東方お仕事記   作:TomomonD

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五十三仕事目 赤く脅威になる狂気

一十百の後ろから現れたウサギ耳の少女は真紅の瞳で一十百をじっと睨んでいた。

大きめのウサギ耳にブレザーと一風変わった雰囲気だ。

 

「ほぇ? 貴女が今回の異変の首謀者さん?」

「いえ、そうじゃないけれど……。って、あなたが背負ってるのって、てゐ!」

「てうぃ?」

「てゐ」

「て、てうぃ……。む~、上手く発音できない。てい、てぅぃ、てうい……」

一十百は、頑張って“ゐ”の発音をしようとするが、上手くいかないようだ。

「とにかく、てゐをこっちに渡してもらえるかしら?」

「はい。よいしょっと」

ゆっくりと一十百がてゐと呼ばれた少女を下ろす。

そして、目の前のウサギ耳の少女に渡した。

 

 

「それで、異変の首謀者って言い方。さっき来た人間と妖怪と同じ言い方ね」

「ほぇっ! えと、さっき来たって、赤と白の服の巫女の方でした?」

「はぁ~、それも通ったわ」

「それも? ほかに誰か来たんですか?」

今回の異変は博麗霊夢と八雲紫が解決に向かっていると、一十百は思っていた。

しかし、どうやら他にもこの異変を解決しようと動いている人がいたようだ。

「初めに来たのは、紅白の巫女と怪しげな妖怪。次に来たのは白黒の魔法使いと人形使いの妖怪だった」

「あれ、それって……、魔理沙さんとアリスさん、かなぁ」

確かに、霧雨魔理沙は博麗霊夢と共に異変解決に向かう事があった。

今回も何か面白いものが見つかるかと異変解決に乗り出したのだろう。

 

そんなことを考えていると、独り言のように魅魔がそっと呟いた。

「へぇ、あの魔理沙がねぇ……」

「ほぉぇ? 魅魔さんって、魔理沙さんとも知り合いだったんですか?」

「うん? まあねぇ……」

何やら、含み笑い浮かべているような感じで魅魔がそう答えた。

 

「それで、その方々は?」

「……力ずくで通ってった」

はぁ、とため息を吐きながら、ウサギ耳の少女が目の前の建物を指さした。

よく見れば、ウサギ耳の少女の服がところどころ破れたり、焦げていたりしている。

どうやら博麗霊夢も霧雨魔理沙も、弾幕勝負をして、力ずくで通っていったようだ。

「あ、えと、僕も通りたいんですけど……」

「通すと思う?」

「ふぇぇ……。やっぱり“力ずく”じゃないと、だめですか?」

「これ以上、人間や妖怪を通したら、本格的に師匠におこられますから」

 

 

てゐと呼ばれた少女を竹林の陰に寝かせ、一十百に向かい合った。

真紅の瞳が煌めく。

その瞳を見ていると、一十百の視界が揺らつき始めた。

「あ、あれ? ゆらゆら、揺れてる?」

「どうしたんだい?」

「う~ん、なんだか、目の前が揺れてるみたいで……」

「……ああ、なるほど。あの瞳が原因みたいだね」

目の前のウサギ耳の少女がニヤリと笑みを浮かべる。

「この真紅の瞳は人間を狂気に落とす。右も左も、上も下も、あなたには方向が狂って見える。この状況で、私に勝てる?」

「ふぇ~、目が回る~」

ふらふらと一十百が右へ左へとよろける。

そして、ついには倒れてしまった。

 

「あうぅ……」

「え……、そ、そんなに強く作用するとは思ってなかったけど……。まあ、これで一応足止めはでき……」

その時になって、ウサギ耳の少女は一十百の身体が淡く赤く輝いてることに気が付く。

今さっきまでは、何ともなかったはずだが……。

 

「小娘が……、面白いことをしてくれたな」

 

「はい? 今のって……」

ゆらりと一十百が立ち上がった。

そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「キサマ、波長でも変える力を持っているのか?」

「えっ、ちょっと……」

目の前の少年とは、今初めて会ったばかりで詳しくはわからないが、明らかにさっきと雰囲気が違う。

ほわほわしたような感じから一転、自信と妖しさが漂う雰囲気になった。

こ、これは一体……。

 

