東方お仕事記   作:TomomonD

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六十二仕事目 吸血鬼と吸血鬼の従者

満月が昇り、淡い月明かりに照らされた竹林を二人の足音が響く。

どちらの足音も軽く響くようなものだ。

 

足音だけで判別するなら、子どもが二人、夜の竹林を歩いているように思える。

しかし、もしも竹林に潜む妖怪がその二人を襲おうとしたならば、その妖怪の運命は即座に決まってしまうだろう。

退治という名の死のみが待っているからだ。

 

 

「たまには夜の散歩も悪くはないわね。月明かりが心地いいわ」

そう言ってレミリア・スカーレットが竹林の中を進む。

肝試しだと言うのに、まったく怯えてはいないようだ。

姿こそ少女そのものだが、さすがは五百年ほど生きている吸血鬼といったところだ。

「レミリアさん。迷わないようしないと大変ですよ?」

少し遅れて一十百が後を追う。

彼も肝試しというよりは、道に迷う方が怖い……、というよりも厄介のようで、何度か来た道を振り返って確認している。

「そう簡単に迷ったりはしないわ。満月の夜の吸血鬼は本来の実力を越えて、力を発揮するもの」

「すごいですね……」

 

一十百とレミリアが並んで竹林を歩く。

蓬莱山輝夜は肝試しと言っていたが、恐怖を感じるより先に、満月の夜のため活性化した妖怪が襲い掛かってくる。

ほぼ弱小妖怪であり、スペルカードルールも理解できないようなものたちだ。

 

そして、今目の前にいるのは……。

「大きいですね。熊……でしょうか? 手は四本ありますけど」

「フン、また弱小妖怪か。一十百、任せたわ」

一十百の五倍はあろうかという熊の妖怪が立ちはだかっていた。

眼は赤色に血走り、四本の腕を広げ威嚇している。

それを見てレミリアは面倒だと言わんばかりにため息を吐いた。

少し前から襲ってきている弱小妖怪はほとんど一十百が追い返すか退治している。

今回もそうなるのだろう。

 

「えと、スペルカードルールは分かりますか? 弾幕勝負は……」

一十百の言葉を遮って、熊の妖怪が腕を振り下ろす。

鋭い爪が月明かりを浴びてギラリと光りながら一十百に振りおろされた。

「うわっ!」

タンと一十百は地面を蹴り、一歩下がる。

一十百のいた空間を四本の腕が切り裂いていった。

「一十百。話すだけ無駄よ。さっさと退治なり、追い返すなりしなさい」

「……仕方ないですね」

グッと一十百が踏み込む。

その瞬間、一十百の姿が消える。

一瞬のうちに、熊妖怪の頭のある高さまで一十百が跳ぶ。

そして、左手を一回転させ、叩きつけるように熊妖怪の頭に一撃入れた。

チュドンと一般的に殴られた時に出るような音とは違う音が鳴り響く。

熊妖怪は一撃のもとに地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。

 

「よっと、これで大丈夫ですね」

スタンと一十百が地面に降りる。

「まったく、ただの人間が出せる威力じゃないわよ」

「そうでしょうか?」

「そうよ。そんな人間ばかりだったら、私たち吸血鬼が血を飲めないじゃない」

やれやれとレミリアが軽く両手を挙げた。

 

 

「それにしても、一十百。いいのかしら?」

「えと、何がですか?」

「あなたの主のことよ。一十百、ずっとこっちにいるじゃない」

「それなら大丈夫です。むこうとこっちの時間の進みが違っているようで、それほど時間が経っていないはずですから」

一十百が満月を見上げながらそう言う。

その瞳には従者特有の真っ直ぐな光が灯っている。

 

きっと、一十百の主はそれなりの存在のはず。

ただ強いとか、そんな単純なものではない、もっと……大きな力を秘めているはずよね。

レミリアは出会ったことのない一十百の主の姿を思い浮かべる。

確か前に聞いた話だと、背は私くらいで、金髪のストレートヘアーだったわね。

さすがにこれだけの情報で姿を把握するのは難しい。

こうなったら、一十百に描いてもらおうかしら?

