東方お仕事記   作:TomomonD

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六十一仕事目 満月の肝試し

段々と肌寒くなってきた頃、博麗神社に変わった客が訪れた。

前回の異変の首謀者の蓬莱山輝夜だ。

 

「わざわざ足を運んでくるなんて……。何かありました?」

一十百がお茶を出しながら尋ねる。

「いや、別に何かあったわけじゃないのよ。ただ、そこの巫女とか魔法使いとかが、暇そうにしてるみたいだから、声をかけに来たのよ」

輝夜は横目で霊夢と魔理沙を見た。

「何か、宴会みたいなものを開くんでしょうか?」

「違うわ。肝試しをしようと思ってね」

「肝試し、ですか?」

一十百が少し不思議に思って尋ねる。

 

肝試しと言えば、夏にやるものだ。

それをわざわざ秋にやると言うのだから、何かあるのだろう。

そもそも、亡霊や悪霊が普通に暮らしている幻想郷で肝試しというのも、変な話だ。

 

「普通の肝試しよりも、よっぽど怖いかもしれないわ」

「何を企んでいるのよ?」

霊夢が輝夜を睨み付ける。

「何も企んでないし、企まずとも怖いわよ。本当に」

輝夜が不敵な笑みを浮かべる。

これは、ますます怪しくなってきた、そう霊夢と魔理沙が考える。

 

しかし、一十百はにっこり微笑んで両手を合わせた。

「でも、せっかくの提案ですし、やってみましょうよ!」

「おいおい……。一十、これは何かあるぜ。たぶん、かなりの厄介事だ」

「そうよ。この前、異変を解決したばかりだから、面倒事は勘弁願いたいわ」

二人はジト目で一十百の事を見る。

 

「う~ん、なら……、肝試しをやるかやらないか、賽子で決めましょう!」

そう言って一十百はポケットから賽子を三つ取り出す。

「大きい目を出した方が勝ちです。僕が勝ったら肝試しをやりましょう」

「負けたらどうするんだぜ?」

「そうですね……。もし負けちゃったら、その人のためだけに一日費やす、というのでどうでしょうか?」

「「なっ……!」」

霊夢と魔理沙がその答えを聞いて驚く。

一十百が一日自分のためだけに働いてくれる、これの有用性は計り知れない。

「一十、本当にそれでいいのか?」

「はい、いいですよ」

「一十百。一日、その人のために費やすってことは……、その、どんな命令をされても従うしかないってことよ? それでもいいの?」

「それでいいですよ」

キョトンとした表情で、一十百が答えた。

 

その一言を言った瞬間、いつの間にか咲夜が賽銭箱の前に立っていた。

「話は聞かせてもらったわ。せっかくだから、私も混ぜさせてもらうわよ」

「ちょっ……、なんで紅魔館のメイドがここにいるのよ?」

「お嬢様が“これは……、咲夜! 今すぐに博麗神社に向かいなさい!!”とおっしゃられましたので、来てみただけです」

「レミリアめ……。こうなる運命でも見えたのかしら」

霊夢が忌々しそうにそう言う。

「十百君。別に私が肝試しに参加しても構わないかしら?」

「はい! 人数は多い方がいいですし……あっ、ならもう一人呼びましょう!」

「もう一人って、誰よ?」

「白玉楼の妖夢さんです。不思議とこの前の異変にかかわった方が集まっているみたいですし」

 

確かに、霊夢・紫ペアの霊夢、魔理沙・アリスペアの魔理沙、咲夜・レミリアペアの咲夜、そして一十百・魅魔ペアの一十百。

これに妖夢・幽々子ペアの妖夢が来れば、この前の異変の時と同じような状況だ。

「確かにあの時の異変と同じだぜ」

 

「じゃ、ちょっと呼んできます」

そう言って一十百が切符を取り出し、パチンと切った。

すると、電車の扉が開き、放送が流れる。

『この電車は“白玉楼”行です。間もなく出発いたします』

一十百が乗り込むと、ボォォ……、と深い汽笛が鳴り、電車が走り出した。

紅魔館へ行くときは実際にある線路を使うが、白玉楼へ行くときは鳥居をくぐって一気に向かうらしい。

電車は真っ直ぐ鳥居に向かっていった。

鳥居をくぐった電車はいつものように見えなくなった。

「あの電車、何でもアリね」

「……永遠亭にもつなげてもらおうかしら」

 

少しすると、電車は鳥居をくぐって戻ってきた。

いつもの放送が流れ、ドアが開く。

「不思議なものですね、この電車というものは……」

「そうでしょうか?」

一十百と魂魄妖夢が話をしながら電車から降りる。

「本当につれてきたのね」

「これで、勝負がさらにややこしくなりそうだぜ」

霊夢と魔理沙が軽くため息を吐いた。

 

 

「えと、それじゃ、大きい目が出たほうが勝ち、同じだったら僕の負け、という勝負でいいですか?」

霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢が頷く。

「僕が勝ったら肝試し、負けたら一日お渡しします。これでいいですよね」

「ええ構わないわ。悪いけど、ここは本気で勝たせてもらうから」

「それは私も同じだぜ。それに、今回は一十にだけ勝てばいいんだろう?」

一十百が頷く。

「僕が二人以上に負けてしまったら、大きい目を出した方からという事でいいですよね」

「問題ないわ」

「これは……、勝ちたいですね」

「あっ、イカサマは僕には通用しませんから。時間停止もだめですよ」

「それは重々承知よ」

 

