東方お仕事記   作:TomomonD

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六十六仕事目 赤も青も同じ色

一十百が手に持った大剣を地面に突き立てる。

「魔女。気は済んだか?」

抑揚のない冷たい声で、魔理沙に話しかける。

「気が済んだなら、そこの銀髪と帰るがいい」

 

ギュッと拳を握って、魔理沙が小さくつぶやく。

「……どうして、どうしてそんな風になったんだよ、一十」

「何のことを言っているかさっぱりわからんな」

「一十は、もっと、優しくて、思いやりのあるやつなんだ……。こんな風に、冷酷で、人の命を何とも思わないやつじゃない」

霧雨魔理沙の握った拳が震える。

悔しいのか、悲しいのか、その両方なのかもしれない。

それを見て、一十百が少し残念そうに首を振る。

 

「お前も、そこの銀髪と同じ考えか。幻想郷には頭の固い奴ばかりだな。少なくとも、お前なら柔軟な考えができると思っていたんだがな」

突き立てた大剣を抜き、軽く一度振るう。

前と同じように赤黒い光が四散する。

一十百はペーパーナイフに戻ったものをポケットにしまった。

 

「少しよく考えてみろ。魔剣『ダーインスレイヴ』の威力は、お前の目に映る惨状そのものだ。その中で、何故、そこの吸血鬼は怪我ひとつしていないんだ?」

「えっ?」

魔理沙と咲夜がレミリアの事を見る。

確かに、レミリアには傷一つない。

レミリアも頷いて答える。

「私は何もしてないわ。何かできるとも思ってなかったし……」

「なら、なんで無事なんだ? 一十の近くにいたはずなら、少なくとも怪我ぐらいはするはずだぜ」

「そんなこと言われたって……」

 

魔理沙とレミリアが悩んでいると、咲夜が重い口を開いた。

「十百、あなたの実力とでも言うつもり?」

「そうだ。そこの吸血鬼のいる部分だけ避けて薙ぎ払ったにすぎん」

「そんな事、不可能だぜ!」

「何故、不可能だと思う? 破壊力の高さか? 事柄の精密さか?」

くだらん、と一十百がふっと軽く嘲笑う。

服に着いた土埃を軽く払い、冷たい視線を三人に向けた。

 

「それは貴様らの基準だろう。不可能だと決めつけ、己の中で基準を決める。そんな止まった思考の中で、理解しろという方が無理だったか?」

魔理沙も咲夜もレミリアもその一言を聞いて、黙ってしまった。

 

確かに、一十百の実力は、すでに三人の理解できる範囲を超えていた。

竹林と平原、さらに遠くに見える山を両断した、黄昏『トワイライトスパーク』。

竹林の一角を消滅させた、魔剣『ダーインスレイヴ』。

ただのスペルカードではないことしか分からないほど、強力なスペルカード。

使われて分かったのは、桁違いの威力だという事だけ。

それ以外の事は全く分からない。

 

 

「頭が冷えたか?」

三人の中で特に悩んでいる魔理沙に向けて、一十百が声をかけた。

「少しは、落ち着いたぜ……。一十、あの時……、私がここへ向かってくるのは気が付いていたんだろう?」

「そうだ」

「もしも、咲夜が助けてくれなかったら、私はどうなっていたんだ?」

「粉々になっているに決まっているじゃない!」

レミリアが後ろからそう言う。

咲夜もレミリアと同じ意見だと、頷いている。

しかし、魔理沙は首を横に振った。

 

「もしかして、咲夜が助けてくれなくても、私は助かっていたんじゃないか?」

「そんなわけないでしょ」

「私が時間を止めて、貴女を抱えて飛ばなければ、間違いなく粉々になっていたわよ」

「いや、なら、なんでレミリアは無事なんだ? それこそおかしいぜ」

「そ、それは……」

魔理沙は何かを掴んだような表情を浮かべる。

そして、一十百の方に向きなおった。

 

