東方お仕事記   作:TomomonD

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六十三仕事目 ゆらめきの赤

「こんな夜更けに何をしてるんだい?」

長い白い髪の少女がそっけない声で尋ねる。

霊夢とは違ったタイプの大きなリボンに、もんぺ姿の変わった雰囲気の少女だ。

 

「えと、き……」

一十百の脳裏に、少し前に出会った角を持つ女性の言葉がよぎった。

“この竹林に、とある人間が住んでいるのだが、あまり永遠亭の……いや、今回の肝試しの話はしないほうがいい”

もしかして……、この人の事?

「えと、その、ある人の提案でこの辺りを歩いていました」

「なんだそりゃ? まあ、考えることは人それぞれだから、深く聞くつもりはないけど」

白い髪の少女が竹林の間から見える満月を見上げる。

そして、一十百とレミリアの方に向き直る。

 

「今夜は満月。少なくとも、そっちのお嬢さんなら分かると思うが、満月の夜は妖怪には本来持つ力を最大限に発揮する。簡単に言うと、危険だってことさ」

そう言って、軽く白い髪の少女が距離を取った。

ゆらりと陽炎のようなものが立ちのぼる。

明らかにレミリアのことを警戒しているようだ。

「ほう、人間。やるつもりか? 満月の夜に、吸血鬼である私と? その体に流れる血の一滴まで飲み干してやろうか」

「レミリアさん……。初対面の方に、あまり迷惑をかけてはだめです」

赤い瞳を光らせ、不敵な笑みを浮かべるレミリア。

それを制するように、一十百が声をかけた。

 

「う~、せっかくきまったのに……。今の私はカリスマに満ち溢れていたのに、どうして邪魔をするのよ」

「え? だって、レミリアさんは、レミリアさんですし」

一十百の発言でレミリアがピシッ……と、石化したように固まった。

 

一十百は、常にカリスマ溢れるレミリア・スカーレットであるため、わざわざ威厳を振りかざさなくても十分と、そういうつもりで言ったつもりだ。

しかし、当の本人であるレミリアは、カリスマを全開にしてもいつもと変わらないと言われたと、そう受け取ってしまったようだ。

それも、他人を酷評することがほとんどない一十百から言われてしまったという事は、カリスマが限りなく無いに等しい、と言われたも同然だ。

 

「……う~」

涙目を浮かべてレミリアは竹林の陰に行き、体育座りをしてしまった。

完全に心が折れてしまったようだ。

「あ、あれ? レミリアさん、レミリアさ~ん。どうしたんですか?」

「ちょっと、落ち込ませて……」

 

 

白い髪の少女は、やれやれと軽く両手を挙げた。

「弾幕勝負になるかと思ったけど、その心配はなさそうだね」

「ま、まあ、レミリアさんがあの状態じゃ……」

そこで、一十百がふと不思議に思う。

目の前の白い髪の少女は、レミリア・スカーレットを警戒はしたものの、恐れているようには見えなかった。

吸血鬼といったのだから、それなりに恐れてもいいものだが……。

恐れる必要がないほど実力が高いのだろうか。

 

「えと、もしかして、お姉さんって、かなり弾幕勝負が強かったりします?」

「うん? まあまあ、ってところかな。死ぬことがないから、それだけ無茶もできるし」

「死ぬことがない? それって、輝夜さん達とおんなじ……」

「……どうして、そこでアイツの名前が出てくるんだ」

「えっ?」

白い髪の少女から、前にも増して陽炎が揺らめく。

明らかに敵対意識を燃やしているようだ。

 

「えと、あの、輝夜さんとは友達……いえ、ライバルみたいな感じですか?」

「そんな微笑ましいものじゃな……うん? ちょっと聞いていいかい?」

「なんでしょうか?」

「さっき言ってた、ある人の提案って、まさか……」

「輝夜さんの提案ですけど」

白い髪の少女は、その一言を聞いて、はぁ~と深いため息を吐く。

そして、鋭い視線を一十百に向けた。

 

「つまりここに来たのも、輝夜の差し金ってことか」

「えっ? ま、まあそうなるんでしょうか」

「そうか。なら……」

その瞬間、白い髪の少女から猛るような炎が噴き出した。

驚いて一十百が一歩退く。

「ここで弾幕勝負に負けて倒れても、文句はないだろう?」

「え、あの……」

「何度倒れても、なお立ち上がる。何度燃やし尽くしても、灰の中より蘇る。蘇るたび強くなる不死の鳥。今宵の弾幕は、トラウマになるよ」

 

 

