をしている者だ」

「ここにあるべき人里?」

「ああ。まあ、君には見えているようだけれど、ある方法で人里を隠している。だから、ここにあるべき人里というわけだ」

何やら不思議なものの言いようだが、なんとなく一十百にはその内容がわかったようだ。

 

「それで、満月の事だが……」

「何か心当たりがあるんですか?」

「ああ」

上白沢慧音がすっと指をさす。

「この方向に進んでいくと、大きな竹林がある。そこに、今回の異変の首謀者がいるはずだ」

「ふぇっ! わかりました」

一十百が一度頭を下げる。

そして、走り出そうとする。

 

「あ、ちょっと、待ってほしい」

「ほぇ? なんでしょうか?」

「異変解決は博麗の巫女が行うものだ。それを、君がやる理由を教えてほしい」

「えと、異変解決を霊夢さんばかりに任せるわけにはいきません。それと、お暇そうなので一緒に異変解決をすることになりました」

「一緒に?」

上白沢慧音が辺りを見回す。

しかし、目の前の一十百と名乗った少年以外に人影は見えない。

「あっ、この杖に宿っている、魅魔さん……えと、悪霊さんと一緒です」

「悪霊? 悪霊が異変解決をするのか?」

「な~に、単なる暇つぶしさ。本当なら、霊夢が異変解決を渋ってたら喝を入れてあげようと思ったんだけどね」

杖が紫色に淡く光り、一十百の隣に魅魔が現れる。

 

上白沢慧音はいきなり現れた魅魔の姿に驚くが、すぐに落ち着きを取り戻したようだった。

「……どうやら、私が思っていた悪霊とは、まったく別の存在のようだな」

「この異変に乗じて、何かをするってわけじゃないさ。単なる暇つぶし、と」

「と?」

「ちょっとした、ヤボ用がある」

上白沢慧音はじっと、魅魔を見つめる。

偽りを述べてないのか、調べているような静かで鋭い瞳だ。

「どうやら、嘘と言うわけではなさそうだ」

「ここで嘘をついても意味がないからね」

「そうか。いや、引き留めて悪かった」

「いえいえ」

一十百はタンと軽く地面を蹴り、浮かび上がる。

そして、そのまま慧音が指差した方向に飛んで行った。

 

一十百が飛び去った後、上白沢慧音はじっとさっきの少年が飛び去った方向を見る。

そうして、一つ言い忘れていたことを思い出した。

「そういえば、竹林のことを言うのを忘れていた。迷いの竹林と言われている程、迷いやすいのだが……、まあ彼なら大丈夫だろう」

 

 

そのころ……。

「こっちです!」

「いや、ここはさっき通った気がするよ」

一十百と魅魔は絶賛迷子であった。

一十百は絶対の方向感覚を持つわけではない。

故に、時に真っ直ぐ、時に曲がりながら、竹林を進んでいく。

 

そして……。

「……迷いましたね」

「いや、もっと早く気が付くべきだよ」

魅魔がやれやれと眉間に指を当てた。

「こうなったら……」

「こうなったら?」

スタンと一十百が地面に降り立った。

そして、準備運動をするように屈伸をする。

ゆっくりと、伸びをしてふぅと息を吐いた。

 

杖の中の魅魔は、何か嫌な予感を感じ取る。

「あ~、十百。何をする気だい?」

「走ります!」

「いや、それじゃ何の解決にもなってないと思うよ」

「いえいえ、久しぶりに、ちょっと急ぎます」

「………」

今までのアレは急いでなかったのかい!?

いや、それで、あれだけ速いって……。

本当に人間かい?