この変貌にウサギ耳の少女もかなり驚いたが、魅魔はそれ以上に驚いた。

「え~と、十百……? どうしたんだい?」

「さてと、確か力ずくだったな。せめて、一枚くらいは耐えて見せろ」

完全に魅魔の言葉を無視して、一十百は三日月の杖を片手で回転させ、右手に構えなおす。

赤くゆらめく光が三日月の中央に灯った。

そこから、次々と赤いナイフ状の弾幕が放たれる。

「いきなりっ!」

ウサギ耳の少女は地面を蹴り、ふわりと浮きあがる。

弾幕勝負に慣れているのか、不意の弾幕に対してもしっかりと対応することができたようだ。

 

「せめて、名前くらい名のってから、弾幕勝負を始めてほしいものね」

「ウサギは狩られるのが仕事だろう? 狩人が獲物に名を名乗るのか?」

「いつまでそんなことを言ってられるかしら?」

ウサギ耳の少女が片手を銃のように構える。

そこから銃弾状の弾幕が次々と放たれた。

 

「小賢しい」

フンとつまらなそうに一度息を吐き、一十百が弾幕を放つのを一度止める。

右手を大きく引き、三日月の杖に左手を添える。

すると、今まで以上に強い赤い光が三日月の中心に灯る。

「さて、避けて見せろ、小娘」

ニヤリと笑みを浮かべ、三日月の杖を大きく薙ぎ払った。

今までのナイフの弾幕とは違い、赤い剣閃のような弾幕が扇状に広がっていく。

ウサギ耳の少女が放った銃弾状の弾幕は、赤い剣閃状の弾幕に飲み込まれるとそのまま消えていった。

赤い剣閃状の弾幕の勢いは全く落ちず、そのままウサギ耳の少女に向かっていった。

 

「えええっ! ちょっと、待ってっ!」

屈んだウサギ耳の少女のわずか上を赤い剣閃状の弾幕が通り過ぎていった。

「ほぅ、よくかわしたな。褒めてやる」

「何様のつもりよっ!」

ウサギ耳の少女がスペルカードを構える。

コイツ、ただの自信過剰な奴じゃない。

本当に……強い!

 

「幻波『赤眼催眠(マインドブローイング)』」

スペルカードが輝き、銃弾状の弾幕が円になって放たれる。

「この程度か、くだらん」

銃弾状の弾幕の飛ぶ位置を先読みし、一十百がつまらなそうに移動する。

「甘いっ!」

ウサギ耳の少女の目が赤く輝く。

すると、一瞬銃弾状の弾幕が揺らぎ、そして二つに分かれた。

単純に弾幕の量が倍になり、いきなり避けにくくなる。

 

「これでも、くだらないのかしら?」

「子供騙しで、いきがるなよ小娘」

一十百が一枚のスペルカードを構える。

構えたスペルカードは、レミリアからもらった物だ。

赤い光がスペルカードから放たれる。

「神葬『ラグスニール』」

一十百の左手に巨大な赤い槍状の弾幕が握られる。

大きさにして優に八メートルは超えるだろう。

 

「消し飛ぶがいい!」

ダンと一十百が強く地面を踏みしめ、巨大な槍状の弾幕を投擲する。

ゴゥウと凄まじい音を残し、巨大な槍状の弾幕は一直線にウサギ耳の少女に向かっていった。

途中にある全ての弾幕は一瞬で蒸発したように消え、弾幕勝負の中一直線に道ができたようだった。

 

「えっ、きゃぁあ!」

空中を蹴りウサギ耳の少女は急いで地面に降り立った。

今さっきまで自分のいたところを巨大な槍状の弾幕が通り抜けていった。

放っていた弾幕も消し飛び、一十百の表情がよく見えた。

「子供騙しだっただろう?」

「……っ」

くいっと一十百が指を曲げる。

余裕と言わんばかりの表情だ。

 

「さあ、いつまで避けきれるかな?」

一十百の手に次の槍状の弾幕が握られる。

「い、今ので終わりじゃないの!」

「誰がそんなこと言ったんだ?」

ニヤリと笑い一十百が次々と巨大な槍状の弾幕を投擲する。

弾幕が放たれる間隔はそれほど短くないものの、飛ぶ速度と巨大さが他の弾幕とは比べ物にならない。

常に動き回っていないと簡単に射止められてしまう。

 

数十発の投擲を回避したころには、ウサギ耳の少女の息は上がり目に見えて疲労していた。

「ほぅ、一枚耐えたか」

「はぁ、はぁ……。や、やっと終わった」

カクンとウサギ耳の少女が地面に片膝をついた。

被弾していないとはいえ、既に満身創痍。

これ以上の勝負は無駄だと、誰が見てもそう思えた。

 