そのころ、妖夢とアリスのペアが無事に永遠亭にたどり着いていた。

蓬莱山輝夜が二人を出迎える。

「お疲れ様。無事に半分ってところね」

「ぶ、無事じゃないですよ! 茂みは揺れるし、変な物音はするし、さっきなんて頭蓋が陥没した状態の妖怪が横たわっていたんですよ」

妖夢は半泣き状態で、ぎゅっとアリスの腕を掴んでいる。

アリスはその状態に慣れたようで、なすがままといったところだ。

「ア、アリスさんからも何か言ってくださいよ」

「そうね。次からは立札を立てておいてほしいわ。“永遠亭→”みたいなやつ。今回は迷わなかったけど、次は迷うかもしれないもの」

「えええ、そういう事じゃなくてですね……」

「まあ、考えておくわ」

なるほどと輝夜が一度頷いた。

 

「それじゃ、戻るわよ」

「え、もう戻るんですか……。明日の朝までここにいましょうよ」

「何言ってるのよ。戻るわよ」

「ま、待ってください」

スタスタとアリスが歩き出してしまったので、慌てて妖夢が追いかけていった。

二人が見えなくなると、輝夜は少し首をかしげた。

「なんで幽霊っぽい方が、あんなに怖がってるのかしら?」

 

 

同じころ、霊夢と魅魔のペアが竹林の中を歩いていた。

まあ、魅魔はふわふわ浮いているので、歩いているのは霊夢だけだが。

「こんな風にのんびり話すのも久しぶりだね」

「そうね。あんたは勝手にどっか行くから、まともに話す時間なんてほとんどなかったもの」

「そうだね。それで、私がいない間、しっかり巫女をやってたのかい?」

「やってたわよ。っていうか、あんたに心配されるようなことじゃないわよ」

霊夢が、ふんと鼻を鳴らす。

 

「まあ、それでもなんだかんだ言って、しっかり信頼されてるみたいじゃないか。人間にも、妖怪にも」

「別に、妖怪に信頼されても嬉しくはないけどね」

「そうかい? その割には、頬が緩んでるよ?」

「う、うっさいわね……」

照れ隠しなのか、ぶんぶんとお祓い棒を魅魔に向けて振る。

魅魔はくすくすと笑いながらふわりと浮きあがった。

「危ないじゃないか。仮にも悪霊なんだよ、私は。今ので、祓われてたら大変だ」

「さっさと成仏させたくなるわ、まったく」

霊夢は面倒くさそうにため息を吐くと、お祓い棒をしまい歩き出した。

「この肝試しも、面倒事に巻き込まれる前に終わらせるわよ」

「そう言うのが楽しみでもあるんだけどねぇ」

ゆっくりと魅魔も霊夢の後を追った。

 

 

残りペアは二つ。

魔理沙、咲夜のペアと紫、幽々子のペアだ。

紫、幽々子のペアの出発は最後のため、博麗神社でのんびりと時間になるのを待っている。

一十百が鏡酒と簡単な酒の肴を作って置いておいたので、退屈はしていないだろう。

 

 

そしてもう一つのペア、霧雨魔理沙と十六夜咲夜のペアは、竹林に向かって飛んでいた。

「肝試しか。なかなか面白いと思わないか?」

箒に乗り、夜風を浴びながら、魔理沙がニコニコ顔で振り返る。

「面白いかはともかくとして、私はレミリアお嬢様が少し心配だわ」

はるか遠くに見える竹林を見ながら、十六夜咲夜がそう呟く。

「心配って……。今日は満月、吸血鬼にとってこれ以上ない夜なんじゃないのか?」

「それはそうなんだけど。一緒にいるのが、その、十百君でしょ?」

「……なるほど」

魔理沙もその一言で何が言いたいのか分かったようで、苦笑いを浮かべる。

「まあ、お嬢様が十百君に迷惑をかけることも心配だけど、やっぱり……」

「一十の常識はずれの行動に巻き込まれるんじゃないかと、心配なわけだ」

「ええ」

 

霧雨魔理沙が腕組みをして、う~んと唸る。

そして、ぴんと人差し指を立てた。

「別に大丈夫なんじゃないか?」

「他人事のように、あっさり言ってくれるわね」

「他人……と言うか、他吸血鬼事だからな」

魔理沙は深く帽子をかぶりなおす。

「心配なのはわかった。なら急ぐとするぜ」

「そうね」

少し飛ぶ速度を上げ、魔理沙と咲夜も竹林に向かっていった。

 

 

一十百と白い髪の少女との弾幕戦はすでに始まっていた。

いくつもの弾幕が飛び交い、竹林を照らす。

いつものような、激しい弾幕戦になりつつある。

しかし、とある部分がいつもと違っていた。

それは……。

 