 

「それじゃ、行きますよっ!」

ダンと一十百が最初の一歩を踏み出す。

その瞬間、世界が後ろ向きに進みだす。

全ての景色が、後ろに流れていく。

その光景を見て、魅魔は唖然としてしまった。

「こ、これは、すごいね」

 

 

迷いの竹林を桁違いの速さで一十百が駆け抜ける。

なにやら、落とし穴のような罠がいろいろ仕掛けてあったようだが、それを見事に全部踏み抜いて一十百は走り続ける。

それでも、目的地にはつかない。

 

しかし、走っているときに、何かを跳ね飛ばしたような気がして、一十百が急ブレーキをかけた。

まるで、車か何かが急に止まったような音がする。

止まった一十百の靴からは白い煙が出ている。

「今、何か、ぶつかったような……」

「そうだったかい? まあ、この速さじゃ私には全く見えないんだけどね」

一十百はゆっくりと来た道を戻る。

 

すると……。

「う~ん……」

桃色の服を着た、ウサギの耳をした黒髪の少女が倒れていた。

どうやら、一十百が走っているときにぶつかってしまったようだ。

しかし、速度が速度。

本来なら、大けがでは済まないが……。

 

「あれ? 気を失ってるだけで、外傷がほとんどないみたいですね」

「当たり所がよかったんじゃないのかい?」

「運がよかったみたいですね」

そう言って一十百はそのウサギの耳を背負う。

「うん? 拾っていくのかい?」

「ちゃんと謝らないといけないですし、さすがにこのままと言うわけにはいきませんよ」

「お前さんらしい理由だね」

「それに、ウサギって幸運の象徴なんですよ?」

「それはウサギの足だろう?」

「それなら二本もありますから、二倍の幸運ですね」

「いや、そうじゃないと思うが……。まあ、お前さんがそれでいいならいいか」

 

 

ウサギ耳の少女を背負っているため、一十百はゆっくりと歩いていくことにしたようだ。

ゆっくり歩いていると、竹林のいたるところに穴が開いている。

「あ、そう言えば、走っている時に、変な感じの地面を何回も踏んだ気がしたけど、これだったみたいですね」

「落とし穴かい? 随分と滑稽な罠だね」

「でも、これだけの量を仕掛けてるとなると、一つくらい落ちてあげたほうがよかったですね」

「いや、わざわざ落ちることもないだろう?」

 

そんなことを話しながら歩いていると、道がだんだんと開けていき……。

「あれ? こんな建物ありましたっけ?」

そこには大きな和風の屋敷が静かに佇んでいた。

「どうやら、ここがそうみたいだね」

「このお屋敷……、止まってる」

「止まってるって、どういう事だい?」

一十百がじっと目の前の屋敷を見る。

普通の人が見れば、ただの大きな屋敷に見えただろう。

しかし、一十百には、その屋敷を覆う異変のような状態が見えた。

 

「えと、建物って、何年もたつと老朽化して、柱とか壁とかが脆くなったりするじゃないですか」

「そりゃ、そうだね」

「でも、この建物にはそれがないんです」

「建てたばかり、という事じゃないのかい?」

「いえ、それでも少しは変化があるはずです。それなのに、この建物には、そう言う、その時間の流れ……みたいなものが見られないんです」

「ほぅ……、なるほど。そうなると、今回の異変の首謀者は、意外と大物かもしれないね」

 

そんなことを話していると、後ろの方から足音が近づいてきた。

一十百が振り返ると、そこには、赤い瞳をしたウサギ耳の少女が立っていた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

十五枚目のスペルカード:ミスティアからもらったスペルカードの素が青く光っていたので、もうできていると思います。次には使えるかなぁ……。by一十百

上白沢慧音:青銀髪の背の高い女性です。前に上海と行った人里で寺子屋の教師をしているらしいです。人里を隠す能力みたいのを持っているみたいで、今回の異変の間、人里を隠してくれています。それとなんだか、不思議な感じがしました。なんだろう?by一十百  暇があった時、寺子屋に来てみてはどうだ?by慧音

迷いの竹林:普通の竹林と違って、迷子になります。落とし穴もたくさんありましたし……。不思議な場所です。by一十百

ウサギ耳の少女:急いでいてぶつかっちゃったみたいです。大きなけがはないみたいで一安心です。by一十百
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