「それに、今さっき私は一十に向かってマスパを撃った。それを一十は相殺したんだ」

「それがどうしたのよ?」

「もし、今の一十が、ただ冷酷なだけなら、相殺じゃなくて、一方的に私が粉々になるはずだぜ」

それを聞いて、咲夜とレミリアがハッとした表情を浮かべた。

「た、確かに……」

「さっきの威力だったら、一方的に粉々、よね……」

魔理沙は自分の持っている八卦炉を見る。

今さっきのマスタースパークで少し壊れてしまったのか、黒い煙がくすぶっている。

「つまり、少なくとも手加減してくれたんだ。それも……、きっちり相殺できるくらいに、力を微調整して……」

「それって……」

霧雨魔理沙が大きく頷いた。

 

「一十、さっきのスペルで、レミリアが無事だったように、私も無事だったんだろう? あのまま咲夜が助けなくとも」

「そうだ。その程度の調整、大体の弾幕使いなら簡単だろう?」

「いや、簡単ではないと思うぜ」

やれやれと、魔理沙は帽子を深くかぶりなおした。

そして、ニカッと微笑みを浮かべた。

「疑って悪かったぜ。やっぱり、一十は一十なんだな」

「訳のわからん理屈だな。まあ、お前がそれで納得できたなら、何もいう事はない」

 

 

「ちょ、ちょっと待って」

咲夜が慌てて話しかける。

「箒は粉々になったはず。霧雨魔理沙はそれに乗っていたのだから、そのままだったら無事ではなかったはず」

「……なぜ、箒が粉々になったのか、まだわからないのか? こちらの調整は完璧だった。そこの魔女がまっすぐ向かってきても、問題はなかった」

一十百はそこで一度ため息を吐いた。

「どこぞの銀髪が、時間を止めなければな」

「えっ……」

咲夜が驚いた声を上げる。

横から聞いていたレミリアも気になったのか、いつものカリスマを纏って一十百に尋ねる。

 

「それはどういう意味かしら?」

「簡単だ。そこの銀髪の時間停止、その中で動けるのは、誰だ?」

「咲夜でしょ?」

レミリアが即答する。

「……いえ、もう一人います。十百君は……私の時間停止の中、動ける」

「その通りだ。貴様が時間を止めたせいで、私のスペルカードがその分だけ早く放たれた。そのタイムラグの影響が、箒のたどった末路というわけだ。結果として、そこの魔女が無事だったのだから、どちらでもよかったのかもしれないがな」

「えっ、つまり、咲夜が時間を止める必要は……」

「まったく意味のないものだった。むしろ、厄介な状況を作り出してくれたようなものだ。主が主なら従者も従者、といったところか」

「な、なんでしゅって~!!!」

「レミリア、噛んでるぜ」

「お嬢様、落ち着いてください」

咲夜が暴れるレミリアを止めに行った。

その光景を見て、魔理沙がくすくすと笑う。

 

 

「なあ、一十。どうして最初に話してくれなかったんだ?」

「何をだ?」

「いや、スペルカードの事とか、そのままでも私が無事だった事とか……。最初に話してくれれば、無駄に争わずに済んだのに」

「貴様らがどう思おうが、私には関係ない。ただ、降りかかる火の粉は払う、それだけだ」

「それだけって……、下手したら、私は一十の事を一生恨むかもしれなかったんだぜ?」

「そこまで物覚えがいいようには見えないがな」

「おい……」

やれやれ、なんだか捻くれているようだけど、一十は一十だな。

なんだかんだ言って、私や咲夜、レミリアも無事だったし。

 

そんなことを考えている時、魔理沙は一つ疑問に思う。

「一十、そういや、一つ気になったんだが」

「なんだ?」

「どうしてスペルカードなんて使ってたんだ? 弾幕勝負をしている相手もいないみたいだし」

「なに、もう少しすれば分かる」

一十百が誰もいない空間の方向を向く。

魔理沙もつられて、その方向を向いた。

 

すると、段々と白い光が集まり始めた。

「な、あれはなんだぜ?」

「本当にしぶといな。本格的に消し飛ばしたつもりでも、なお蘇るか」

「『リザレクション』」

白い光はそのまま人の形になり、白い髪の少女がそこに現れた。

「かはっ……」

しかし、何度も復活しては粉々にされたため、さすがに体力の限界が来たようだ。

白い髪の少女は、そのまま地面に倒れた。

 