 

「一十百。今度、その主の絵を描いてもらえるかしら?」

「えっ……。僕の主の絵をですか?」

「そうよ」

「……わかりました。今度戻った時、頑張って描いてきます」

一十百がグッと両手を握って一度頷いた。

そんなことを話しながら一十百とレミリアは竹林の奥へと向かっていく。

 

 

今回の肝試しは永遠亭を折り返し地点としている。

そして、前の二人が出発してから二十分で次の二人が出発する仕組みだ。

既に一十百とレミリアのペアが竹林に入ってから十五分は経っているだろう。

博麗神社からここまでの距離を考えると、すでに出発してから二十分は経っているはずだ。

妖夢とアリスのペアもすでに出発した頃だろう。

 

 

「そろそろ永遠亭が見えてくる頃ですね」

「……それ、何回目よ」

「えっ……。えと、七回目くらいですか?」

「もう十二回目よ! 完全に迷ってるじゃない!!」

一十百の案内の元、永遠亭を目指していたのだが、完全に迷ったようだ。

「大丈夫ですよ。前も迷いましたけど、無事につきましたし」

「それは大丈夫とは言わないわよ」

レミリアは、はぁ~、とため息を吐きながら、眉間に指を置く。

 

「え、えと……。あれ? あっちの方に人影が見えます」

一十百が何とかして元の道に戻ろうとすると、遠くの方に人影が見えた。

ここからだと遠くて誰かは分からないが、シルエット的には女性のようだ。

「行ってみましょう!」

「ちょっと、待ちなさい」

走り出した一十百の後をレミリアが追う。

 

 

「もしやと思ったが、あの時の人間か!」

「えっ……。えと、どこかでお会いしたことありましたっけ?」

一十百が思い出すようにそう言う。

初対面だと思うのだが、今目の前にいる女性の口振りからして、どこかであったことがあるのだろう。

確認するように、もう一度その女性を見る。

 

長身で緑銀髪の大人びた女性だ。

ただ、人間ではないのがわかる。

まず、頭には軽く湾曲したの二本の角が生えている。

鬼とは違う、もう少し獣に近いような角だ。

そして、ふさふさした狼のような尻尾が見える。

 

「やっぱり、初めて会ったような……」

「なんだ。覚えていないのか? まあいい。こんな夜更けになぜここにいる?」

「えと、肝試しをやっているんです」

「……今は秋だぞ?」

「まあ、それを言われると、なんとも……」

一十百が困ったような微笑みを浮かべる。

「はぁはぁ、ちょっと、一十百。待ちなさいって」

レミリアが息を上げて一十百に追いついた。

空を飛んでくればいいものを、なぜか律儀に走ってきたようだ。

 

 

「なるほど、永遠亭へ行くのか」

今の状況を一十百が細かに説明したようで、緑銀髪の女性も一度頷いて竹林の奥を指差した。

「永遠亭なら、ここをまっすぐ行ったところだ」

「本当ですか! ありがとうございます」

一十百が走り出そうとする。

 

すると、緑銀髪の女性が声をかけた。

「一つだけ、忠告しておく」

「忠告ですか?」

「そうだ。この竹林に、とある人間が住んでいるのだが、あまり永遠亭の……いや、今回の肝試しの話はしないほうがいい」

「ほぇ? わかりました」

どういう意味かは分からないが、わざわざ忠告してくれたのだ。

一十百は一度深くお辞儀をすると竹林の奥へと向かっていった。

「だから、待ちなさいって!」

レミリアも置いて行かれないように、走ってついていった。

 

 

一方そのころ、竹林には妖夢とアリスのペアが到着し、永遠亭まで一直線に向かっていた。

先に竹林に入った一十百が撃退しつつ進んだためか、弱小妖怪はほとんど身をひそめてしまっていた。

たまに茂みの中で動く程度なので、安全に竹林を進んでいけるのだが……。

 

「ひっ!」

「ちょ、ちょっと」

ガサガサと茂みが揺れるたびに妖夢がアリスに抱きつく。

これで何度目になるのだろうか……、アリスは途中から数えるのをやめている。

「ななな、何者ですか! すす、姿を見せなさい!」

アリスに抱きついたまま、妖夢がそう言う。

 

