東方お仕事記   作:TomomonD

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六仕事目 黄緑と水色の妖精

「いくよ! 濁点『ダークオン・ハート』」

 

一十百の持っていたスペルカードが強く輝く。

直後、一十百と鼠妖怪の丁度中間地点くらいを細かな弾幕が横切る。

小さな弾幕の川のようにも見えるが、多少高さもあるので壁のようにもみえた。

いくら速度に特化した妖怪でもこの弾幕の川を無傷で突破してくるのは無理だろう。

「おお、これで近づけないのか~」

「でも、スペルカードが終わったら一気に襲われちゃうんじゃ……」

「どうする?」

三人が……まあ妖怪と妖精を“人”と数えるのが正しいかわからないが、三人が一十百のほうを見た。

すると……。

「おお~」

一十百からハート型の弾幕が放たれていた。

普通の弾幕に比べると少し大きめだ。

そのためか少し飛ぶ速度は遅い。

「可愛い弾幕ですね」

「う~ん、さっきのスペルカードにはハートと鳥の絵が描かれてたんだけど……」

一十百もよくわからないのかスペルカードに任せる形になっている。

 

ハートの弾幕が今さっき作られた弾幕の川を渡る。

川を渡った瞬間、弾幕の形が変わり鳥の姿になる。

そして、今までの低速弾幕からかなり速い高速弾幕に変化する。

さらに多少追尾までするようで、避けようとした鼠妖怪の方へと向かっていく。

鼠妖怪はいきなり速度を上げた弾幕を避けきれず次々と被弾していった。

 

スペルが終わる頃には三匹とも完全に動かなくなっていた。

「ふぅ、なかなか面白いスペルカードだったね」

「避けにくそうなスペカなのか~」

 

 

「本当に助かりました」

「へ~、意外と強いんだ」

「二人とも無事みたいでよかったよ」

一十百が話を聞いてみると、緑色の髪のほうの妖精は大妖精というらしい。

種族名のような感じでもあるが、大妖精と名乗ったのでそう呼ぶことにしたようだ。

もう一人の水色の髪の妖精はチルノというらしい。

氷の妖精でこの辺りに住んでいるようだ。

「へ~、十百って人間なんだ。それにしてはなかなかじゃん!」

「そ、そうかな? う~ん、普通の弾幕が撃てないから、そうは思えないけど……」

「そんなことないですよ、スペルカードも使えてますし。 ……それより気になったんですけど」

「うん? どうしたの」

大妖精がルーミアと一十百を交互に見て考え込む。

「ルーミアちゃんは人間を食べる妖怪だよね」

「そうだよ~」

「一十百さんは人間ですよね」

「そうですよ」

「……大丈夫なんでしょうか?」

どうやら食べられないのかと心配しているようだ。

確かに人食い妖怪と人間が一緒に歩いているなんて、狼と羊を一緒に歩かせるようなものだ。

「大丈夫だよ。今さっき、食べられかけたけど」

そういって一十百がルーミアの頭を撫でようと手を伸ばす。

ぱくっ……。

「ふぇ?」

「あむあむ……」

ルーミアはしっかりと伸ばされた手をくわえていた。

噛み千切るようなものではないので痛みはないのだが……。

「ル、ルーミアちゃん!?」

「あ~、食べちゃダメだって」

「む~、む~」

一十百がくわえられた手を振るう。

 

少ししてやっとはなしてくれたようだ。

別に指を食べられたとかそういうわけではないので危なくはない。

「大丈夫でしたか?」

「まあ、何とか」

「薄味だったのか~」

わざわざ味の感想を言っている。

人によって味が変わるのだろうか?

しかし、一十百は別の意味的な捉え方でその感想を受け取ったようだ。

「うぅ、なんだか薄味の人って言われた気がする」

「それは、ちょっと意味が違うと思いますけど……」

「なんだ、十百は味気のない人間なのか?」

「うぅぅ、チルノにまで……」

「お、落ち込まないでください」

 

 

落ち込んだ一十百がいつもの雰囲気に戻るのにそう時間がかからなかった。

「そういえば、あの鼠妖怪ってこの辺り多いの?」

「このごろ急にふえてきたんだ。今までそんなに多くなかったのに」

チルノがなぜか地団太を踏んでいる。

「何かあったの?」

「あいつらあたいのかえるを食べちゃうんだ」

そういって取り出したのは氷付けの蛙だった。

もうすぐ夏なのに蛙を凍らせるのはどうかと思える。

「これを食べるのか……。歯が折れそうだね」

「あたいの遊び道具を食べるから懲らしめてやろうとおもったんだ」

「それで返り討ちに?」

「いえ、違うんです。急に向こうから現れて、襲ってきたんです」

「おなかがへっていたのか~?」

「そういうのとは違うとおもうけど……」

 

