東方お仕事記   作:TomomonD

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五十四仕事目 魔法使いたちの星々

屋敷の中に入ると、長い廊下が続いていた。

一十百はそこを駆け抜けていく。

 

「それにしても……、長すぎませんか?」

「確かに長すぎるね。これは、空間的におかしい」

「えと、つまり……、この先に今回の異変の首謀者が?」

「その可能性は高いとおもうよ」

 

そんなことを話していると、一瞬、とても強い気配を一十百が感じ取る。

キュッと靴をならし、一度とまる。

「どうしたんだい?」

「今……、そっちの襖の先から、何か……」

そっと一十百がその襖に触れる。

襖は何か強力な力で閉じられているようだ。

「……う~ん」

「怪しいなら、ちょっと吹き飛ばしてみたらどうだい?」

一十百は少し考え、手を襖に当てたまま目を閉じた。

なんとなく、向こう側が見えるのではないかと、試してみたくなったのである。

 

しばらく手を当てていたが、やはり向こう側が見えるという事はなかった。

「えと、やっぱり、この廊下を行きましょう」

「まあ、そのほうがいいかもしれないね」

一十百が襖から手を離し、先へ向かおうと背を向ける。

その時、一瞬だけ博麗霊夢の姿が見えた気がして、振り返る。

襖は閉まったままだ。

「どうしたんだい?」

「いえいえ、何でもないです」

なんとなく安心して、一十百は走り出した。

霊夢さんと、紫さんが一緒なんですから……。

安心して任せられますね。

 

 

一十百は長い廊下を駆け抜けていく。

走っていると、魅魔が何かに気が付いたように、姿を現す。

「この感じは……」

「どうしました?」

「いや、こっちに来て正解だったみたいだね」

「ほぇ?」

魅魔が少し不敵に微笑む。

何かを期待しているような、そんな表情にも見えた。

 

一十百がそのまま走り続けると、不思議な空間にたどり着いた。

周りには星空のようなものが広がり、壁がない。

どこか別の空間にでも迷い込んでしまったかのような、そんな感じだ。

「……あれ? 僕って、さっきまでお屋敷の中を走っていたはずなんですけど」

一十百が空を見上げると、いつにもまして巨大な月が遠くに見えた。

「ふぇぇっ! い、いつの間に月の近くまで走っちゃったんでしょうか?」

「うん? あれは……、どうやら偽物みたいだね。幻影とでもいうんだろうね」

「偽物? それって……」

 

一十百が何かを尋ねようとした時、巨大な光の砲撃のような弾幕が少し遠くに見えた。

あれはっ!

「どうやら、思っていた通りだったみたいだね」

魅魔がゆらりと一十百の横に姿を現した。

「行きましょう!」

 

 

箒に乗った霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドが赤色と青色の洋服に身を包んだ何者かと弾幕勝負をしている。

霧雨魔理沙のマスタースパークが相手をとらえたと思われた瞬間、その光の弾幕砲を切り裂いて、一本の矢が飛んできた。

「うわっ!」

急いで避けたのだが、左腕を掠めてしまった。

そのせいで、バランスを崩し、霧雨魔理沙は箒から落ちてしまう。

「魔理沙っ!」

急いでアリスが手を伸ばすが、あと少しの所で手を握ることができなかった。

急速に地面が近づく。

今から、箒をこちら側に飛ばしても、間に合わない。

諦めたように目を閉じる。

 

「諦めるには、まだ早いんじゃあないかい?」

とても懐かしい声が聞こえた気がした。

その声に驚いて、目を開けると、夜空を映したようなローブと、流れるような緑色の髪が目に入った。

「えっ……」

「まったく、箒から落ちるなんて、まだまだ魔法使いとして一人前とは言えないんじゃないかい?」

ゆっくりと、地面に降りる。

そして、自分を助けてくれた、その人を見る。

 

「魅魔…さま? どうして?」

「な~に、たまには異変解決に首を突っ込もうと思ってね」

常に崩れない余裕の表情、あふれ出るカリスマ、そして……自分を支え続けてくれた師。

ほろりと一筋の涙が魔理沙の頬を伝った。

 

 

「魅魔さ~ん、大丈夫ですか?」

少しして一十百が駆け付けた。

「ああ、大丈夫だよ」

「一十? もしかして……」

「そうさ。彼と一緒にここまで来たんだ」

一十百が魅魔と魔理沙に駆け寄る。

「魔理沙さんも、御無事で何よりです!」

「魅魔様のおかげ……、ってなんでその服装!?」

魔理沙は一十百が魅魔と同じ服装なのに驚く。

「今回は魅魔さんのおかげで異変解決に行くことができましたから。せっかくという事で」

「……うらやましいぜ」

「えっ?」

「い、いや、な、何でもないぜ!」

慌てて魔理沙が手をぶんぶんと横に振った。

 

「魔理沙っ、無事……って、うわ……」

空から降りてきたアリスは心配そうに魔理沙に駆け寄ろうとしたのだが、魅魔の姿を見て足が止まった。

「うん? おや、いつぞやのメイドじゃないかい? 今度は私の弟子に仕えてくれたのかい、感心だね」

「だ、誰がメイドよ!」

アリスは明らかに嫌そうに魅魔を避けて魔理沙のもとに向かう。

 