「くっ……、弾幕が吹き飛ばされた!」

「どこを見ている不死人。よそ見とは随分と余裕だな」

赤い剣閃のような光が札状の弾幕を吹き飛ばして飛んでいく。

札状の弾幕を放っているのは白い髪の少女だ。

つまり、赤い剣閃のような光を放ったのは一十百という事になる。

そして、それを放てる状態ということは……。

「始める前に随分と大げさなことを言っていたが、実力のほどは、どこぞの小娘と変わらんな」

赤い炎のような揺らめきを纏った一十百がニヤリと笑う。

 

その光景を竹林の陰から見ていたレミリア。

一十百の様子がおかしくなったのが心配になったようでそっと顔を出す。

「え、その、一十百。ど、どうしたの? さっきから、ちょっと……」

「下がってろ、吸血鬼。巻き込まれるぞ?」

レミリアが竹林の陰から出てこようとすると、一十百が片手を横に広げ、それを制止させた。

 

「きゅ、吸血鬼って……。た、たしかに吸血鬼だけど……」

「足手まといを抱えて勝てる程、弾幕勝負は楽じゃないからな」

「なあっ! か、仮にも、紅霧の異変を起こし、幻想郷を……」

そこまで言った時、レミリアの前に一十百が一瞬で移動する。

そして、振り返りざまに半回転するように右手を振り払う。

そこから赤い剣閃のような光が飛び出し、いつの間にかレミリアに迫っていた弾幕を吹き飛ばした。

 

「まったく……。下がってろと言っただろ、吸血鬼」

「え、あ、ありがと……」

「お前に怪我をさせると、後であの銀髪が五月蝿そうだ。わかったら、下がってろ。それほど時間はかからん」

一十百はスタスタと白い髪の少女の方に向かっていった。

 

「おい、不死人。狙うなら、もっとまともに狙え」

「くっ、さっきから何なんだ。雰囲気が変わったと思ったら、いきなり強くなるなんて」

次々弾幕を放ちながら、白い髪の少女がスペルカードを構える。

こいつ……、そこらの弾幕使いより、圧倒的に強い。

下手をすれば、輝夜以上か?

なら、手加減は必要ないな!

「時効『月のいさはかの呪い』」

少女の持っていたスペルカードが輝き、回転するように弾幕が放たれていく。

ただ回転して放たれるだけではなく、別方向に飛んでいった弾幕の一部が一十百を狙って降り注いだ。

 

「話を聞かない不死人だな。狙うなら、しっかり狙えと言ってるだろう!」

迫りくる弾幕を難なくかわし、一十百がスペルカードを構える。

赤い光がスペルカードに吸い込まれ、強く輝き始める。

「神葬『ラグスニール』」

赤い光を放つ槍が、一十百の手に握られた。

大きくその槍を振りかぶる。

「狙うと言うのは、こうやってやるものだ!」

ダンと一十百が地面を強く踏み込み、構えた赤い光の槍を投擲する。

ゴォゥと轟音を残して、赤い光の槍は狙い違わず白い髪の少女に向けて放たれた。

すでに、赤い光の槍というよりも、赤い光の砲撃と言えるほどの威力になっているようだ。

白い髪の少女から放たれた弾幕をすべて吹き飛ばし、一直線に向かっていった。

「そんなっ……うわぁああ」

赤い光の砲撃となった一十百の弾幕は、白い髪の少女もろとも、後ろの竹林を一直線上に薙ぎ払った。

 

「な、なんて威力……。私のスペルカードに似てるけど……威力が違いすぎる」

「元はお前のスペルカードだからな。似てるのは当然……」

レミリアの疑問に答えようとした一十百の言葉が止まる。

そして、何かに気が付いたのか、ニヤリと笑い次のスペルカードを構える。

「ほぅ。さすがは不死人といったところか。あれを直撃しても復活できるか」

「『リザレクション』」

スペルカードの光とは別の光が集まり、人の形を作る。

その光が消えると、白い髪の少女が立っていた。

 

「あれで終わりだと思わないほうがいい。こっちは死ぬことがない身体。限界ギリギリまで戦うことができる」

「くだらんな。何度も立ちはだかるなら、同じだけ蹴落とせばいい。せいぜい足掻いて見せろ、不死人」

二つの赤いゆらめきが、竹林を照らした。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

白い髪の少女:輝夜さんの事を知っているみたいでしたが、何やら複雑な事情があるみたいです。不死って言ってましたし、浅からぬ因縁があるみたいですね。by一十百
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