一十百は鼠妖怪の死骸に近づいてみる。

赤い瞳が鋭く光っている。

息絶えたとしてもこれだけ光っていると恐ろしいものがある。

「何かわかりますか?」

「う~ん、妖怪のことはぜんぜん……。あれ、そういえばこの辺りで不思議な霧が出てなかったっけ?」

「そうなのチルノちゃん?」

「え? う~ん、赤いもやもやは出てたよ」

「赤い霧?」

一十百が辺りを見回す。

「この辺りに赤いものはないから何かが映ったわけじゃなくて、本当に赤い霧がでていたんだ……」

「もしかしてその霧のせい?」

「わからないけど、そうかもしれない。動物って赤い色に反応するから」

一十百が少し考え込む。

 

今まで赤い霧というものを見たことがない。

朝早くから起きている一十百は朝靄や普通の霧はよく見る。

だからこそ、赤色の霧は普通ではないことがわかる。

「もしかして霊夢さんが言っていた“異変”なのかもしれません」

「れーむ?」

「博麗神社の巫女さんだよ。宿を借りているんだ」

「博麗神社に住んでるんですか。意外と近い場所だったんですね」

「ついこの頃からだけどね」

 

ぱくっ……。

「ルーミア、食べちゃダメ」

「やっぱり味気がないのか~」

なんだか残念そうな表情だ。

「そういう表情をされても、どうしようもないんだよね~。 ……それよりもはなしてぇ」

「む~、む~」

「そんなに美味しいのか? ……パクッ」

「冷たっ! チ~ル~ノ~」

なぜかルーミアに続いてチルノまで一十百の手を口に入れた。

氷の妖精なのか口の中まで冷たかったようだ。

「助けてほしいんだけど」

「チ、チルノちゃん。たぶん美味しくないよ?」

「味がしない。味気ないのは本当だった!」

「ぐすっ、何かひどい」

 

 

なんだかんだで日も傾きかけてきた。

「そろそろ戻るよ。夜になると妖怪が多くなるらしいから」

「また遊ぼう十百!」

「それでは、また」

「バイバイなのか~」

ルーミア、大妖精、チルノに手を振りながら一十百は森を駆け抜けていった。

博麗神社まではそうかからない。

 

「あっ!」

何を思ったのか途中でターンすると、さっきの湖まで戻ってきた。

「あれ? わすれものですか?」

「いやちょっと……」

そういって鼠妖怪を一つ持ち上げる。

猪サイズなのだが、それをあっさりと持ち上げる。

「十百って本当に人間?」

「むぅ、人間だよ」

「え~と、一十百さん。それどうするんですか?」

「食べられるかなぁ、と思って」

「食べるんですか!」

一十百の発言に驚いたのは大妖精だけだ。

他二人はというと……。

「たべられるのか~」

「十百よりは美味しそうだよ」

と、まったく驚いていない。

まあ妖精と妖怪だからこの程度の反応くらいが妥当なのかもしれない。

「で、でも、食べておなかを壊したら大変ですよ」

「僕は大丈夫なんだろうけど、霊夢さんと魔理沙さんがダメかも」

 

一十百は少し考えて……、ぽんと手を打った。

「じゃ、一匹ここで食べてみよう!」

「おお~」

「あたいも食べる!」

「だ、大丈夫かなぁ……」

「それじゃ、ルーミアと大妖精で落ち葉とか枯れ枝を拾ってきて」

「あたいは?」

「チルノはなるべく透明な氷を一枚作って。厚さはこの位」

そういって一十百が両手を目の前に持ってくる。

厚さは10cmくらいのようだ。

「わかった!」

「僕は上手く皮を剥いでおくね」

「いってくるのか~」

「探してきますね」

 

 

