東方お仕事記   作:TomomonD

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六十仕事目 偶然を畏れに変えて

一十百、博麗霊夢、八雲紫は、妖怪『いちたりない』と呼ばれた少女にいろいろ尋ねている。

立ち話もどうかという事で、お茶を飲みながら話すことにした。

 

「それで、どうして幻想郷に来たのよ?」

確実に厄介事が増えるとわかっているので、博麗霊夢が面倒そうに尋ねる。

「畏れを集めるためよ」

「畏れ? 何よそれ?」

「いわゆる……信仰心の逆といったところ。神社でも祟り神みたいなものを祀ったりするでしょ? それと同じよ」

そう言われても霊夢は上手く理解することができないようだ。

それを見た一十百がちょっと考えて話し始めた。

 

「えと、ですね……。どちらかというと、悪いことが起きないように、ではなく……、悪いことを起こさないでほしい、と祈るようなものを畏れと言うんです」

「それって随分、身勝手じゃない?」

「まあ、それはそうですけど……。祟り神や彼女のような妖怪は、人が作り出してしまった畏怖の象徴ですから。それくらいの事くらいは目をつぶってあげないと」

「結局の所、厄介な存在なのはわかったわ」

霊夢がお茶を飲みながら一言そう言った。

「なんか、適当にまとめられた気がするわ」

白色の少女は不服そうな表情を浮かべた。

 

「それと、妖怪『いちたりない』は種族名よ! 私にはちゃんと名前があるわ!」

「一田 莉菜衣(いちた りない)とかかしら?」

「何よそれ!!」

白色の少女がバンと机をたたく。

そして……、叩いた手をぎゅっと握った。

「……ぃたい」

「……学習しないわね」

「畏れさえ溜まっていれば、机の一つや二つ……」

「いや、そうじゃないでしょ」

「足りなくさせることができるのに……」

「いや、そうでもないような気がするけど……」

 

 

「それで、結局、何て名前なのよ?」

「コホン。私の名前は、一璃菜(いちりな)」

「……さっきのとほとんど変わらないじゃない」

「なっ! なにをっ!」

「まあまあ……」

一十百が二人をなだめる。

 

「それで、一璃菜……でいいのかな? これからどうするの?」

「どうするって、畏れを集めるのよ」

「何か方法でもあるの?」

「えっ? ……あ、あるわ」

一璃菜は一十百から目線を逸らす。

「……外の世界とは勝手が違うから、思った以上に集まらないと思うよ?」

「うっ……。だ、大丈夫よ」

「本当に?」

じっと一十百が一璃菜の顔を覗き込む。

一璃菜は一十百の事をキッと睨み付けていたのだが、自分ではどうすることもできないとわかったのか、顔を伏せて小さく一言。

「……て、手伝って」

「はい。任せてください!」

一十百はにっこりと微笑み一度頷いた。

 

「一十百。任せてって言うけど、何か策でもあるの?」

「はい。“妖怪『いちたりない』という存在が幻想郷にいる”と言う噂が飛び回れば、今まで偶然だと思っていたことが、妖怪『いちたりない』の仕業だと畏れられ、外の世界のように多くの畏れを集めることができるようになると思います」

「確かにそうかもしれないけど……、どうやってそんな噂を広めるの?」

「そうですね……。二つほど手があります」

 

一十百が人差し指を立てる。

「まず一つ目。噂と言えば、情報と言えば……」

「文ね」

「はい!」

「つまり、文がそう言う存在がいるという事を新聞に載せて広める、というわけね」

一十百が言うように、確かに効果的だろう。

『文々。新聞』自体の有名度はそれなりだが、スクープを求め幻想郷を駆け回る鴉天狗、射命丸文の事は人里でもかなり有名だ。

その射命丸文が“妖怪『いちたりない』”の単語をどこかで話したなら、そこから一気に話は膨れ上がり、いつしか大きな噂になるだろう。

 

「確かに有効そうね。それで、もう一つは?」

「もう一つは、幻想郷に存在する種族の中で、最も多い種族に妖怪『いちたりない』の事を教えるんです」

「最も多い種族? ……妖精ね」

一十百が頷く。

「幻想郷には多くの妖精がいます。その妖精たちが妖怪『いちたりない』の事を話し始めたら、幻想郷中に瞬く間に広がると思います」

「なるほど……」

 