「大丈夫?」

「ああ、何ともないぜ」

「……左手」

「い、いや、ほら、何とも……」

魔理沙が隠すように左手を自分の後ろの方に持っていく。

その手をがしっとアリスが掴んだ。

「……深くはないけど、しっかりと切ってるじゃない」

「このくらい、かすり傷だぜ」

傷自体は深くないようだが、腕に沿って長い切り傷になってしまっている。

「はいはい、わかったわよ。動かないで」

そう言って、アリスがガーゼと包帯を取り出す。

「そんなの持ってきてたのか……」

「誰かさんは無鉄砲に敵に突っ込む癖があるからね」

「ぐぬぬ……」

 

魔理沙とアリスがそんなやり取りをしているのを見て、魅魔はニヤッと笑みを浮かべる。

「いいコンビじゃないか」

「「別にそんなんじゃ……」」

「うわぁ、息ぴったり。ベストパートナーですね」

一十百も微笑んでそう言う。

「「だからそんなんじゃ……」」

そこまで言って魔理沙とアリスが顔を見合わせた。

そして、気まずそうに顔をそむける。

 

「とにかく、交代だね、魔理沙」

「あとはお任せください」

一十百が三日月の杖を構える。

魅魔の姿が消え、杖に淡い光が灯る。

「悔しいけど、一十に任せるぜ。あの、赤青服……結構やるみたいだぜ」

「二人がかりでも、勝ちきれなかったからね……。用心して」

「はい!」

そう言って一十百は地面を蹴った。

 

 

「まったく、ウドンゲは……、人を入れるなって言ったのに」

赤色と青色の服の女性が面倒臭そうにふっと息を吐いた。

「悪いけど、私は悪霊だからね。人じゃないさ」

「僕は人間ですよ」

「「………」」

魅魔と目の前の赤色と青色の洋服の女性がジト目で一十百を見た。

「あ、あれ? 魅魔さんだけじゃなくて、初めて会ったはずの人にも黙られてしまいました」

「いや、別に他意があるわけじゃないんだけど……。なんとなく、人間にはできないことをするような存在に見えたから」

「いい勘しているじゃないか。まったくもって、その通りだよ」

「ううぅ、ぐすん……」

そこまで話すと、コホンと赤色と青色の服の女性が咳ばらいをした。

 

「あなた達も月を取り返しに来たようね」

「はい。満月は妖怪にとって大切なものだと聞いたので、元に戻してください」

「夜が明ければ元に戻すわ」

「あれ? そうなんですか? なら……」

「生憎、そんなには待てないね」

魅魔が遮るようにそう言った。

「月の出ている間に返してもらうからこそ、意味があるんじゃないか」

「ふぇっ! そ、そうだったんですか……」

「なにより、そっちの方が面白そうじゃないか」

「……魅魔さん」

はぁ、と一十百が珍しくため息を吐いた。

 

ため息……、何か、前にこんなことがあった気がするんだが……。

魅魔が少し前の事を思い出す。

そして、亡霊の娘と弾幕勝負をする前の事を思い出した。

あっ……、あの時と同じような展開だね。

と、いう事は……、ちょっとマズい。

急いで魅魔が取り繕うように話す。

「い、いや、ほら、私は……と言うより妖怪は満月の夜を取り戻したいんだ。つまり、朝になって取り戻しても意味がないと言うわけさ」

「あ、なるほど」

納得したように、一十百がポンと手を打った。

ほっと安心したように魅魔が息を吐いた。

 

「えと、じゃ、そういう事らしいので、すぐに返してください」

「朝になれば返すって言っているのに。これだから地上の者達は愚か者なのよ」

「でも、そう言って力ずくで追い返すんですよね?」

「話しても無駄だもの」

「追い返すときには叩きのめしているんですか?」

「場合にもよるわね」

「グシャ(愚者)って叩きのめすんですね」

「「………」」

 

月の見える不思議な空間に、とても冷たい風が吹き抜けたような気がした。

「私は悪霊だから、風邪をひかないはずなんだけど……。寒気がする」

「私も薬師として、そういうのには強いはずなんだけど……。寒いわね」

「誰かがつまらないことでも言ったんじゃないでしょうか?」

((……ここでつっこんだら、負けな気がする))

魅魔と赤色と青色の服の女性は同時にそう思った。

そして疲れたようにため息を吐くのだった。

「あれ? お二人とも、どうしました?」

「「気にしなくていい」」

「そ、そうですか……」

なんだろうな~、と一十百は首をかしげた。

 

 

「アリス。なんだか、寒いんだが。あれか、貧血ってやつか?」

「私も寒いから、それとは別の物ね」

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

強い気配を感じた襖:あの奥にはなにがあったんでしょうか。一瞬、霊夢さんの気配を感じ取ったんですけど……。by一十百

異変解決・魔法使いチーム:魔理沙さんとアリスさんが一緒に異変解決をしていました。二人ともとても息が合うようで、ベストパートナーだと思います。弾幕勝負にしても、破壊力抜群の魔理沙さんと、戦略家のアリスさんとでバッチリです。今回は弾幕勝負を見ることができなかったけれど、いつか見てみたいです!by一十百  いや、それほどのパートナーってわけじゃないぜ。by魔理沙  今回は仕方なくよ、仕方なく。byアリス

赤色と青色の服の女性:今回の異変の首謀者さんかもしれません。弾幕勝負はとても上手いらしく、魔理沙さんとアリスさんの二人で相手をしても分が悪かったそうです。大丈夫でしょうか……。by一十百
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