一十百は一度頷き、賽子を握る。

その他の四人はグッと賽子に念を込める。

各々、一十百に頼みたいことがあるようだ。

勿論それが何かは一十百に伝えていない。

 

「十百君。本当にいいの? 負けたら、それなりの事を命じるつもりだけど……」

「大丈夫ですよ。ちゃんと、その人の言うとおりにします。たとえどんな命令でもお受けしますよ」

一十百が確認するようにそう言った。

その一言を聞いて、四人の賽子に込める念のようなものがさらに強まる。

 

(ふふふ、一十百。私が勝ったら、それなりの事をしてもらうわよ。覚悟してなさい)

(一十の一日利用権か……。それも、どんな命令をしてもいいってのが凄いぜ……)

(妖精メイドの訓練とかは別の日にしてもらって、今回は特別なことを頼んでみようかしら)

(彼の作った料理はすごいですし、他の家事もたぶん……。それに何でもというのが……)

 

四人からオーラのようなものがあふれ出す。

これでは、負けたとき何をさせられるか分かったものではない。

しかし、当の本人は気にしたような素振りは見せず、賽子を握っている。

 

「それじゃ、いきますよ~」

一十百の掛け声とともに五つの賽子が宙を舞った。

カランと音を立てて賽子が跳ねまわる。

四人とも自分の賽子に夢中だ。

そしてだんだんと回転がおさまり、出目が決まり始める。

一番初めに止まったのは一十百の賽子だった

出目は、四。

中間より少し上といったところだ。

 

この目を見て、四人はさらに強く念じる。

((((四以上の目!! 四以上の目!!!))))

そして、ほぼ同時に四人の賽子が止まる。

まるで賽子が操られたのではないかと思える程、四人の目が一致する。

出目は……三。

「「「「なっ……!!!」」」」

そこで、霊夢だけがハッとする。

「し、しまったっ! 妖怪『いちたりない』!」

その一言で、他の三人もその妖怪の名を思い出した。

鴉天狗が言っていた妖怪。

大勝負を狂わせ、確率の恐怖を司る妖怪……。

「や、やられた」

「恐ろしいわね……」

「くぅ、無念」

四人ががっくりとうなだれる。

 

対する一十百はふぅと一息ついた。

「やっぱり一璃菜はすごいなぁ……」

今回、一十百は一璃菜の能力が発揮されることを信じていた。

故に、一日の間どんな命令でも聞く、と言う条件を出したのだ。

勝負に熱くなる方に分が悪くなる……。

この理屈が通じると信じて一十百は賽子を振った。

同時に負けることも半分は覚悟していた。

それに仮に負けても、それほどすごい命令はされないだろうと、そんなことを考えつつ賽子を振ったのだった。

 

「それじゃ、約束通り皆さんで肝試しをやりましょう!」

ポンと両手を合わせて一十百がそう言う。

 

 

肝試しは今宵の満月の晩、それの丑三つ時に行われることになった。

場所は例の竹林。

満月の晩という事で、妖怪の活動が活性化しているかもしれない。

故に、この前のペアを連れて、二人一組で肝試しを行うことになった。

月が昇り博麗神社に肝試しのための人と妖怪が集まる。

面倒だと言っていた霊夢や魔理沙も、なんだかんだで楽しむつもりのようだ。

 

「さて、皆さんも集まったので……」

そこで一十百が箱を取り出した。

カラカラと中で音がする。

「肝試しのペアを決めましょう!」

「えっ? 異変の時と同じじゃないの?」

「せっかくの肝試しです。こういうのも、その醍醐味の一つですよ」

そう言って霊夢の前に箱を出す。

 

「ま、仕方ないわね」

手を入れると、ボールのようなものが幾つも入っているようだ。

そのうちの一つ取り出す。

三と書かれた青色のボールだ。

「三?」

「それと同じ番号の人がペアです。それと、番号の順に竹林に向かいますよ。大勢で行ったら肝試しとは言えませんし」

「ふ~ん、考えてるわね」

 

次に八雲紫が箱に手を入れる。

ひょいと取り出したのは五のボールだ。

「最後みたいね。誰が私とペアになるのか、楽しみね」

「このちょっとした時間も、雰囲気を盛り上げてくれますよね」

こんな風にペアが決まっていく。

やはりペアになりたい人同士もいれば、なりたくない人同士もいる。

 

たとえば……。

「私は……四。ここで、魅魔様に四を引いてもらいたいところだぜ……」

魔理沙は師である魅魔と共に肝試しに行きたいようで、魅魔がボールを取ることろを集中してみている。

逆に……。

「私は二。二だけは引かれたくないわ……」

アリスは昔に何かあったようで、魅魔と一緒は何としてでも避けたいようだ。

 

「どれ……。おや、三ってことは……」

「え~、私が魅魔と?」

霊夢が面倒だとあからさまに表情に出す。

「せっかくの肝試し。楽しくやろうじゃないか、霊夢」

対する魅魔は霊夢の事をそれなりに気に入っているのか、ニカッと笑う。

こんな風に、それぞれの思惑が渦巻く中、ペアが決まっていった。

 

 

一番目のペアは一十百とレミリア。

二番目のペアはアリスと妖夢。

三番目のペアは霊夢と魅魔。

四番目のペアは魔理沙と咲夜。

五番目のペアは紫と幽々子。

 

こうしてペアが決まり、少し騒がしい満月の晩の肝試しが始まろうとしていた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

竹林で肝試し:輝夜さんの提案で肝試しをすることになりました! 二人一組で竹林に向かいます。僕のペアはレミリアさんです。by一十百  いろいろ話したいこともあるから、丁度よかったわ。byレミリア
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