こんな状態だが、魂魄妖夢の実力は本物だ。

本人曰く、まだ半人前と言っているが、剣の届く範囲の間合いなら、中級妖怪すら一撃のもとに斬り伏せることができる。

詰めの甘いところもあるが、ほぼ一人前の従者であると言ってもいい実力の持ち主だ。

なので、茂みの中の弱小妖怪が姿さえ見せれば、本来の実力を発揮できる。

問題は、茂みの中から弱小妖怪が出てこないので、相手がなんなのか分からず、恐怖が先に出てしまうと言う部分だ。

 

「ただの弱小妖怪よ。さっ、いくわよ」

「えええ! た、退治しなくていいんですか? 弱小妖怪ではなく、もっとこう……お化けのような恐ろしい物かもしれないんですよ」

既に半泣きになりかけた妖夢がアリスに言う。

アリスは妖夢と近くに浮いている半霊を交互に見る。

そして半霊を指差して一言。

「これは、お化けじゃないの?」

「違います! これは半霊です。私の半身です」

「あ、そうなの……」

何が違うのかしら、とアリスは考える。

「まあともかく、先に進むわよ」

「ああっ、待ってくださぃ~」

 

 

妖夢とアリスがゆっくりと竹林の中を進んでいるころ、一十百とレミリアは何とか永遠亭にたどり着いていた。

「あら、意外と遅かったわね」

「ちょっと、迷っちゃって……」

「ぜぃぜぃ……、待ちなさいって言ったのに」

永遠亭に着くまでの間、レミリアはしっかりと走って一十百の後を追っていった。

おかげで、既に満身創痍といったところだ。

「あの、レミリアさん。言いにくいんですけど……、わざわざ走らなくても、飛べばよかったんじゃ?」

「……あ」

一瞬、レミリアの表情が固まる。

 

我に返ったレミリアは、急いで取り繕うように腕を組む。

「ほ、ほら、肝試しなのに、空を飛ぶのはどうかと思ったのよ」

「えっ? そうなんでしょうか?」

「そうよ! そういう事にしておきなさい!!」

レミリアは顔を赤くしながらそう言った。

「とにかく、あと半分だから。応援させてもらうわ」

「はいっ」

一十百とレミリアが永遠亭を後にする。

 

二人が見えなくなると、蓬莱山輝夜は月を見上げながらそっと呟く。

「無事に帰れるといいわね。アイツに会って、ついでに退治してくれると、それはそれで嬉しいんだけど」

 

 

一十百はゆっくりと歩く。

その背にはレミリアを背負っている。

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃないけど、楽でいいわ」

「?」

帰り道の途中、レミリアがふらふらしていたので、一十百が提案したのだ。

始めは“何を馬鹿なことを!”と言っていたのだが、さすがに疲れていたようで、一十百の提案に乗ることにしたようだ。

 

「ねえ、一十百」

「なんですか?」

「幻想郷にいる間、紅魔館直属の執事をやってみるつもりはない?」

「えっ?」

一十百が驚きの声を上げた。

レミリアがフッと笑う。

「冗談よ。それに、今だって妖精メイド達から慕われているし、あまり変わらないのかもしれないけれどね」

「妖精メイド……あっ!」

 

何かを思いだしたのか、ポンと一十百が手を打つ。

背負っていたレミリアを支えていた手を離したので、レミリアはぶら下がる様な形になってしまう。

「いきなり何!?」

「そうでした。レミリアさんに一つ提案があるんでした」

「て、提案?」

「はい! 妖精メイドの指導ことで……」

 

そこまで話したとき、カサリと後ろの竹林の茂みが揺れる。

クルリと一十百が振り返ると、そこには真っ白な長い髪の少女が立っていた。




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

二本の角を持つ女性:不思議な女性が竹林にいました。初対面だと思ったんですけど、どうやら違ったみたいです。う~ん、どこであったんでしょうか?by一十百

一十百の提案:妖精メイドに関して何か提案があるみたいだったわ。なにかしらね?byレミリア
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