「それで、私はどうしたらいいの?」

一璃菜がちょっと心配そうな表情をして尋ねる。

「あなたの能力を色々な場所で使ってれば、そのうち畏れられるんじゃない?」

「なっ! 他人事だと思って、随分と適当言ってくれるじゃない!」

「正直どうでもいいし」

お茶を飲みながら霊夢が茶菓子をつまむ。

「ううぅ、覚えてなさい! 私に畏れが集まった時、妖怪『いちたりない』の恐怖を嫌ってほどわからせてあげるんだから!」

「はいはい、それは怖そうね~」

霊夢がまったく相手にしないので、一璃菜が涙目になりつつある。

仕方ないので一十百は少しフォローに回ることにしたようだ。

 

「霊夢さん……。僕が言うのも、どうかと思うんですけど……、妖怪『いちたりない』は状況によって、人ひとりの人生を絶望の底に叩き落とすことができるほど、本当に強力で危険な妖怪なんですよ」

「そんな風には見えないけど……。そもそも、妖怪『いちたりない』ってどういう能力を持つ妖怪なの?」

一十百の言葉を聞いて、さすがに霊夢も少し真面目に聞く気になったようだ。

一璃菜も外の世界で自分の事を知っている人間が、どんなふうに妖怪『いちたりない』を見ているのかと、期待の眼差しを送る。

 

「簡単に言うと……、あと一歩の所で失敗させる程度の能力といったところでしょうか」

「そんなので、絶望の底に落とせるの?」

一十百が大きく頷く。

「賭け事なら、賽の出目がわずかに違うだけで、勝敗が決まることが多々あります。もし、その勝負に、自分の人生をかける程の物を賭けていたら……」

「それは、そんなに賭けるほうが駄目な奴なんじゃないの?」

「まあそれもそうですけど……。妖怪『いちたりない』は、ここぞという場面で力を発揮する存在です。畏れが集まって力が付いたら、幻想郷にも彼女を恐怖する時代が来るかもしれません」

「ふ~ん……。まあ、外の世界でそれだけ畏れられてるんなら、本当にそれくらいの力はあるのかもしれないわね」

「ふん、今さら畏れを抱いたって遅いわよ!」

腕組みをし、ちょっと得意げに一璃菜が胸を張った。

 

 

「で、この妖怪に対しての対処法はあるの?」

「あるわけないじゃな……」

「ありますよ」

「え゛!」

あっさりと一十百がそう言ったので、一璃菜が一十百の方に急に向きなおった。

その瞬間、何やら鈍い音が聞こえ、一璃菜が首を抑えてうずくまった。

「うぐぅ……」

「だ、大丈夫?」

「妖怪『学習しない』に転職したら?」

「うるさいわよ……。それよりも、私の対処法って何? 今まで、多くの人間を畏れさせた私の能力をかわす方法があるとは思えないんだけど?」

首を抑えながら、一璃菜が一十百を見る。

一十百は一度頷くと、ポケットから賽子を一つ取り出した。

 

「妖怪『いちたりない』の弱点は……、あくまでもギリギリ失敗を呼び込むと言うところです」

そう言って一十百は霊夢に賽子を渡す。

そして、にっこりほほ笑んだ。

「もし、霊夢さんが五以上の数を出せたら、久しぶりに本気を出してお茶菓子を作ってみようと思います」

「一十百の本気の茶菓子……」

ゴクリと霊夢が唾を飲み込む。

一十百が本気といったのだ、生半端なものが出てくるはずはない。

間違いなく、今までで最高の茶菓子が出てくるのだろう。

霊夢から目に見えるほどの霊力があふれ出す。

「ふ、ふふふ……。出るわ。確実に五以上の目が、間違いなく出るわ」

自分に言い聞かせるように、何度も口ずさむ。

そして賽子を握った手を振り上げた。

 