一十百がゆっくりとウサギ耳の少女に近づく。

そして、首の真下に三日月の杖を突きつけた。

「諦めろ、小娘。キサマと私では格が違いすぎる」

「くっ……」

震える手で一十百を狙い打とうと構える。

一十百は避けようともせず、それを見下ろす。

そのまま、少し長い沈黙が流れた。

 

そして、諦めたかのようにウサギ耳の少女がうなだれた。

「おいおい、十百。本当にどうしたんだい?」

これはいろいろと本格的にマズイと思った魅魔が声をかける。

「慌てるな悪霊。大方、この小娘が波長を弄ったがためにこうなったにすぎん」

「悪霊って……、いや確かに悪霊だけどさ。まあつまり、波長を元に戻せば、お前さんも元に戻るのかい?」

「それは知らん」

あっさりと一十百は、そう答えた。

こりゃ、本格的に元に戻らなかった時のことを考えておかないとまずそうだね……。

 

「それで、小娘。元に戻すつもりがあるのか、それともないのか、答えてもらおうか」

ウサギの耳の少女が一十百をじっと見る。

その瞳には自分よりもずっと赤い光が宿っていた。

「……わかったわ」

ウサギ耳の少女の瞳が赤く輝く。

すると、一十百が纏っていた赤い光は消え、一十百の瞳からもその光は消えていった。

 

「………ふぇ? あれ?」

パチパチと瞬きをして、一十百が周りを見る。

「十百、その、無事かい?」

「は、はい。何ともないですけど……」

その時になって、自分の持っている杖が目の前のウサギ耳の少女に突き付けられていることに驚く。

急いで杖を引く。

「あの、大丈夫ですか? よく覚えてないんですけど、ケガとかはしてないですか?」

「……元に戻った。よかった~」

安心したようにウサギ耳の少女がため息を吐いた。

どうやら、元に戻すのが上手くいったかどうか心配だったようだ。

「えと、何があったんですか?」

「いや、思い出さないほうがいいよ。お前さんのためだ」

「私もそう思うわ」

「ふぇっ!? そ、そうなんですか。えと、それじゃ、気にしないことにします」

 

 

一度伸びをして一十百は目の前の屋敷に向かっていく。

「一つ言っておくわ」

「なんでしょうか?」

一十百が振り返る。

ウサギ耳の少女が土ぼこりを払いながら、すっと立ち上がった。

「私なんか、師匠の足元にも及ばないわ。それほど、師匠は強いわ。覚悟しておくことね」

「そうなんですか……。先に行った霊夢さんや、魔理沙さんが心配です」

「それと……」

コホンと一度咳払いをして、ウサギ耳の少女が、すっと姿勢を正した。

「私は鈴仙・優曇華院・イナバよ。さすがに小娘呼ばわりのままは流石に困るから名乗らせてもらうわね」

「こ、小娘? えと、僕は一十百です。それと、この杖に宿っている、悪霊さんは魅魔さんです」

「まあ、会う機会は少ないかもしれないけどね」

ゆらりと魅魔が姿を現す。

 

「それじゃ、お二人が心配なので行きますね」

タンと地面を蹴って一十百は屋敷の中に入っていった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

鈴仙・優曇華院・イナバ:薄紫色の髪と大きなウサギ耳、ブレザー姿が特徴的な方です。赤い瞳の状態だと、波長を操って、狂気を引き起こしたりできるそうです。弾幕勝負は上手い方……らしいです。僕も弾幕勝負をしたはずなんですけど、記憶がないんですよね。なんででしょうか?by一十百  元に戻って本当によかったと思うわ。by鈴仙

赤い光の一十百:あのウサギ娘が波長を変えたために変になった状態の一十百だね。人を小馬鹿にしているような態度や話し方が違っていて、全くの別人に見えたよ。でも、弾幕勝負は圧勝の一言だったよ。まったく、色々な意味で恐ろしい少年だよ。by魅魔  小娘ごときに、無駄な時間を割いたな。by一十百(赤)  ひっ! まだ治ってない!?by鈴仙

神葬『ラグスニール』:吸血鬼の小娘からもらったスペカの素で作ったスペルカードだ。巨大な槍が相手の弾幕もろとも、相手を貫くスペカだ。速度と威力は十分だが、投擲後に少し間があいてしまうのが難点だ。まあ、小手調べ程度のスペカだと思えばいい。by一十百(赤)  小手調べ!?by鈴仙  ありゃ、十百の持ってるスペカの中でもかなりの上位のものだと思うんだけどねぇ……。by魅魔
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