少しすると落ち葉と枯れ枝をルーミアと大妖精が持ってきた。

チルノも言われたとおりの透明な氷の板を作った。

さすがこの辺りに詳しい妖怪や妖精である。

「もってきたのか~」

「これくらいで足りるでしょうか?」

「ありがと、バッチリ足りそうだよ」

一十百のほうも用意が出来たようだ。

しかし……。

「え~と、いくらなんでも早すぎません?」

十分あるかないか、その時間で猪ほどの大きさの獣の皮をしっかり剥ぎ取ったようだ。

使ったのは……。

「それ、刃がついてないのか~」

「ペーパーナイフしか持ってなくって、大変だったよ」

ペーパーナイフ一本で猪の毛皮を剥ぐのは普通無理だろう。

ましてや、妖怪の皮を剥ぐのはさらに厳しい。

しかし、そんな常識は一十百に通用しなかったようだ。

 

「十百、これでいい?」

チルノの手には透明な氷の板が持たれていた。

一十百の言ったとおりそこに氷の板があるかどうかも怪しくなるくらいの透明の氷だ。

「うん、これでよし!」

一十百からポケットから一枚の黒い紙を出す。

「その氷貸して」

「はい。でもどうするんだ?」

一十百が氷を太陽に向けてかざす。

すると、黒い紙に向けて太陽の光が集中する。

「氷をレンズの代わりにするんだよ。流石に生のままじゃ食べられないからね」

「すごいですね」

黒い紙から煙が上がり、そして火がついた。

「よしっと。後はこれを火種にして焚き火を作れば食べられるかな」

 

 

夕暮れの中、湖の近くでパチパチと火がはじける。

じゅうじゅうと美味しそうな丸焼きの完成である。

「できた~」

「これで食べられる、と思うよ」

そういって足を一本取る。

躊躇なく一口。

「美味しい!」

「あたいも食べる!」

そういって手を伸ばすが、氷の妖精のチルノには熱すぎた様だ。

「あつっ!」

「うん? あ、そっか……。はい」

一十百がお皿にいくつか切った肉を取り分ける。

「ん、ありがと」

チルノはふーふーと頑張って冷ましているようだ。

「おいひ~のか~、もぐもぐ」

ルーミアは口の形が変わるほど肉を詰め込んでいる。

「本当に美味しいです」

大妖精は切り分けたお肉を少しずつ食べている。

 

「う~ん、人間の僕が食べても何も起こらないし、たぶん大丈夫だね」

「そんなにすぐわかるんですか?」

「色々食べてきたから、危なかったらすぐわかるよ」

外の世界で危ないものばかりを食べていたわけではないのだろうが、一十百の作る料理には、それなりに危険な食材が使われることがあるのだろう。

外の主がそのことを知ったら、いろいろ言いたいことがでてきそうだ。

 

「さてと、そろそろ帰らないと。これは三人で食べちゃっていいよ。一匹は僕が持って帰るけど、後一匹は……」

「あたいが凍らせておく!」

チルノの能力を上手く使った冷凍保存といったところだろう。

「それじゃ、まかせたよ」

一十百はひょいと鼠妖怪を担ぎ上げる。

「……十百って」

「何?」

「「「本当に人間?・人間ですか?・人間なのか~?」」」

「三人で言わないで~」

 

 

博麗神社に戻ってみると霊夢と魔理沙が迎えてくれた。

どうやら帰りが遅いのを気にしていたらしい。

「遅いわよ! ……それなに?」

「今日のご飯のおかずにと」

「た、食べられるのか?」

「食べてきたので大丈夫です!」

「「食べたの!!」」

「はい」

 

そして夕食。

「うん、美味しいわ」

「確かに美味いぜ!」

「鼠とは思えませんね」

「「それは言わないで!!」」




今回の出来事・一十百メモ帳より抜粋

濁点『ダークオン・ハート』:僕の三枚目のスペルカードです。小さな弾幕の川ができて、少し大きめのハートの弾幕が出ます。川を越えると鳥みたいな形になって、速い弾幕に変わるんです。by一十百  おかげで助かりました。by大妖精

大妖精:種族名がそのまま名前の妖精さんです。落ち着いていてみんなのまとめ役っぽい感じがします。by一十百  よろしくお願いします。by大妖精

チルノ:元気があってアグレッシブな氷の妖精さんです。友達思いでかえるを凍らせて遊ぶのが好きみたいです。妖精の中じゃ強いって他の人が言っていました。by一十百  あたいったらさいきょーね!dyさるの  “byちるの”だよ、チルノちゃん…by大妖精

鼠妖怪:低級妖怪でこの頃増えてきた足の速い妖怪。皮を剥いでちゃんと焼けば食べられます。とっても美味しいんですよ!by一十百  おいしかったのか~。byルーミア
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