「たぁぁあ!!」

カランと音を立てて賽子が投げられる。

机の上を跳ねるように賽子が回る。

そして……静かに賽子は回転を止めた。

出た目は、賽子を覗き込む四人を表したような目……、四だった。

「あああっ……、い、いちたりない……。はっ! よ、妖怪『いちたりない』、おそるべし……」

霊夢が力なく崩れる。

しっかりと妖怪『いちたりない』の恐怖の爪痕を感じたようだ。

 

「ど、どう? 私の力、畏れ入ったかしら?」

「なんてことをするのよ……。うぅぅ……」

ほぼ一瞬で心が折れたのか、霊夢が力なくそう言った。

「えと、これが妖怪『いちたりない』の力です。大事な場面になればなるほど、その力が強く働きます」

「ふ~ん、これは確かに怖いわね」

横で事の成り行きを見守っていた紫が興味深そうに頷いた。

 

 

「それで、一十百君。どうすればこれを回避できるのかしら?」

「簡単です」

一十百は机の上の賽子を紫に手渡した。

「紫さん。一以上の目を出したら、鏡酒を一升瓶でプレゼントします」

「あら、いいの?」

「ちょっ……」

一璃菜がハッとした表情で一十百と八雲紫の方を見る。

八雲紫は軽く賽子を転がす。

出た目は三だった。

 

「確かに一以上の目が出ましたね。はい、どうぞ」

そう言って一十百がポケットから鏡酒を取り出し、八雲紫に渡した。

「ありがと、一十百君。これが、妖怪『いちたりない』に対する手段……確率百パーセントね」

「はい。いくら妖怪『いちたりない』がとてつもない力を秘めていても、これでは手出しができません。常識的に考えられる範囲で、確率百パーセントと作れれば、妖怪『いちたりない』に対抗できます」

「くぅぅ……。ズ、ズルいじゃない。そんなの、賽子を振る意味がないわよっ!」

悔しそうに両手を強く握って、一璃菜がそう言った。

一十百もそう言われるのがわかっていたのか、大きく一度頷いた。

 

「そう。確率百パーセント……、これは作り出すのも難しければ、作り出したらそれをやる必要すらない……。つまり、これ以外の方法じゃないと、妖怪『いちたりない』を完全に対処したとは言えません」

そう言って一十百が賽子を手に取った。

「じゃ、四以上の目なら僕の勝ちで」

「えっ? いきなり何?」

一璃菜が戸惑う中、一十百が賽子を振った。

カランと一度音を立てて、賽子が転がる。

出た目は五だった。

 

「はい。僕の勝ちだね」

「な、何に対する勝ちなのか、さっぱりわからないわよっ!」

そのやり取りを見て、八雲紫が何かに気が付いたのか、ポンと手を打った。

「なるほどね……。それが、本当の対処法……」

「ええ。これも、あまり有効とは言えませんけど……。現時点で一番の対処法だと、僕は思っています」

「え? え? な、何? せめて、私にもわかるように……」

心配になってきたのか、一璃菜が一十百と八雲紫を交互に見る。

一十百は賽子をポケットの中にしまう。

そして、ゆっくりとお茶を飲み干した。

 

「妖怪『いちたりない』は大事な場面でこそ大きな力をふるうけど、今みたいにどうでもいいような事にはそれほど強く関与できない」

「つまり、勝負に熱くなったりせず、大勝負になる前に決着をつければ問題ないわけね」

「た、ただの偶然でしょ? 今のだって、ただの偶然よ、偶然」

「その偶然があなたへの畏れの表れでもあるのよ? 妖怪『いちたりない』さん?」

「あぅぅ……」

一璃菜は言い返すことができず、霊夢の横に崩れ落ちた。

 

 

「まあ、でも……、妖怪『いちたりない』は“確率を楽しむための存在”とも言えるんですけどね」

お茶を注ぎながら、一十百は微笑みながら、そっとそう言うのだった。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

一璃菜:妖怪『いちたりない』の少女です。真っ白なゴシックドレスに赤い宝石と黒いボタン、白色の長い髪が特徴的ですね。『あと一歩の所で失敗させる程度の能力』と言うのが正しい能力みたいで、特に大勝負の時などはこの能力がかなり強くなります。どうやら、能力自体は常に発動しているようで、その強弱で影響が出るようです。by一十百  対策を取られたって、そう簡単に負けないから!by一璃菜
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