「おい、不死人。倒れるのはまだ早い」

「うぅ……」

一十百が白い髪の少女の前に立つ。

そして、そっと手をかざした。

それを見て、魔理沙が止めに入る。

「待った! よくわからないけど、さすがにこれ以上はダメだぜ」

「……とどめを刺すつもりはない。安心しろ」

「そ、そうか。なら、一応安心したぜ」

一十百のかざした手に白い光が集まっていく。

先ほど少女の形を作った光と同じ色の光だ。

段々とその光は四角い形を作っていく。

そして、一枚のスペルカードになった。

 

「それは?」

「今回は幻想郷自体に負担をかけたからな。あのスキマが出てくる前に元に戻すだけだ」

「元に戻すって……」

魔理沙が周りを見る。

竹林は半壊、地面は抉れ、はるか先の平原と山は両断……。

これを元に戻すとなると、年単位の時間がかかりそうだ。

「いや、ちょっと……厳しいと思うぜ」

「それは、お前の理屈だろう?」

「……あ、そうだったぜ。今の一十には、私たちの考えは遠く及ばないんだったな」

霧雨魔理沙が一十百から数歩離れる。

 

 

魔理沙が離れたことを確認した一十百から、赤い光が溢れだす。

今までとは違った、どこか温かみのある赤い光だ。

それが今作られたスペルカードに吸い込まれていく。

更に光は強くなり、スペルカードが見えなくなるくらいまで光り輝いた。

 

「回帰『天啓治癒 -リザレクション-』」

一十百のスペルカードは、一十百の手から離れると赤い尾を引きながら、夜空に向かって飛んで行った。

遥か高くまで上がったスペルカードは、一段と強く赤い光を放つ。

まるで赤色の星が空に輝いているようにもみえる。

そこから次々と赤い光が降り注いだ。

赤い光が抉れた地面にぶつかると、地面が同じ色に輝きそして……。

「あれほど抉れていた地面が、元に戻ってる!?」

魔理沙の目に映ったのは、元の平地に戻った竹林だった。

地面だけではない、粉々になった竹林も光が落ちるたびに一本ずつ再生していく。

はるか遠くに見える山も、だんだんと元の形に戻っていくのが見える。

 

そして、降り注ぐ赤い光のうちの一つが白い髪の少女に落ちた。

「うぅ……、あれ? なんだか、痛みが引いていく……」

ゆっくりと白い髪の少女が立ちあがる。

ボロボロになっていた服も元に戻っていく。

「これは……一体」

「元の状態を復元しているにすぎん。ただし、ただの復元だと思うな。回帰復元といったところだろう」

「回帰復元……」

「生や死などの状態、有や無などの概念、そのすべてを完全に復元する。たとえ、それが粉微塵になった身体だろうが、消滅した精魂だろうがな」

そう言っている間に、周りの風景が元に戻る。

あれ程の惨状だった竹林も、満月の似合う風流な竹林に戻っている。

 

 

辺りを一度を確認すると一十百が空に手をかざした。

すると一十百の手元にスペルカードが戻ってくる。

「これなら、あのスキマ妖怪から小言を言われることもないだろう」

一十百が一度伸びをする。

スペルカードから段々と赤い光が消えていく。

同じように、一十百の周りにゆらめいていた赤い光も消えつつあった。

 

「いい加減、私も疲れた。後の事は貴様らでどうにかしろ」

「ちょっ……」

魔理沙が何か言いかけるも、既にその時には赤い光は完全に消え……。

「あふぇ……はっ! あれ? 確か、弾幕勝負になって……。あれ? いつの間にか、魔理沙さん達がいる!?」

いつものほわほわした雰囲気を纏った一十百に戻っていた。

「お、おう。一十、その、大丈夫……か?」

「えと、はい。大丈夫だと思います」

 

一十百本人は、なにがあったのか分かっていないようで、キョトンとした表情を浮かべていた。

 




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

回帰『天啓治癒 -リザレクション-』:完全復元……、いや、回帰復元を引き起こすスペルカードだ。簡単に言えば、状態の変化したものを、変化する前に引き戻しているにすぎん。それほど長い時間が経過していなければ、文字通り完全に復元することができる。まあ、弾幕勝負でこのスペルを使う事はなさそうだがな……。by一十百(赤)  人間の思考まで完全に復元できるそうだ。by魔理沙  その代り、十百君にそれなりの負担があるみたいね。by咲夜
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